第133話 最終決戦に入ります

 スナークは歯ぎしりをする。


『――っクラマスの奴・・・必勝の作戦だとか言って、負けたのか!! だが、どうやって〖読心〗と、〖騎士道〗を持ったクラマスを破ったんだ、スウの奴は!』


❝だってその子、人間か怪しいもん❞

❝でも確かにスウはおかしい。心読まれた位じゃ、なんともないとか何だよ❞

❝人間じゃないヤツの思考は、人間のウェンターには理解できなかったんだよ・・・❞


 スウが直ぐ様、黄色い機体フラグボトム――ジョセフに向かう。


『不味い、ウィークポイントを狙ってきやがった!!』

『俺、ウィークポイントかよ』

『お前はドッグファイトを、全くできないだろう!』


 そんな風にスナークとジョセフが言い合いをしている間にも、スウのバルカンの弾がジョセフのフラグボトムを撃ち続ける。

 砕ける、フラグボトムのシールド。


 ユーが嬉しそうに叫ぶ。


『――戻ってきたか、スウ!!』

「それ以上やらせません!」

『合体するぞ、このままではジョセフがスウに墜とされる!』


 瞬く間に合体を始めるフラグメント。


 けれどスウは、合体中というチャンスを逃す人間でもない。〈次元倉庫の鍵〉を開いて一斉掃射。

 フラグメントのシールドを砕いた。

 スナークが文句を言う。


『あまりロボットアニメを見ない俺でも知っているぞ――合体中は攻撃しないのが約束ではないのか!?』

「本当に知らないみたいですね。合体できないピンチは、合体メカのお決まりでしょう。攻撃されるようなタイミングで合体するほうが悪いんです。さあ、シールドが割れましたよ! そっちももうヒーラー機体が居ないんだからこれで終わりです。――もう一回、一斉掃射!」


 畳み掛けてフラグメントを破壊しようとするが――


『〖次元防壁〗』


 スナークの声で、フラグメントの周囲を覆う、謎のバリア。

 スウの攻撃が謎のバリアに防がれる。


「な、なにこれ!? 〖次元防壁〗!?」


 スナークが笑った。


『惜しいな、あと一歩だったのにな。――だがウェンターを倒した攻撃程度では、フラグメントは墜とせないぞ。特機と〖次元防壁〗――機体強度が違う』

「スキルでバリアなんて―――ずるい! ――でも、つまり私とアリスやリッカの攻撃を合わせれば、その機体を落とせるだけの火力が生み出せると―――?」

『どうだろうな?』


 するとジョセフが説明してしまう。


『おいおい。明朗闊達めいろうかったつ堂々行こうぜブラザー。そうだ、2機の火力を以てすれば落とせるだろうな』

『ジョセフ・・・・お前、バラすな・・・!』

『けど、できるかな? リッカとアリスは俺たちに追いつけねぇぜGuy's!! サッチなんとかってのは、こっちが囮を追いかけられないとできないんだろう? もう、こっちは追いかけたりしない』


 スウは「この人は女性でもGuyと呼ぶらしい」と理解する。


「なるほど、じゃあアリスとリッカをそちらに追いつかせてみせますよ!!」

『できるものなら!』

『ジョセフ、お前ちょっと黙れ!』


 するとユーまで、ジョセフに賛同した。


『いいやまてスナーク、面白い。俺をリッカや、アリスの間合いに追い込む気か? スウ、俺を相手にやれるものならやってみろ!』


 スウがフラグメントに向かう。

 だが、フラグメントは後ろを取らせない。

 並走する。


『どうしたスウ、並走でどうやって追い込むつもりだ?』


 フラグメントのバルカンが、スウに飛んでくる。

 スウはバルカンを躱そうとして、むしろアリスとリッカから離れてしまう。

 歯噛みする、スウ。


(――どうすれば、この人達に勝てる?)


 スウが思考している間にムシャ・リッカになったリッカたちの機体が弓を放つ、時折フラグメントに命中しかけるが、サイドや背後からでは、殆どはユーのテクニックで躱される。

 命中すれば次元防壁は揺れるが、破壊するまでには至らない。


 スウは、状況を整理しだす。


(分断された今のままじゃ、1vs3か2vs3のままだ。なんとか私達3人が力を合わせて戦闘に参加しないと、この人達には勝てない。どうやって3vs3になる? ――)


 そうして気づいた。


(そうか!)


「確かに私一人じゃあの人達が力を合わせると、勝てない――でも、これなら!」


 スウが反転――そして彼女が展開した行動に、この試合を見ているほぼ全ての人間が驚愕した。


『『『なに?』』』

❝えっ?❞


 スワローテイルが、ムシャ・リッカに〝腕を伸ばした〟。

 中途半端な変形で、飛行形態のまま――腕だけ動かしてムシャ・リッカを掴む。

 そして、高速飛行を始めた。


『な、なんですかこれ』

『スウが私達を飛ばしてる―――?』


?❞

❝そうか、腕で掴んで運ぶ合体だ! これならスウの操縦と、アリスとリッカの攻撃力が生きる!❞

❝ここで、3人で合体するのかよ!❞

❝こんなのVRとリアルを、同時に操作できるスウにしか無理じゃんワロwww❞

❝これで、3対3になるぞ! ――相手の3人が力を合わせればスウも負けるけど、スウも同じく3人になれば――アリスやリッカと力を合わせれば、勝てるかも知れない!❞

❝スウ、アリス、リッカの力を一つに!❞


『なんて事をしやがる!』

『はっはっは、奇々怪々! やるなGuy's!』


「名付けて、ムシャ・リッカエスです!」


❝自分をSって略しちゃう所が、凄くスウwww❞

❝控えめに言って、控えめすぎw❞


 ユーがニヤリと笑う。


『なるほど合体メカの3対3という事か。しかし、これでハンデなしとは行かないぞ。こっちは特機対してそちらは、通常機で3機分の重み――』

「〖伝説〗!」

『そうだったな! スウ、お前はそうだった!』


 通信からユーの嬉しそうな声が漏れてくる。


『機体のハンデすら無くなった! だが、後ろは取らせないぞ!』


 リッカの底冷えするような低い声が、ムシャ・リッカSの横を、嬉しそうに並走するユーに掛かる。


『今はもう、合体メカだって事を忘れてないか?』


 リッカが、横を飛ぶフラグメントを弓で撃った。

 充填されたエネルギーで放たれた、巨大な矢が炸裂して、スナークの生み出した次元障壁を揺らす。

 スナークが舌打ちをする。


『ち―――っ、お前らに出来る事をコッチに出来ないとでも!!』


 スナークは右腕に付いたバルカンを放つ――が、スウは避けてしまう。

 スナークがユーに文句を言う。


『もう少し当てやすい飛び方をしろ!』

『お前が俺に合わせれば良い』

『なんだと!?』


 フラグメント内部で、天才たちの衝突が起こり始めた。

 その隙を、スウとリッカは逃さなかった。


『リッカ!』

『応!』


 スウは〈励起翼〉の右だけを展開。

 特機化したスワローテイルの凄まじい出力で、横滑りが起きる。


『立花放神捨刀流。参の秘剣――小太刀二刀流こだちにとうりゅう継木の木立つぐきのこだち


 タイミングよくスワローテイルがムシャ・リッカから手を離すと、霞のように姿を消したムシャ・リッカが逆手に持つ、2本の短い刀を燕返しのように動かした。

 つまり二刀流による、燕返し。


(うわっ、宮本 武蔵さんと、佐々木 小次郎さんのコラボ!)


 スウが脳内で余計な妄想をしている真横で、まず鋭い3連撃が次元障壁を破壊。

 そうして、最後の1撃が繰り出される。


『小手ェェェェェェ!!』


 切り飛ばされるフラグメントの右腕のバルカン。

 リッカは最後の一撃をそのまま伸ばして、コックピットまで破壊しようとするが、火力が足りない。


『届かないか!』


 だがフラグメントのメンバーを混乱させるのには、今の一撃で十分だった。


『〖次元障壁〗! ――くそっ!! ユーなんで避けねえ!!』

『見えねぇんだよ、あのリッカとかいうガキの動きは―――! スウ以外に、あんな化け物がいるとは』


 ジョセフが蹴りを繰り出すが、リッカは小太刀で受け止める。


『ヒュー――なんだこの少女の動きは、モーションキャンセルでもしてるのか?』


 スワローテイルが再びムシャ・リッカを掴んで、有利を取るためフラグメントから離れていく。

 アリスが宣言する。


『両腕のバルカンがなくなりました。これでもう、そちらは並走しながらの攻撃ができませんね!』

『いいや、そうでもないぞ――ユー正面を奴らにむけろ!』


 スナークが言うと、ユーがムシャ・リッカSにフラグメントの正面を向ける。

 フラグメントが、ムシャ・リッカSに正面を向けたまま慣性だけで横向きに飛ぶ。


 大気中なら長時間は不可能な飛び方だが、ココは宇宙空間なので無茶な飛び方も出来る。

 フラグメントの肩の大砲が放たれる。


『無駄ですよ、こんな連射の効かない攻撃がスウさんに当たる訳有りません』

『――くっ』


 ユーは好き勝手に飛ぶが、スウはリッカが狙いやすい軌道で飛ぶ。

 スウと心を合わせたリッカの弓は、フラグメントを捉える。

 そこからはフラグメントだけが、攻撃を受ける展開になるのだった。

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