第27話 ショッピング②
服を探すこと数十分。こんなに魅力的な商品があるのに、ビビッとくるものが見つからない。どれも文句なしに可愛いし、レゾイア様だったらきっとステキに着こなせる。私も彼女と瓜二つなんだし、似合わないハズはない。何を選んでもいい。
だけど……。
「うーん、何だかなあ」
「気に入らないノ? 仕入れ担当、オシオキ?」
フェアリー店長の物騒な言葉に、余計に焦りが募る。お仕置きって何されちゃうの?
つい気になって尋ねると、彼女は微笑むばかりで教えてくれない。このままじゃ仕入れ担当が解雇させられちゃうかも!
「焦らなくていいわよ、時間はまだあるんだし」
いつの間にか買い物を済ませたシェナ姉さんが、大量の紙袋を持ってご登場。どうやらいい買い物ができたようで、お顔がツヤツヤしている。
片手に持った財布は、始めに見たときよりスリムだ。結構使ったみたい。
「何か気になるものはあった?」
言いながら、私の肩に座っていたフェアリー店長をつまみ上げる。
「アア、何すル! ワタシ、店長」
「カウンターで待ってなさい。今、体力使ったらお会計のとき大変よ」
「ソリャソウ!」
扱いに慣れてる、シェナ姉さん。相手を傷つけずに(会計額によっては傷つけるかも?)華麗に追い払ってみせた。
「さ、本当の本当にショッピング開始よ」
荷物を床にドサッと置くと、私の腕に自身の腕を絡める。
「端から端まで見ていくわよ。まずはその前に」
シェナ姉さんは近くのソファーまで私を誘導する。ふかふかのそれに腰を下ろすと、足がじんじん痛むことに気がついた。このお店、広いもんね。気がつかなかったけれど、かなりの歩数を稼いだみたい。
「いくつか質問するわよ。考えずに素直に答えなさい」
「はい!」
「好きな色は?」
聞かれた瞬間、真っ先に思い浮かんだのはオレンジだった。私、のえみが好きな色。だけど、私はレゾイア様の身代わりだ。すぐに紫や黒が出てくる。どちらを答えるべきかなんて、分かりきっている。
「紫かな」
「それはレゾイア様のでしょう?」
間髪入れずに、シェナ姉さんが言う。
「のえみが着るんだから、のえみが好きなものを選んでいいのよ。全部、レゾイア様に捧げる必要ないわ」
疲れちゃうでしょ、と微笑む。いいの、そんな自由で? 『私』を殺す必要ないの?
最推しの身代わりはイヤじゃない。何も分からず飛ばされたこの世界で、私が生きる理由、存在意義になっている。
だけど、私はのえみだ。見た目は違えど、中身は変わらない。
「で、何色が好き?」
「オレンジ、かなあ」
「それならあっちにたくさんあるわよ。行きましょ!」
紫や黒の服から遠ざかる。
ここに来て初めて、ショッピングを純粋に楽しめそうな気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます