第141話 ボス攻略が始まります
◆◇◆◇◆
「恋愛、部活、大いに結構。お前ら、青春の浪費に気をつけろ~」という担任の有り難いお言葉で開始された夏休み。
私は恋も部活も関係ない、青春を絶賛無駄遣いしながら遥か銀河で飛行機に乗る。ゴブリンとかを倒しながら、青春を勲功ポイントに変換していた。
そうしていると、いよいよ参加者プレイヤーによる40層ボス攻略が始まった。
まずは物資整理で、倉庫に運び込むところからだけど。
ボス攻略はSNSや掲示板、動画やチャットツール、そして私達配信者が宣伝することで人々がぞくぞくと集まった。サポートも含めれば10万人規模の参加人数。
ただ、実際に戦うメンバーは1000人だけ。9万人以上はサポートに回ってくれている。
今回はクリアできる可能性が高いという事でみんな期待しているけど、それでも前回の戦いがトラウマになった人も多く、参加人数は前回の半分。
さらに人数がへったのは、スワンプマンの話が広がってしまったせいも有る。
だけど、物資供給とかで世界中から何10万人という人が参加してくれた。
私達のクランハウスにも運び込まれる大量の武器弾薬、推進剤など。
他にも、とびきりの良いパイロットスーツなど様々な物資。
私は着替えられそうなパイロットスーツをダンボールをひっくり返しながら探したけど、アリスのくれたパイロットスーツより良いものはなくて絶望した。
未来でもダンボールは大活躍だ。やっぱりすごいな現代の超科学ダンボール。
人型形態にしたフェアリーさんで、クランハウスの隣に銀河クレジットを持ち寄って作った倉庫に物資を運び込みながら、同じくショーグン・ゼロで物資を運んでいるアリスと通信する。
――命理ちゃんが生身で、4メートル四方はあるコンテナ2つを軽々と運んでいる姿に戦慄しながら。
「いよいよ明日だね」
『明日は久しぶりに、ボスの居る惑星ジュリーンの風が弱いらしいですね』
「しかし・・・・これだけの人数が参加して、これだけの物資が供給されて――ものすごい念の入れようだね」
『前回、大敗北してますからね・・・』
「そだよね・・・・一応聞いてはいるけど・・・」
『はい。第二形態を撃破しても何度でも復活することが判明して。撤退したらしいです』
「・・・・大丈夫かな」
『危ないと思ったら転送装置で逃げることを徹底しています。前回は機体が失われるのを嫌がって蘇生が入った人がいるので、今回は機体が失われる事を恐れる人が出ないように、全員の機体が失われても買い直せるだけの支援があるそうですよ』
「すごい手厚い・・・」
『階層を進められれば、みんなで様々な恩恵を享受できるので、色んな人が応援してるんです』
「なるほどなあ」
『特に今回は涼姫が参加できますからね。みんな期待してます』
「プ、プレッシャー・・・」
『涼姫ならできますよ。駄目なら逃げちゃって下さい』
20層ボスの時にシミュレーターで出会った。アリスと同じようなこと言ってる。
―――相変わらず優しいなあ。
「そ、そだね」
『〈真空回帰爆弾〉でしたっけ? 討伐後、10秒以内に打ち込む必要があるんですよね。敵には2形態あります。涼姫は第2形態までティンクルスターの中で待機っていう話でいいですか?』
「うん、そう言われた」
『〈真空回帰爆弾〉は一つしか無いですからね。なくなっちゃうと、そこで討伐が頓挫ですし』
「にしても、命理ちゃんと出会って約3ヶ月――ついに40層のボス戦かあ。長かったような短かったような」
「いえ・・・30層クリアに3年掛かってるんですよ、涼姫が参加するようになってから異様な速度で攻略が進んでます」
「そ、そなの?」
私が驚いていると、命理ちゃんが通信を入れてきた。
『涼姫―――当機、最近夢を見るの・・・アイリスが泣いてる夢、一人ぼっちで泣いてる夢を』
「アイリスさんが・・・?」
『一人ぼっち―――アイリス、辛いと思うの』
「うん―――本当に、辛いと思う」
『でもね、いつもね当機が夢から覚める前はね、涼姫がアイリスの手を引いてくれるの。―――そしたら、アイリスが笑顔になるの』
「そっか・・・うん! 大丈夫、きっと何とかするから」
簡単なことじゃないと思う。
でも、銀河連合もアイリスさんを人間に戻したいらしいし、戻すなら〖再生〗がある。
――ただの〖再生〗ではちょっと力不足かもしれないと言われたけど、方法があるなら手に入れればいい。
それに、銀河連合が私達と同じ考えなのは、かなり心強い。
あとは、ブラックホールから救い出す方法だけど――こっちの方法は、まだ全く思い当たらない。
これも探さないと。
『ありがとう、涼姫』
アリスも命理ちゃんと私に声をかけてくる。
『頑張りましょうね。涼姫、命理ちゃん』
『ありがとう、アリス』
こうして8/1日。ついに40層ボス、ドライアドの攻略が始まった。
「右舷撃ぇぇぇ!」
水素とメタンの恐ろしい程の暴風が吹き荒れる中、空宙を転がる機体たち。
「みんな苦戦してる・・・」
やっぱりこんな荒れ狂う嵐の中じゃ、まともに飛べるわけがない。
もちろん今回の戦闘に参加する人の機体に、翼の有る機体は一機もない。
それでも多くの人がまともに飛べていない。
普段は視界が悪いらしい惑星だけど、今日は視界はそこまで悪くない。
眼下には信じられないほど長い雲の柱が幾本も立って、内部で発生している雷で輝いている。それらがはっきり見えるくらい視界は良い。でも、そんなの関係ないくらい風が強くてまともに飛べない人だらけだ。
今回、日本勢の隊長に選ばれたウェンターさんから通信がみんなに入る。
『飛べないと思った人は無理をしないで! 戦線離脱して!』
さらに星の騎士団の副マスター、ゼファさんから通信が伝えられる。
『どうしても称号が欲しい人は、どこかの戦艦や空母に乗せてもらって。そこから一発ボスにダメージを与えたら良いから!』
空母や戦艦はその質量のお陰で、バーサスフレームほど風の影響を受けていない。
それでも操舵は大変みたいで、ウチのティンクルスターもさくらくんでなかったらこんなに上手く飛べなかっただろう。
空きのある戦艦や空母が、残り積載可能な機体数を通信で出し合う。
『戦艦ラストアンサー、20機分の余裕有り!』
『空母ファルテマ、10機分余裕あるよ!』
リあンさんからも広域通信が行われる。
『空母ティンクルスターあと7機分余裕があります!』
『どっかの戦艦か空母拾ってくれー、俺じゃ無理だー!』
飛べないと判断したバーサスフレームが私達の空母に駆け込んでくる。
今回はメタンという毒ガス注意なので、ヘッドギアは絶対外してはいけないことになっている。
それからメタンの中で戦う訳だけど、火器を使っても酸素がないので爆発する心配はない。
しかし機体とか艦の中に酸素とかあるとこの間のドラムコロニーの時みたいに大爆発起こすから、今回は酸素とか全部抜いて、別の気体で満たしてある。
火薬が含む酸素による爆発は、想定内だから問題ない。
ウェンターさんから広域通信で、注意が入った。
『ただし、ティンクルスターに乗せてもらった人は、スウさんの邪魔をしないこと!』
ウェンターさんは、『そもそも討伐不可能になるから!』と、念を押している。
スウって人、責任重大だなあ。
結果1/4くらいの人が離脱して、250人くらい減った。
殆どが、今回初参加の人らしい。
退避が完了して、戦況が動き始める。
私はティンクルスターのブリッジで、コハクさんと戦況マップを見つめた。
MoBの位置は把握しにくいので、バーサスフレームの位置だけをリアルタイムに反映してくれるモニターだ。
私は自分のスキル、〖マッピング〗を併用しながら戦況を見つめていた。
コハクさんが唇を噛んだ。
「右舷は軍隊系の方が多くてなんとかなってますけど、左舷から離脱者が相当出たみたいできついのかもしれません――援軍があれば・・・」
するとリあンさんが、座席から私を振り返った。
「スウ、出られる?」
私はリあンさんの言葉に、首を振った。
「わ・・・・私は待機だって言われてます。フェアリーテイルには、1つしか無い〈真空回帰爆弾〉を積んでるから、撃墜されるわけにはいかないんです・・・第一形態は前回、撃破出来てるから大丈夫って」
「でも今回1回目の2分の1の戦力でしょ、厳しそうなんだよね。じゃあスウ、さくらくんのスワローテイルに乗って出れない?」
「え、さくらくんってスワローテイルに乗ってるの?」
さくらくんが操舵に集中するように前を向いたまま、私に告げる。
「はい、僕は最初の機体選択でスワローテイルを貰ったんです。でもその頃はスワローテイルに市民権は無かったのでパーティーとかに入れてもらえなくて。だけどスウさんの噂が広まると入れてもらえるようになりました。その後スウさんに憧れてスワローテイルのまま頑張りました。スウさんとほぼ同じカスタムだから使いやすいかも知れません――ただ、ドローンはシールドドローンです。――ある人に、シールドドローンなら盾役もちょっとは出来るでござるよって聞いて」
私は一応尋ねておく。
「私、新世代機のスワローテイルって乗ったこと無いんだけど、さくらくんのスワローテイルって、新世代のスワローテイル?」
さくらくんが、ちょっとしょんぼりしながら答える。
「僕が初めた頃には、もう旧世代機は手に入らなくて・・・現世代機なので旧世代のスワローテイルの失速しやすさとか、加速が効きすぎる部分とか、ジャイロの弱い部分とかそういったピーキーさが失われてたり。戦闘機モードで戦うだけではなく、プレイヤーの得意な人型モードで足を止める戦いも出来る機体になっていたりします。あ、でも翼は今回のフェアリーテイルと同じく、外してあります」
なるほど、無茶な機動がしにくい機体なのかな。
リあンさんが補足してくれる。
「なんか見ず知らずの優しい人に機体を貰えそうだったんだけど、やっぱりスワローテイルで頑張るって、断ったんだって」
見ず知らずの人に機体をあげるなんて、すごい人だなあ。
「本当に借りていいの?」
「僕がスワローテイルを使い続ける事にした理由である、憧れのスウさんに僕のスワローテイルを使ってもらえるなんて、光栄な気持ちしかないです!」
「じゃ、じゃあ借りるね」
というわけで私は、さくらくんの緑色のスワローテイルを借りることになった。
ボス戦というわけで、ワンルームは外してあるので、直接コックピットに入る。
空母に入ってくる野良の離脱パイロットを整理していた星ノ空さんが、リあンさんからの通信を受けてさくらくんのスワローテイルに駆け寄ってきた。
そうしてパイロットスーツに身を包んだ星ノ空さんが、スワローテイルの前でサイリュウムのような物を振る。
星の空さんは普段は、昔の私みたいにパイロットスーツの上に服を着てるんだけど今日は着ていない。
きっと、風で飛ばされないようにだと思う。
『ハッチ開きます』
「お願いします」
『3、2、1――』
開かれたハッチから舞い込んでくる暴風。
星ノ空さんは体を固定してあるので飛ばされたりしないけど、すごすぎる暴風だ。
リフティングボディでの飛び方は、シミュレーターやガス惑星で散々練習してきたしレースでも使ったけど、実戦では初めてだ。
少しドキドキする。
「ST‐86スワローテイル――出ます!」
私は、スワローテイルのボディの揚力だけで暴風の渦に飛び出した。
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