第25話 フェアリー店長

自動ドアの先は天国だった。目がくらむほどに眩しい宝石たちが、あちこちから私を呼ぶ。ステキな服、アクセサリーが並び、私の乙女心をくすぐる。ここになら、きっと理想のレゾイア様衣装がある。


「いらっしゃいネ~、シェズ&シェナサマ~~」


店の奥からふよふよと誰かが飛んでくる。妖精さんだ。優雅に羽ばたくと、虹色の粉(私の表現だと、あまり美しそうに聞こえないのが難点だね)がふわ~っと舞う。

初めて見るファンタジーな生き物に、胸が高鳴る。ひょええ、小さい可愛いキレイ!握手できるのかしら、あんな小さいおててと。ハイタッチくらいしか無理かしら。

お近づきの印に何か持ってくれば良かったなあ。


「それデ、ソッチのお客サンは?」

「のえみよ。一応、会員ではあるけれど来たのは初めてね」

「ノエミ……」


妖精さんは私を上から下まで舐めるように見る。ブティックの店員さんだし、パッと見ただけでスリーサイズが分かるとかそういうの? ありそうだけど。

真っ直ぐ立った方が測りやすい気がして、ピンと背筋を伸ばす。身体に沿わせるように、腕を下に。


「この子、お金アル?」

「はい?」


聞き間違えかと思ったくらい、想像のななめ上をいく質問。でもそっか。思えばさっき入り口で……。


「お財布アル? 出して出してネ」

「私、あるの?」

「聞かれてモ困るヨ。ワタシ、知らないカラ」


妖精さんの呆れ顔。ため息が出ちゃうくらい可愛いネ。あ、口調がうつった。


「えっと、シェナ姉さん。私ってお金持ってるんでしょうか」

「安心しなさい。イザクさんから預かってるわ」


そういうと、シェナ姉さんが財布を出す。さぞかし可愛いものが出てくると思ったら、ところどころ穴の開いたボロ切れが出てきた。まさかね。


「そのまさかだよ」


シェズが可哀想な人に向ける目をして、私の肩を叩く。待って、本気で言ってる?


「こういうのに無頓着だったから、あなた」


シェナ姉さんも憐みの目を向けてくる。無頓着ってレベルじゃないよ、コレ? 言っちゃなんだけど、迷いなくごみ箱行き&買い替えよ。


「アンタ、無頓着ネ無頓着。お金カワイソウ。大事にできないナラ、ワタシ預かるヨ」


飛んできた妖精さんが、私の顔周りをくるくる回る。預かる、なんて言っているけど、多分使われちゃうネ。


「見た目はこんなんだけど、中身はすごいわよ。見てご覧なさい」


財布のダサさに絶望していた私に、シェナ姉さんから救いのお言葉が。

中身、そうよ。人も財布も中身が肝心なんだから。

下手に引っ張ったら裂けてしまいそうなそれを受け取り、チャックを開ける。


「わっ」


お札。お札。お札。視界いっぱいのお札である。こんなボロ切れによく入ったものだと感心するほどのお札が、こんにちは~と顔を出す。もしかしなくても私、お金持ちご令嬢?


「すごいね、拡張魔法が施されてるんだ」


シェズの言葉に納得がいく。だからこんなに入れられたのね。


「スゴイお金持ってル。ナアンダ、ナアンダ」


妖精さんは急に手をにぎにぎし始めた。


「ワタシ、フェアリー店長ネ。欲しいモノ、ナアンデモ持ってきてネ」


お金大好きフェアリー店長のお気に入りになった! のえみはちょっと疲れた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る