第131話 星の騎士団のクランマスターと対決します
前回の話にも書きましたが、前回の話を読み終えてしまっていた方も多いと思いますので改めまして。
戦い続きなので、箸休め的な話「第127話 涼姫とお昼ごはんを食べるのです」という話を挿入しました。
戦いに疲れたら、読んでみて下さい。
https://kakuyomu.jp/my/works/16818093088310646980/episodes/16818093090590417117
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『温まってるね』
「温かい程度だと思ってたら、火傷しますよ!!」
『それは怖い。だけど、君にもちょっと怖い目に遭ってもらおうか。君はソロのトッププレイヤーらしいけど、こっちは日本のトップクランさ。舐めないで欲しい!』
「舐めるなんてしませんよ、だから全力で行かせて貰います! 〖サイコメトリー〗〖第六感〗〖超聴覚〗」
スウが相手の情報を取ろうと、スキルを重ねがけする。
すると、ウェンターもスキルを返してきた。
『〖読心〗』
「読心!?」
『そう、39層でマインドフレアから手に入れたレア印石。君の持っている〖サイコメトリー〗や〖第六感〗より、はっきりと他人の心が読める。命理ちゃんに家が欲しいんだね、命理ちゃんの為に40層のボスが倒したくて、機体を強化したいんだね。そして〈汎用バルカン〉を使う気だと』
「イルさん、〈汎用バルカン〉! ――!? ―――っ!」
スウが、自分の行動を読まれて息を呑む。
それでもスウは、全力でAIMを合わせ掃射する。だがウェンターの乗る角の多い見た目の機体は、人型に変形し、盾を構えてバリアを展開。
「盾役機体なんですか―――! ・・・・ヘリコプターみたいで、ちょっと見た目がカッコイイし・・・」
『そう、さらに僕の後ろにはヒーラーが3人。低火力のスワローテイルで、このバリアを削り切れるかな?』
スウはしばし思考する。
(――なら、ヒーラー機体を先に――!)
『そうだね、ヒーラー機体を先に狙うよね』
「読まれ――ヒーラーを庇う気ですか? その鈍重な機体では、私に追いつけませんよ!」
スウは、相手の機体情報を脳内で検索をかける。
(VK‐7 ヴァルキリー――確か防御力が高い機体だ、勲功ポイント400万するあの機体の防御性能は、バーサスフレームの中でも最高クラスと言って良い。だけど、その代わり加速を犠牲にしている――致命的に足が遅い。それが相手の泣き所だ。ならばヒーラーを落として勝てる)と思った。
ところが、ウェンターは余裕を崩さない。
『そうかな?』
スウは、おそらく自分の心を読んだであろうウェンターの返しに訝しがりながらも、右に旋回。
ウェンターもこれに応じて、同じ方向へ旋回。
スウが少し速度を落とし始める。
そうして、ウェンターの機体が十分に傾いたところで、
「今!」
左へ急旋回、一気に進む方向を変えた。
急に反転されて、ウェンターの鈍重な機体の反応が遅れる。
『くっ―――!』
スウがウェンターの脇を抜けて、スロットル全開にする。そうしてウェンターの後方にいたヒーラー機体の1機へ向かった。ペンタポットの大型の白い人型機体だ。
星の騎士団の火力機からバルカンが放たれるが、全て躱してヒーラー機に接近していく。
――そして、ペンタポットの機体が照準に入った。
「貰った!」
『ひっ』
ペンタポットの小さな悲鳴。
しかし、
『〖騎士道〗』
ウェンターがなにかのスキルを使った。
するとスウが、ペンタポット機を落とそうと引き金を引くより早く、ウェンターから白い道がスウの狙ったペンタポット機に伸びた。
そしてウェンターは転移のように移動。
ヒーラー機体の正面に立ちはだかった。
「――て、転移!?」
スウの弾丸は、全てウェンターのバリアに弾かれる。
『君の視聴者は知らないみたいだったけど、オルテゼウス側から向かう27層には転移するモンスターがいてね。ソイツで手に入れた印石なんだ。僕もね。君が〈アトラス〉を連続撃破したあの日、君の戦いを見て、憧れてしまった口でね。パイロットとしての腕を上げて、さらに君への対策を用意させてもらった。いやぁ、最近は印石が出やすくて助かったよ』
『あ、ありがとうございますクラマス!』
ペンタポットの安堵したような声が響く。
逆にスウは焦りだす。
「嘘、こんな――――このっ!」
スウは慌てて機首を回して、別のヒーラーに向かう。しかし――
『無駄だよ〖騎士道〗――これは、味方の傍にワープするスキルなんだ』
スウの前に、再び立ちはだかるウェンター。
「そんな―――・・・」
❝盾役が味方の傍に転移って、チートじゃねえか!❞
❝これ、スウさん詰んでない?❞
❝スワローテイルの火力じゃ、ウェンターの機体のバリアは破れないよな・・・?❞
❝破れない。そして削っても、ヒーラーに回復される❞
❝ならばって、ヒーラーを先に落とそうとしても、ウェンターが絶対護る❞
❝どっちも先に倒せない、とか――❞
❝詰んでる❞
『どうだい? 少しは怖がって貰えたかな、僕の用意したスウ対策は。そして、これでも僕らはトップクランなんだよ』
スウは何も言わなかった。
観客や視聴者には、スウが諦めたように見えた。
「最早打つ手なし」と、返す言葉がないのだろうと思った。
戦場に静かな
スウが、ゆっくりと息を吐く音が――ハイレーン・クリスタル・コロシアムにいる全員――そして、各所の配信を見ている人間たちの耳に響いた。
この試合は決勝だ。他に試合は行われていない。
全員が、スウの呼吸音に注目した。
「―――入れ、ゾーン」
スウは願いを込めるように、胸のペンダントを持ち上げてキスをする。
そして鋭く息を吐いて、コックピットの床に足を叩きつけた。
しかしウェンターが静かに笑い、続けた言葉にスウの心がかき乱される。
『はじめての敗北の味、君が作った僕が教えてあげるよ。ここにいる7人には確かに君に弾を当てられる人がいないかも知れない。だけど僕たちは、たとえ君を倒せなくても時間をかければいい。リッカ君とアリス君ではフラグメントの3人には勝てない――リッカ君とアリス君の2人は強いが、相性が絶望的に悪すぎる。最後はフラグメントをこちらに加え、フラグメントの命中力で、僕らの勝ちになる』
スウが、アリスとリッカに視線を向ける。
確かに、2人はフラグメントとの速力の差に翻弄され、防戦一方だ。
ムシャ・リッカには強力な遠距離攻撃である弓があるが、ムシャ・リッカになればバリアが無い。――ナイト・アリスでいるしか無い。
しかも今はシプロフロートがバリアを回復してくれているけど、盾役の空母がいない。盾役は今、アリスしかいない。
アリスの機体は火力寄りの盾機体だから、盾役としては物足りない。
少しでも均衡が崩れたら、唯一バリアやシールドを回復できるシプロフロートが落とされるだろう。
そうなったらもう、リッカとアリスに勝ち目はない。
つまり、スウがウェンター達星の騎士団の7人を倒さないと、クレイジーギークスが勝つ道はついえる。
40層以降の攻略も、遠のくかもしれない。
ウェンターの言葉で、スウの心が乱れてなかなかゾーンに入れない。
「入れ――入れ――」
『たしかに君たちは強い。だけど僕らはこれでも優勝2回、決勝には毎回出ている。16人を集められない君達では、まだ僕らに勝つのは無理だったようだね。だけど、安心して欲しい、僕らもトップクランだ。層攻略は任せてくれればいい。君たち9人が機体改造するより、僕ら16人が機体改造をするほうが良いかも知れない。だから僕は、君を全力で叩き潰すよ――全力を出す約束だからね。―――手加減はしない!』
スウは思った。
確かに、16人に機体を強化してもらったほうが良いかも知れない。
何と言っても彼らはトップクランだ。きっと自分達よりも上手いこと攻略して行ってくれる、相手は2000人のクラン――対して自分達は結成したばかりで、ほとんどのメンバーが入ったばかりの9人。
比べるべくもない。
ウェンターさんはチートみたいに強いし、勝ち目も―――。
「じゃあ私の――」
自分の負けを認めようとして、涼姫は止まった。
(違う!)
アイリスさんを、科学的に脱出不可能なブラックホールから救い出すとか、不可能に近い事を、命理ちゃんと約束してるんだ。
笑顔にするって言ってるんだ。
「試合に負けちゃったけど、アイリスさんは救って見せるから。笑顔にしてみせるから」
〝どの口で、言う!?〟
(そんな便利な口を―――私みたいなコミュ障が、持っている訳がない!!)
「入れ―――ッ!!」
スウの咆哮に、ウェンターが嬉しそうに笑った。
『諦める気は無いってわけだね。それでこそ、僕の憧れたスウだ!』
ウェンターは、背後の火力組に告げる。
『だが残念だ――勝負は決した。火力機のみんな、スウ君は僕が抑えるから――ん?』
スウの配信を視る人間は見ていた、〝瞳の光を失ったスウを〟。
ふと、ウェンターの視界で幾つも波紋が浮かんだ。
スワローテイルの周囲に浮かぶ、6つの波紋。
スウのキスしたネックレスは、
『――なんだ・・・・この波紋は・・・・〈次元倉庫の鍵〉の扉? 今そんな物――いや―――まて、波紋が大きすぎるぞ・・・・?』
バーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵・大〉だ。
『〖念動力〗〖超怪力〗』
波紋から、8つの銃火器が顔を出す。
〈162mmキャノン〉、〈ロケットランチャー〉、〈64mm機関銃〉、〈荷電粒子砲〉。
『まさか――〖読心〗・・・・―――ま、不味い! 火力のみんな!』
ウェンターはゾーンに入ったスウの思考を読んで、その思考の異様さと内容に慌てて叫んだ。
スウはスワローテイルを旋回させてウェンターをロックオンしながら、距離を取る。
『ロックされた! 火力たち、スウ君を撃ち落として、急いで!』
『しかしクラマス、時間さえ稼げばいいと・・・・』
クラメンの言葉に、ウェンターが慌てる。
『――――事情が変わったんだ! 急いでスウ君を撃墜しないと不味いんだ!』
スワローテイルが、星の騎士団の火力から飛んでくる攻撃――いやヒーラー機からも一緒に飛んでくる弾もまとめて、あっさり躱していく。
火力機に乗るクラメンから、悲鳴が上がる。
『う、動きが更に鋭くなった!! クラマス・・・こんなの当たりません!! ――あり得ないよ! ―――なんでまだ強くなるんだよ!!』
『〈ドリルドローン〉、〈コンパクトミサイル〉』
スウは2つをウェンターに放って、さらに――
『〖読心〗――なっ、こんな思考ありなのかい!? 僕が選べる選択肢、全てに対応策を用意しているじゃないか! ――これじゃ幾ら心が読めても意味がないよ!! どうする・・・・どうすればいいんだい!? ――駄目だ、とにかく避けるしか――〖騎士道〗!』
ウェンターが、〈ドリルドローン〉と、〈コンパクトミサイル〉をワープのような移動で躱す。しかし、ウェンターが転移先で驚愕する。
『スワローテイルの機首が、もうこっちを向いているだって!?』
ウェンターが、悲鳴のように叫んだ。
スウが静かに告げる。
「無駄です。貴方は〖読心〗で未来を読めるかも知れませんが、私に対して貴方の取れる行動はそう多くない」
❝そうか・・・スウが強すぎて取れる選択が、極端に少ないんだ・・・!❞
「例えばさっきも、貴方の取れる行動は〝逃げるか〟〝受けるか〟しか無かった。取れる手が少ないなら――こっちも貴方の未来を2つ3つに絞れます、それら全てに回答を用意しておけば良い。全砲門一斉掃射」
機首を反転、〈汎用バルカン〉、〈162mmキャノン〉、〈ミサイルランチャー〉、〈64mm機関銃〉〈荷電粒子砲〉が一斉に放たれる。
猛烈な火力がウェンターに襲いかかる。
❝スウ・・・・こんな隠し玉を用意してたのかよ!❞
❝スウ、マジカヨ・・・❞
スウが静かに、告げる。
「〖読心〗を使わなくても、未来は盤上から読めます。読み切れなければ
そしてウェンターに、さらに絶望的な事実が伝えられる。
「――私の思考から未来が分かっても、その未来が極端に近い未来だったらどうします? 例えばあなたが反応できない程、近い未来なら」
『ど、〖読心〗――だめだ思考が早すぎるよ――というかこれは思考なのかい?、まるで抽象絵画だ・・・・理解するのが難しすぎる、理解するのに時間がかかる。そのうえ――』
元から思考が早いスウが、3倍の思考を20000時間――いや勉強や娯楽閲覧などもシミュレーターの中で行った涼姫は、40000時間以上――それほどの時間、3倍の思考を続けてきた。
そもそも、眼の前の少女は人の限界に及ぶほどの高速な思考が必要なクエストをクリアしてきた人間である。
人間の限界の思考速度を、繰り返し繰り返し、2万時間以上。
そんな環境が育んだ素早い思考に慣れきった脳の映像を見て、ウェンターは竦みあがる。
全ての火力が、ウェンターに命中していく。
ウェンターはバリアで防ぎながら気づいて、
『た、たとえスウ君の思考が読めても、対応策を思いついた頃にはスウ君の行動が終わっていて、こっちの反応が間に合わない! だいたい、ほとんど反射で動いている、思考を読んでも意味がないよ!』
ウェンターはバリアと物理的な盾でなんとかスウの攻撃をしのいでいるが、バーサスフレーム用の〈時空倉庫の鍵〉のゲートから放たれる、大量の火力でバリアがどんどん削られていく。
『三択ブースト、防御! ――て、低火力のはずのスワローテイルに乗っているのに、こんな火力は反則じゃないか―――!! ――僕の機体は防御特化の高級機体なんだよ!? ――不味いバリアが破れる―――ッ!! ヒーラーのみんな、もっと回復が欲しい!!』
スウはスロットルを全開にして、ドリルドローンを反転、さらにウェンターをロックオン。
「させない。〈コンパクトミサイル〉発射――」
ウェンターを、小さなミサイル群が滅多打ちにする。
スウがスワローテイルを、ウェンターの機体に立ち込める爆発の渦へ突っ込ませる。
「――〈励起翼〉 三択ブースト、シールド」
飛んでくる欠片を、シールドで弾きつつ。
『う、うわああああ!』
スワローテイルの翼が起こした波動が、恐怖に叫んだウェンターの機体を真っ二つにした。
角の多いウェンターの機体が、爆散した。
ウェンターに撃墜判定が下った。
慌てたのは、残された星の騎士団の火力機とヒーラー機だ。
『クラマス!?』
ペンタポットの叫びを皮切りに、一斉に慌てた声が上がりだす。
『やばい、誰かなんとかしろ・・・〝アレ〟を!』
『無理だ!! クラマス無しであんな化け物、止められない!!』
『なんでだよ! 俺たちは日本でもトップクラスに、人数の多いクランだぞ!』
『相手は一人で、一番強い人間なんだよ!!』
『俺たちは人数が多くて強いけど――アイツは、ボッチだから・・・・人数が少なくて強いんだよっ!!』
「ボッチって今言いました!? 事実が一番、人を傷つけるんですよ!!」
星の騎士団がスウの怒りを買った。そこからは――阿鼻叫喚だった。
ペンタポットが、〈励起翼〉で切りつけられ崩壊していく機体の中で、感動したように胸の前で手を組んだ。
『スウさん。やっぱり強い、カッコイイ―――』
『ペンタポット、アンタどっちの味方なの!』
『そもそも戦いを挑んだのが間違いでした~』
スウが機首を傾けるたび、バーサスフレームが宇宙に散っていく。
ものの30秒も掛からず、火力3機とヒーラー3機に撃墜判定が下された。
見ていた観客たちは、その光景を口々にこう表現した――「一方的蹂躙」と。
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