第127話 涼姫とお昼ごはんを食べるのです

ちょっとバトルばかり続いてダレ始めている気がしたので、箸休め的な閑話を挿入しました。

超・凄く急いで書いたので、おかしな点が有るかも知れません。

面白いといいのですが。


~~~


◆◇Sight:八街 アリス◇◆


「お昼、どうしますか?」


 わたし八街 アリスはストリーマーズとの試合を終えて、惑星ハイレーンの正午である13時になり、ロッカールームで涼姫とみずきにお昼ごはんをどうするかを尋ねました。

 地球で暮らしている私達的には、お昼はとっくにすぎているので、お腹がペコペコです。


「選手用の食堂に、ビュッフェが有るらしいぞ」


 みずきが一番妥当な提案をしてきます。

 なるほど、やっぱりそれですよね。


「まあ、それが一番楽ですかね」


 すると、なんだか涼姫がおずおず・・・と言った風に、小さく肩まで挙手してきました。

 みずきが話をまとめようとします。


「だな、じゃあビュッフェに・・・・ん――? 涼姫どうした? 奈良の大仏みたいなポーズして」

「わ、私はあそこまで悟ったような顔はしてないよ?」


 涼姫は否定しますが、確かに涼姫からは、ところどころ福々しいオーラがでています。


 にしても悟った顔――確かに大仏様の顔は悟ったような顔だとは思いますが、私の思う悟った顔とは随分違いますね。――悟ったような顔といえば、普段の涼姫みたいな顔。


 ・・・あ、わたしの思う悟ったような顔って、あれは諦めたような顔って言うんじゃないでしょうか。


 涼姫がちょっとキョドりながら続けます。


「お、お昼ならさ。み、みんなで・・・お、お外に食べに行かない?」


 みずきが首を捻ります。


「珍しいな・・・涼姫が外で食べたがるのは、スーパーセルの前兆か?」

「そ、そこまで気象が乱れる!? と、というか――ほ、ほら、女子同士でお出かけで・・・こう、ね?」


 涼姫がちょっと怯えています。また、「断られないかな」とか余計な心配しているんでしょう――だが、是非もなし。


「いいですね。ではそうしましょうか」


 私が言ったら涼姫の顔に笑顔が差し込み、彼女はベンチから立ち上がりました。

 なので私は涼姫の手を握ります。


「―――!」


 すると、涼姫が眼をまん丸にして、私を見ました。

 そして〔ハビる・・・ハビる・・・、ハビタブる〕とか、なにか言ってます。

 ハビタブるって何でしょうか。


 でもこういう涼姫の恥ずかしがる姿って、本当に可愛いんですよね。

 ・・・さっきのパイロットスーツは嫌がってましたが、手を握るのはいいですよね?

 と言うか、涼姫にわたしと手を繋ぐのを嫌がられたら、流石のわたしも泣きますよ?


 あとまあ、丸裸パイロットスーツは流石に冗談でしたが、音子さんも冗談だったはずですし。

 ――向こうが冗談じゃなかったら、強制的に音子さんに着せる予定でした。

 

 暫く顔を真っ赤にして俯いていた涼姫が、鼻を押さえました。

 すると 涼姫の指の間から たーーー っと赤い筋が。

 ・・・あ、また鼻血を出してます。

 涼姫って、鼻の粘膜弱いんですか?


 私は涼姫の鼻に詰め物をして、さあ出発。

 涼姫は私に手を引かれながら、なんだかこの世の終わりでも見てきたような顔になり〔オワタ・・・・、オワタ・・・・〕とつぶやいてましたが。


 ロッカールームを出ると、みずきが涼姫の反対側の手を握りました。


 ・・・むむっ。


 このチビっ子、最近涼姫の事、大好きなんですよね。


 この間のドラム遺跡の後くらいから、涼姫に甘える感じになってます。


 涼姫も、妹か何かができたみたいな感じで接してます。

 涼姫、思い出すのですソイツは同い年です。

 ロリっ子に見えますが、れっきとした高校生です。


 涼姫の手を握ったみずきが、繋いでいる手を見ました。


「涼姫の手って柔らかいなあ・・・女の子の手って感じがする」

「みずきのはマメだらけだね」

「竹刀とか木刀とか、ずっと振ってるからなあ」


 そうなんですよね、竹刀振ってるとマメができちゃうんですよね。

 私の手もなかなかのマメだらけです。手専門のタレント手タレだけは、もうできません。


 さて、3人で手を繋いでコロセウムを出ようとしました。これ、道幅とって通行の邪魔じゃないですかね?

 わたしが心配していると、背後から掛かる声一つ。


「お姉ちゃん、お昼いこー」


 みずきが「うっ」となって振り返りました。


「楓・・・」


 声の主は、みずきの妹――メープルちゃんこと、立花 楓ちゃんでした。

 でもなんだかみずきの様子が可怪しい。完全に楓ちゃんを拒否っている目です。


「みずき、どうしたんですか?」


 わたしが尋ねると、みずきは空いてる手で、頭を抱えました。


「楓がいると好きな物頼めないし、嫌いな物を残せない」

「なるほど」


 納得した私は、廊下を小走りに駆けてくる楓ちゃんに向き直ります。


「メープルちゃんも外に食べに行きますか? みずきも行きますよ」

「あっ、じゃあ是非!」


 わたしが楓ちゃんに声を掛けると、みずきが「くわっ」とでも聞こえてきそうな勢いで、こちらを振り返えりました。


「アリス・・・八街 アリス! ―――貴様!」

「ふふふ」


 ところで、なんで急にフルネームで呼んですか?


「お、おのれ・・・」


 というわけで、楓ちゃんが追いついてきた所で、私達は出口に向かいます。

 楓ちゃんはみずきの空いてる手を取りました。

 なんでしょう、この一体感。

 これで歩道を歩いたら、道幅を取って邪魔でしょうねぇ・・・。

 楓ちゃんが尋ねてきます。


「なに食べるんですか?」


 わたしは答えます。


「この辺りはギリシャみたいな見た目もあって、海産物が美味しいんですよね」


 するとグルメを自称する涼姫、――すぐにピンと来たようで提案します。


「海産物かあ、じゃあピラフとか美味しそう!」


 涼姫が言ったので、わたしは頷きながら納得しました。


「いいですねピラフ。ではショーグン、ピラフの美味しいお店を教えて下さい」

『姫よ、ここから100メートル先の青い屋根と黄色い壁の店のピラフが、この街の市民に人気であるぞ。チェーン店だがな』


「決まりましたね。では行きましょうか」




 四人で真横に歩き始めたので、流石に通行の邪魔すぎるので、みんなの手を解除。

 やがて私達は、雰囲気のあるお店に入りました。


 外観はなんだか高級レストランみたいな感じでしたが、中身はザ・ファミレスって感じでした。


 着席して、VRで料理のメニューをみんなで眺め・・・始めると、涼姫の顔色が悪くなりました。


「エ・・・エイリアン・シュリンプのピラフ――エ、エイリ・・・・エイリアン以外を」


 相変わらず繊細ですねぇ。

 わたしは、とっととエイリアン・シュリンプのピラフ(表記はパラフになっていました)を注文。

 みずきもとっとと注文して・・・――ん? どこかに行くんですか? ――なんだか席を立って嬉しそうに、どこかに駆け寄っていきます。


 ああ、ソフトドリンクバーでジュースを・・・・混ぜ始めた。


 楽しそうにドリンクを色々混ぜて、どの組み合わせが美味しいか試し始めました。

 ・・・あの子は、小学生ですか?

 すると楓ちゃんが、ゆっくりと立ち上がって、


「八街さん、鈴咲さん何か飲みますか?」


 と、笑顔で尋ねてきました。すると涼姫は、


「爽やかそうな炭酸があれば、お願い」


 大好きですね、八街汁。

 え・・・、――ああ、もちろん涼姫が爽やか炭酸を八街汁って呼んでることは知ってますよ。

 涼姫は、わたしが知らないと思っているみたいですが。


「わたしは、緑茶をお願いします」

「了解です」


 私達の注文を受けた楓ちゃんは すすす っとソフトドリンクバーに寄って行ってみずきに見事なゲンコツ。


 「おっ、おぐぉぉぉぉ…っ」とか唸るみずきを、なにやら叱っています。


 みずきは楓ちゃんに任せましょう。


 結局涼姫は壁に書かれていた、大木槌カニのパラフを注文。よくあんな遠くの小さな文字が見えましたね。執念ですか?


 その後、運ばれてきた料理にみんなで舌鼓。


 涼姫がパラフを頬張り、スプーンを握りしめ目をつむります。


「すずランガイド、星みっちゅ!」


 とか打ち震えています。

 そんなに美味しいんですか?


 涼姫はしっとりパラフを食べて、〝しっとり涼姫〟になっています。

 ちょっと、あちらも食べてみたいですね。


「涼姫、一口交換しませんか?」

「えっ」

「はい、アーン」

「えっ、えっ――どういうこと!? 今回はもう、八街さんのターンだけ!? 交換する前提!? ――私のターンは!?」


 何の話をしているのでしょう・・・? どういうことか、こっちが訊ねたいです。


 私が涼姫の口にエイリアン・シュリンプのパラフを放り込むと、涼姫は一瞬で飲み込みました。

 そうして「エイリアン――だけど間接キス。エイリアン――だけど間接キス」と、天国と地獄を行き来するように表情を入れ替えています。


 忙しそうな幻覚を見てそうですね。


「涼姫、わたしにも、アーンしてください。アーン」

「えっ、あ・・・う、うん」


 わたしが口を開けて雛のように待っていると、涼姫はしばしスプーンを見つめた後、自分のパラフを掬ってわたしの口に入れてくれました。


 もぐもぐ 「んー?」・・・・普通?


 あれだけ美味しい料理を作る涼姫なので、どれだけ美味しいのかと思ったのですが。

 まあ涼姫と一口交換はプライスレス。


 ほら、みずきもやり始めましたよ。


 というかみずきは二口差し出そうとしています。

 ただし、みずきの差し出すスプーンの上には大量のグリンピースが・・・・貴女それ嫌いなだけでしょう・・・。

 さらに、どうやったらそんな色になるんだという毒々しいジュースも付属させ始めましたよ。

 そして楓ちゃんにまたゲンコツ食らって、「おっ、おぐぉぉぉぉ…っ」とか唸り始めました。


 涼姫は苦笑いで交換してます。

 そしてみずきは、


「うーん、普通だなー」


 とか正直に言ってます。

 もう少し言葉を選びなさい。


 さて、そろそろ全員食べ終わるかなという頃でした。

 店に入ってきたお客さんが、


「スウさん!?」

「おおっ、スウ嬢ちゃん!」


 と言いました。


 店内がザワつきます。


「スウ?」

「今、スウって言ったか?」


 等という声が、あちらこちらから。


 最初に「スウ」と言った二人は、口を押さえました。


 わたしが視線を戻すと、涼姫がいつの間にか〈時空倉庫の鍵〉から取り出したらしい、マスクとメガネを装着していました。

 こういう時は、素早いですねぇ。


 そうして涼姫は、お二人を小さく手招きしています。

 入ってきたお二人は、私達の隣の席に着席。


 そして涼姫がお二人を「ロイトさん、リーラさん、お久しぶりです」と呼びました。


 その後、スウさんの試合を応援しに来たらしいロイトさんとリーラさんにスウさんは応援されて、エネルギーMAXになったようですが・・・・。

 ・・・・何方どなた


「スウさん、すみません。このお二人は?」


 わたしが尋ねると、涼姫はちょっと言いにくそうに


「あっ、えっと侵入禁止区域に住んでるロイトさんとリーラさん。ロイトさんは凄いガンスミスなんだ」


 なんでしょう。またそこはかとなく、チートの匂いがして来ました。

 あと、わたしはガンスミスなんて単語を知りません。


「えっと、ガンスミスってなんですか?」

「銃の鍛冶屋さんって言えばいいかな――ほら、私の持ってるニューゲーム1110を作ったのがこの人」


 1110? ――あ、あのドラム遺跡で使っていたやつですか。凄い命中精度でしたね。

 ・・・なるほど。


 涼姫が鍛冶屋と言うと、みずきと楓ちゃんの眼が少し鋭くなりました。

 刀を使う二人が鍛冶屋って聞いたら、そうなりますよね。

 するとロイトというご年配の方も、「ん?」という顔になり、


「そこの二人は・・・何かのプロ選手かの・・・?」


 尋ねてきました。

 すると涼姫が、答えます。


「この二人は、剣術家なんだ――侍ってこっちでも分かるかな? その家系」

「ほう・・・この嬢ちゃんたちが、伝説のサムライ・・・・ほう・・・」


 その後、わたしたちは料理の追加注文をして、ロイトさんと暫く銃や刀についてお話をしました。

 最終的に銃の命中精度の話になり、


「よし、お主らの銃も、儂がメンテナンスをしてやろう」


 すると嬉しそうにしたのは涼姫。


「おおおっ――三人共、ロイトさんがメンテすると、銃が生まれ変わるよ!?」


 みずきと、楓ちゃんが喜びます。


「それは嬉しいぞ!」

「いいですね」


 しかし、私は銃が下手なので・・・、


「う、うーん?」


 と首を傾げましたが――後日、ロイトさんのその凄さを思い知ります。


 わたしの弾丸も、3発に1発は当たるようになるのでした。

 こうしてわたし達も、涼姫のチートの恩恵の一部を貰いつつ、いよいよ決勝に向かうのでした。


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