第28話 ショッピング③

「わあ!」


大好きな色の服が並ぶゾーン。思わず歓声を上げた私に、シェナ姉さんも満足そう。


「お気に入り、見つかりそうね」

「はい、もう既に見つけました!」


一目惚れだった。

マネキンが身に着けていたドレス。

ピッカピカのオレンジ色、これでもかと縫い付けられたフリルは、まるで乙女心を表しているかのよう。胸の下あたりでキュッと絞られたデザインは、足をより長くみせ

てくれそう。

気にする人も多い二の腕周りもこの通り、見事にカバーされている。ありがたい!


「いいわね。試着してみる?」


私以上にノリノリなシェナ姉さんに連れられて、ゴージャスな試着室に案内される。何十人も入れそうなくらい広く、鏡もめちゃくちゃに大きい。明るめなライトのおかげか、私の肌がいつもより白くキレイに見える。

ドレスなんて一度も着たことがない私は、シェナ姉さんのお言葉に甘えて手伝ってもらう。サイズは……ぴったり! 大きすぎず小さすぎず、まさにベスト!

私のために作られたんじゃないかって、恐れ多くも思っちゃうくらい。


「よく似合うわ! とってもステキじゃない!」


手を叩いて喜ぶ彼女につられて、私もご機嫌に。その場でターンなんかしちゃう。

この服に合うヘッドドレスと靴と、後はアクセサリーも。早速、探しにいかなくちゃ!

試着室を出る前に、もう一度全身を見る。レゾイア様、こんな色も似合うんだなあ。悪役令嬢という役のせいか、暗い色ばかり身に着けるキャラクターだったけど……。もしかしたら彼女も、こういうのを着てみたいと思っているかもしれない。

そんなことを考えながら、売り場に戻る。


「ちょっと私、シェズの様子を見てくるわね。もう1人でも大丈夫でしょ?」


わざわざ答えなくとも、シェナ姉さんは私の顔を見て察したみたい。ウインク1つ残して、階段を上っていく。さて、私もっと。


「このドレスに似合うのは、同系色でちょっと濃いめの……」

「こういうノ?」

「そう、まさに!」


シェナ姉さんとバトンタッチするように、フェアリー店長が姿を現す。その手には、理想のハイヒールが。小さな身体で一所懸命運んできてくれた。


「アクセサリーはシンプルなのがいいネ。こういうノ」

「あああああ、まさにまさに!!」

「フフン、ただノおしゃべり店長じゃないノ」


この店を背負うだけあって、やはりオシャレセンスはピカイチだ。素晴らしい仕事をしてくださった彼女を称えたくて、拍手をおくる。得意げに舞う姿は、それはそれはキレイで。虹色の粉が……。なんか粉って言い方が引っかかる。もっと美しく表現できないものかしら。


「さささ、マダマダ時間はあるヨ。もっと見てご覧ヨ」

「でもぉ……、お高いんでしょう?」

「安くしとくヨ、トクベツ!」

「それなら……」


見なきゃ損でしょ! すっかり乗せられているのにも気づかずに、私はまたも売り場に繰り出した。次は紫色のドレスを探そう。ちゃんと憧れの彼女に倣って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る