第21話 実践……の前に

数分後、私を泣き止ませる会が発足。あれやこれやとしょうもない、ゴホゴホ、失礼しました。それはスバラシイ芸が披露され、あっという間に泣き止んだ。詳細については触れません。早く泣き止まないと、って初めてプレッシャーを感じた。


「うっし、改めて実践してみるか」


金髪イザクさんが、仁王立ちで私の前に立つ。その手には剣。鈍い光を放つそれに、思わずたじろぐ。え、決闘? 違うよね?


「大丈夫だ。イモくらいしか切れないから」

「イモ切れたら充分ですよ!」


それってもう、人も切れるよね。


「心配しなくても大丈夫ですよ、本当に。コレ、ただの飾りですから」


ドクター・シシスが、スーッと刃先に指を滑らせようとした。見ていられなくて、さすがに止める。切れないかもしれないけれど、その動きは怖い。


「剣があった方がカッコいいだろう。コイツだって、倉庫でただ眠っているよりかはマシだろうしな」


ほーんと、男の子って子どもよね。

もちろん口には出しません。一応、彼は上司ですから。


「じゃあ、いくぞ」


何も教わらないまま、いよいよ実践タイム。……私は何をすれば? とにかく構えておこうと思い、ファイティングポーズをとる。

コレで、いざとなったら殴れる。自分の身は自分で守るしかないからね。


「おおおお、お待ちください!」


じりじりと距離を詰める私たちの間に、ドクター・シシスが身体を滑り込ませる。


「いくら君でも困るぞ、邪魔されるのは」

「でも、だって、見てられないわ!」


あ、この流れは。なんだか久しぶりな気がして、少しだけ穏やかな気持ちで見守ることができる。イチャつく2人は正義。尊い。


「実践してもらう前に、どうしてもかけたい魔法があったの」


そんなんもう、愛の魔法ですやん。思わず、心の中のエセ関西人が顔を出す。なんだいなんだい、チューでもしちゃうんかい? 自分でも驚くくらいのキショいノリ……。お見苦しいところを、失礼いたしました。心の観客に頭を下げたところで、


「シールド、マイダーリン」


謎の、ちょっと恥ずかしい呪文が聞こえてきた。


「チャーム絶対絶対絶対無効」


ふざけているのかと思ったけど、ドクター・シシスは真剣そのもの。大きな声で唱えると、右手の人差し指で宙にハートを描く。指先から迸ったピンク色の閃光が、イザクさんへと一直線に伸びる。


「よし!」


小さくガッツポーズすると、彼女は私に向き直る。


「お邪魔してすみません。どうぞ!」


初めて目にした魔法が気になって、実践どころじゃない。シールド、マイダーリン。チャーム絶対絶対絶対無効?

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