第15話 ルース王子(?)との出会い
どのくらい待ったんだろう。
いまだにバレントくんからの連絡はない。このまま待っていていいのかな。夜が明けるまでに無事に帰れるのかな。不安が不安を呼び、身体が石のようにかたくなる。学園七不思議、石化した不審者の像。……イヤすぎ。こんな形で、推し乙女ゲームの世界に残りたくない。頭を振って、立ち上がる。とにかく学園を出よう。誰かに見つかる前に。歩き出そうとしたとき、最悪のできごとが起きた。暗闇に光が差し込んだのだ。一筋のほっそい光が、徐々に太くなる。
目の前の教室。まさか遮光カーテンがつけられていたなんて。
扉が開いて初めて分かった。分かった頃にはもう遅い。
「終わった」
思わず口から漏れてしまった。ジ、エンド。ENDのEは母音だから、ザじゃない。ジ。そんなこと、今はどうでもいいね。逃げるべき? でも、ヘタに足音たてて大丈夫? 不審者だって、自分から宣言するようなものじゃない? こうなったら……。
こうなったら? 何も思いついていないのに、余裕ぶっちゃってもう!
どうすることもできず、私はそのときがくるのを待つ。ごめんなさい、イザクさん。身代わり令嬢、ここまでのようです。簡単なお仕事もできない私なんて、親衛隊にいる価値ないですよね。
自分が情けなくてイヤんなる。うつむくと、視界がぼやけた。泣いちゃダメだ。泣いちゃったらますます救えない。
「ビックリした」
教室から出てきたのは、どうやら男の子。顔は見られない。このお顔がバレてしまうから。それだけはダメ。絶対。
「こんな夜中にどうしたの? 何か忘れ物?」
答えずにいるのも変だよね。怪しまれないように、当たり障りない無難な返事をする。
「そうです、忘れ物を取りに来ました」
「課題かな?」
「はい、ないと困るのです。居残り学習させられちゃうし」
のです、って。突然出た謎キャラに思わず苦笑する。
それじゃあ私はこれで。そそくさ立ち去ろうとすると、パッと腕をつかまれた。
「暗いし、付き合うよ。そろそろ、警備員や先生方の見回りが始まってしまう」
僕と一緒なら怒られることもない。自信満々に言うと、呆気にとられる私を置いて先へ進む。先生に怒られない生徒って? こんな時間にほっつき歩いていてもいいって、どんな権限持ち? その答えはすぐに分かった。聞いてもいないのに、彼自身がご丁寧に教えてくれたのだ。
「僕はこの学園の生徒会長をしている。ついでに言うと、学園長の1人息子でもある」
「はあ、なるほど」
「……え、それだけかい?」
「それだけって」
それ以外に何が?
「おかしいな」
彼は呟くと、立ち止まった。
「生徒会長で、学園長の1人息子」
「聞きました」
「グランエミアリア王国、第一王子」
「はっ」
待って。
「……ルース王子?」
「正解。やっぱり僕は有名だね」
くすくす笑うルース王子。対して私は、
「おかしい」
彼が先ほど呟いた言葉を、今度は私が口にする。『Sweet Happy Destiny』の攻略キャラの1人。何度もプレイした私が、彼に気づかないワケがない。たとえ、その姿を見ることができないとしても。声や言葉遣いできっと分かる。
「憧れの僕に出会えるなんてラッキーだね? 感動で声も出ないか」
ふふふ、と楽しそうにナルシストな発言をする。ちょっと黙って。いや、お黙り下さい。
「全ッッッ然、キャラ違う!!!!!!!!!」
声も! 言っちゃなんだけど、作ってる感がすごい!
私の愛したルース王子が、音を立てて崩れていく。受け入れがたい事実に直面したとき、人間がどんな行動をとるか。人間、って言うと規模が大きいか。
私はというと……。
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