第17話 晩ご飯戦争

地下へ降りる階段を進むごとに、美味しいご飯の匂いが強くなる。と同時に、私の腹の虫も早く早くと急かす。私だけじゃない。隣にいるバレントくんの腹の虫も、同調するように鳴る。グーグーギュルギュルと、まるで会話しているかのようだ。当の本人たちはというと、言葉を交わすほどの力もなく……。

とにかく口に入れたい。もう何でもいい。今ならゲテモノ料理でも食べることができ……、それは無理かも。


「やっと着きましたね」

「そうだね、長く険しい旅だった」


バレントくんと一緒に医務室へ入ると、小さなテーブルにところせましとお食事が並べられている。肉だ、どでかい肉! アニメや漫画でしか見ないような、それはそれは大きな肉。何肉とかもうどうでもいい。ビジュアルがちょっと……な魔物の肉でも。


「のえみ、ご飯の前によだれ拭け」

「そんな『ご飯の前に手を洗え』みたいに言われましても……ってよだれ?!」

「口の周り、カッピカピになるぞ」

「うわ、乙女にそんなこと言うもんじゃないですよ!」


帰ってきて早々に、私を出迎えるイザクさんジョーク。ジョークよね?


「手洗いうがいして、席につけ。ご飯食べながら報告会だ」


彼の合図で、ぞろぞろとみんなが集まってきた。ドクター・シシス、シェズ&シェナ、なんだか久しぶりに会ったような気がする。ほんの数時間前に顔を合わせていたのに。


「全員そろったな。まあ、まずはご飯だ。冷める前に残さず食えよ」


挨拶もそこそこに、思い思いに手を伸ばすみんな。私は肉からいく。真ん中にある、山みたいな形の肉。かたまり! がっつきたい気持ちをなんとか抑え込んで、お嬢様らしく優雅にいただきます。


「食べるスピードは、とてもじゃないが優雅とは言えないな」


……あれ? 誰か何か言いました?

周りの声や音が耳に入らないほど、夢中になって食べ進める。


「のえみ」


むにむに。右隣にいたシェズが、急に私の二の腕を揉み始めた。なぜ?


「あのう、シェズちゃん?」

「シェズでいい。あなたの方が上だから」

「上って」

「僕はそっくりさんレベル。10人中7人くらいが、『似てる』の札を上げる程度の」


シェズって、僕っこなんだ。じゃなくて、


「えっと、もしかして」

「ううん、気にしてないよ。惜しいって言われるの慣れてるし」


めちゃくちゃ気にしてる。とてつもなく申し訳なくなって、私は自分の皿に残った肉を差し出す。神に捧げるように。


「よろしい」


シェズは大仰にうなずくと、遠慮なく肉に食らいつく。いい食べっぷり。見ていて気持ちがいいのは本当だけど、少し後悔。まだ食べたりなかったもので。さて、私は他の料理でも……。


「のーえみ」


左から腕がニュッと伸びてくる。今度はシェナだ。私の手からカトラリーを奪うと、それをテーブルに置く。


「えーっと、シェナちゃん?」

「シェナでいいよ。あなたの方が上だからね」

「上って」

「私はせいぜい、そっくりさんレベル。10人中8人が『似てる』のボタンを押してくれるくらい」


この流れ。イヤな予感がして、さっきとは違う反応をしてみる。


「ふーん、そっかあ」

「そっかあ、ってそれだけ?」


鋭い目つきで睨まれる。けど、ここで怯むわけにはいかない。


「話はご飯の後にでも」


言いながら、テーブルをチラリと見る。肉はどんどん少なくなっている。ドクター・シシスはお腹いっぱいみたいで、うとうと中。イザクさんもお腹をさすっているのを見るに、もう食べないだろう。バレントくんはサラダばっかりで、肉には目もくれない。

つまり、私の敵は2人。シェズ&シェナ!


「チィッ」


下手っぴな舌打ちが聞こえた。と、同時にわずかに残った肉を一刺しするシェナ。コイツ、早い!


「のえみ。夕食ってね、戦争なの」


シェナは妖艶に微笑むと、動けずにいる私を横目に2枚目の肉を頬張る。


「相手が誰だろうと、容赦はしないわよ」


くっ、それはレゾイア様のセリフ! だけど、


「惜しい!」

「うるさいわね!」


顔を真っ赤にして、シェナがフォークを振り下ろす。

よい子は人をからかって遊んだりしないでね。お姉さんからのお願いです。

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