第3話 VR訓練場から出てきます

 市立爽波そうは高校にはコミュ障が居る。

 何を隠そう私、鈴咲 涼姫のことだ。


「あ、新入生代表の人だ」


「ひ―――っ」


「名前なんだっけ鈴・・・」

「鈴・・・・」


「そうだ、鈴森さんだ」

「そうそう、鈴森さん!」


 同学年の女の子達に指さされて、教室に逃げ込んだ私は、怯えるように自分のテリトリーに座った。


 こんにちわ鈴咲です。


「怖い、女子高生ってなんであんなに怖いの? 何を考えてるのか全然分からないんだけど」


 いや女子高生だけじゃなくて男子高校生も、女子中学生も男子中学生も――というか人間全部怖いんだけども。


 女子高生の登る階段を下から歩いたら「パンツ見たでしょって」カツアゲされるってマジなの?


 小・中学校と独立独歩の人生を歩んで、全てをゲームと訓練シミュレーターに捧げてきた私には、周囲の女子、男子の思考が全く理解できなくて怖すぎるんだ。


 誰かが言った「人は、理解できない物を恐れるようにできている」。

 ならば私にとって周囲の人間は、恐怖の対象なのだ。


 イルさんとはあんなに楽しく会話できるのに、同じしゅの女子とすら会話できない。


 どうしてこうなった。


 ふと顔を上げると、イケメン男子と目があった。

 急いで目を背ける。


「し、しまった! 鷹森くんじゃん。鷹森くんを好きな女の子は相当多いって風の噂で聴いた! 彼を好きな女の子に校舎裏とかに呼び出されて、集団で押さえ込まれて、カミソリで顔に✗印書かれて、その後は机に罵詈雑言を刻まれて、教科書や体操服は焼却炉に捨てられて、靴をおトイレに、ミミズジュースを飲まされて、電球を―――!」


 どうしよう、どうしよう、タスケ!


「ど、どうしたのえっと――名前なんだっけ・・・・そうだ金咲さん。顔色真っ青だよ?」

「―――ひぃっ」


 前の席の、ギャルっぽい女の子が話しかけてきた。

 名前はニアピン!


「保健室に連れて行こうか!?」


 ギャルなんて怖すぎるので、私は選択肢「いいえ」を連呼する。


「いいえ、いいえ、いいえ!!」


 ワンチャン優しくしてくれたのかもだけど、昔、保健室に連れて行ってもらう途中で吐いた思い出とか、相手の女の子がいい匂いすぎて変な笑い声を出してドン引きされたのとか、フラッシュバックして声が上ずった。


 というか陽キャとお近づきになると、陰キャは消し飛ぶんだよ!

 しかも、陰キャは陽キャに何も出来ない。


 ほら、闇は光で照らすと消えるけど、闇が光を照らすことはできないじゃん。どうやっても、闇は光に影響を与えられない。


 私は陽キャと陰キャって、そういう関係だと考察する所存である。


 しかもウチの学校は景色が良いので、彼女みたいな陽キャが多いくて辛い(なんで受験したんだし)。


 ――まあ・・・・なんでそんな学校選んだかって・・・・大好きなアニメの聖地だからです。


 ・・・・この学校、景色が良いから沢山のアニメの舞台になってるんですよ。


 不純な動機で受験してごめんなさい。これはきっと罰だ。でも、赦してぇ!!


 私が発狂していると、前の席の女の子は困惑しながら「そ、そう?」と、苦笑いで前に向き直った。

 

 やはり地球は、私の居場所ではない。




【首領死路蝶 〝デスロード〟 難易度:〈発狂〉 クリア動画】


 視聴回数12


 110件のコメント


 タロいも 1日前


  二番煎じ乙


  Good 10 bad 2



 Z_Space 1日前


  攻略ルート分かってたら、そりゃ簡単だよなwww


  Good 11 bad 1



 パンナこった


  はいはい、すごいすごい


  Good 12 bad 0



 Jm


  でもこれ、ノーマルのスワローテイルじゃね?


  Good 0 bad 15


 ▼3件の返信


  タロいも


   そりゃ、ルート分かってるからな。


   Good 0 bad 0



  パンナこった


   ノーマルだからなに?


   Good 0 bad 0



  PeeMan


   特機でクリアしたらあかんのか?


   Good 3 bad 0




 私は学校から帰って、自室に引きこもる。


 昨日〝とりあえず〟アップしてみたクリア動画に付いたコメントを見て、ホロリ。

 他にも読んだらいっぱい凹むコメントが、書き込まれている。


「世界が嫌いだ!」


 まくらを殴りつける。

 すると、隣にある義姉の部屋から衝撃音が来た。


涼姫すずひ、うるさい!!」

「ご、ごべなさい」


 家のない私は、親戚のお世話になっている。

 義姉や義母は、とっても怖いのだ。


 視聴回数12回

 コメント110件

 動画の評価 Good 3 bad 105


「というかコメント数もbadも、視聴回数を軽く上回ってるんだけど、なんで?」


 そうか、動画を見もしないでbad押したんだね・・・・ふふ・・・ふふふ。

 謎はとけた、真実は一つ。


「やっぱり、宇宙に引きこもろう」


 私は玄関に向かう。

 すると、姉が自室のドアを開けてドア枠に持たれながらジト目を向けてくる。


「アンタ、また飛行機に乗るの?」

「うん」

「もう帰ってこなくていいよ」

「うん――多分帰ってくると思うけど・・・」


 私はエレベーターに乗って、ボタンを撫でるように押して指を弛緩させた。

 「一攫千金でもして、勉強とか社会の仕組みとから解脱げだつしたいでござる」などとごちる。


 水素エンジンも実用化されたし――こう、どっかの惑星の水素とか運んでさ、売るの。

 石油王みたいな暮らしができるかな。


「そしたらお友達料くらい、いくらでも用意できるし。・・・きちんとした友達も出来るよね」


 なんて事を考えながらスワローさんを呼んで、彼の内部に引きこもった。


 勉強を訓練シュミレーター内で、イルさんに教えてもらいながら終えると、ワンルームの照明と重力発生装置を切って、部屋で膝を抱えて宙をゆっくり回転した。


 カチューシャが痛いので外すと、短めにした地毛のカーリーヘアが揺れた。


 長いと天パが面倒なので、短くしてる。


 昔は縮毛矯正してたけど、髪が痛むので最近はやってない。何回もやってると、髪の光沢が無くなるから嫌になった。


 毛先とかドライフラワーみたいになる。

 それに生えてくるのは天パだから、根本がすぐにクシャクシャになるんだよね。


 思い出した。小学生の時、「天パ」「天パ」呼ばれたのも人間が怖くなった原因の一つだ。


「あー、暗い気持ちになって駄目だなあ」


 昨日から、嫌な思い出ばっかりフラッシュバックする。

 〈発狂〉デスロをクリアしちゃって、打ち込むものが無くなったせいかな。


「うう―――初恋の空中分解までフラッシュバックしてきた――というか、リアルの人間に恋した事無いのが笑う――違うもん、彼もリアルだもん」


 「ふう」とため息一つ。


「イルさん」


 空宙遊泳する私の眼の前にホログラムの扉が現れて、中から小さな執事が出てきてお辞儀した。


『はい、なんでしょうかマイマスター』

「生きる目的をください」


『なんの前振りもなく、壮大な質問をするのは止めて下さい』

「――じゃあ水素が一杯取れる星とかない?」


『水素なら、木星にたくさんありますよ』

「木星にあるのか。もう採掘してる人はいるのかな?」


 ホログラムの執事が、何も無い所から資料のような物を取り出して眺めだす。


『いないですね』

「じゃあ、タンカーみたいな宇宙船がほしいなあ。イルさん、宇宙船を買うのに良いクエストない?」


 私の質問に執事が、別の資料を眺めだした。


『そうですね。勲功ポイントが沢山稼げる大きな依頼が現在、運営から出ているそうです』

「大きな依頼?」


『〝ドキドキ! モンスターからの大攻勢・春爛漫はるらんまんモンスター桜吹雪!!〟』


「運営のそのワードセンスどうにかならないの?」

『なるなら、とっくに誰かが何とかしてると思います』


 小さな執事がヤレヤレと首を振った。


「報酬とか、どんなかんじ?」

『はい、連合クレジットか、アイテム。――少々〝割安〟になりますが貴金属などでも報酬を受け取れます。あと通常報酬とは別に宇宙船や装備品等と交換出来る〈勲功ポイント〉も別口で貰えます』


「じゃあ、とりあえずそれに参加しようかな」

『このクエストに参加するには、銀河連合の〝ストラトス協会〟に登録してストライダーにならなければなりません。というか、マイマスターは初心者クエストをクリアしていません』


 小さな執事が、またもヤレヤレと首を振った。


「――う」

『流石に、今回はクリアしないと駄目ですよ?』


 小さな執事に小首を傾げられ、私は観念した。


「アイ」


 という訳で、初心者クエストをサクっとクリア。


 クエストの内容は座学のち、実技での説明があった。


 生身の戦闘とサバイバル以外、もう全部知ってることだった。


 最後に筆記テストと、実技テストを受けて完了。

 まあもう初心者とは言えないから、簡単でした。


 選択機体はすでにスワローさんを持っているので要らないから、代わりにしばらく補給を無料にしてもらう権利にしました。


「よし、終わった。じゃあイルさん、ストライダーの登録がしたい。どこに行けば出来るのかな?」


 訊けば登録は惑星ハイレーンでも出来るという事らしいので、一路ハイレーンへ。




◆◇Sight:とある銀河連合・下士官◇◆




「この・・・初心者は、なんなんだ・・・・」


 その下士官は戦慄していた。


 初心者クエストには採点するAIの判断におかしな部分がないか、初心者のクエストの結果をチェックする人間がいる。


 下士官はコンピューターが吐き出す訓練結果――その長い、レシートのような紙に書かれた数値を眺めながら、戦慄に震えていたのだ。


「・・・・なんだ、なんだこれは!? ――AIお前、馬鹿を言うな!! こんなの人間の反応速度じゃない! ・・・・まてまてまて、この武器は、そんな風に使うものじゃない。――なぜ、宇宙でエンジンを止めたままこんな動きが出来る!? ――どんな操縦だ!?」


 下士官は、普通は3日は掛かるはずの初心者クエストを、6時間でクリアした初心者が出たという報告を受けて「ついにAIにエラーでも出たか」と思ってやって来た。


 ところが――渡された初心者のテスト結果は、まるで理解不能の答案用紙だった。


 採点側が、答案の意味を必死に理解しないといけない。そんな異常事態――異次元。


(このテスト結果を俺に理解して、AIにエラーがないか見つけろと言うのか!? ムリだ、この初心者のやっている事が分からない!! それに、筆記試験も想定を遥かに越えた内容で答えているぞ――なんなんだこのレベルの高い回答は、常軌を逸したレベルだぞ!? これじゃあ採点する側が、答案を解く事になる!)


 コンピューターからAIが、下士官に尋ねる。


「伍長様、おかしな部分は見つけられたでしょうか?」

「ああ、おかしな部分ならとっくに見つけている・・・・」


 下士官が、長いレシートのような答案を食い入るように見ながら震える。


「このデータのおかしな部分を言えというなら、この初心者だ」


 下士官は、数日を掛けてAIにエラーが無かったことを、やっと証明し終えた。




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