第14話 取り残される身代わり

リコゼット学園の裏っ側、先生方が使用する門の前で、私は1人立ち尽くしていた。心細すぎるシチュエーションに、次の一歩が踏み出せない。真っ暗じゃないだけマシかな。まだ園内に残っている人がいるのか、1つ2つ窓から明かりが漏れている。誰かはいるってことだよね。マジモンぼっちじゃないんだよね。ちょっと安心。ただ、見つからないようにしなきゃだからなあ。結局気は抜けない。


「あ、あ、あ、聞こえますか? のえみさん」


身につけたイヤフォンから声がする。バレントくんだ。


「バッチリ聞こえてます」

「それは良かったです。僕はいつでも見守っていますから、心細くなったら声かけてください」


ニッコリ笑う彼の顔を、簡単に想像することができる。バレントくん、優しいなあ。沁みる、沁みる。贅沢を言えば、隣にいてくれると最高。もう何も望まない。


「ではのえみさん。1つ深呼吸してください」


大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。


「そうしましたらまず、右足を出してみましょうか」


右足。


「次は左足です」


左足。


「はい、ひとまず1歩! その調子でいきましょうか」


二人三脚しているみたい。バレントくんの掛け声に合わせて、私は歩き出す。だだっ広い校庭(学園だし、園庭って言うのかしら)を横切って、入り口まで辿り着く。真正面から見ると、迫力がすごい。聞くところによると、7階建てだとか。生徒数に見合っていない大きさ。食堂だけでワンフロアあるんじゃないの?

音を立てないように細心の注意をはらって、重たい扉を開ける。PUSHって押す……だよね? 緊張のせいか、なぜか引いてしまった。バレントくんに気づかれていませんように。祈りながら、何喰わぬ顔で中へ。

暗い廊下を手探りで進む。紋章は室内にしか隠していないって話だったし、入れそうな部屋には即入室。紋章は今回のために光る仕様になっているみたいだから、少しは探しやすいかもしれない。そんな淡い期待はすぐに消えてしまう。


「どうしよ、見つからない」


自分自身の声が震えていることに気がつくと、この世の終わりみたいな絶望感に苛まれる。


「のえみさん、大丈夫。焦らず、確実に見つけていきましょう。そんな難しいところには置いていないハズですから」

「う、うん。そうだよね」


大丈夫だよね。胸に手を当てて、いつもより速い鼓動を落ち着かせる。


「もう1度、端っこから」

「そうですね。1部屋ずつ潰していきましょう」

「……バ、バレントくんないよ。ない、見つからない」

「そっちの棚の下にはありませんか?」

「ない、ないよ、どうしよう!」


イヤフォンの向こうで、バレントくんが深呼吸。彼も混乱しているみたいだ。


「のえみさん、少し待てますか? イザクさんに連絡して聞いてみます」


私の返事を待たずに、プツンと音がした。通信、切られちゃったみたい。本当にぼっちになっちゃったよ。

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