第19話 ルース王子の黒歴史

金髪のかつら。それを慣れた手つきで装着するイザクさん。壊滅的に似合っていない。シェズ&シェナは笑いをこらえようともせず、お腹を抱えて笑っている。その笑い声がとにかくクセ強で、誘われるように私も笑ってしまった。


「フン、ツボの浅い連中だ。なあ、ドクター・シシス?」

「えっ、ええ。ええ、そうね。本当に失礼しちゃう」


とは言いつつも、彼女だって笑っている。口元を手で覆って、必死に隠しているようだけど。背中の震え方で分かっちゃうんだなあ、コレが。

私はどうにかこうにか真顔を作って、イザクさんに続きをうながす。


「似ても似つかないが、俺のことはルース王子だと思え」


からまった金髪を手櫛で整えながら、彼は無茶なことを言う。でも、受け入れなければ先に進めない。いまだに笑いっぱなしのシェズ&シェナに肘鉄をくらわせて、少しだけ静かにしていてもらう。……ごめんなさい、話し盛りました。


「今の肘鉄?」

「違うわ、シェズ。今のはね、肩かなんかの可動域をチェックするロボットのマネよ」

「やかましいですわよ!」


楽しげに笑う2人は、人差し指を私の口にちょんと押し当てた。


「やかましいのは」

「そっちだね、のえみ」


息の合った動きはまるで、双子みたいにシンクロしていた。この子たちには敵いません。私が両手を上げて降伏すると、それを待っていたであろうイザクさんが話し出す。


「まずは数か月前、中等部で起きた事件を振り返ろう」


助手役に徹したドクター・シシスが、派手な装飾が施されたホワイトボードを引きづってくる。ここにもレゾイア様の紋章である薔薇が。


「当時、中学3年生だったレゾイア様」


イザクさんの言葉に合わせて、ドクター・シシスが1枚の写真を張り付ける。マグネットまで薔薇の形……。ていうか、ご尊顔すぎやしませんか、我が推しは。幼さの中に滲む色気。周囲を凍てつかせそうなくらい冷たい視線。反対に熱くなる私のハート……。


「どうしてニヤニヤしているの?」


シェズが不思議そうに言い、シェナが首を振る。


「聞いちゃダメ。記憶失ったついでに、頭のネジも吹っ飛んじゃったのよ」


し、辛辣~~~~~!


「おーい、聞いてるか」

「聞いています。続けてください……」


胸の辺りをさすりながら、見えない傷を癒す。推し見てニヤニヤするなんて、オタクにとっては当たり前。いいえ、むしろ誇るべき文化よ、のえみ!


「飽きてきているようだし、ここでクイズでも出すか」

「テーレーン」

「テレーン」


……シェズ&シェナは擬音係なの?


「中学3年生の修学旅行。レゾイア様がした悪行とは何か」


班長のルース王子にしたある悪行が、彼の人生の1ページにそれはそれはブラックなヒストリーを残したらしい。そんなエピソード、聞いたこともない。


「ヒント、俺もされたらイヤだな。特に彼女の前では」


彼女、と言いながら右手をドクター・シシスに差し出す。スキあらばイチャつくんだから。控えめに重ねられた手を見つめながら考える。されてイヤなこと。特に好きな人の前で。


「足掛け?」


答えながら想像する。レゾイア様の美しいおみ足。引っかかって転ぶ、ルース王子。あまりに対照的な図。しっかり者の優等生キャラ、ダサい姿なんて意地でも見せない人にとっては、苦痛でしかないと思う。

大衆の面前ですっ転ぶなんて、イヤに違いない。


「惜しいな」

「じゃ、じゃあ財布をすり替えられた! マジックテープのものに!」

「遠のいたな」

「なら、店員さん呼んだのに無視された!」

「違う。まず、どうしてそんなに具体的なんだ」


向こうで流行りの蛙化(元の意味とは違うらしい)する行動を上げてみたんだけど、残念ながらハズレ。ちなみにフードコートできょろきょろする姿も違うらしい。


「答えを教えてください」

「もうギブか? 正解は……、ズボンおろしだ」

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