第148話 アリスを助けようとします
「は?」
少年だった、卵の殻のような物を被った。
『スウさん危――』
アリスが言って、通信ウィンドウが私の視界の端に開く。
フェアリーテイルを突き飛ばしたアリスの機体が、一筋の閃光の様な物に串刺しにされる。
大事な機能が破壊されたのか、ガス惑星の地面の無い重力の底に落ちていく、アリスのニュー・ショーグン・ゼロ。
「え――アリス!?」
何が起こったのか理解が及ばず、アリスのニュー・ショーグン・ゼロがガスの渦に落ちていくのを見て私は、一瞬、呆然とした。
でも、すぐにアリスの状態に気付いて、私はアリスを追って、重力の底に向かって加速。
な、なにこれ? なにが起きた?
ショーグンのシールドに反応が無かったから、あの閃光は熱攻撃じゃないの?
黒体塗料で、熱攻撃は効かないんじゃないの?
閃光は熱じゃないの?
なぜ、アリスが落下してるの?
なんで、アリスの機体が撃墜された?
アリスが私を庇った?
というかあの卵の殻を被った少年は、何者?
頭が混乱して状況が把握できない。
駄目だ、アリスに追いつけない――このままじゃ、アリスがガスの中に消える。
アリスの機体の先を見れば、大量の渦巻きが見える。まるで地獄の底みたいな光景。
視界の端のアリスのウィンドウを見ると、アリスは血を流しぐったりとしていた。そうして、うわ言のように何かを呟いている。
私は自分の体に悪寒が走るのが分かった。
耳の中でノイズのような物が聞こえるほど、明らかに血の気が引いた。
リミッターを解除して〖伝説〗を使う。三択ブーストも当然、加速にした。貰ったばかりの〖前進〗も使った。
それでもアリスに追いつけない。
うわ言をつぶやくアリスが、何かを握っている。
ホワイトラビットの人形だ。
アリスが私に助けを求めている!
「〖念動力〗〖超怪力〗!!」
私はスキルでショーグンを掴んだ。
だめだ、止まったけど重すぎる――持ち上げられない。
「持ち上がれ、持ち上がれ、持ち上げろぉぉぉぉぉぉ!!」
私の咆吼に反応した声があった。
『〖念動力〗』
命理ちゃんの声だった。アリスのショーグンが持ち上がり始めた。
『大丈夫、スウ。貴女には当機がついている』
「あ、あり、ありがとう!」
リッカの叱咤が飛んでくる
『落ち着け、スウ。光線なんか避けられないだろう、逃げたほうが良い! 今は逃げることを考えるんだ!!』
リッカのダーリンが、ショーグンを抱えて運び出す。
『そうだ。完全に想定されていない状況だ、みんな逃げるんだ!!』
ウェンターさんが叫んでいる。
『ティンクルスターのバリアで盾を張ります! 皆さんワープに移行して下さい!!』
コハクさんも叫んでいる。
私は、僅かに戻った思考に怒りが混じるのを感じた。
アリスを命理ちゃんに預け、目を剥いて、卵の殻を被った少年にフェアリーさんを突進させる。
「私がアイツを食い止める、みんな逃げて!!」
イルさんが何かを言い出す。
『マイマスター、アドレナリンの異常値を検出。冷静と集中を欠いています』
「黙れ、イル!!」
『マ、マイマスター・・・』
マイルズとユーが私の前へ飛んでくる。
『馬鹿か、いつもの冷静さを取り戻せ!! 一式 アリスは無事だ!!』
『スウ、今のお前は美しくないぞ』
「邪魔だ、どけ!!」
私はフェアリーテイルを回転させて、二人の間を抜ける。
『ちっ、こういう時にはアイツの操縦技術がネックになる』
『おいマイルズ、協力してスウを止めるぞ!』
『オーバー!』
少年が私に指を向けようとする。
さっきの閃光か――確かに幾ら私でも、光の速度で迫る攻撃は避けられない。けど、その指先なら避けられる!
私は少年の指先の線を避けるように、機体を回転させる。
「お前だけは、赦さない!!」
少年が閃光を放つが、私には当たらない。
『あはははは、避けるんだ? スッゴイねぇお姉ちゃん!』
少年が殻の中で笑っている。
その時、〖第六感〗が反応した。
少年の姿が消えた。
「!?」
次の瞬間、巻き起こる衝撃。
命理ちゃんが、フェアリーテイルを蹴りつけていた。
『冷静になって、スウ。冷静になれば負ける相手じゃない』
少年が突然、別の場所に現れて閃光を放つ。錐揉み回転をするフェアリーテイルの横を、閃光が掠める。
命理ちゃんが蹴ってくれなかったら、閃光が当たる軌道だった。
今の少年の動きはワープ? いや――波紋とかなかったし、高速移動?
私が疑問に思っていると、少年の興味が命理ちゃんに向かった。
『おや? お前は、成田 命理じゃないか』
『当機を知ってるお前は、誰?』
『この声を聞いても分からないのか?』
『そんな声は、知らない』
『お前・・・・そうか! やったのか、全力戦闘を!』
アハハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ!!
少年のけたたましい笑い声が辺りに響いた。
『本当にやるとか、お前はバカかよ。それも相当全力をだしたみたいだな』
『全力? 何の話?』
『僕がお前にプレゼントした風邪だよ』
『風邪?』
『免疫を押さえたら、記憶と感情を失うウィルスだ。僕は忠告したぞ? だけど、力への欲望が抑えられなかったらしいな』
『――お黙りなさい!!』
急にクナウティアさんの声が、フェリーテイルから響いた。
『お前のような輩が、命理さんを欲深い人間かのように言うのは絶対に看過できません!』
『お前は、クナウティアか。――どういう意味だ』
『命理さんは、お前が人類の記憶と思考を収めたサーバーを壊した後の〝大敗北〟の時、沢山のデータノイドの方たちの
この言葉に、プレイヤーたちがざわついた。
私の視界のウィンドウで、リッカも口元を抑えている。
だから命理ちゃんに感情がないの―――? 機器が壊れたわけじゃなかったの―――?
しかし、少年はクナウティアさんの言葉が気に食わなかったようだ。
少年は鼻で笑って続ける。
『その物じゃないか、争が始まるいつもの理由だ』
けれどクナウティアさんは「違う」と、言う。
『ハンプティダンプティ、もしも人の本性がお前の言う通りだったとしても、命理さんが銃を向けた相手は、人じゃない、MoBです! だいたい人々を攫って行くお前らと、それを防ごうとする私達を同じにしないでください。真逆です!』
『MoBが人じゃない? 機械生命体を名乗る奴等の親玉が、随分自分勝手な定義をするじゃないか。――それより聴け。僕達は、この銀河の正統な後継者を保護している』
『正統な後継者?』
『この宇宙で唯一の人類である、アイリスの子供だよ』
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すみません、アラームが聞こえなくて遅れました・・・><
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