第8話 入学準備①
カチョルイさんの姿が廊下に消えてから、私はやっとちゃんと空気を吸えた。ロッカーの中、息苦しかったな。シェズ&シェナの手を借りて、医務室内に戻る。両の手をとられ、まるでお嬢様のような扱いを受ける。
「悪かったな、S01番。窮屈だったろ」
労いの言葉にうなずくと、イザクさんはどかっとソファーに腰をおろした。存在感を消していたドクター・シシスが、どこからともなくふわっと現れる。いや本当に、今までどこにいた?
「相変わらずのオーラだったね、カチョルイさん」
「ああ。だてにウン十年、執事たちをまとめ上げてないな」
「ね。ちょっと怖かったもの。特に今日は、なんだか機嫌悪そうだったし」
「レゾイア様関係だろう。最近多いな」
そんな会話をしながら、2人は部屋の中をうろうろ歩く。推理中の探偵?
「……どうしましょうね」
「どうするもなにも、やるしかない。やってもらうしかない」
「でも、記憶が」
見てる見てる。後ろから私のこと凝視してる。
「不安要素はデカいが」
「ね。すっごく大きいよね」
「まあ、上手いことやってもらうしかないだろう」
ポンッと、肩に手を置かれる。右にゴツゴツまめだらけの手。左にほっそり華奢な指輪のついた手。
「頼んだぞ」
「頑張ってね」
「人任せすぎる!」
思わずツッコんだ私の背中に、誰かが……シェズ&シェナが手をそえる。
「ファイト」
「フレーフレー」
「アナタたちも!?」
親衛隊、こんな感じで大丈夫なの? 私に何かあったとき、ちゃんと守ってくれる? 後ろ盾があまりにも人任せすぎて怖いです。
「ワタシ、キオクナイ。オケー?」
「オケー」
「ワタシ、テンセイシテキタ。イセカイジン。オケー?」
「オケー。さ、こうしちゃいられない。諸々の準備に取り掛かるぞ」
ああダメだ。冗談だと思われてる。
「ドクター・シシス。S01番を連れて部屋に。制服のサイズを確認してやってくれ」
「お任せあれ」
「シェズ、お前はいつもの見回りに」
「かしこまりました」
「シェナは、あー、シェズと一緒でいいか」
「はい」
ここにきて初めて、どちらがシェズでどちらがシェナか分かった。シェズは可愛い系レゾイア様、シェナはカッコいい系レゾイア様。声は高いのがシェズ、低いのがシェナ。よくよく見ると、フードに名前が小さく刺繍されていた。いいな、なんかオシャレな刺繍。私の黒装束にもあるのかしら。フードを引っ張って探したけれど見当たらない。残念。そもそも私だけ、名前が名前っぽくない。どこかで管理されてた実験体みたいな。S01番って。
「それでは行きましょう」
突っ立ったままの私に、ドクター・シシスが手を差し出す。ほっそくてしっろい。指輪も可愛いし。
「イザクさんからもらったんですか」
「えっ、えっ」
気になって聞くと、予想通りの反応が返ってきた。まっかっかですよ、お顔。
「ほ、ほら、行きますよ。ねっ、部屋案内するからね」
耳まで赤く染まったドクター・シシスの後をついて、医務室を出る。私の部屋。マイルーム。仮にもレゾイア様の身代わりだからね、それはそれは豪華絢爛なんでしょう。
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