第2話 ワンチャンス
悲鳴の聴こえた方向に目を向けると、道路上に横転したバイク、地面に尻もちをついて突き出した腕を振り回すバイカー、そしてそれににじり寄る灰褐色の小鬼が…3匹。
この時、俺の脳内では人間的ならば誰でも備える良心と、ひたすら利己的に働く冷徹な生存回路とが、瞬間的なせめぎ合いを見せていた。
…目の前で生命の危機に晒されている人がいるのだから、それを救けるのに
…いや、この場を救出するだけでなく、これからの状況を鑑みれば彼を拠点に避難させるべきである。
…せっかく始まったプレッパー生活の第一歩から、自分一人の完璧な拠点に異分子を引き入れるつもりか?
…飲料水や食料だって二人ならば倍の消耗だし、なにより自身の拠点の位置を他者に教えてしまうことになる。
一瞬の間に様々な思いが去来した俺は、しかし次の瞬間には決断していた。
その決め手は…ズバリ、おっぱいである。
地面に尻もちをついているバイカーは、顔はヘルメットで見えないものの、ライダージャケットを押し上げる膨らみをその胸部に備えているのだ…それも、大きい(重要)
そうとなれば話は別っ…!
あれは異分子ではない、おっぱいなのだ…!
怪物に襲われるおっぱいがあって、それを救わない者があるだろうか。いやない(反語)
ここからバイカーと小鬼どもまでの距離はおよそ100m。
また
小鬼どもの手には自然木の落とし枝らしき棍棒が握られていて、今にもそれを振り下ろしてバイカーの命を脅かそうとしているのだ。
…ならばここは、多分これだ!
タタタタタタタンッ!!
「ギョギョッ!?」
「ギャブ!」
「ゲッ…!」
俺のユニークスキルでピックアップトラックの屋根上に設置された《タレット》が火を噴き、
…やった。
何となくあのアナウンス以来、このユニークスキルスキルの使い方は感覚で分かっていたが…いきなりの実戦投入でも上手いこと働いてくれたぜ。
ここで初めてピックアップトラックの屋根を見上げると、そこには…
俺のピックアップトラックの屋根に穴を空けてガッツリとボルトで固定された
諸事情により正確な製品名は述べないまでも(万全の権利対策)、これは日本の自衛隊でも採用されている代表的5.56㎜
ともかく、俺のユニークスキル《タレット》とは、このようにして呼び出した機関銃を自身の所有する何らかの構造体に固定して、遠隔操作して扱うものらしい。
こりゃあ、願ってもないプレッパースキルが飛び込んで来たぞ…!
この《タレット》だけでも、デスゲーム災害を生き残る強力な切り札になり得ると確信できる。
それに加えて他のスキルも改めて見ると、いかにも俺らしいプレッパー向きのスキルたちだろう。
特にレアスキルの二つ《修理》と《DIY》は、拠点防衛を生命線としている俺にとって、その
コモンスキルについても、《棒術》というのは一見地味に見えるが…しかし、つい先程までは終末世界でも何でもない平和な日本に暮らしていたわけで、合法的に手に入る装備に限ればある意味非常に現実的な武器チョイスとも言える。
だってこれが《剣術》とか言われても、剣なんてどこにあるんだよという話だからな。
実際、拠点に戻れば護身用の警棒も備えてあるし…さすがに車に常備しておくと警察から職務質問された時に詰むのでここには無いが。
《射撃》については、これが《タレット》による攻撃とどう関連するのか要検証だろう。
《操縦》は…運転とは違うのだろうか?
ふーむ、考え出すとキリが無いが…まあ、ひとまずはおっぱいの救出を完遂しよう。
再びおっぱ…バイカーの方に目を転じた俺は、ここで小鬼の内の一匹が急所への被弾を免れたのか、いつの間にか立ち上がって再びバイカーに迫っている光景を目撃する。
し、しまった!
これではもうバイカーと小鬼が接近しすぎていて、《タレット》による射撃も
小鬼がその手に握った棍棒を振り上げるのを視界に収めながら、俺は悲劇的な結末を予期していた…そして。
「でりゃああああああああ!!」
ガスン! という重い音がして、バイカーが振り下ろした手斧の刃が小鬼の脳天を断ち割っている光景が続く。
…あ、あれ?
「ふ〜、マジ
だ、だれがおじさんか!?
俺はまだ花も恥じらう30歳であって、この人生100年時代においてはまだまだ青春の…
「おじさんは
ヘルメットを脱いだバイカーの正体は、果たして年頃の女性ではあったのだが…なんとも騒がしいギャルであった。
派手な金髪ショートの髪に日焼けした肌で、年の頃は二十歳前後だろうか? あまり俺が好むタイプではないのだが…顔立ち自体はなかなか整っていて、なにより細身ながらも主張の大きいバストは素晴らしい物がある。
まあ、ギャルだから救けるとか救けないとか、そんなことは価値基準にはなくて、この地上から貴重なおっぱいが
「…おじさん、聞いてる? アタシのバイクも積んで欲しいなぁ〜」
「ん、ああ。直せるかも知れんしな。積んでいこう」
拠点に戻れば工具類もあるし、なにより俺の《修理》スキルが働く可能性もあるしな。
「ガチぃ? やったあ! このバイク、キャンプ旅行の相棒だったんだ〜」
跳び上がって喜ぶギャルの姿は緊迫した状況に似つかわしくなく、俺は毒気を抜かれた思いでバインバインと上下するその膨らみを眺めていた。
なるほど、バイクキャンパーだったのか…それで手斧なんて物を持っていたわけだな。
「…もし直してくれたらぁ。おじさんがず〜〜っとガン見してるおっぱいも、ワンチャンくらいあるかも〜?」
むぐぐ…おっぱいを見過ぎてバレてるじゃないか!
てか、おっぱいにワンチャンスってなんだよ! ふざけるな! よろしくお願いしますっ!!(即時申し込み)
などとワイワイとしながらも、俺たちは125㏄クラスと思しきギャルのバイクを二人がかりでピックアップトラックの荷台に積み込み、当然幅が足りないのではみ出してはいるがバンドで最低限の固定を施すと、奈良県方面に向けて北上を再開するのだった。
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