第152話 連合に単騎撃破をお願いされます

 ◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆




 40層のボス攻略に成功した一週間後、私達クレイジーギークスは41層にある、かつて星団帝国の首都が有ったという、惑星ユニレウスの付近の宙域に来ていた。


『41層開放記念イベント、第一章〝夏真っ盛り、惑星を取り戻せ!〟の開始をお知らせします』


 なんて言われて、イベントが始まったのだ。


 銀河連合は、この惑星ユニレウスは絶対に取り返したいらしく、いち早く艦隊を送り込み制圧を開始した。


 この安全確保には、私たちクレイジーギークスの面々へアイビーさんから直々に援護の打診が来た。


 「どうしても参加してくれ」って言われて、断る理由もないので参加した。


 でも思ったほどの戦いは無く、私含むクレイジーギークスのメンバーはほとんどの時間、ティンクルスターの中で惰眠をむさぼっていた。


 夏休み中だから学生組は学校もない、でもクレイジーギークスは戦いのほとんどを手伝っていない。完全にお泊り感覚。


 私達は、戦闘機でレースしたり、VRでゲームしたり、地球のゲーム機でゲームしたり。


 イントロフレームでバトルしたり。


 大型犬サイズになったリイムをモフモフしたり、モフモフしたり、モフモフしたり。


 リイムは未だに、私とアリス以外には懐かない。

 しかも食事に至っては、私の手からしか食べない。


 他の人がご飯をあげようとすると、ツーンとそっぽを向く。

 ただ、私の匂いのついた? 用意した物なら、他の人の手からでも食べてくれる。


 うーんママ、リイムの将来が心配だぞ。

 ちなみにリイムは雑食だけど、好物は木の実(果実も種も)。


 で、惰眠の報酬は、1日10万クレジットと4万勲功ポイント。


 本当はもっと安かったんだけど、私とかアリスとかリッカとかメープルちゃんは普通にクエスト受けたほうが稼げるとイワにゴネたら、報酬が倍になった。


 コハクさんたちの報酬も上がって、彼女たちは大喜びしていた。


 ちなみにクレイジーギークスに戦いは殆どなかったと言ったけど、一回だけあった。


「〈狂乱〉ゴルゴンですか」


 私はウィンドウを見ながら、そう返事をした。


 ティンクルスターの大広間でババ抜きをする〝みんなの横で〟、私がプラモデルのパーツをランナーから切り離していたら、宙空に通信ウィンドウが開いたんだ。

 すると、ユタ中将の顔が現れた。


 ユタ中将は最近、気だるげなイケメンではなく、優しげなイケメンになっている。


 ちなみにリイムは、素早く揮発する系の液体を本能的に嫌いなのか警戒しているのか、私がプラモを作り出すと距離を置く。

 そんなリイムは現在みんなとババ抜きしている。クチバシと前足で、器用にカードゲームをしている。

 ――奴、かなりの知能があるな?


 リイム、君は本能で生きてるのか理性で生きてるのか、どっちなんだい?


 ちなみに今作っているプラモは、リッカのイントロフレーム用にあげるつもり。


 からくり創世記マギマキナに出てくる、踊り子みたいな機体。踊り子からマッシブな戦車に変形する人気機体。


 リッカにどの「機体が好き?」って聞くと、首を傾げながら「これがカッコイイ」って指をさした。


 ただ、プラモは初めフェアリーさんのワンルームで作ってたんだけど、「たまには部屋から出てきてください」とアリスに引きずられてここにいる。アリスの〖重力操作〗は、私を引きずり出すのに実に便利だった。


 チンアナゴみたいにワンルームから引きずり出された私が、ポテチをつまみ、地球の技術の粋を集めた究極ニッパーで パチリパチリ と小気味いい音を立てていたら――ユタ中将に『難易度〈狂乱〉レベルのゴルゴンが出た』と言われたんだ。


 私はランナーを箱に戻す。


 難易度〈狂乱〉は〈発狂〉の一つ下。


 層のボス以外で〈狂乱〉レベルが出てくるのは、初めてらしい。

 しかし〈狂乱〉ゴルゴンは銀河連合も1000年ぶりの遭遇。


 プレイヤーに至っては初遭遇。


『スウくんの力を借りれないかい? まだ普通のプレイヤーには厳しい相手だと思うんだよね。だがスキルを大量に手に入れた今の君なら、単騎撃破も難しくないだろう?』

「了解しました」


 私は最後にポテチを一枚口に放り込んで、美味しくなった自分の指を舐めて立ち上がる。

 すると、アリスやリッカも立ち上がろうとする。


「「わたしも」」


 立ち上がろうとしたアリスの瞳と私の瞳が、交差する。


 私の脳裏に、アリスがガス惑星の渦に落ちていく光景がよぎる。

 〖サイコメトリー〗で観せられた、アリスの死の光景がよぎる。


 自分の体温2度ほど、下がった気がした。


 私はふたりに首を振る。


「今回は見てて、二人の機体だと相性的に〈狂乱〉ゴルゴンはきついかもしれない」

「スウさん、一人で行くつもりですか?」

「フェアリーテイルなら相性がいいから。〈狂乱〉程度のゴルゴンは一人で余裕。今回は見てて、次から手伝って」

「そう・・・・ですか」


 アリスが心配そうに――だけど座り直した。

 リッカは私の瞳を覗き込んで、静かに頷く。


「じゃあ・・・・わかった」


 こうして私は、接近してくるゴルゴンにフェアリーテイル単騎で向かった。


 私は、正規艦隊と沢山のプレイヤーの空母や戦艦が並ぶ中から出て、たくさんの触手の生えたMoBへ。


 一応、弾幕を躱すのが得意なヒーラーさんの何人か――かなり後方だけど、弾幕がそこそこ薄くなる場所に待機してくれているし。安心安全。


 地球の軍関連の方は忙しいので、今回のクエストにはいない。だから私が知る中では最強クラスのヒーラーであるエレノアさんはいないけど。


 敵はこちらに気づくと、早速猛然と弾幕を張ってきた。

 あとレーザーも飛ばしてきたけど、それは黒体塗料が吸収してくれる。


 卵の殻の少年のレーザーみたいに、ダメージが通ったりしない。


「大丈夫大丈夫、やっぱり余裕だこれ」


 〈発狂〉ですら無い上に、フェアリーテイルはスワローテイルの1.5倍近い性能があるし、VRと違って身体強化やスキルもある。


 バーサスフレームの戦いだと、スキルの〖マッピング〗が特に強くて、負ける気がしない。


 私は迫る弾幕を、余裕綽々よゆうしゃくしゃくで躱す。

 さらに、〈時空倉庫〉を開いて新しい仲間を呼び出した。


 実戦テストもかねよう。


「イダス、リンクス出てきて」


『母さん、俺を呼んだか!』

『出番でありますか、母上』


 イダスとリンクスは、新たに購入したシールドドローン。


 さくらくんのスワローテイルに搭載されていたシールドドローンが、非常に有効だったんで、早速手に入れたんだ。10万勲功ポイント也。


 ロボットアニメでも、飛び回るシールドは強いもんね。

 ちなみに普通のバーサスフレームはドローンを2機しか仕舞え無いけど、私はバーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵〉があるので、入る限り増やせる。

 ――とはいえフェアリーさんで同時に扱えるドローンは最大6機までなんだけど。

 これは私が直接コントロールしても同じ。


「二人共、私の脳に接続して」

『いくぜ!』

『承知であります!』


 私はフェアリーさんの周囲にシールドドローンを配置、弾幕を防ぎながらミダスを攻撃していく。

 これで防御力まで万全。


 攻撃力だって、〈臨界・黒体放射バルカン〉とかいうトンデモ兵器が有るし。

 その上――


「〖念動力〗〖超怪力〗」


 〈時空倉庫の鍵〉から164mmキャノン、ミサイルランチャー、64mm機関銃、荷電粒子砲を取り出し、一斉掃射。


「いけ」


 〈狂乱〉ゴルゴンは、またたく間に宇宙の塵となったのでした。


 手に入った銀河クレジットと勲功ポイントは、25万クレジットと50万ポイント、美味しいです。


 背後の連合艦隊と、プレイヤー達からオープン通信で一斉に拍手喝采が飛んできた。


『さすがは特別権限ストライダー殿、一層のボスより強力な相手をこの速度で単騎撃破とは。―――もはや、仰瞻ぎょうせんの心とめどなし』

『スウさん、間近で見るの初めてだけど。あんた本当にやべーな・・・宇宙であんなにクルクル回って大丈夫なのかよ――普通なら操作不能になるような状態で、なんで弾幕にかすりもしないんだよ・・・・他のプレイヤーだと、近づくのも難しい相手を赤子の手をひねるみたいに』

『早く戻っといでー、フルーツのスムージー冷えてるよ~』


 星ノ空さんのフルーツスムージーに釣られて、私は急いで戻る。

 こんな感じで、元・星団帝国の主惑星の攻略は順調に進んで。


 〝夏真っ盛り、惑星を取り戻せ!〟は一週間と一日で終わった。


 そして、次の大規模作戦になる首都攻略は、夏休みの終わりごろを予定されているらしい。


 それまで『41層開放記念イベント、第二章〝夏の暑さを吹きとばそう、街発展・防衛イベント〟』が開催されるんだとか。


 その後、準備が整い次第、いよいよ『41層開放記念イベント、第三章〝夏の暑さに負けるな、首都奪還!〟』が開始。


 しかしこのイベント名・・・『夏の暑さに負けるな』って。

 確かに地球は8月で、北半球は夏燦々サンサンだけど、南半球は冬絶賛なんだよなあ。


 今はプレイヤーの殆どがこの、星団帝国ユニレウスの首都惑星―――ユニレウスに集まってて、本当にお祭り騒ぎになっていた。

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