第132話 合体メカ有識者・軍師、涼姫の入れ知恵

アラームに気づかなくて、投稿遅れました、すみません。


~~~


◆◇◆◇◆




 メープルは天才だ。

 彼女は天才だが、彼女が持っているのは運営の無料プレゼント機体。

 ――初心者用の機体。


 加速力も、旋回力も、火力もない。回復力しかない。無い無いづくしの機体。

 そんな機体では、彼女と同じくする天才3人が駈る特機から逃げ切れる訳がない。


 たとえメープルが頭一つ抜けた天才だったとしても、相手は3人。


 轟沈していくシプロフロート。


『楓!!』


 VRの余りのリアルさに、仮想現実だと言う事を忘れて叫んだリッカをアリスが宥める。


『リッカ大丈夫です! これはVRですよ、メープルさんは死んでません!』

『そ、そうだった――ごめん・・・忘れてた・・・』


 荒い呼吸のリッカ。

 そこへ、容赦のない爆撃。


『―――きゃあああ』『ぃぃぃぃぃぃぃ』


 スナークが、ナイト・アリスに爆撃を仕掛けながら、アリスに語りかける。


『アリス。分かっただろう、そんな弱小クランにいてどうする。戻ってこい』

『黙って下さいスナーク――いや、姉さん! そろそろ妹離れして下さい!』


 スウは既に知っていることだが、スナークが一式アリスの姉だというのは一般に初めて公表された。


 赤い閃光のアリスにして、モデルであり、歌手であり、声優であり――とにかく肩書の多い一式 アリス。


 スナークにしても、有名なFPSプレイヤーにして作曲家でありスタントマンまで出来る。


 クレイジーギークスのクランマスターが、スナークの妹だという事実が拡散されて大騒ぎになる会場と配信。


❝ふぁーーー!? スナークって一式 アリスの姉なの!?❞

❝つか、スナークって女性だったの!? 背ぇ高いし、声低いし男性だと思ってたwww❞

❝いやだって、スナークってあの体型と格好だもんw❞

❝顔変えアイテムで男にしてんじゃん❞

❝胸が姉妹だよな❞

❝二人共、お父さん似❞

❝ネタバレやめろw❞


『クレイジーギークスは、負けたクランに入る約束だったな。負けたら星の騎士団に入って貰うぞ、お前だけでも絶対にな。通信終わり』

『ふざけ――通信を切るな!』


 プロのFPSプレイヤーであるスナークの弾丸が、ナイト・アリスを襲う。

 アリスはバリアで防ぐが、もうシプロフロートは居ない。

 ひたすらバリアが削られていくだけで、回復は出来ない。このままではジリ貧。


 とうとうバリアが砕かれかけて、リッカメインのムシャ・リッカに変形。

 しかしリッカの姿が消えるような体術でも、相手の砲手である天才スナークの目からは姿を隠しきれない。

 このままでは、リッカとアリスには敗北が待っているだけだった。


 ここで、アリスは或る手を思い出す。


「リッカ、特機とはいえ、相手は一機です。分離して、スウさんに教えてもらったあの策を使いましょう」

「なるほど・・・」


 アリスとリッカが合体を解く。

 そしてアリスだけが、フラグメントに突っ込んでいく。


「笑止千万。合体機が弱体化して、しかも片方だけが突っ込んで来てどうする!」


 スナークが眼を鋭くする。


「油断するなジョセフ、相手も馬鹿ではない。なにか考えがある筈だ」


 ユーが笑った。


「その考え見せてもらおうか」


 ユーは迷わずアリスに突進、至近距離戦の距離まで来た。


 ショーグンの〈刀リボルバー〉と、フラグメントの足についた〈励起翼〉が切り結ぶ。

 分離した合体機のパワーでは、合体した特機のパワー――それも特機の特殊能力で強化された近接攻撃に耐えきれず、吹き飛ぶショーグン。


『どうしたどうした!』


 フラグメントの繰り出すブレイクダンスのような動きの蹴り技が、ショーグンに雨あられと降ってくる。

 一撃一撃が強烈な攻撃――硬いシールドを持つショーグンですら命中すれば、即シールドが砕ける。

 たまらずショーグンは、背中を見せて逃亡。


黯然銷魂あんぜんしょうこん。あの赤い閃光が、まさか尻尾を巻いて逃げるとはな!』


 ユーがアリスを追いかけだす。


『まさか、背中を晒して俺から逃げきれるとでも』


 確かにユーの操縦テクから、アリスが逃げ切れるわけがない。

 それでもアリスは、大きく円を描くようにして逃げ続ける。


『無駄だ、円を描いた程度。そんなドッグファイトのドの字も分かってないような動きで、俺から逃げられるわけがない』


 だがアリスの動きを見て、飛行機FPSのプロでもあるスナークが気づいた。


『まずい!! ユー躱せ!!』


 スナークの予想は当たる。

 フラグメントのサイドから、ダーリンが迫っていたのだ。

 ダーリンの放つ矢が、フラグメントに命中する。

 チャージ100%の強力な矢の一撃が、フラグメントのシールドの四分の一を削る。


 アリスとリッカは、アリスを囮にして、リッカが攻撃する形を取ったのだ。

 スナークが舌打ちをする。


『アリスがこんな作戦を知っている筈がない――誰だ、アリスにこんな入れ知恵をしたのは・・・・スウか!?』

『その通りですよ、姉さん。――これこそスウさんの教えてくれた、サッチウィーブ戦法です!』


 サッチウィーブ戦法は、昔のアメリカ軍が生み出した航空戦術である。

 2機1組で動き、2機の内1機が囮になり、相手の1機を効率よく攻撃する戦術だった。

 数的有利を利用した、非常に強力な戦術である。


 ショーグンとリッカが、互いに鏡写しにSか、二人で8の字を描くように――クロスする波のように飛ぶ。

 そうして波の軌跡が交差する瞬間、リッカが矢を放つのだ。


 攻撃できる瞬間は少ないけれど、奇しくもリッカの武器はチャージすることで威力の上がる弓だ。

 僅かな時間しか攻撃できないのは、むしろ好都合だった。


 リッカがわざわざ正面からユー達に迫り、弓を放ちながら告げる。


『幾ら弾丸を躱すお前でも――正面から狙撃され、そちらの速度とこちらの矢の速度が足し算されれば、到達時間が速すぎて簡単には躱せないだろう。それにわたしは、そちらの動きが何となく読める程度には武に習熟している』


 リッカの矢が、またもフラグメントに炸裂する。


『くっ、まさか分離状態にこんな強みがあるとは・・・!』


 だが、スナークが笑った。


『ふっ、ならこちらも分離だ!』


 フラグメントが赤青黄――3つの飛行機に分離する。


『合体メカのアニメとかに詳しくない姉なら、ワンチャン気づかないかと思いましたが・・・・気づかれましたか』


 アリスが呻いた。


『スウが言っていた通りの展開になったか』


 リッカの表情も固くなる。


『さあどうする? 3対2だぞ。しかもコチラは天才飛行機乗りのユーと、戦闘機の操縦に非常に長けた俺がいる』


 勝ち誇るスナークに、通信が聞こえてきた。


『ちがう、3対3だ!』

『なっ――』


 スナークが振り向けば、黒いスワローテイルが猛然と近づいてきていた。


~~~


あと閑話の方、URL貼ると飛べることに気づいたので、一応。


https://kakuyomu.jp/my/works/16818093088310646980/episodes/16818093090590417117

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