第128話 決勝戦が始まります
◆◇Sight:三人称◇◆
VR空間でスウとウェンターが相まみえた。
小惑星が無数に並ぶ宇宙空間で向かい合う、星の騎士団とクレイジーギークスの面々。
スウとウェンターの会話を皮切りに、たがいに挨拶がかわされる。
まずアリスが挨拶した。
『お久しぶりです、クラマス。クランの皆さん』
返事が、アリスの元クランメンバーから『やっほー』『ひさしぶりー』等と有った。
さらに、大型のヒーラー機体からスウも知った声がした。
『やっほー、スウお姉ちゃん! チャット以外では、お久しぶりー!』
「あっ、ペンタポットちゃん!」
それはスウが、かつて助けた中学生の女の子ペンタポットだった。
『今日は敵同士ですけど、本気で行きますからね!』
「うんうん、お互い頑張ろうね!」
『はい!』
ウェンターもアリスに返す。
『やあ、アリスくん。元気そうでよかったよ』
『そちらもご健勝そうで、良かったです』
そんな中、パイロットスーツに着替えたユーがスウに話しかけて来た。
『スウ、必ず俺とパラセイルに行ってもらうぞ』
「絶対嫌です」
スウが、ペンタポットと和気あいあいと会話しててほころばせていた眼を鋭くして、
丸サングラスの人物も、タキシードからパイロットスーツに着替えている。
『ようアリス』
『スナーク・・・』
『今日こそ、帰ってこいよアリス』
『私はスウさんと居たいんですよ』
『――なら、容赦しないからな』
『
ジョセフの言葉と同時、試合開始のブザーが会場に鳴り響いた。
『カウントを開始します』
ハイレーン・クリスタル・コロッセオに、15万人の緊張の静寂が走る。
『スリー・・・ツー・・・ワン―――決勝戦Fight!』
すぐさまユーが、スウに向かう。
『見せてくれ、お前のロマンティックな飛翔を』
「来るな!」
スウは殺虫スプレーでも噴射するかのように〈汎用バルカン〉を連射。
だが、
「あっ、全部躱された!?」
❝スウみたいにロールで躱しやがった!❞
❝宇宙であんな事出来るヤツが、スウ以外にもいたのかよ!!❞
スウとユーの距離はかなりあるので、弾丸の到達時間は2秒近くある。
しかもVRが弾丸の位置を光らせて示してくれる。
だが、ここは滑る宇宙だ。躱すのは簡単ではない。
さらに一番の問題は、スウの弾丸を避けたという事だった。
相手の動きを読むスウの放つ弾丸を避けられるものは、そうはいない。
❝ナニモンなんだ、なんでこんなやつが無名で埋もれてるんだ!?❞
ユーもまた、スウと同じく〈発狂〉デスロードのクリア者なのだ。
彼もまたアカキバの影に隠れる形で、無名だった。
これが本当の意味での〈発狂〉デスロードクリア者同士の対決と言えた。
ユーの〈フラグバルカン〉が飛ぶ。
スウが機首を上げて回避する。
❝ん? AIM力はない?❞
❝ないな、パンピー丸出しって感じだ❞
しかし、
「きゃあああ!!」
〈フラグバルカン〉の弾がスワローテイルの近くで、爆発を起こす。
❝あんなの有りかよ!❞
❝マジのスウの被弾だ!❞
すぐにスウは、相手のバルカンの
「フラググレネードのバルカンって訳ですか!? ――確かに、飛行機相手には有効ですね!」
しかし種明かしすれば、スウは大きく躱すだけ。
「次はこっちの番です〈励起翼〉」
❝でた、スウの必殺技! 一気に決めちまえ!❞
すると、バリアを展開した、ユーのフラグトップがスウに突っ込んでくる。
「なにをする気ですか――あ、まさか。バリアで体当たりする気ですか!?」
『そう、疑似〈励起翼〉だ。俺は確かにAIMはないが、操縦ならお前に負けない。だからこっちのほうが向いている』
空中で2機が交差する。
翼同士がぶつかり合い、弾かれる両者。
❝やばい、ふたりとも錐揉みして隕石に衝突する――❞
スウが、心配するコメントに返事をする。
「大丈夫です」
言葉通り心配はなかった、両者正確な逆噴射で姿勢を整える。
そして再び接近、互いに並走しだした。
❝何だ、このふたりとも・・・❞
❝滑る宇宙なのに、機械で描いたみたいな軌跡で並走してやがる❞
❝なんてドリフトを・・・二人でドリフトしながら並走してる。――地球のラリーでも、砂や土の路面なんかがよくあって滑るから、ドリフトの効果が絶大になるのよ。摩擦量ゼロの宇宙ならさらに
『やるな』
「貴方もやりますね」
『スウ、コメントを見るな。仲間も気にするな。今は俺と飛ぶことだけに集中しろ』
「嫌です」
❝スウが世界一位のマイルズ・ユーモア以外に初めて認めた❞
❝つか、このユーってやつ操縦技術だけならマイルズ・ユーモアにも勝てるかもしれないぞ❞
スウとユーが絡まるように飛んで、螺旋を描きだす。
そして同時に、捻りを加えて機首を上げた。
❝同時にバレルロールからのハイヨーヨー、左右に別れた!❞
❝こいつら一糸乱れず、揃ってロールしやがった❞
❝それも小惑星だらけのあんな場所で❞
❝どっちも背後を取らせねえ!❞
❝滑って止まらない宇宙で、なんて正確無比な動きをするんだ2人とも・・・❞
ユーが通信を入れてくる。
『スウ、お前は確かに飛び方以外は俺より上手い。弾を当てるのも、スキルを手に入れた今、肉体を使った戦いもそうだろう。しかし、戦闘機の戦いは弾を当てるだけじゃない』
ユーが、スウから離れていく。
❝スウ、ユーの後ろを取らないのか!?❞
「止めといた方が良いです。一気にエンジンを全開にして距離を離し、急激に速度を緩めました。完全に誘ってます」
『よく分かったな。だがどうする? 後ろを取らなければ、武器を当てる上手さも関係ない』
「そうですね。なら、こうします」
❝スウが、フラグトップの正面に回った❞
❝意味分かんねえ!❞
スウとユー、両者のコックピットに警告音が響く。
❝スウが
❝互いにロックオンした!!❞
「コンパクトミサイル、
『フラグミサイル、
互いに無数のミサイルを放ち合う。
ミサイル同士が衝突し、爆散しあう物もあったが、幾つかはすり抜けて互いの戦闘機に迫った。
スウはユーの放ったミサイルを〈臨界黒体放射〉で薙ぎ払い、残った物は〈黒体放射バルカン〉で破壊した。デブリも溶けて無くなる。
しかしユーはそうはいかなかった。AIMが苦手なユーは、スウの放ったミサイルを幾つか撃ち漏らす。破壊したミサイルのデブリも迫ってくる。
❝AIMの差が出た!❞
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