第24話 『ビューティーご令嬢』

地下マーケットは、想像以上に魅力的な場所だった。色んな人がいて、色んなものがあって、いくら時間があっても足りないくらい。何日通えば、もういーやってなるのかしら。通い慣れている様子の2人は、私の質問にすぐ答えてくれる。


「アレは何? 食べられるの?」

「食べられるよ。魔物のお肉」

「美味しそう。あ、待って、あっちは?」

「それも魔物のお肉よ。さっき見たやつより高いやつ」

「えっ、食べたい!」

「親衛隊の経費が半分になるわよ」


会話をしながら、地下マーケットを縫うように進む。道が狭いのもあるし、手を繋いでいることもあって、とにかく歩きにくい。人や物に何度もぶつかっては頭を下げながら、目的地まで向かう。服屋って言ってたけど、それらしい店は見当たらない。お祭りの出店みたいなのが並ぶ中に、こじゃれた服屋なんてあるの?


「もうすぐよ」


私の耳元でささやくと、シェナ姉さんは先を指差す。ピンクのネオンでギラッギラに彩られた看板が見える。


「『ビューティーご令嬢』?」

「うん、僕らの行きつけだよ」


シェズが自分の服の左端、これまたド派手なピンクのタグを見せる。本当だ、『ビューティーご令嬢』って書いてある。


「私のヘッドドレスもここのよ」


自慢げにシェナ姉さんは言うと、はずして見せてくれる。ふんだんに使われた宝石が、光の下でキラキラ輝く。可愛い。主張は激しくないけど、薔薇もあしらわれているのもポイント高い。こういうのいいなあ。マントの下のワンピースを思い出し、ちょっと恥ずかしくなる。


「着いた」


並ぶ屋台の中に、1つだけ異質な建物。ガラス張りのオッシャレ~なブティックが姿を現した。ここが噂の『ビューティーご令嬢』……。外から見ても心ときめくお洋服がたくさん見える。あの2階にあるドレスなんて、まんまレゾイア様って感じだし。


「ね? ステキでしょ」

「うん、とっても!」


私の答えに、シェナ姉さんは満足そうにうなずく。持っていたカバンからやたらと膨らんだ財布を取り出すと、入り口に向かう。一見、何の変哲もない自動ドアだ。だけど、そのまま進もうとすると開かない。


「まだよ。審査があるから」

「審査?」


首をかしげる私の横で、彼女が財布をかかげる。


「カクニンチュウ、カクニンチュウ」


自動ドアの上、センサーがついている辺りから声がする。


「会員証カクニン。ウィーン、カンリョウ」


ウィーン、って言う必要あるの?


「財布カクニン。ウィーン」


ピピピ、ピピピと音がして、長いこと機械は黙っている。大丈夫なの? 隣にいるシェナ姉さんに聞きたかったけど、とても話しかけられる空気じゃない。右手にぎゅっと力が入る。シェズだ。心配いらないと言うように、私に笑いかける。


「……待ってネ、お金がスゴクテ。いいやもう、ドウゾ入ってネ。イッパイ買ってネ!」


その言葉を合図に、ドアが開く。『ビューティーご令嬢』に3名ご来店!


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