第22話 私の魔法

さっきの呪文にどんな効果があるのか。それは深く考えなくとも、すぐに分かった。明言しちゃってるからなあ。つまりアレは、『イザクさんを魅了系魔法から守るもの』だ。『絶対』って3回も言っていたし、とにかくチャームに負けてほしくないのだろう。乙女っ!


「彼女の許可も得たことだし、始めるぞ」


金髪かつらの(このワード、何回言った?)イザクさんは宣言すると、テーブルの上にあったスプーンを床に落とした。


「はい?」

「ナントイウコトダ。オトシテシマッタ、コノワタシガ!」


見事なまでの棒読み。演技の仕事は、うちに回ってきそうもない。


「ダレカヒロッテハクレナイカ」


ちらとこちらに目配せする。それでも動かない私に、ついには「拾え」と口が動く。仕方ない。小芝居に付き合ってあげましょうか。つかつかとイザクさんに近寄り、落ちたままの悲しきスプーンを救ってあげる。普段はすくう側のスプーンも、これにはびっくり。……なんちゃって。

そのまま手渡そうとすると、イザクさんはなぜか受け取り拒否。自分で頼んでおいて、その態度はいかがなものでしょうか!


「のえみさん」


見かねたドクター・シシスが、私を手招きする。


「のえみさんって、好きな人います?」

「はっ、え!?」

「好きな人、誰でもいいので思い浮かべてみてください」


だ、誰でもいいからと言われましても。最推しレゾイア様はもちろんのこと、王子たちも好きだし、執事たちも好きだし、それに……。


「どうです? 誰か思い浮かぶ人はいますか?」

「……し、親衛隊のみんな」


恥ずかしさのあまり、ものすごく早口に。けど、彼女の耳はしっかり聞き取っていたみたいで。


「嬉しい」


眩しい可愛い大好きな笑顔にやられて、気が飛びそう。いかん、いかんぞ、のえみ。


「じゃあ、私たちに向けるステキな笑顔まで」

「さんさんにーにー!」

「いちいちぃ!」


静かだったシェズ&シェナが、待ってましたと言わんばかりにコールする。飲みゲーしてる?


「リラックスリラックス」

「そうよ、力抜きなさい」

「アナタたちが変なコール入れるからでしょ!」


もう! でもおかげさまで、表情筋? かなんかが緩んだ気がする。私は再度顔を上げて、ルース王子(偽)、いやイザクさんにスプーンを差し出す。

もちろん、渾身の笑顔つきで!


「落としましたよ」


上品に、かつ愛らしく。私はお嬢様!

瞬間、イザクさんの前にハート型の盾が現れた。それによって弾かれた何かが、衝撃となって私を襲う。すごい風圧。目も開けられない。

前髪を押さえながら、ただ収まるのを待った。


「と、今のがドクター・シシス開発の魔法。盾を出現させることによって、チャーム系の魔法をはじく」


荒れに荒れた部屋の中で、イザクさんの解説が入る。


「ちなみに相手への愛があればあるほど、盾は大きくなる」


惚気かよ。さっきの大きかったですもんね。


「ん?」


チャーム系の魔法をはじく盾。誰かが使ったってことよね、イザクさんに。それって……。え、私? 私しかいなくない? 答えを求めて周りを見ると、シェズ&シェナが私をびしっと指差していた。


「つまりだ、のえみ。お前は強力なチャーム魔法の使い手だ。それを使って、好感度を上げていく」


イザクさんが乱暴に金髪かつらを脱ぎ捨てる。


「そうやって、レゾイア様の尻拭いをしていくんだ」

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