第4話 シェルター

 地下へと通じる階段を10mほども降りるとまた耐爆扉が見える。


 この二重の隔壁により、たとえ地上に熱核爆発の暴風が吹き荒れたとしても地下空間は守られるのだ。



 そして、内扉のハンドルを回して開くと、いよいよ地下空間がその姿を見せる。



「うわぁ〜! こんな広くなってんだぁ…マジ秘密基地じゃ〜ん!」



 現れた12畳ほどの内部空間に乃愛のあが驚嘆の声を挙げるが…残念ながら、ここはまだ本命の空間ではないぞ。



「…外部の汚染物質を中に持ち込まないように、ここでシャワーを浴びるんだ。服はその洗濯機に入れて…すまんが、着替えは俺と同じ物になるぞ」


 俺が室内の一角にあるユニットシャワーボックスや縦型乾燥洗濯機を指差すと、乃愛のあは理解が及ばないのか目をパチクリとさせている。



 …まあ、無理もないか。


 本格的な核シェルターの構造なんて普通は知識に無いだろうしな。



 そう、ここは核終末や生物兵器災害、未知の伝染病の脅威から生活空間を守る為の前室なのである。


 今回に関してはそれらには当たらない訳だが…しかし、未知の怪物モンスターと接触したからには万全を期して、外で活動した衣服は洗浄しておくべきだろう。


 乃愛のあはまだ戸惑っている様子だが、ここでは俺のルールに従ってもらうぞ。



「…いきなり彼シャツってこと? 早くない?」



 …言葉の意味はよく分からんが、ともかくシャワーを浴びなさい。











「うわっ、うわぁ〜! もっと広いじゃ〜ん!!」



 シャワーを浴びて室内着に着替えた俺たちが、前室から気密扉を通って入った先、この約35畳(正確には、7✕8m)のルームこそが俺の生活空間である。


 俺一人で暮らす事しか念頭に無かっため、一切の間仕切りが存在しない吹き抜け長方形空間ではあるが、おおよそ4ブロックの目的別に設備が置かれ区分けされているぞ。



 まず入り口から見て右手にはキッチンと室内用のドラム式洗濯機、そして大型の冷蔵庫が置かれていて、キッチンでは電気式の調理器具により一般家庭と遜色のない自炊が可能になっている。


 反対の左手は、複合種目トレーニングマシンとエアロバイクが設置されていて、これは地下生活においても身体を鈍らせないためのエクササイズエリアだ。


 そして、長方形の奥側にはソファーとテーブル、大型テレビモニタが設置されたリビング空間と、ベッドが置かれた寝室スペースがある。


 なお、最後の二つの空間の境界線は曖昧で、間にはPCデスクと各種モニターも設置されているぞ。


 まあ、配置を見てわかる通り、俺は普段の大部分の時間を奥側半分のスペースで過ごしているわけだな。


 さらには、キッチンスペースにはバス・トイレ空間への扉(これは普通のドア)があり、ベッドの脇には緊急脱出ハッチ坑に通じる小さな耐爆扉もある。




「凄すぎ…マジ家じゃん! それもお金持ちの家!」




 …ふふふ、驚いただろう。



 これこそが俺が終末世界に備えて築き上げた拠点であり、単に居住性だけを見ても地上のマンションにヒケを取らない。


 それでいて危険な怪物モンスター闊歩かっぽするちまたから完璧に隔絶されているのだ。


 現在の状況を鑑みれば、これほどに価値のある物件が存在するだろうか…!



 乃愛のあは上手く言葉が出てこないようだが…いや分かるぞ。


 皆まで言わずとも、お前の疑問は最もであるから、ここは俺が先回りして解説してやろう(注、以下は誠一の早合点による暴走です)



 まずは、この拠点が核戦争を始めとするNBC系終末シチュエーションに対応している証拠に、対放射能・対生物兵器フィルター付き換気システムである。


 これは核シェルターの本場スイス政府が認定する基準を満たす輸入品で、交換式フィルターを50年分用意した挙句に、なんとシステムそのものの故障に備えて2ライン通してあるのだ!



 さらには、キッチンを始めとする電化製品の稼働電力についても疑問を持つだろうが…当然そこも抜かり無いぞ。


 今現在は平時モードなので外部からの電力供給を行っているが、いざ送電がストップしたならば大容量の内部バッテリーシステムに移行し、地上車庫ガレージの屋上に設置したソーラーパネルから充電を行う事ができる。


 …さらに、奥の手である燃料発電機を投入すれば相当量の自家発電を実現できるし、そのための専用排気煙突も壁面に作った配管口から、わざわざ浅い角度で500mも先の谷あいまで伸ばして、煙による拠点露見を欺瞞ぎまんしているのだ!


 ふふふ、この辺は内戦シチュエーションを重視するアメリカのプレッパーたちから拝借したアイデアだが…怪物モンスターが地上を彷徨さまよう現在においても、実に有効な投資であったぞ。



 そして、前室からさらに地下にある倉庫エリアに貯蔵された、数十年の籠城を可能とする物資の数々や交換用機械パーツに関してはこの際当たり前としても…空気と電気に気を回しておきながら、人間にとって最も欠くべからざる物質について俺が忘れているはずもない…!



 そう、すなわちH2O



 世界のプレッパーを紹介する専門サイトでも、自身の拠点に対する採点を求める投稿者たちが専門家から揃ってダメ出しを受ける最大の泣き所、それが水の安定的確保なのである。


 なにしろ、水というのはそれ自身が嵩張かさばる上に必要量も多く、飲用水であれば保存期間の限界にも悩まされる。


 プレッパーたちの中には、地上を流れる河川の側に拠点を築く事で給水を可能とする設計をする者もあるが…しかし、NBC汚染環境を考慮するならば、当然そのような地上に曝露された水源など論外だ。



 そこで俺がった方策、それは地下水の汲み上げである…!



 この地下拠点はそのさらに地下深くにある水脈から豊富な水供給が得られ…いや、より正確に説明すると、まずボーリング調査をして上質な地下水が得られるポイントを発見してから、しかるのちにこの拠点を建設しているだ。

 

 もちろん、飲用にも適する水質を厳選しているとは言え、短期間の籠城であればまず備蓄水を消費するわけだが…それでも風呂やトイレ、洗濯と言った生活用水を地下水システムでおぎなうだけでも、節水要らずの夢のプレッパー生活が実現するのである!



 …しかもだ、この拠点の建設にあたっては、機密保持に定評のあるスイスの要人向け核シェルター設置企業に発注しており、この人里離れた山中に誰に知られることも無く秘密裏に設営されているのだ。


 そして俺はいっそのこと、古代エジプトのファラオのようにこのスイス人作業員たちさえも亡き者にして、ピラミッドの秘密を守りたい欲望すら覚えていたのだ…(狂気)




 …でも、まあ。



 ここで俺は妄執の淵から現実に意識を引き戻し、楽しげにソファーの上で尻を弾ませながらスプリングの具合を確かめている乃愛のあの様子を眺める。



 あれほど偏執的に秘匿してきた拠点だと言うのに、いざ天変地異が起きてみると…目の前で危険に晒されている他者を見捨てるなんて、とてもじゃないけど出来なかったよ。


 うーん、この辺が理論と実践の違いということか…


 あるいは、俺の中にもまだ想定以上の、マトモな部分が残っていたのかも知れないな。



 などと、俺がやや自嘲的な気分に浸っていると、気付けば乃愛のあは室内の一角をじっと凝視していた。



 …ふふふ。


 もう完全秘匿とかそういう妄執は霧散したからな、聞きたいことがあれば何でも答えてやろうじゃないか(鷹揚)


 すると、乃愛のあは怪訝そうな顔を俺に向けながら問うてくる。



「…ねえ、誠一せーいち。あれって」



 …えーと、俺がプレッパー生活の睡眠の質を最高レベルに整えるために厳選した、寝返りし放題のキングサイズベッドがどうかしたのかな…?


 困惑する俺をよそに、乃愛のあは形の良い眉根をひそめてジト〜ッとした視線を送ってくる。


「…ど〜見ても一人で寝るには大き過ぎるんですけどぉ? 誠一せーいちは最初からそ〜ゆ〜つもりで…地下にこんなスゴいヤリ部屋なんか作っちゃって…」



 そんなバカな!?


 こんな理不尽な冤罪があってたまるか! 俺は誓って、今日この時まで自分一人の為の生存の空間を…!!



「…でもま、思ってたよりずっとスゴい家だったし、誠一せーいちはともかくお化けからは安全そうだし…。とりあえず約束通り、おっぱいは確定にしたげる」



 おっぱい! おっぱい!!(脳死)



「…でもでも! その先はまだダメだかんね!」



 その先…!?


 まだ…!!?







 …こうして、プレッパーとギャルと時々タレットの物語が始まったのであった。


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ここまでがプロローグとなっておりまして、二人が定位置に着いたので次回から一日毎のサバイバルストーリーを展開していく予定です。


更新スピードは他の連載との兼ね合いになりますのでご容赦ください…w


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終末世界に備えるプレッパーがデスゲームで本領発揮する物語! 〜タレット設置のユニークスキルを添えて〜 左兵衛佐 @yakuwakusan

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