第29話 初任務
結局、ドレスは10着買った。のえみ好みのものが5着、レゾイア様っぽいものが5着。これだけ買っても軽くならない財布に驚きながら、お店をあとにする。フェアリー店長は大層私(の財布。その中身)が気に入ったようで、地下マーケットの入り口まで送ってくれた。
「また来てネ。絶対ヨ~」
可愛らしいウインクを私(の財布。その中身)に1つすると、パタパタと飛び去る。お金に目がないところ、いっそ清々しい。なぜだか悪い気がしなくて、次は何を買おうか考えてしまっている。
いいものが買えたのは私だけじゃないみたい。シェズもシェナ姉さんも、足取りが軽いというか、もうスキップしちゃっている。ウキウキ3人衆は家に戻り、ファッションショーを開催しようと計画していた。
していたんだけど……。
「やっと戻ったか」
待っていたのはイザクさん。険しい表情で、腕を組んでいる。
「悪いが出番だ、のえみ。急いで準備してくれ」
ドクター・シシスが彼の陰からひょっこり顔を出す。
「荷物、預かるわ。2人は自室で待機ね」
何か言いたげな視線を私に向け、シェズ&シェナ姉さんがそばを離れる。くっついていたわけじゃないのに、なぜか一気にぬくもりが逃げた気がした。緊張で張り詰めた糸が、ナイフみたいに肌に、ぴたりと触れる。離れないで、と言いたくなって、止めた。
今求められているのは、レゾイア様の身代わりとしての私だから。
「着替えは……、あら。ステキなものを買ってきたのね」
ドクター・シシスが私に微笑む。
「出してみてもいいかしら?」
問いかけにうなずく。彼女は丁寧にシールをはがすと、何着か手に取った。のえみとレゾイア様、私たちを表すドレスたち。選ぶべきはどちらか、考えずとも手が伸びた。受け取ったドレスは、買ったときより少しだけ重く感じた。
まるで、自身の役目がどれほど重要なものか教えるように。
「着替えている間に、映像を見てもらおう。今日のレゾイア様が何をしでかしたか。……被害者は誰か」
イザクさんはそう言うと、部屋から出て行った。すぐにセイフォンが震える。ドクター・シシスに教わりながら、メッセージアプリを起動。送られてきた動画を再生する。
お世辞にもキレイとは言えない映像。焦点が定まらず、ブレブレだ。しばらく見つめていると、ようやく中心に誰かが映る。2人。レゾイア様とそれから……。
「ルース王子」
間違いない。何か話をしているようだけど、音声までは聞こえない。見つめ合う2人の間には、重たい空気が流れているように感じる。
静止画かと思うくらい長い間、動きはなかった。何秒か飛ばそうと指を動かしたとき、その瞬間が訪れた。
レゾイア様が何かを投げた。黒くて丸い、何か。
「手榴弾!」
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