第140話 フェアリーテイルを試します
新しくなった私の機体、フェアリーテイル。
その戦闘力を試すのと、ボス戦までに慣れるため、私はVR訓練場に来てみた。
練習に使うのは、20層ボスのアンティキティラの再現VR。
私は白地に金の刺繍がされたような前進翼の複葉機を、光に輝かせながら、以前の様に湖面に飛んで出発待ち。
今回はここのアリスと会うのは止めておこう。
ここのアリスに会うと、なんだかちょっとセンチメンタルになってしまう。
前回と同じく、このレイドを企画したカナダの人の演説の後、みんなで進軍。私はとっとと前進。
にしてもこのフェアリーテイルという機体、重力制御装置が高級な物になっていて、Gがあまり掛からない。フェアリーテイルの重力制御装置ってばスワローさんの1.5倍くらいの性能がある。
それに、なんてスムーズに飛べるのだろう。
私の注文した翼の改造も効いている。
飛行機の翼は乱気流を起こしてしまうんだけど、普通の飛行機の乱気流は翼の先端で起きる。だから乱気流が飛行機本体に当たったりしない。
ところがスワローテイルやフェアリーテイルみたいな前進翼は、乱気流が翼の根本側で起きてしまう。
これによる乱れがほぼ無い。
操縦補助を切ってる派の私だから分かる。この機体、前より随分スムーズに飛べる。
しかも単純に速度も速い。
もともと速いスワローテイルの1.5倍は、加速力も最高速もある。
これで〖伝説〗を使えば、聖蝶機スワローテイルすら追いつけないんじゃないだろうか――まあ聖蝶機は乗り手とともに進化するらしいんで、実際のところ分からないけど。
私は思わず呟いてしまう。
「―――殆どGが来ない。これなら前より遥かに急加速や急カーブができる。安定感もあるから無茶しても姿勢を戻しやすそうだし」
名前のせいで渋ったけど、フェアリーテイルにして良かった。
「イルさんこの機体、凄いよ。―――感動したよ」
ダッシュボードの上に扉が現れて、イルさんが出てくる。
イルさんは黒い執事服から、白い執事服にイメチェンしていた。
髪色も、黒から銀髪になっている。
イルさんが胸に手を当て、お辞儀をしてくる。
『マイマスターに喜んでもらえて、当機も光栄です。当機もこの速力と安定感には、感動で打ち震えています。凄い機体です、フェアリーテイル。きっと帝国時代の最新鋭戦闘機にも迫るような飛びやすさでしょう』
私がフェアリーテイルの性能に感動していると、広域通信が騒ぎ始めた。
『何だ? あの機体、スワローテイルに似ているけど』
『でも、微妙にスワローテイルじゃないよな?』
この時代には存在しないフェアリーテイルに、過去のみんなが驚いている。
今回は、なんとかガングって人に後ろから撃たれたりする心配はなさそう。
200メートル位あるような崖から流れ込む滝、宝石のように輝く水面――相変わらず圧倒されるような光景に感動していると、来た。マイクロバーストみたいな風。
私は、前を飛んでいたアリスの乗るフラグトップがバランスを崩したところを掴む。
安定させてあげたらもう先頭に行って大丈夫なんで、とっとと前進。
最高速を試してみよう。
『きゃ、きゃぁぁぁ・・・・あれ? ――なんともない? なんで? ――あっ、この白くて可愛い機体が助けてくれたんですか!? ――ありが――疾ッ。えっ、何あの疾さ・・・・デルタエースやスワローテイルを凌駕してませんか!? 一体なんの機体ですか・・・? ――聞いたこともない特機!? ――って、もう視えなく・・・本当に何者だったんでしょう』
先頭まで来ると、丁度アンティキティラが出現した。
上空からくるくる回りながら降りてくる。
前回は出現するところを見てなかったけど、こんな風に現れるのか。
暫くすると、前回と同じく猛スピードで後ろに下がり始めた。
「よし、イルさん〝〈臨界・黒体放射バルカン〉〟」
『〈臨界・黒体放射バルカン〉。イエス、マイマスター!』
イルさんが右手を振るう。
そう、このフェアリーテイルには〈臨界黒体放射〉を連射する、〈臨界・黒体放射バルカン〉という武装が存在するのだ。
アイビーさんが言っていた、シールドのエネルギーも火力に回すというピーキーすぎる武装。
「&〈汎用バルカン〉」
『&〈汎用バルカン〉。イエス、マイマスター!』
イルさんが、今度は左手を振るった。
この〈汎用バルカン〉も以前の物とは違う。以前の〈汎用バルカン〉は弾丸の口径が64mmだったけど、今は81mm。
本当にもう戦車砲。
極太のレーザーと、ドデカいバルカンが、アンティキティラの移動するコアを襲う。
また、広域通信がザワつき出す。
『いやいや、どうなってるあのスワローテイルみたいなの。なんか〈臨界黒体放射〉を連射してないか!?』
『ないない、それはないって!』
『特機か!?』
『いや、昔は黒体が無かったんだろ? 特機は、昔の機体を発掘しないと駄目だろ、――なのになんで昔の機体が〈臨界〝黒体〟放射〉を連射できるんだよ』
『それはそう』
『どうなってる!?』
『てか、弾幕をあんなにスイスイ避けて、パイロットもただモンじゃぁねぇぞ』
私もフェアリーテイルの性能にビックリしている。
前進翼のV字を深くすれば、ガンガンやばい空中戦機動ができる。
そもそも前進翼って、翼の後ろ側が尖っているから、逆三角形を地面に立てているような感覚なんだよね。
スワローテイルもフェアリーテイルも、垂直尾翼を2枚にすることで逆三角形が倒れるのをなんとかマシにしているけれど、それでもやっぱり倒れやすいのは変わらない。
あと、翼が風を受ける角度が、鋭角なほど抵抗力がなく、平坦なほど抵抗が強いんだけど。
前進翼の場合、後退翼と逆になって――これも機首の左右振りが流されやすくなる。
つまりすごく不安定。
そして、不安定という事は、運動性の高さとイコールだから。
「うわっ、とんでもない動きで弾幕を躱せる」
今も私は機首を左に振って、滑りすぎる機首で弾幕を躱した。
戦闘機のAIMの弱点、左右の機首振りでの追いにくさも大分マシになっている。
ちょっと、感度高すぎるマウスカーソルみたいになってるけど、慣れればきっと大丈夫。
それに火力も凄い。本当に凄い攻撃力だ、〈臨界・黒体放射バルカン〉がアンティキティラを何度も空宙で吹き飛ばす。
私が攻撃していると、瞬く間にアンティキティラがボロボロになって――砕け散った。
「えっ、眷属召喚もしてないのに、もう倒しちゃった・・・・」
私がフェアリーテイルに慣れる前に、ボスが居なくなっちゃった。
『第二形態がなかったぞ・・・・?』
『またたく間にボスを倒しちまいやがった――本当になんなんだよ、あの機体・・・・』
通信の声が徐々に小さくなっていき――滝の光景が消えて、VRが終了する。
私はフェアリーテイルのコックピットで、より快適になった椅子に体を預けて伸びをしてから呟いた。
「フェアリーテイル、やっばぁ・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます