第18話 報告会
「食べ終わったか?」
イザクさんが問う頃には、私もシェズ&シェナも酷い有様だった。世界一平和で、ある意味過激な晩ご飯戦争。これが毎度繰り広げられるのかと思うと、今から疲れる。食事はあの2人と別々に食べたい。それかドクター・シシス、大変申し訳ないんですが、それぞれのお皿に同じ量ずつ分けてください。それが1番いいかもしれません。
「ひと悶着あったようだが、まあいい。のえみ、何があったか順を追って話してくれ」
ひと悶着どころじゃないよ、ふた悶着、み悶着はあったよ。しれっと私のデザートを食べるシェズ&シェナを恨みがましく見つめる。ええ、敗者ですよ。どーせ私は敗者ですよーだ。
これ以上見ていると、本当にお腹がすきそう。私は視線をイザクさんだけに向けて、今夜、リコゼット学園で起きたことを話す。バレントくんとの通信が途切れ、ルーク王子に見つかったこと。
「なんだと!? 見つかった?」
「で、でも顔は見られていません!」
動揺して立ち上がったイザクさんを、ドクター・シシスが支える。空気が重い。
「顔は見られていないって言ってるわ。偉いわね、上出来だわ。ね、そうよね?」
「あ、ああ。見られていない、そうか」
壊れたロボットのおもちゃみたいに、ギギギとぎこちなく腰をおろす。イザクさんは額を指先で揉みながら、しばしの間黙っていた。
「ルース王子か」
数分の後、彼は重たい口を開いた。
「どうだった、のえみ。ヤツに会って、何を感じた?」
ルース王子。彼と言葉を交わして、私はとにかく衝撃を受けた。ゲームと違いすぎる。原作ファンで、ルース王子最推しの方があの場にいたら……。ブルリと身体が震える。私で良かったね、ルース王子。
偉そうに心の中で呼びかけながら、私は考える。どう答えるべきだろう、この質問に。
「記憶がないので、何とも言えませんが」
「いい。思ったことを率直に教えてくれ」
率直に。飾らずに。それなら。
「苦手です」
「は?」
数々の乙女ゲームをやってきた。ほのぼの系限定ではあったけど、1プレイヤーとして、恥じない生き方をしてきたつもり。攻略対象はみんなクリアした。どんなにタイプじゃなくても、1人1人と向き合った。
最後の最後、1枚のスチルを見届けるまで。その私が、こんなことを言いたくはなかった。
「すみません。攻略願い下げです」
ナルシストで、自分の地位にあぐらをかいているような王子。攻略したって、待っているのはバッドエンド。私はハッピーエンドしか受け入れない女……。相容れない。
「よく分からないが、とにかく苦手なことだけは伝わった」
「はい。もう二度と会いたくありません」
「すげえ言うなあ」
それくらい強烈な出会いだったんだもん。
「とはいえ、とはいえだ。レゾイア様の行動によっては、ルーク王子とも関わりをもつことになるだろう。そのときに何をすべきか、やってみよう」
イザクさんは立ち上がると、どこからか金髪のかつらを持ってきた。
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