第126話 音子さんにお仕置きします

 ◆◇◆◇◆




 スウが、ヒナのところへ飛んでくる。

 ヒナと音子がスワローテイル、ムシャ・リッカ、ティンクルスター、シプロフロートに囲まれた。


 スウは、音子とヒナにおずおずと尋ねた。


「あの・・・・降参しませんか?」


『せやなあ。もう勝ち目は無いなあ』

『だねえ・・・』

『よし、勝負はウチらの負けでエエわ。その代わり、ちょっと今回のクラン対抗戦に出てないメンバーの宣伝させてくれへんか? クランのみんなもエエか?』


 音子に、クランメンバーから「その方が良いねー」という答えが返ってくる。


「宣伝ですか?」

『もちろん、タダとは言わへん。ウチとヒナvsスウ。2対1でウチ等が勝ったら宣伝させて欲しい』

「私とお二人が勝負ですか。別に宣伝くらい、勝負の結果に関係なく――」

『まあ、そう言いなや。この方が盛り上がるやろ。ウチ等はあくまで配信者やからな。撮れ高なしに宣伝しても効果薄いのを知っとる』

「そう言うなら、いいですけど・・・」

『よし、じゃあ2対1でエエんやな。言っとくけど、ウチら強いで? ――ウチらが勝ったら、スウが今着てるパイロットスーツもらうで? でも安心し、代わりはウチがこうたるわ。もーっと透明成分が多いのを』

「ちょ!? は!? なんで突然、条件がえてるんですか! それは絶対嫌です!!」

『イヤやったら、勝つんやな。敗者に勝者に逆らう権利はあらへん』

「それは、命を掛けた戦いだから言えるセリフでしょ!?」


 すると、ヒナも頭がおかしくなる。


『そう、敗者に勝者に逆らう権利はないのよ。私にも報酬として、スウが音子から貰ったパイロットスーツを暫くしたら私が貰って、更にエグいパイロットスーツをあげるわ』


 スウが混乱したように返す。


「なんで1回負けただけで、2回分の罰ゲームを食らう事になるんですか!!」


『『2対1だから』』


「理解らない! 全然理解らない、その理屈!」


 スウが叫んでる間に、音子とヒナがスウの後ろに回り込む。


「ほなアリス、カウント頼むわ」

『いいんですか? いきますよ? 3――2――1――はじめ』

「ちょ、そこの二人! 始める前に回り込むな――!!」


『んなもん、ウチらがスウから背後を取れるわけ無いやん!』

『これくらいのハンデがないと、撮れ高どころか、勝機がないの!』


 ヒナの放った弾丸がスワローテイルに命中して、スワローテイルのシールドが砕かれる。


❝カラマリの触手以外なら、スウの初被弾がこれなんですwww❞


 スウのコックピットに警告音が響き渡った。


「ロックオンされた!?」


❝『Dirty deeds done dirt cheap.(いともたやすく行われるえげつない行為)』❞

❝スウの初敗北ありえるぞwww❞

❝反則だろもうwww❞


「あんたら、絶対に赦さないからな!!」

『カッカッカ、赦さないからどうした。「勝てばよかろうなのだー」!』

『お前がみんなの前で真っ裸になるのは、確定しているんだよ!』

「あんたら、どんなパイロットスーツを寄越すつもりだ、腐れ外道!」


『コンパクトミサイル発射や』


「本当に撃ったよ、この人!!」


 スウが、スワローテイルで逃げる。

 そうして、追ってくるミサイル達の進路を操作してぶつけ合い爆発させ破壊していく。あり得ないミサイルの処理方法に、目を剥く音子とヒナ。


『ふぁ!?』

『なにそれ!!』


 スウが、最後のミサイルにハイ・ヨーヨーを繰り出し、追い越しオーバーシュートさせて音子たちを振り返る。


『うわ・・・あれだけのコンパクトミサイルが・・・』

『うせやろ。この子、ミサイルとドッグファイトしたで・・・』


「ゆるしません、覚悟して下さい。『今、私は冷静さを欠こうとしています』」


❝スウたん、こわいこわいwww❞


 スウが、音子を追いかけだす。


『なんでウチやねん!』

「胸に手を当てて考えろ!」

『やけど、こっちの機体もヒナと交換した、スワローテイルに負けないくらいの高速機デルタエースやで! スウに憧れたんや!』

「余計なことを!」

『アンタに憧れとんねんで! ちょっとは感動するとかしいや!』

「今も、私のパイロットスーツ着てるんじゃないでしょうね!」

『スウのパイロットスーツは、寝巻きにしとる』

「とってもキモイぞ、貴様!」

『スゥ・イエッスゥ』

「やめろぉ!」


 スウの連射する〈汎用バルカン〉が、音子を滅多打ちにする。


「墜ちろぉ!」


 音子は上昇旋回で回避しようとするが、スウも同じ動きで上昇旋回を開始して逃さない。

 しかも、距離も、速度も、軌道も、音子に完璧に合わせてくるような、一糸乱れぬ完璧な追撃。


『うぁぁぁぁあ、やめてエや! ――スウって戦うとこんなにヤバイ奴なんか! 人理機、ごめん君のせいやない、これはスウがアカン、スウがアカン奴や!』


 しかし、ヒナが音子を回復してしまう。


『ほら、回復だよ!!』

『ヒナ、ナイス!』

『任せな、音子。そのままスウを引き付けてて――私が撃ち落とすから。あっちには、もうシールドが無いんだから、あと一発でも当てれば紙装甲のスワローテイルなんか真っ逆さまよ。今からスウって存在を、丸裸にするよ!』

『オーケーや。スウって存在を、丸裸にするで! ダンくんのやったヤツ真似たるで。スウ、ヒナに追いかけられながらロボットになれるもんならなってみい――その瞬間撃墜や!』


 音子が急降下する。


「面倒な、先にヒナさんを落とす必要があるみたいですね」


 スウがひねりを加えながら、機首を上げた。

 そうして、〈汎用バルカン〉を片方パージする。


『え?』


 ヒナが、スウに追いついてしまう。


 上から降って来た〝置きバルカン〟が、猛スピードで飛んでいるヒナの機体に衝突してくる。


『あっ、しまっ』


 何とか〝置きバルカン〟を躱したヒナだが、更に音子が警告を発する。


『スウがバレルロールでヒナを押し出しよったで!』

『バ、バレルロールか!』


 ヒナは〈汎用バルカン〉を躱すのがやっとで、スウを見失っていた。だが音子の声で、なんとかスウは後ろだと気づく。


 しかし、ヒナがスウの居場所を見つけたときにはもう遅かった、コックピットに警告音。


『ロックオンされた!! まだスウは回転中なのに!』

「フォックススリー、ファイア」


 ヒナの斜め後ろ上空から無数のコンパクトミサイルが発射され、ヒナを追う。


❝スウたん、タイミングをずらしてミサイルを発射したぞ❞

❝ヒナの進路上に放ったからミサイルの到達時間が短い! ヒナはあの角度だと速度を上げてもミサイルから逃げられない、直撃コースだ!❞

❝しかも何だよあれ、ブレーキを掛けながら上昇するために、両腕を広げてブレーキ掛けてやがるwww ロボットの腕をエアブレーキとして使いやがったwww❞


 戦いの様子を観ていた、リッカが呟く。


『モノノ怪』


 ヒナは涙目で叫んだ。


『こんの、化け物ォ!』


「にがしませんよ」


 スウは、ヒナをバルカンで掃射する。


 バルカンが、ヒナの機体のシールドをどんどん削っていく。


『やめてええええええ!』


 たまらずヒナは逃げようと機首を挙げるが、そのカーブがいけなかった。


 たゆんだ軌跡を狙いすまして、あっさりミサイルが着弾。


 一発当たれば次々と当たって、ヒナの機体が空中で爆散した。


『こんなもん勝てるか、ばかぁ!』


 ヒナは、言葉を最後に残してVRから切断された。


「さて、残るは諸悪の権化ごんげ


 すでに音子の後ろを取っているスウが、音子を追い続ける。


『いや、そこは根源こんげんやで・・・』

「だまりなさい、諸悪の擬人化、理不尽の具現化。――変な噂の元になって香坂 遊真みたいなのを、私に引き遭わせたり、変なパイロットスーツを着せようとしたり。――音子さんには、ちょっとお仕置きが必要のようですね」

『こ、香坂? 誰? ――め、眼がマジやん・・・・自分、イヤやわあ・・・冗談やん、大事な推しを裸みたいな格好になんかにせーへんって・・・・』

「いいえ、貴女なら冗談で済まさなかった。勝ったら絶対に、私をWhoTubeからBANされないギリギリまでには裸にしていた」

『そんな・・・ことは』


 まあ無いとは思うけど、撮れ高になりやがってください。


「墜ちろ」


 スウが容赦なく音子を爆散させる。


「『きたねえ花火だ』」


 こうして、ストリーマーズvsクレイジーギークスの試合はクレイジーギークスの圧勝で幕を閉じた。


❝音子もバカだなあw スウを本気にさせるからwww❞

❝宣伝くらいの程々にしとけば、勝てたかもしれないのにw❞

❝あんな負けられない状態にしたら、スウもガチになるわワロwww❞




「あ、でも音子さん宣伝はしてあげます。そっちが宣伝するんじゃなくて、私がするなら問題ないですよね」


 試合が終わりVRから切断されたあと、スウは試合場のVRチェアで、近くに座っている音子に言った。


「ほんま!? 確かにや! さすがスウ! 勝ったにも関わらずそんな方法で条件を飲んでくれるんやな。それならこっちもエエか? ・・・同じデザインのパイロットスーツあげる感じなら、許してくれるか? それなら、今着てるアリスウツをオトコスウツに――」


 スウは音子からの電波を遮断し、ストリーマーズのメンバー紹介を開始した。




 その後、クレイジーギークスは順調に勝ち上がり。


 いよいよ決勝となった。

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