第3話 拠点到着

「…えーとね、それでさっきのお化けやっつけた時に、頭の中で討伐ボーナスって出てぇ。それでコモンスキル獲得してぇ」



 俺が運転するピックアップトラックの助手席、ペラペラと惜しげもなく自身のスキルまで語っているのは、おっぱいバイクキャンパーこと藤田乃愛ふじたのあ、20歳。


 大学生である彼女はその通称の通り、ツーリングとキャンプを趣味とするおっぱいであり、何でも付近の温泉付きキャンプ場で一晩を明かした後、愛知県方面へと帰宅途中にこの異変に遭遇したようである。



「アタシのことは乃愛のあでいいよ〜!だからおっぱい星人おじさんも、誠一せーいちね!」



 …む、腑に落ちない面はあるが、まあおじさん呼ばわりを継続されるよりはマシか。


 

 乃愛のあの語るところによると、彼女の能力は以下の通りである。



─────────────────────

藤田乃愛ふじたのあ

討伐Lv1

討伐ポイント 1Pt


《コモンスキル》

斧術1

料理1

運転1


《レアスキル》

キャンプ1

─────────────────────



 俺の時に聴こえてきたアナウンスの内容をを鑑みるに、彼女は一つ目のレアスキルを獲得する順位、すなわち全体で1000位以内の討伐速度ボーナスを得ていると考えられる。


 そして、追加のレアスキルを得ていないということは、全体100位以内は逃しているという訳だな。



 …俺があの小鬼を轢き殺してから、彼女が手斧を振るって小鬼の脳天を叩き割るまでの、あのほんの数分の間に全体で100人以上の討伐者が出ているのか。


 そうなるともう、意図的な戦闘というよりは俺のように偶然が作用したような速さだろうから…やはり少なく見ても日本全体レベルが参加している『ゲーム』の規模感を思わせるな。


 こりゃ、俺がブッチギリのスタートを切れたことはつくづく幸運だったと言える。




〈ザザ…本各地で発生した災害は…、政府は自衛隊の…〉



 つけっぱなしのカーラジオから流れるニュースは、混乱に満ちていて要領を得ないものの深刻そうな様子だけは伝わってくる。



「…やっぱ、ヤバそうだね。しばらく誠一せーいちの家に泊めて? バイク直ってもお化けがいるのに一人で帰れないし」



 助手席の乃愛のあは、キュルっとした上目遣いで俺を見上げてくる。



 …うーむ、ここまではつい勢いで事を進めてしまったが、改めて考えると…俺の生命線である拠点に異分子を入れなくてはならないのか。


 これは、さすがに生存に関わるリスクだと言わざるを得ない。


 さりとて、今更怪物モンスターが跋扈する中にこいつを放り出すわけにも…



「あっ! お化け!」


「…おっと」



 タタタタタタタンッ!!



 ピックアップトラックが走行する道路上に例の小鬼が2匹現れるが、俺の意思を受けて即座に屋根の上から発射された銃弾が薙ぎ払う。



 ふむ、これで何度目だろうか…脳内の討伐Pt表示は9となっているから、乃愛のあと合流してからは6匹目となるか。



「すっご! 誠一せーいちのスキル無敵じゃん! これなら助けが来るまで生き残れるね…!」



 …まあ、すでになし崩し的に俺の能力を見せてしまっているし、この災害が治まるメドが立つくらいまでは保護しておくべきか…


 さっきから怪物モンスターどもは5.56㎜銃弾で呆気なく処理できているし、この程度の脅威度ならば時間はかかってもきっと自衛隊が駆逐してくれるだろう。


 …この程度の脅威度で済むならば、の話だが。



「ねえ、いいでしょ? おっぱいチャンスついてくるよ? …ううん、安全になるまで置いてくれるなら、もう確定おっぱいにしたげる!」


 そう言って助手席の乃愛のあは、ライダージャケットを押し上げる自身のバストの下で両腕を組み、ユサッ…と巨大な膨らみを持ち上げコチラに見せつけてくる。



 か、確定おっぱい…!

 なんだその暴力的な響きは!?


 

 俺は危うくピックアップトラックの運転を誤りそうになる。



「キャハハ! ちょっと〜運転あぶな〜い!」



 くそ…こんな小娘にいいように踊らされるとは、情けない。


 俺は深呼吸しながら、努めて視線を前方に向け直す。



「…安全になるまでは置いてやるから、あんまり俺をからかうな」



「やりぃ〜! よろしくね、誠一せーいち?」














 三重県南部の山間を行くピックアップトラックは辛うじてわだちの続く未舗装路を進み、いよいよ人里を遠く離れた小高い山を登坂とうはんしている。


 キョロキョロと車窓の景色を見渡している乃愛のあを横目にしつつも、俺は黙々と運転を続けながらある種の呆れの感情を持っていた。



 …こんなところまでホイホイと付いて来てしまっては、これでもし俺に不埒ふらちな動機があったとしても逃げ出せ無いだろうに、不安そうにする様子すらない。


 不用心と言うべきか何と言うべきか、ちょっと俺のことを信用し過ぎでは無いだろうか…いや、化け物が地上を跋扈ばっこしている中で、明らかに強力な戦闘能力を備えている俺にすがるのは、仕方のないことかも知れんが。



 …いや、俺の動機は不埒ふらちそのものだよねと思った人は、ちょっと待ってほしい。


 俺はあくまで瞬間瞬間に己の良心に従ったまでで、おっぱいワンチャンだの確定おっぱいだの言い出したのは乃愛のあの方な訳で…


 

「あっ、あれがそう〜?」



 などど、俺が思いを巡らせているうちに、目の前には俺の拠点の姿が見え始めていた。


 それは、無骨なまでのコンクリート直方体で、正面には頑丈なシャッターを備えた車庫ガレージである。



「ああ、そうだ」


「う、う〜ん。たしかに頑丈そうだけど…ちょっと狭そうかも? まあ、外にテント張るよりはマシかぁ」



 乃愛のあにはまだ俺の拠点について説明していないので、車2台ほどを収める大きさでしか無い地上構造物にすこし落胆した様子である。



 リモコンでシャッターを開いた俺は車庫ガレージ内にピックアップトラックを止め、後部座席から荷物を取ると車外に降りた。



「んえっ? 冷蔵庫とかどこにあんの、そのお魚とか腐っちゃうじゃん…?」



 工具類が棚に置かれているだけの車庫ガレージ内を見渡して、乃愛のあが困惑している。



「もしかして車の中で寝るってこと〜? お風呂なしは女の子にはちょいキツめなんですけど〜!」



 ギャーギャーとうるさい乃愛のあを静かにさせるためにも、ここはさっさと種明かしといくか。


 …ふふっ、思えばこの拠点を他人に見せるのは、初めての事になるな。



 まあ、驚かせよう。



「こっちだ」



 俺は車庫ガレージ内の奥壁、一際ひときわ頑丈な厚さ50cmものコンクリート壁に備え付けられた巨大な耐爆扉のハンドルを回し…ゆっくりと開いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る