第172話 ゴブリンのヤベーのが出てきます

「マジ!? ――空さん、〈強靭な胃袋〉でたよ!」

『うっそ!! ほんとに!? もうでたの!? 凄んご! 女子の発想じゃないとか言ってごめん!』


 脈絡なく謝られた。


「じゃあ一旦、印石を回収して駆除を続けましょうか」


 ドローンで印石を回収。

 その後も、駆除を続けた。

 そうして1時間ほど経ったときである。


「地震?」

『大きいな』

『見て、あのビル・・・・!』


 遠くにそびえていた一際高い、50階はありそうなビルが崩れる――地面に吸われるように消えた。


 代わりに立ち上がる真っ白な――蟻の女王に見えるなにか。

 腹部が異様に長く、さっきまで建っていたビルと同じくらいの長さが有る。

 そんな腹部の先端には、真っ白な女性のシルエット。


 VRに表示される『ミュータント・ゴブリン・クイーン』の文字。


「あれがクイーンですね――・・・・ミュータントって付いてるんで、普通より強そうですけど」

『ハイパーミュータントじゃないからまだマシか。あいつを倒したら一応、駆除完了って事でいいんだよな?』

『オッケェ。バリア持ちな火力機のあたしが盾になるんで、攻撃ヨロー! あと、そろそろ撮れ高だし、配信再開するわー!』

「はあい。こっちも配信再開します」


❝再開きちゃー!❞

❝Har スウ!❞

❝うわ、なにあのキモイの。女王アリみたいな感じ?❞

❝でけぇ・・・あんなのが地中にいたのかよ!❞

❝でも、先っぽは美人だな❞


 空さんがゴブリン・クイーンに突っ込んでいく。躊躇がない・・・雄々しい。

 ロケットエンジンを吹かせてクイーンの女性の部分に組み付いた――両手同士で組み合って向き合う、「手四つ」って奴。


『うおりゃあああ!!』


 空さん叫びながら、ヘッドパット。

 スタートスターの頭が光ってる、〈励起翼〉の頭版らしい〈励起ヘッド〉?


 クイーンの表情が歪んだ――するとクイーンからの反撃があった。

 クイーンが、スタートスターに拳を叩き込む。

 一見、なんのダメージもないように見えた。

 でも、


『い――痛ったあああああああああ』

『どうした空!』


 空さんの異変に、オックスさんが叫んだ。


『コイツの攻撃、衝撃が機体を貫通してくる! 中の人間に直接攻撃掛けてくる――パイロットスーツがなかったら死んでたかも!?』

「それは危険すぎます・・・! 一旦距離を取って下――」


 クイーンの腕が、スタートスターを掴んで離さない。


『ごっめん、選択まずった!』

 

 元々空さんは接近戦を得意とするから、取った行動は責められない。とにかく空さんとクイーンを引き離さないと。


「イルさん〈臨界・励起翼〉!!」

『〈臨界・励起翼〉。イエス、マイマスター』


 私は翼でクイーンの腕を叩き斬ろうとするけど、躱されてしまう。


❝スウの攻撃を躱しやがった!❞


 ブル・フォートレスから砲弾が打ち込まれているけど、何故かあまり効いている様子がない。


「こんの――」


 私は〈粒子加速ヨーヨー〉を射出して近くの高層ビルに撃ち込んで、振り子の要領でフェアリーさんを強制的に方向転換。


❝飛行機で立◯機動始めた❞

❝ああもう、滅茶苦茶だよ。やってる事が、飛行機ではない❞

❝あれって空中戦機動マニューバって呼んでいいの?❞

❝空中戦機動かは怪しいな・・・・乗ってるのも、人類か怪しいらしいしな❞


 ビルの先端をワイヤーで切断しながら、クイーンに突撃。


「〈臨界・励起翼〉!!」

『〈臨界・励起翼〉。イエス、マイマスター』


 今度は躱させない――一瞬機首を右に向けフェイントを入れて、左に舵を切りなおす。


❝戦闘機でフェイントってのも、やっていいか可怪しいんだって・・・❞


 青い衝撃と共に、クイーンの腕が叩き切られる。

 空さんが自由になって、ロケット噴射を噴かして距離を取る。


『スウ、助かった。あり!』


 クイーンが怒りの咆吼と共に、口からレーザーの様なものを私に向かって射出。

 フェアリーさんに命中するけど、黒体塗料で熱が吸収されてダメージには至らない。


「でも・・・・これ、生身で相手してたら瞬殺されてたかもしれないね」

『こ、こわ・・・』

『本当に生身で洞窟を探索しなくてよかったな』


 クイーンが体を揺らして地震を起こすけど、それも空を飛んでいる私達には通用しない。

 さらに胴体から緑色の霧を噴射した――恐らく毒だけど、これも宇宙も航行できる密閉された機体に乗ってる私達には通用しない。


『あのクイーンは対人用って感じだな』

『生身で戦ったらヤバイけど、バーサスフレームならなんともないかな? 貫通してくる衝撃が怖いけど』


 するとクイーンが叫んだ。今度はレーザーじゃない。

 なに? 衝撃波?

 だとすると、もしかしてマズくない?


 クイーンの周囲に放たれた衝撃波が、私達3人の機体を覆う。

 衝撃が貫通してきて、私の肉体を直接攻撃してきた。


 ―――


 パイロットスーツが、心臓マッサージのように激しく収縮するのを感じた。

 私は肺に詰まった息を、咳とともに吐き出す。


「ゲ―――ゲェホ――」


 ―――え?


 ――あ・・・・気絶してた!


 パイロットスーツが起こしてくれたんだ。


「やばっ!!」


 衝撃で弾かれたフェアリーさんが、コントロールする人間を失って傾いている。

 イルさんが、私の体を揺り起こそうとしている姿勢で青ざめている。


『マイマスター、姿勢制御ジャイロに異常を検知!』


『スウどうした!』

『スウ、なにがあったの!!』


❝起きろスウ!! 墜落するぞ―――!❞ 


「やばい、やばいやばいっ!!」


 景色が回転してる。


 私はイヤーギアに触れながら、フェアリーさんを人型に変形させVR操作に切り替える。

 空さんとマッドオックスさんは、人型形態だったから大丈夫みたいだ。


❝流石にスウでも、これはまずい!❞

❝おいおい、大丈夫か!?❞


「ジャイロに異常? あ、バランサーがイかれてる! じゃあ、翼を一旦たたんで気流の影響を減らして――頭上が地面!?」


❝逆噴射間に合うか!?❞


『地面に激突するぞ!!』

『スウ!!』


 私は〈粒子加速ヨーヨー〉をフェアリーさんの腕からビルに射出して突き刺し、それにぶら下がって何とか停止した。


❝ああ、あの謎の武器か・・・❞

❝っぶねえ! 逆噴射で行けたか?❞

❝ミスったらあらぬ方向に飛んでたとは思う。激突は避けれても、機体をまた操作しないといけないし❞


 急いで操縦桿を握り直して、足のロケット噴射で上空へ逃げる。


「今のは食らわないようにしないと・・・――飛行形態も止めたほうが良いね」


 私は壊れたシートベルトの留め金を後方に投げながら、VRでフェアリーさんを操作、クイーンから距離を取る。


 ふと〖第六感〗が騒いた。


 急いで〖マッピング〗を使うと、視界が真っ赤になった。

 モンスターを示す赤い点だらけだ。

 空には敵影は見えない。なら下だ。視線を下ろして地面を視る。

 すると巨大なゴブリンが沢山居た。本当に巨大だ、フェアリーさんは人型のとき全高が13メートルあるけど、それより頭一つ分大きい。

 そんなのが地面を埋め尽くそうとしている。

 見ればクイーンの尻から、続々と産まれていってる。

 しかもあのゴブリン、羽付きだ。羽蟻って訳・・・?


 女王が敵に合せて産むタイプを変えたんだろうか、外に出てきたから産むタイプが巨大になったんだろうか。なんで急にあんなのを産み始めたのかわからないけど、不味い事態なのは分かる。


 巨大ゴブリンが一匹はねを鳴らして、こちらに飛んでくる。名前はホブ・ゴブリンって表示されてる。

 にしても、なんて数をこんな短時間で産むんだ。


「こ、このクイーン、ヤバくない?」

『やばいな』

『やばいね』

「早く駆除しないと、この辺り一帯、大変なことになるよ」


 飛んできたホブ・ゴブリンが、フェアリーさんに槍を突き出してくる。

 私は〈励起剣〉で槍を受け止め、入れ違いざまにホブ・ゴブリンを両断する。

 手応えが悪い――斬れにくかった。


 斬ったホブ・ゴブリンが、フェアリーさんの背後で結晶化して砕けたのを確認する。

 私はあんまり接近戦は得意ではないので距離をとりつつ、地上のホブ・ゴブリンを〈励起バルカン〉で撃つけど、効きが悪い。


 これ、私が巣を熱で攻撃したから熱耐性持ちを産んだって感じ?

 こんな高速進化するとか、本当にやばいぞゴブリンって――ミュータントのクイーンだからなの?


 私は、仕方なく〈汎用バルカン〉で撃っていく。


 実弾は効きが良い――けど、実弾であの数を相手していたら弾薬が空になっちゃう。

 こういう事もあるのか――今度バーサスフレーム用の〈時空倉庫〉に予備弾をいっぱい補充しておこう・・・。

 私が、弾薬節約のために〈加速粒子ヨーヨー〉でホブ・ゴブリンを相手していると、空さんが地面に降りて行った。


『ホブ・ゴブリンはあたしに任せて! ダッシャアアア』


 空さんが、プロレス技みたいなのでホブゴブリンを倒し始めた。

 股で挟むように蹴る、シャイニングウィザード? とかいうのとか。

 相手を担いでブリッジしながら投げたり。

 相手を逆さに抱きかかえるようにジャンプして、相手の頭を股で挟んで地面に激突、相手の脳天を地面に叩きつける。ほんと、色々豪快。


「凄い。空さんって、プロレスラーとか目指してるのかな」


 私が見事なプロレス技に感心していると、オックスさんが首を降る気配がした。


『弟で鍛えたらしい』

「・・・・弟さん」

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