第23話 地下マーケット

翌日。朝から特にすることもなく、シェズ&シェナに誘われるがまま地下探検をしている。2人にはどうやら、おすすめの場所があるらしい。


「きっと気に入るよ」

「だと思うわ。特にお洋服屋さんはテンション上がるわよ」


シェナは私の着ているワンピースをつまむと、イヤな女っぽくフンと鼻を鳴らした。


「こんな服、仮にもレゾイア様の代わりが着るもんじゃないわ!」

「そ、そう? 紫だし薔薇だし、イメージ通りだと」

「安直すぎ」


一刀両断である。でもコレ、私が選んだんじゃないですし。なんだか最推しに申し訳なくなって、言い訳を始める。シェナは聞く耳もたず。


「用意されていた服が気に入らなかったら、ちゃんと言うか自分でどうにかするのよ。着せ替え人形じゃないなら」


プロだ。こんなにシェナがカッコよく見えたのは、失礼ながら初めて。

こうして堂々と意見が言えるところを見ると、なるほどレゾイア様の身代わり候補だ。


「さっさと行くわよ。シェズ、あなたも」

「僕は靴が欲しいかも」

「選んであげるわよ、また」


シェナは表面上は面倒くさそうに、甘えるシェズの頭を優しく撫でる。待って、この子、推せる……。トゥンク。


「そうと決まればさっさと歩く。ほら」


出会った当初のように、身体をつつかれる。あのときはちょっと怖かったけど、今はその行動に照れ隠しのにおいを感じる。からかいたくなる気持ちを抑えて、私はおとなしく先頭を歩く。どこに服屋があるか分からないのに。

でも、心配ご無用。間違えそうになると、シェナが肘の辺りを引っ張ってくれるから。……シェナが前歩けばいいんじゃない?!


「ストップ、そこ右」


腕をつかまれ、無理やりブレーキをかけられる。右? おお、扉がある。古ぼけた両開きの扉(この地下に古ぼけていない扉、そもそもない?)が私たちが来るのを待っていた。表面にあるプレートには、『地下マーケット』の文字。それから、『開けたら閉めてネ、ヤクソク!』と彫られている。おおおお、なんだかワクワクしてきた。

ファンタジー世界でよく見る、地下マーケットそのものの雰囲気。ゴゴゴゴゴと音が聞こえてきそうな怪しげな、ね。

この先に、一体何が待ち受けているんだろう。


「開けていいの?」

「いいわよ。ただし、ゆっくり開けて」

「ゆっくり?」

「そう。たまーにだけど、向こうに人がいて危ないから」


扉がぶつかっちゃうのか。私は言われた通りにゆーっくり、そーっと扉を押し開ける。ほんの少し開けただけで、中からは人の話し声、民謡みたいな音楽が漏れてくる。それと、熱気がすごい。どれだけの人がいるんだろう。


「ここには親衛隊以外の人たちも来るから。だから、あなたは顔隠さなきゃダメよ」


地下マーケットには他にもいくつか入り口があって、それぞれの生きる世界からアクセスできるらしい。私の味方だけじゃなく、敵もいる。気をつけないと。

シェズに手渡されたフード付きのマントを身に着け、今度こそマーケットへ。


「念のため、バレントが警護に当たってるわ。いい、のえみ? あなたはこの手を絶対に離さないことよ」


シェナ姉さん(もう、完全にお姉ちゃんだもん)の言いつけにうなずき、私は2人と手を繋ぐ。よし、行こう!

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