第11話 身代わり覚醒?

牢獄みたいな部屋で夜を明かし、ついにやってまいりました! リコゼット学園、入学式! 私のデビュー日!

緊張のせいか全く眠れず、ハイテンションになってしまっていますがご了承を。目をこすりこすり制服に着替える。可愛いな、制服。私が通っていた学校のは、それはそれは地味でダサい。体育で着てたジャージなんてあずき色だったし。近くの学校の子と駅なんかで会うと、恥ずかしくて身体を縮こませてたもん。それに比べて、リコゼット学園のはいい。どこから見ても、可愛くないところが見つからない。くるっと一回転。スカートのふぁさっと感がたまらない。


「やるよ、身代わり。推しのために」


昨夜届いたドレッサーの前に座ると、ぎょっとする。慣れないけど、そうだ。私、推しそのものの顔なんだった。美しいなあ、見惚れちゃう。このお顔だったら、何時間でも鏡を見ていられる。鏡は友だち状態になる。憧れの黒髪をとかしながら、今日のことを考える。入学式ってことは、当然、攻略対象との接触がある。リアル王子たちを前にして、私は気を失わずにいられるかしら。


「王子といえば、私の推しセオドリク様……」


会えるんだよね、いつか。あの筋肉ムキムキ暑苦しい系王子。声がバカデカくて、彼が話す前には必ず『音量にご注意ください』って出たっけ。慌ててイヤフォンをぶち抜いた記憶がある。


「それからえっと」


王道パツキン優男系王子、ルース。年下可愛い裏の顔アリ系王子、コリン。ほのぼのおっとりのほほ~ん系王子、シリル。おちゃらけお兄さん系王子、ピート。……説明書にあった紹介文ごと覚えてるの、我ながら恐ろしいな。彼らと上手くやっていけるかどうか。コミュ力ないしなあ、私。


「今から弱気になっていてはダメよ、のえみ!」


立ち上がり、胸を張る。レゾイア様登場時のスチルと同じように歩いてみる。彼女の見ている世界に、少しだけ近づけた気になる。


「おい、入るぞ。……入るぞ?」


ノックの音にも気づかず、部屋の中を闊歩する。私はレゾイア様の身代わり。素敵な彼女と同じように、凛々しく堂々と……。次の瞬間、何かにぶつかった。下を向くと、ひざまずいたイザクさんの後頭部が目に映る。


「イイイイ、イザクさん! すみません!」


上司を蹴っちゃったかもしれない! クビ、クビ、クビ。こんなのもうクビだよ。異世界追放だ、追放!


「……幻だったか」


呟いて、イザクさんが立ち上がる。幻?


「記憶はなくても、身体は覚えてるってことか?」


何やらぶつぶつ言いながら、イザクさんは私をじっと見つめる。穴開いちゃうよ、そんなに見られたら。


「もう一回歩いてみろ」

「……こ、こうでしょうか」

「違うな。さっきは何考えながら歩いてた? 俺の声に気づかないくらい集中して」


さっき。最推し、レゾイア様のこと。伝説のスチル。それらを思い出しながら、もう一度。ゆっくり呼吸をしながら、一歩、また一歩。


「大丈夫そうだな」


満足げなイザクさんと、室内を歩き回る私。はたから見たら、相当変なシーンだろうな。

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