第166話 プラモバトルを始めます


 私は開始早々、VRのレバーを操作して、十六夜テイルを駆けさせた。


「小手調べなんてしない――初めから全力の体当たりで行きますよ!」

『ヒヨッコが、よく言う!』


 十六夜テイルが、街を模したジオラマのような試合場を駆け出したのを視て、アリスが心配する。


「スウさん大丈夫でしょうか。さっきわたしと戦った時、銃が全然当たりませんでしたけど、プラ弾って真っ直ぐ飛ぶんですか?」


 十六夜テイルは、手にしたアサルトライフルを連射。

 電磁気に加速されたピストンが、プラ弾を射出。――本当に銃口初速が300m/sあるらしく、目にも止まらない速さで飛んでいく。

 ――なるほど、プラ弾はこう飛ぶのか。

 私は最初の数発で、特性を理解する。


 私が特性を理解し、操縦で銃口の角度を補正した事で、数発がジャイアントインパクトに命中。その装甲を3枚、弾き飛ばした。


「うわっ、わたしと戦ったときと全然違います。めちゃくちゃ強くなってませんか!? いつも通りのスウさんです!」

「そりゃあ、銃が得意な人でもバンバン鉄砲じゃ戦えないよ」


❝あれこそスウだよな❞


『・・・・驚いた。汝、本当にソルダートは初めてか? この命中力・・・ソルダートのトップ選手にも比肩しうるぞ。小手調べなどと言うのも伊達ではないという事か』

「バーサスフレームで慣れていますからね!」

『ほう、汝は軍人か!! それほど若いということは、飛び級か!?』

「イエ チガイマス ワタシ グンジンジャ アリマセン」

『どうした、急にバイブレーションしだして。――まあなにはともあれ、バーサスフレームとイントロフレームは似て非なるもの!! イントロフレームをバーサスフレームの練習用と視る者も多いが』


 ジャイアントインパクトが低く構える。

 う・・・急に当てづらい!!


『その銃、ホップが掛かり過ぎている! 調整を抜かったな!?』

「な、なるほど・・・・これはミスをしました・・・!」


 アリスが、マリさんに尋ねる。


「ホップってなんですか?」

「プラ弾は遠くに飛ばすのが難しいから、バックスピンを掛けて飛んでいる間に浮き上がらせるのさ。それで飛距離を伸ばすってわけ――地球のエアガンでも50メートルは飛ぶから、音速に近い弾丸なら最長25メートルくらいのこのフィールドは余裕で端まで届くよ。ただし、実弾とは違う飛び方をするので注意が必要なんだ――でも、それを競技化するのもまた面白いね」


『さて、こちらの番だ』


 ジャイアントインパクトが背後から何かを取り出した。

 丸い――なに?

 ジャイアントインパクトが、それを手に持って空に投げる。


『爆ぜろ!』

「まさか、手榴弾!?」


 空から雨あられと振ってくる、大量のちょっと小さめのプラスチック弾。


❝ずりぃ!!❞

❝そんな武器ありかよ!!❞


「ず、ずる」


 アリスが呻いた。でも、マリさんがにべ無く言う。


「だが相手が悪い」


 右、左、回転――


『なにぃ!? ――』


 ――滑り込み。

 私はジャイアントインパクトに近づきながら、アサルトライフルを連射。


『――躱した、全て!? 馬鹿な、あんな量のプラ弾の中を駆け抜けてくるだと!? どういう事だ――だ、だが、これならどうだ!!』

「弾幕とか、お手の物なんです――よっ!!」


 ジャイアントインパクトが投げた手榴弾が地面と空で炸裂するけど、弾幕――いや、私には弾幕にすら視えない。


『汝は一体!?』


 ジャイアントインパクトが逃げようとするけど、逃げられるわけがない。

 あっちは大きな体、こっちは小さな体――しかも十六夜テイルより低いワットしか使えないなら、こっちが早いに決まってる。


 アリスが、なにかに気づいたような声を挙げた。


「あ!」


 マリさんがアリスに解説する。


「そう、というわけさ。巨体はワットが高くないと不利。沢山の手榴弾を詰め込むための巨体みたいだけど、今は鈍重な大きな的だね。巨体はよほど美しい作品を作り上げないと使い物にならないよ――しかも大きい物を美しくするには、それだけ労力も必要だし」


 ジャイアントインパクトはその大きな体に、大量の手榴弾を潜めていたようだけど。


「両手で2個ずつしか投げられないんだから、私には無駄!」

『両手だけだと思うな!』


 ジャイアントインパクトは、口からも手榴弾を放ってきた。


「2個も3個も、大して変わらないよ!」


 私は、十六夜テイルを変形させ、宙に飛ばす。

 十六夜テイルが飛んだことで、エワンさんが納得の声を出した。


『やはり、その機体は飛ぶのか! ならば!!』


 ジャイアントインパクトが、空中に2個の手榴弾を投げるけど、


「正直、複葉機とプロペラで、スワローさんより避けやすい」


 あの程度の数のプラ弾なら当たらない。


 そこで――なにか嫌な予感がした。


(不味い気がする、急いで逃げ――)


 私が十六夜テイルのプロペラを全速力で回すと、こちらの機体の太ももにプラ弾がヒット。パーツが剥がれる。

 なんか、凄く真っ直ぐ弾が飛んできた!!

 今攻撃してきたのは――フェイテルワンダー!? あの機体だけ、プラ弾の正確さが段違いだ!!

 逃げないと! 私は低空飛行させてビルを模した遮蔽物に隠れる。

 にしても不味い、太ももの上の関節が動かなくなったから、もう地上戦は出来ない。

 ずっと、飛んでいないと!


 お節介かもしれないけど、試合に勝ってエワンさんに生きてと提案したい。


 世界が滅んでるからって、貴方が死ぬ理由にはならない。


 フェイテルワンダーが、低い姿勢になって足の車輪で追いかけてくる。

 ――は、速い!! 機体も速いし、なんかドリフトも凄い。


 機体の作成者の操縦をトレースしてるらしいけど――あの機体だけ、操縦者の腕が段違いな気がする!


『安心せよ、テクニックだけをコピーしておる』

「ど、どういう意味ですか!? ――」

『この操縦者に関してはテクニックだけに限らないと、恐らく初心者の汝等では勝負にならないのでな』

「テクニック以外―――ですか。なんだろう?」


 私が疑問に思っていると、メイガスが戦闘機に変形した。


 やっぱり戦闘機になった! しかも飛ぶ速度が早い!! 一気に宙にあがって、緩やかな放物線を描いて相手に迫る――そうか、揚力をあまり考えないで一気に接近するための変形!


 飛行機というよりミサイルに近い!


 アリスに向かって、メイガスが一気に詰めた。


 魔法使いメイガスなんて名前だけど、圧倒的接近戦タイプの機体なの!?


 アリスのステイルがメイガスの前に立ちはだかる。


「接近戦に持ち込んでくれるなんて、願ったりかなったりですよ!」


 ステイルが、両手でカッターを横薙ぎ一閃。


「胴ォォォ!!」


 すると、先ほど翼に変形していたメイガスのローブが開いたかと思うと、盾になってアリスのカッターを受け止めた。


 あれは――!


「隠し腕と、盾!!」


 アリスが盾を押し返そうとする。


「くっ―――ワット出力が弱くて押されます・・・・――ですが、パワーの差は、リッカの様にテクニックでなんとかしてみせます!」


 アリスがカッターを、メイガスに何度も打ち込む。

 パワーで負けている筈のステイルが何故か、パワーで上回るメイガスを攻撃で追い詰めていく。


「ワット数は無いですが――このカッターが重いんです! スウさんより譲り受けたこの聖剣・カッターグラムの前に膝まづきなさい。面、面、面ェェェエエエェん!!」


「聖剣じゃなくて、ただのカッターなんですけども。あのカッターってそんなに重いのかな?」


 私が訊ねると、コメントが教えてくれる。


❝調べたら80グラムくらい有るわ❞

❝かなりの重量級じゃん❞

❝しっかし、凄いな、縦振りばっかなのに、相手の隙をしっかり突いていく❞


 確かに、盾の隙間を縫って相手のプラモパーツを次から次へと剥がしていく。


 メイガスも杖で反撃するけど、ほとんどがステイルのカッターに弾かれる。


❝やべえな一式 アリス。あの重い武器を、パワーの少ない機体で見事に操っている❞

❝むしろ、重量で操ってる気もする。アリスさんは上段攻撃が多いから胴体や足に隙ができるけど、重さに任せてカッターを下げることで、相手の攻撃を弾いてないか?❞


 アリスの方も、メイガスをどんどん追い詰めていく。

 メイガスの足のパーツも剥がした、敵の足はもう動かない。


『くっ、この二人・・・・できる!』


 エワンさんが呻いたかと思うと、メイガスが変形した。

 え――ここで変形!?

 頭パーツの尖った部分で、ステイルに向かって突撃。


「なるほど! あれだけの突進力なら、攻撃にも使えるのか!」


 ステイルは、メイガスの攻撃を紙一重で躱した。

 でも――違う、相手の狙いは多分・・・・。


『このまま一旦退いて、フェイテルワンダーと合流し、態勢を――』


 やっぱり逃げる気だ!


「させません!」


 アリスが言っている間に、ステイルがカッターの裏蓋を開けて――まさか。


「この重いカッターは、投げられませんけど。刃だけなら――」


 ステイルがカッターの刃だけを横薙ぎに――ぶん投げた!


「遠距離は苦手ですけど、これだけ大きな物なら流石に!」


 ギリギリ命中した!

 バランスを崩して、転がるメイガス。


『くっ、しかしその重いカッターを持っては追いつけ――』

 

 エワンさんはステイルが追いつけないと言いかけたけど、ステイルがカッターを投げ捨てる。

 そうして、落ちていた刃を拾い上げた。

 アリスが、新たな武器名を叫ぶ。


「カッターグラム・ライトモォォォド!!」


 私は後方腕組み解説者面で、驚愕する。


「武器が、変形した!?」


❝ぶはははははは❞

❝一式さん、草❞


 ステイルはカッターの芯の穴の部分を、片手で器用に握ってメイガスに斬りかかり――


『ここまでやるとは!』


 メイガスのとんがり帽子を、吹き飛ばし、さらにコアに蹴り。

 メイガスが沈黙した。


 こちらはフェイテルワンダーに追われていたけど、オトレレがフェイテルワンダーを狙撃で牽制してくれている。

 というか胸のパーツを剥がした。


 ――メイガスを倒したステイルが、フェイテルワンダーと交戦開始。それを見て、私は呻く。


「私も早く、ジャイアントインパクトを沈めないと」

『だがスウよ! 汝は片足が封じられている、地上で躱すことは不可能。先ほどは地上だから弾幕を見事に躱し続けたのだろうが、空中であれほど見事に弾幕を躱せるかな!?』


❝あ、察し❞

❝普通はそうでも――スウたんに限っては、その理屈は通じない❞


 次々と投げられる手榴弾。でも、正直スワローさんより空中格闘戦に向いてる十六夜テイルだし。

この機体、滅茶苦茶自由に動ける。


 スワローさんやフェアリーさんを突進する牛かと思うほど、自由に動ける。

 十六夜テイルは、まるでマタドールだ。


❝・・・戦闘機のプロペラを、ヘリのプロペラみたいに上にして、ホバリングで踊ってるし❞


『確かに素晴らしい腕だが、それでは弾は当てられんぞ!』

「ですね。でもこれならどうですか」


 私は、十六夜テイルの上下を逆さにしてプロペラを逆回転。


❝逆立ちホバリングを始めた!?❞


 上空から、ジャイアントインパクトにアサルトライフルを連射。

 ジャイアントインパクトの頭のパーツを剥がして、コアに着弾――駄目だ、ここ当たりのコアじゃない。


『確かに凄まじい腕だが、ホバリングをして弾を躱せるか!?』


 フェイテルワンダーが十六夜テイルを狙撃してくる――なので私は、十六夜テイルをブレイクダンスみたいにくるくる回す。

 そしてなんとかフェイテルワンダーの弾を避け、さらにジャイアントインパクトの頭の上からプラ弾の雨を降らせた。


『なんとぉ!?』


❝ほんとハチャメチャだ、あの子❞

❝スウのハチャメチャからしか、得られない栄養素がある❞


 ジャイアントインパクトの胸パーツも吹き飛ばして、コアにプラ弾を当てるけど、ハズレ。

 ジャイアントインパクトの正解のコアは、腰だったか。


『何故だ!? なぜ空中で弾幕を躱せるのだ!?』


 ここからじゃ腰は狙えない、一旦離れよう。


❝相手が悪いとしか❞


「というか、さっきも言いましたけど、こんなの弾幕ですらないです」


 私は、ステイルのプロペラの回転を逆にして後退飛行。


❝・・・飛行機の常識がががが❞

❝だからなんで、普通なら揚力の得られない後ろ向きに飛べるんだよこの子❞


 私は後退飛行するステイルから、プラ弾を放つ。

 その一撃はジャイアントインパクトの腰のパーツを剥がした。よし、このまま。


 ジャイアントインパクトの当たりのコアは、腰に確定している。アレさえ撃ち抜けば撃墜だ。

 しかし私が腰のコアを撃ち抜こうとしたら、ジャイアントインパクトが腰のコアを手で覆った。


「えっ、ズ、ズルい」


 あれじゃあコアが撃ち抜けない。


『汝らはちょっと強すぎるのだ!』


 えー・・・どうしよう。

 考える私の視界の端で、アリスのステイルがフェイテルワンダーに近づく。

 するとフェイテルワンダーは、背中から丸い盾と、短い剣――グラディウスというヤツを取り出した。


「面ぇぇぇん」


 ステイルが、ライトモードのカッターを振り下ろす。

 だがフェイテルワンダーが、ステイルの剣をグラディウスで受け止め、盾で殴りかかった。

 つまりフェイテルワンダーが武器を盾にして、盾を武器にしたんだ。

 剣と盾をあべこべに使う――急にあんな事されたら!


「なるほど、盾での攻撃シールドバッシュ――西洋の戦闘術ですね!」


 ステイルが反応して、盾を掴む。


「盾なら掴めるんですよ!」


 な、なるほどアリスは盾を掴んで対応したのか。


『だが、この間合いはグラディウスの距離!!』


 突然、ステイルが掴んでいた盾が、まるでドアが開くかのように動いた。


 ステイルでは、フェイテルワンダーの盾を押さえつけられなかったようだ。ワットのパワーが違いすぎる。

 ドアのように開いた盾の後ろから、グラディウスが突き出された。


 盾裏からの、視えない不意打ち!

 しかも短い剣である、グラディウスの特性を生かせる至近距離での攻撃だ。


「間合いを取られましたか! その短い剣には、懐に入ったら極楽戦法が通じないみたいですね。この距離は分が悪いです――武器性能もさることながら、イントロフレームのパワーにおいても――」


 アリスは、なんとかグラディウスをカッターの刃で防いだ。

 反射神経だけでグラディウスを受け止めたけど、イントロフレームがバランスを崩してしまう。


「不味いです・・・・! わたし1人でも負けたなら、そこから1vs2ができて――一気に不利になってしまう」

『初心者にしてはよくやった。天晴なり、沈め』


 アリスが一旦、退きだす。

 追いかけようとするフェイテルワンダーに、マリさんの見事な狙撃が飛んできた。


 アリスとマリさんで、プチ・サッチウィーブ戦法になってる。

 ――弾け飛ぶ、フェイテルワンダーのスネのパーツ、フェイテルワンダーの左膝が動かなくなる。


「マリさん、ありがとうございます!」


 ステイルが一旦距離を取ってビルの陰に隠れられたので、私はあるものを落下させて、アリスに渡しておく。


「アリス、これ私には要らないから、渡しておくね!!」

「あ――なるほどです! ―――はい!」


 改めて、マリさんに飛ぶ。


「マリさん!」

「スウちゃん、どうしたんだい?」

「やりましょう、変形して下さい!」

「・・・・へえ、見抜いていたのかい。ボクのオトレレに隠された秘密を――オーケー、スウちゃん行くよ!」

「はい!」


 オトレレが自らの左足の先を右手で持つと、両腕が分離して、腕が左足の先に合体。

 頭が胴体に引っ込む。

 さらにオトレレが足を大股開きにすると、胴体が右足の先にスライド。

 変形が終わった――現れたのは、ボウガン。

 私は、ボウガン形態になったオトレレを支える。


「ワットを全て、弾丸の射出に使うための形態ですね?」

「その通り、全力狙撃形態――ボクが狙撃できないのが、ちょっと痛いんだけどね」

「任せて下さい。マリさんほどでは無いけれど、私もそこそこやれます! マリさんの調節した武器を使えるなら、尚更です!」

「よし、任せるよ! 28メートル程度の距離なら、ほぼ真っすぐ飛ぶから、速度の偏差以外は気にしなくていい!」

「わかりました!」


 私は目標を、照準のセンターに入れる。


『不味い、――フェイテルワンダーが!』


 エワンさんが焦りの声を上げた。


「全ワット、射出に供給OKだよ!」


 マリさんの合図に合わせて、私はプラ弾を、


「発射!!」


 射出した!

 フェイテルワンダーがこちらを向いて、盾を構えた。

 その脇を通り過ぎるプラ弾。


『――は? いや――少し慌てたが、この土壇場で外したかスウとやら!』


 ちがう。私の狙いは、フェイテルワンダーじゃない。

 隙を見せてるジャイアントインパクトだ! 今は手榴弾を投げようと手を腰から離している。

 腰が本命のコアなのは、確定済み!!

 私の放ったプラ弾が真っすぐ飛んで、ジャイアントインパクトのコアに命中する。


『しま――っ!!』

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