第26話 ショッピング①
フェアリー店長の案内で、お店の中を進む。
「気に入ったものがあったら言いなさい」
シェナ姉さんは私の隣に並んで、鋭い目で物色を始める。肉食動物の目! 痺れる……。私も倣って、グッとくる服を探す。心のコンパスが示すままに、さあ!
「僕は靴を見てくるね」
「分かったわ。後で合流しましょ」
「うん。買う前にアドバイスよろしく~」
シェズは手を振って、階段を駆け上がっていく。靴か、せっかくだしハイヒールにチャレンジしてみたいかも。向こうの世界では歩きやすさ重視で、ヒールの低いものしか履かなかったし。もったいないよね、何でも履けたハズなのに。
「のえみ?」
「あ、すみません!」
ボーッとしてないで、探さなきゃ。そばにあったラックに向かい、一着一着見ていく。やっぱり紫がいいね。レゾイア様といえば、だし。黒もイメージに合うし、深めの青も良さそう。
「鏡使いなヨ~。試着室のご用意もあるヨ!」
フェアリー店長は私がお金持ちと分かった瞬間から、何だか甲斐甲斐しい気がする。一着手に取るごとに、「ふんだんフリルが可愛いネ」とか「その色、流行りネ」とか、「1番高いヨ、オススメ」とか言ってくる。
正直に申しますと、気が散ると言いましょうか。じっくり見られないと言いましょうか。
私みたいに流されやすい乙女には、なかなか厳しい環境です。断り切れなくて買っちゃいそう。
だからこそ、ここでガツンと言っておかないと。
「フェアリー店長、すみません」
「どうしたノ。何でも言ってヨ、ワタシたちの仲じゃないノ」
フェアリー店長は私の肩に座ると、頬にすりすりしてくる。可愛い。とにかく買って、売り上げに貢献したくなってくる。……騙されちゃダメよ、のえみ! この子の目に映る私は、きっとお金の入った袋よ!
「私、苦手なんです」
「服選ぶノガ?」
「いいえ、店員さんに話しかけられるのが」
「エッ」
私の言葉に、フェアリー店長がよろよろと肩から離れる。心が痛むけれど、鬼にして……。
「話しかけられると、買いたいものも買えなくて。結局手ぶらで帰っちゃうんです」
「テブラ!!!! ダメ、ゼッタイ!! イヤヨイヤヨモ、スキノウチ!!」
最後の言葉は違うネ。今にも泣きだしそうな彼女が、私の耳たぶにしがみつく。
「何モ言わないカラ! 黙ってるカラ!」
しめた!
「ありがとうございます。何か気になるものがあったら、こちらから聞きますね」
「ワカッタ。いい子に待ってル」
耳たぶからふわりと離れると、フェアリー店長はカウンターの方に飛んで行った。その後ろ姿が哀愁漂っていて、また心が痛み出す。声かけたら水の泡よ。今の内に買い物するの。一度は背中を向けたけど、どうしても引っかかって集中できない。
私は近くにあった服を手に、カウンターへ向かう。
「すみません。コレってどうですかね」
何を聞いていいか分からず、曖昧に尋ねる。どうですかね、って何よそれ。
フェアリー店長は光の速さで振り向くと、ニヤ~ッと笑う。あ、この顔は。
「やっぱりいいです」
「マアマアマアマア、そんなコト言わずニ。ワタシが必要ナンですよネ~」
してやられた。かくして私は、彼女のトークを存分に聞きながら買い物することになった。
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