第2-2話 全力で行きます2

 衛星地表近くから、一気に宇宙へ。


『第4波、来ます! 危険! 危険! 〈ゴルゴン〉接近』


 背景に、パルサー中性子星が見えてきた。

 天体は、荒ぶる独楽コマのように上下から閃光を吐き出す。


 独楽の前に現れる、触手を八本備えたような球体。


 縄のような触手の先から、あいも変わらず怒涛の如く弾をばら撒いてくる。


 このステージが、なぜ人間卒業試験などと称されるのか。

 その理由は、パターンが無くなり始めるから。


 8本の触手の内、6本はまだパターンが存在するんだけど、2本が完全にランダムに動く。

 このランダムパターンが、時折恐ろしい形になることが有る。


 ――誰かが言った。「シューティングゲームで最も怖い弾は、追尾してくる弾だ」って。


 だけど、私はこのクエストを続けた事で別の考えに至った。

 こっちを追尾してくる弾は確かに恐ろしいけど――まだコントロールできる。


 本当に恐ろしいのは四方八方――いや、上下含め十方を完全に覆い尽くす弾。

 そんなの「回避不能じゃないか」そう云われると思うけど、あくまでこれは訓練シミュレーター。


 なら、回避不能は無いと信じてる。

 だから必要なのは先読み。弾の動きを何手も先読みして――どのルートが袋小路になって、どのルートなら回避可能なのかを読むこと。


 後は、気合だ――気合避けだ!


「秘技、〝ゴルゴン大縄跳び〟!」


 私は、このクエストの馬鹿みたいな量の弾を避けることを「ゴルゴン大縄跳び」と呼んでいる。


 〈ゴルゴン〉の触手が縄に見えるせいだ。


 まあ「ゴルゴン大縄跳び」は、シューティングゲームで言うところの、ただの気合避けなんだけれども。


 私は、〝ゾーン〟に入るためのルーティーンを行う。


 操縦桿にキスをして、鋭く息を吐いて、両足を開いて、コックピットの床に叩きつける。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 目を皿にして、獣性を放つような雄叫びと共に弾を避け続ける。

 ――すると弾や触手の動きが、ゆっくりに視え始めた。


(来た!)


 確信した、ゾーンに入り始めている。

 このクエストで大事なのは、ゾーンに入ることだ。入らないと、とてもじゃないけどクリアできるクエストなんかじゃない。


 ゾーンって言うのは、漫画を研究して得た知識で。

 要は、集中力が極限に高まった状態の事。


 例えば実際のスポーツのトッププロ選手などは試合前にルーティーンを行い、ゾーンに入りやすくするらしい。


 凄い人になると、スイッチのオンオフみたいな方法でゾーンに簡単に入れる人もいるんだとか。


 私のルーティーンは、スワローさんにキスをして、気合――からの床を蹴る事。

 省略することも有るけど、やっぱり完璧にやる方がゾーンに入りやすくなる。

 

 BGMや、祈り、身だしなみとか色々試したけど、私にはこの方法が一番効果的だった。


 先程まで点滅するように視えていた敵の弾が、線に見える。弾の動きの未来まで視えている気がする。


 翼の端が前にせり出している前進翼というタイプのスワローテイルで、飛び回る。


 『宇宙なのに翼とか要るの?』と訊かれると、この翼は〝翼にビームをまとい、翼で相手を切り裂く〟〈励起翼〉という、スワローさんの最強武器になるんだ。


 さっきも言ったけど、この翼は人型形態の時は剣になる。


 実弾温存のためにも〈励起翼〉はよく使う。

 よく使う武器といえば、〈黒体放射バルカン〉っていうのもある。


 〈黒体放射バルカン〉というのは、スワローさんの機首についたビーム兵器で、ビームを連射する兵器。


 出力を限界まで上げると、〈臨界黒体放射〉という極太レーザーも放てる。


『〈ゴルゴン〉撃破』


「・・・」


 気づけば撃破していた。

 でも喜んだりしない、ゾーンを乱さないためだ。


Headsヘッズ Upアップ! 第5波タロース接近』


 次の敵の姿は、人間の胴体だけみたいな感じ。

 手も足も頭もないけど、背中に翼が生えたような見た目。


 私は閉じた歯の隙間から鋭く息を吐いて、気合を入れ直す。


「―――ッシ」


 全神経をタロースと繋ぐイメージをする。

 まるで私の全身から伸びた糸が、敵の隅々に食らいつく感覚。


(見落とすな、〈タロース〉の動きを一瞬たりとも、一片たりとも)


 〈タロース〉はまだ攻撃してこない。


 私は、スワローさんが持ちうる最高火力を放ち続ける。

 〈タロース〉が動かない間に、どれだけダメージを与えられるかが、〈タロース〉攻略の鍵。


 なぜならここだけが唯一パターン化できる瞬間――最適化できるシーン。


 私の考えた、ダメージ最適解は。


 エンジン出力を全開に引き上げ、この機体でもっとも秒間ダメージの高い――突撃からの〈励起翼〉での斬り付け。突撃によるスピードも相手にぶつける。

 その間も〈臨界黒体放射〉を絶え間なく放ち、ダメージを与え続けてゆく。


 〈臨界黒体放射〉の光で敵の位置は視えない。そんな中に突撃していけば、衝突の危険は並ではない。

 でも、これが私とスワローさんに出来る最高火力。


 最高火力を出さないと、クリアなんて出来ない。


 相手を切りつけるとオーバーヒート寸前の光崩壊エンジンを緊急停止、慣性と機体重心だけで弾幕を避ける。エンジンを止めると、エンジンが一気に冷えるんだ。

 だけどエンジンを止めるタイミングは、非常にシビア。


 光崩壊エンジンの勢いを殺さず――〝されどオーバーヒートを起こさない〟弾幕を躱しきれる、ギリギリのタイミングで行う。


 光崩壊エンジンのクールタイムの間に、〈汎用バルカン〉と〈コンパクトミサイル〉による実弾兵器による掃射。


 〈汎用バルカン〉は、色んな弾丸を使えるので汎用と名前がついてる。


 今使って弾丸るのは、バーサスフレームの超科学な装甲をも貫く徹甲弾を連射する銃弾。

 この銃は翼に埋め込まれていて、取り出せばバーサスフレームの手で持つことも出来る。

 あと、戦闘機の下部――人型形態の背中には、〈汎用スナイパー〉という高威力長射程の武器もある。


 〈コンパクトミサイル〉は、缶ジュースサイズまで小型化された追尾ミサイルを沢山放つ。


 実弾兵器は積載量に相当限りがあるので、沢山は積めない。―――だけど出し惜しみはなしだ。


 全てここで撃ち切らないと、勝てる相手じゃない。

 その上、一発も外せない。


「〈光崩壊エンジン〉、全開。〈励起翼〉展開、突撃ッ。――〈黒体放射バルカン〉掃射! ――〈臨界黒体放射〉発射! 機体反転、エンジン停止――〈汎用バルカン〉&〈汎用スナイパー〉一斉掃射!! 〈コンパクトミサイル〉――発射! 〈励起翼〉展開、再突撃――ッ」


 しかし〈タロース〉で何よりも恐ろしいのは、この〝相手が止まっている時間〟。

 コイツは動き出す時間が〝ランダム〟なんだ――パターン化できない。


 タロースの背後から、小型のタロースが現れた。


「イルさん、ドリルドローン2機――両方展開!」

『イエス、マイマスター。ドリルドローン射出』


 イルさんがウィンドウパネルを呼び出してボタンを押すと、ドローンをコントロールしているAIが、私の頭の中でざわざわと騒ぐ。


『今日もマザーのお手伝いが出来て、光栄だ』

『ママ、頑張るよ!』


「うん! カストール、ポルックスお願い!」


 小さな執事がウィンドウに手を当てたまま、こちらを見上げる。


『マイマスター、オートモードで操作を行いますか?』

「マニュアルで!」


『じゃあ今日も、マザーのVRに接続するよ』

『ボクも』


 このドローンは、AIを備えていて自動操縦もできるけど、VRを通して脳でも操作できる。


 イルさんがパネルから手を離した手を胸に当て、お辞儀してくる。


『了解しました。コントロールをマスターのVRへ移譲――お気をつけて』


 私の視界に青いノイズが現れて、その後ドローン二人の状態を表す数値が表示される。


「遠隔二刀流!!」


 2つのドローンと自機を同時に操作、脳内に描く幾何学模様の形がドローンが噴射する光の軌跡になる。

 ドローンをできるだけ、群舞の様に動かす。でないと2つ同時になんてコントロールできない。


 ドローンは、〈小型タロース〉に襲いかかり続ける。

 〈小型タロース〉から放たれる、猛烈な弾幕。


 これを、自機とドローンで躱しつづけないといけない。

 でも〈小型タロース〉の攻撃だけなら、まだ避けられる。


 ここで遂に、本体の〈タロース〉が動く。

 さあ、始まるぞ、もうパターンなんてない!

 ゾーンに、どれだけ深く潜れるかの勝負だ。


「ゴルゴン大縄跳び!」


 合言葉で、私は呼吸に深く深く沈んでいく。


 視界が、敵の弾道が描く未来の映像で青く染まる。

 やがて音も、肌の感覚も匂いも、視界すら消えていく。

 あらゆる感覚の〝自覚〟を失い、ただ反射で動き続ける。


 そして――


『〈タロース〉撃破』


 よし。


『危険! 危険! 最終第6波〈ビーナス〉接近! 最大の警戒を!!』


 来た、ラスボスだ。


 パルサー中性子星の極光を背に現れたのは、首のない〝縄文のビーナス〟に似た機体。

 そののっぺりした、フェティッシュな身体から、ケタタマシイ嗤い声。


 頭もないのに――空気もないのに、空間で声が反響する。


「リアル一ヶ月ぶりだね、――ビーナス」


 私は、実はコイツと8回しか戦っていない。

 初めて出会ったのはリアル半年前、それから会えたのはたった8回。


「今日こそアンタを、ぶち倒すからね!!」

『行こうママ!』

『マイマスター、今日こそ、踏破のその先へ!』


 私は全身全霊を〈ビーナス〉に傾ける。

 でもこっちの武器は、限られている。


 実弾系は、コンパクトミサイルが僅かにあるだけ。だから残っているのは光崩壊エンジンから繰り出される、黒体放射系の攻撃と、ドリルドローン。

 しかもドローンは、先程の戦いでカストールが撃墜されて、ポルックスしかいない。


 〈タロース〉よりも強力な〈ビーナス〉に、先程よりも大きなハンデを負った状態での戦い。

 でも、いつだってそう――コイツには、満身創痍まんしんそういで勝つしか無い。


 私は、もう加速力の邪魔になるだけになった〈汎用バルカン〉と〈汎用スナイパー〉をパージする。

 そうしてまだ動かない〈ビーナス〉に、攻撃を繰り出し続ける。


 〈臨界黒体放射〉は使えない、使えば光崩壊エンジンが止まる。


 コイツの弾は、慣性飛行ではまず躱せないほど、多く、早い。光崩壊エンジンを止める訳にはいかない。


「だから、少しだけ残った〈コンパクトミサイル〉。それからエンジン負荷が少なく、攻撃力も高い〈励起翼〉の近接特攻と、ドリルドローンでの攻撃しかない―――」


 攻撃を続けていると、〈ビーナス〉の身体が左右に裂けて別れた。


 遂に始まった。


 ここからは全てが、完全ランダムの弾。

 しかも弾の数は、もう〝ばら撒かれたパチンコ玉〟なんてものじゃない。


 表現するなら、土砂降りの雨。

 これを回転するように躱しながら突撃、近接攻撃を繰り返す。

 

 〈ビーナス〉の左右の身体が、さらに上下に裂ける。


 合計4つに分かたれた身体。

 生まれるのは〈タロース〉の倍の攻撃。


 指数関数的に伸びた攻撃の複雑さを、先読みしていく――。


 脳神経が焼き切れるんじゃないかという、集中。


「―――っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そんな集中を20分近く続けた。


 しかし――


(避けられ、ない!)


 小さな執事が、私に背中を向けて、外の様子を見ながら叫ぶ。


『警告! マスター、逃げ道がありません!』

『ママ!』


 ――っ。


「イルさん、人型形態!!」

『スワローテイル、人型形態』


 イルさんの声が終わるより早く――私の声が終わるより早く、瞬く間に人型になるスワローさん。


 私は3択ブーストを加速にして、逆噴射――一気にスワローさんの速度が落ちる。


 Gが重力制御装置を凌駕して、私の身体を強烈に襲った。服の下に着ている対Gパイロットスーツが私の身体を思いっきり締め付ける、思わず吐き出るうめき声。


 スワローさんの人型形態は、小回りがきくが緩慢かんまんだ。

 逆噴射後、小回りを利かせ、弾幕を躱しながら。

 その緩慢さを逆手に取る時間タイミングを操作する。


 私達を時間に置き去りにすることで、敵の弾幕の形を変える――人型形態で時間を握りつぶす!


 さらに最大最高の小回りに、活路を見出す――私の瞳孔が、宙空ちゅうくう全天ぜんてんを見回す。


 そして背後――斜め164度にスワローさんの機体サイズからすれば、針の穴のような〝逃げ道〟を発見。


「飛行形態――!!」

『スワローテイル、飛行形態――』


 瞬時に飛行形態へと変わる、スワローさん。私は、唯一の逃げ道に機首を向ける。

 でも執事のイルさんが振り向いて、私へ青い顔を向けた。


『――ですがマスター、あの先には〈ビーナス〉がいます!』


 私は構わず突撃する。


 執事のイルさんが、前方に向き直った。


『警告! 警告! このままでは当機は崩壊します』


 慣性により、軌道操作の難しい飛行形態で全速力。

 向かう穴を抜けるのは〝遠投で、針の穴に細い銅線でも通す〟ような作業。


「―――ッ、届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 だけど、だめだ――間に合わない、このままではスワローさんの全速力でも――逃げ道が閉じる。


 わたしはコックピットの左サイドにある透明な板を叩き砕いて、中にあったレバーを引き上げる。


 スワローテイルの〝加速リミッターを外した〟。


 重力制御装置で負荷が抑えられているにも関わらずGが強烈過ぎて、意識を失いそうになる。


 スワローテイルの内部の酸素は別に薄かったりしないんだけど、それでもGが掛かりすぎると酸素が頭に足りなくなってくる。


 弾幕を躱すたび、強烈なGが意識を刈り取ろうとしてくる。パイロットスーツが何度も収縮を繰り返す。


 酸素不足に陥っている私を検知して、パイロットスーツの背中にある個体酸素タンクから出た濃厚な酸素で、透明なヘルメット内が満たされる。


 警告音が響きまわり、耳に痛い。


 閉じていく、針のような穴。

 このままでは機体の翼が、〝ぶち当たる〟!


「〈シールド〉全開ブースト! 〈励起翼〉――全力展開!!」

『了解、〈シールド〉〈励起翼〉展開――出力臨界』

「ポルックス、ごめん行って!!」

『ママ、がんばって!』

『大丈夫マザー、別に私達が死ぬわけじゃない』


 敵弾にポルックスをぶつけて、対消滅を起こさせる。

 さらに――〈励起翼〉をも貫通してくる弾を、全開の〈シールド〉との合せ技でぶち抜く。


 宇宙空間に、花が咲くような火の粉をちらして――

 ――包囲を、抜けた!!


 だけどスワローさんも、ただではすまなかった。

 左主翼の損傷が激しい。

 さらに、左主翼のロケットの一機がスパークを放っている。


『光崩壊エンジン、オーバーヒート寸前。マイマスターどうしますか』

「速度、及び〈励起翼〉は、このまま維持」

『エンジンが限界です。このままでは、光崩壊エンジンが停止します。それでは〈ビーナス〉の攻撃は躱せません』

「ロケットエンジンの一機があれじゃ、もう宇宙空間ではまともに操作できない。このまま慣性に任せて突撃する――この一撃に、掛ける」


『了解。マスター――どうかわたしを世界初の機体にしてほしい』


 最弱と謂われ、役立たずと謂われ続けたスワローさん。

 そんな彼の願い。


「まかせて!!」


 不安定な機体で錐揉み回転するように弾幕を躱しながら、最後の攻撃を仕掛ける。


「〈コンパクトミサイル〉全弾発射――! 〈励起翼〉の出力を臨界に引き上げて。―――いッッッけえぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇええええええ―――ッ!!」


 突撃――右の輝く翼で〈ビーナス〉を斬りつける――だがスワローテイルが、遂に弾幕に被弾。機体が爆散し始める――光を、暗く、冷たく、無音の世界に残して――、そして――


『〈ビーナス〉撃破。敵性反応、全て沈黙』




  ――Congratulation!(おめでとうございます!)――




『★★★★★5 SSR称号〖伝説〗を取得しました。

効果:使用することにより搭乗機体を3分間、特機化』


『はじめてのソロクリア特典。★★★★★5 SSR印石〖奇跡〗を取得しました。

効果:印石が取得できる確率を上昇』


 イルさんが私に向き直って、小刻みに震え涙を流している。

 胸に当てた手が震えている。

 彼は私を見上げながら、わななく声で語りかけてきた。


『ク・・・クリアです! クリアですよ・・・マスターッ!!』


 ドローンのAI達も祝福してくれる。


『ついにやったねママ!』

『ほんとうに長かった、マザー』

『うん―――うん! ―――みんな、本当にありがとう―――!!』


 こうして私は、実に3年に及んだクエストのクリアを達成した。


 そして動画を投稿しようとした。


 でも――


「三日前・・・・クリアされてたんだ」


 小さな執事の顔が曇った。


『マ、マイマスター・・・』

『マザー・・・』

『ママ・・・』

「みんな、ごめんね」


 小さな執事が、私の瞳を見て首をふる。


『わたしは――!』

『そんな、マザー』

『僕らは楽しかったよ・・・』


 私がクリアするほんの3日前、デスロードのクリアを達成した人物がいた。

 その人が使っていた機体も、スワローテイル。

 ただ、量産型ではなくて、レアアイテムの特機型スワローテイル。


 クリアした人物は、私のスワローさんの1.5倍という速度と旋回力、高級な重力装置でGをおさえ、敵の攻撃を躱し。1.5倍近い攻撃力で〈タロース〉を圧倒して、〈ビーナス〉に試行回数で押しまくった。


 私より先にクリアした人が〈ビーナス〉に挑んだ回数は、100回余り。

 一年でデスロードクリアに至ったらしい。


「一つのクエストばっかりやってないで、私も普通に機体強化してたら良かったわけか。ちゃんと冒険に出かけるべきだったんだ――ごめんね」


 笑える話だ。

 クエストに打ち込みすぎた――それが私の敗因。


 小さな執事は首を振りながら、私の瞳を見つめ続けている。


『・・・マスター、マスター・・・』 

「私のせいだけど、でもごめん――みんな。私しばらくここに来れないかも」


 小さな執事が目を閉じて、胸に手を当てた。

 そして声を震わせる。


『ス、スワローテイルは、何時までもマイマスターの帰りをお待ちしています』

『マザー、また会いたい』

『待ってるね、ママ』


 私はスワローさんから外に出る為の梯子を降りてマンションの自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。


「馬鹿みたい、私」


 ベッドに顔面を押し付けて、ただ歯を食いしばった。

 3年間――全力だったんだ。






挿絵です。

https://kakuyomu.jp/users/mine12312/news/16818093088539920934

主人公・鈴咲 涼姫の愛機、スワローさんです。


初期の設定を元に描いた絵なので、少し設定と違うところがあります。すみません。


~~~


2話が長すぎたようなので分割しました。

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