第4話 冒険者の店みたいな場所に行きます

◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆ 




 私は初めて惑星ハイレーンに降り立ち、その壮大な光景に度肝を抜かれた。


「なにこれ・・・・」


 入道雲が、地球で見れる2倍はありそうに伸びている。

 空の天頂の色は濃く、瑠璃色だ。

 青々と広がる空に、白く浮かぶ数々の衛星。


 地上では、視界いっぱいの海。相当深いはずなのに、底まで見えるミントブルー。


 白く輝くギリシャ風の建物の上を、戦艦大和みたいなのが飛んで、その横を箒に乗った魔女が、アサルトライフルを抱え並走していく。


「こんなトンデモ光景が見れるなら、さっさと降りてみれば良かった」


 イルさんの声が、蝶の羽が生えた球体な見た目のドローンからする。


 スワローさんが執事姿で現れるのは、バーサスフレームの中でだけ。

 外では球体ドローンが分身体として、私の側に浮くことになる。

 ちなみにこの見た目は、ワシが選んだ。


『ストラトス協会の建物は、眼の前の階段を昇ってしばらく真っ直ぐ、駅の入り口が視えたら左へ向かって下さい』

「りょ」


 ちなみに私の格好は――ゴスロリチックな格好です。

 その下にパイロットスーツを着ています。


 〝チック〟なのはゴスロリは着たいけど、目立つのはイヤだから。

 だからゴスロリまでは行かないけど、それっぽい感じを着ています。


 まずスカートは肩まで紐のある、ジャンパースカートとか呼ばれるやつ。胸の下まで伸びた布でお腹も覆い、紐でキュっと縛るタイプ(ハイウエストと言うらしい)。

 で、フリルをマシマシ。

 そこにブラウスを、春風と共に添えて。


 ただ、私はおっぱいぺーが大きいので、強調されてちょっと恥ずかしい。

 カチューシャの〝デコ助〟が、チャームポイント。


 でも、なんかプレイヤーっぽい人達はパイロットスーツだけで歩いてる人が多い。


 もしかして、私みたいにパイロットスーツの上から服を着るのって非常識なんだろうか?


 確かに、無重力だと柔らかい生地は邪魔だけど・・・スカートとか本当に最悪だし。

 ――というか、人が多い。


 こんな人の多い場所で(目立ってない?)とか思うと、過呼吸になりそうになる。


 変な子だと思われてるとか考えると、視界が端から白くなって目眩めまいとかして、座り込んでしまいそうになる。


 怖い、変な子だと思われるのだけは絶対イヤ。


 しかもこの惑星に住む人たちは、NPCみたいな存在らしいけど、みんな人間と見た目が変わらないのでコミュ障の私には、ほんと辛いのです。


『マスター。心拍数及び、自律神経の異常を検知』

「わ、わかってるよ。ど、どの人がプレイヤーかも、あんまり分からないから困るなあ」


 ちな、一般市民的なNPCはNPPと呼ぶらしいです。


 NPCはノンプレイヤーキャラクター? NPPは何の略か分からないけど、ノンプレイヤーパーソン?


『VRを通じて、マスターの視界へ情報を転送できますが』

「えっ、そんな事もできるの? やってみて!」

『はい』


 私の視界に映る人々の頭上に、文字が浮かんだ。


 何かのランクみたいなのとか。名前みたいなのとか。ニュービーって書いてある人もいる。


「あ、私の頭の上にもニュービーって文字と若葉マークがついてる」

『マイマスターは、初心者クエストをクリアしたばかりですので』


「ナルホド。でも個人情報は、どうなってるんだろう」

『表示されているのは、殆どがストライダーとしての情報で表示義務があります。プレイヤーの名前は白文字で表示され、本名ではなくストライダーIDです。青文字がNPPでこちらは本名です』


「なるほどねぇ・・・・。この視界の情報って目に悪くないの?」


 目は大事だからね。

 お金持ちになったら、ブルーベリーをいっぱい食べようと思う。


『もちろん安全です』

「あっ、そうだ・・・こっちの人の言葉って私わかるの?」


『大丈夫です。VRが、自動翻訳してくれます。さらに翻訳内容は、相手の声で聞こえます』

「よかった」


 イルさんの返事に安心しながら歩き、やがてたどり着いたストラトス協会の建物。


 素材は石灰みたいな古くから有りそうなのを使ってるんだけど、建築物としては曲線の多い未来的な見た目。


 網膜に〝ストラトス協会ハイレーン支部〟と表示されている。

 入り口が駅の改札みたいになってる場所の、スイングドアを押して入ると、


「ようこそ、ストラトス協会ハイレーン支部へ!」


 鼠みたいな耳のケモミミ美人さんに、笑顔でお出迎えされた。


 ケモミミがあるのはアニマノイドの人たちだっけ、要は獣人さん。

 この世界は人類が滅んでて普通の人間が居ないっていう設定なんだよね。


 他にも完全に機械のヒューマノイドさんや、ヒューマノイドの中でもかつての人類の記憶を受け継いでいるデータノイドっていう種族がいるらしい。


 にしててもあの可愛いケモミミ・・・余はモフモフしたいぞよ。

 ちなみに受付嬢さんの名前は、緑色の文字で表示されていた。

 彼女みたいな緑文字の人はNPCらしい。


 プレイヤーさんも一杯いる。

 ふと、彼らの会話が聞こえてきた。


 男性のプレイヤーさんが、隣の女性のプレイヤーと会話している。


「見ろよ、この動画。訓練シミュレーターの最高難易度クエスト、遂にクリアされたんだって。――アカキバって奴に!」

「え、人間卒業しないとクリア不可能って言われてた〈発狂〉デスロード?」

「そうそう、世界初だよ」

「すっご」


 ふ・・・どうせ私は2番めです。2番煎じです。


 いやいや、不貞腐れに来たんじゃないんだ。

 気を取り直して登録しよう!


 私は、美人受付嬢さんに向き直る。


「あ、あのっ―――ス、ストライダーというのになりたいんですが?」


 そして見事に上擦る自分の声。

 しかも、なんで疑問形?


『マスター。心拍数及び、自律神経の異常を検知』

「分かってるから」


 明らかに不審な様子の私に、笑顔を崩さず案内をしてくれる美人さん。


「では、こちらのモニターで、」


 美人さんがL字に指を動かすと、OSのウィンドウみたいなのが空中に浮かんだ。

 彼女がウィンドウを、手のひらで押す仕草をする。

 すると、ウィンドウは私に向かってゆっくり飛んでくる。


「必要事項を御入力ください。あと、バーサスフレーム端末から情報を――」


 美人さんの説明を訊いていた時である。

 建物内のスピーカーから、大きなアナウンスが流れた。


『非常警報発令! 惑星全土に非常警報が発令されました! 銀河中央のブラックホールから多数の転移反応を検知。この星系に転移して来ています! 市民の皆様はシェルターへの避難を推奨します。――非常警報発令! ――』


 美人さんの顔が、険しくなる。


 周囲の白文字――つまりプレイヤー達が、一斉に指を美人さんみたいに動かしてウィンドウを開く。


 そうすると、一人の強面のプレイヤーが呟いた。


「これが運営の言ってたイベント――」


 彼は言いかけて、ウィンドウを観ていた表情を急に呆然とさせたあと、叫んだ。


「――はあ!?  ふざけんなよ! 難易度〈錯乱〉とか! こんなの参加したら絶対、機体が壊れるわ!」


 隣りにいた細身の女性が「うーん」と唸りながら、強面男性に返す。


「でもこれクリアしたら連合クレジットも、勲功ポイントも爆アゲよ?」

「いや姉ちゃん、〈錯乱〉は無理だって。勲功ポイントも、もう底つきかけてるんだから。今の機体が壊れたら、次買えねーじゃん。下手したら銀河連合から借りてる備品壊して、借金だよ」

「まあ、そうだよね〈混乱〉までなら参加するけど〈錯乱〉は参加したら馬鹿か」


 ちなみに難易度は、7段階あって、


 平穏=ベリーイージー


 安全=イージー


 安定=ノーマル


 混乱=ハード


 錯乱=ベリーハード


 狂乱=エクストラハード


 発狂=――はなんだろう?


 ってなってるらしい。

 

 他のプレイヤーも「このイベントは無理だわ」とか言ってる。


 私は受けてみようかな。


 初期に有った〝ばら撒きイベント〟で貰った勲功ポイントは補給以外いらなくて20万あるから、スワローさんの修理代くらいなら出せると思うし。


 スワローさん本体すら、勲功ポイント10万で買えるんだよね。


「あ、あの美人さん――じゃなかった! 受付さん――!!」

「あら、美人だなんてありがとうございます」


 心のなかで美人さんって呼んでたから「美人さん」って言っちゃった・・・。


 美人さんが、口元に手を当ててころころと笑う。


「こ、この放送のクエストって、受けられますか?」

「初心者クエストを終えたばかりのニュービーの方だと、前線には――ん?」


 私のデータを観ていた、美人さんの指が止まった。


「え、何このシミュレーター履歴――」


 ふと奥の方から私を観ていた、細身の女性プレイヤーから「あのニュービー、〈錯乱〉の意味わかってんの?」と言われた。


 再起動した美人さんが、指と眼球を激しく上下させ始める。


「こ、こんなのおかしい、うそでしょ―――えっ、に――24000時間!? く、くるってる・・・」


 く・・・狂ってる?


 私が美人さんの目を見ると、完全に変態の記録を見る目だった。

 や、やめて? ドン引きしないで―――。


『マスター。扁桃体、視床下部に異常発生。心拍数が異常値を示しています。呼吸を整えることを推奨します』

「細かくて分からないけど、分かってるから―――」


 すると、最後までスクロールしたのか美人さんの指と目が固まった。


「へ・・・・? ――――〈発狂〉デスロードを、ク、〝クリア〟?」


 受付さんが顔を挙げて、私を観て「ぽかん」と口を開いた。


「・・・――ほっ、本当・・・・に?」

「え、あ、はい」


「しょ、称号と、印石スキルを確認します!! よろしいですね―――!!」


 物凄い勢いで宣言された、いっそ怖い。


「は―――はひぃ!」


 美人さんが、先生に怒られている時みたいに怯える私の前で、ウィンドウを激しく操作。

 するとやがて、美人さんの目が徐々に見開かれていった。


 そして震えだした――。なんか、悚然しょうぜんって感じ。


「本当に持ってる! ――しかも〖幸運〗じゃなくて、〖奇跡〗の方!? ――これのキャリアってことは―――まさか・・・まさか、単独クリア者!? ――――しかも嘘、・・・・量産型のスワローテイルでクリアしたの!? ちょっと待って、なにこの初心者クエストの結果・・・どうなってるの、内容が理解できない!! ・・・・こ、こんな動きどうやって――ッ!」


 なんだろう・・・〖幸運〗とか、良くわからないワードが出てきた。


 受付嬢さんが、急に素早く動き出す。どこかと連絡を取り合っている。


「はい、この記録を見て下さい!! そうです! 〖奇跡〗のキャリアなんです!! それも量産機での――ッ!! さらに、この初心者クエストのテスト結果もみて下さい―――ッ!!」


 ど、どこと話しているんだろう。


 なんか通信先の声が漏れてきて「ギャンギャン」聞こえる。


 通信を終えると、美人さんが私に向き直る。


「許可が出ました!! 貴女には自由裁量の権限が与えられました―――ッ!! 特別権限ストライダーとして、今回のクエストに自由に参加して下さい! 前線にも自由に出て下さい、というかクエストに必要なら、なんでも自由にしてくださいッ!!」


 お、おお―――〈発狂〉デスロードクリアはやっぱ凄いんだ?


「あ、ありがとうございます!」


 私はストライダーの登録で「プレイヤーID名」はスウにして、ストライダーカードというのを受け取った。


 ストライダーカードの裏には私の能力値というものが書いてあった。


ID:スウ


 力:24

 知力:53

 敏捷:310


 ステータス上昇:

  なし


 称号:〖伝説〗


 スキル:〖奇跡〗


 クラン:なし

 所持機体:ST‐81 スワローテイル


 なんか知力と力、低くない? 敏捷が高いの? いや――それにしたって力低いなあ。

 とりあえず登録をすべて終了すると、ウィンドウが出てきた。


『イベント・クエスト〝モンスター桜吹雪!!〟を開始しますか?

⇨はい

 いいえ』


 と表示された。


 ⇨はい を選択して、ストラトス協会の建物を出る。

 その時、背中に声が掛かった。


「あの初心者、マジでクエストを受けちゃったよ」

「『オイオイオイオイ』」

「『最弱機体のスワローテイルで出るとか。死んだわ、あのニュービー』」


 いや、死ぬこと無いらしいんだけど。

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