第45話 もっとエリアの外で自分を強化します
私はホームセンターの端まで来た、すると雰囲気のちがう一角があった。
妙な杖とかが一杯あるけど。
『ここは
「え、量子魔術!?」
イルさんの言葉に私は驚愕してしまった。
だって、
「プレイヤーは特別な場所に行かないと量子魔術が憶えられないはずだけど・・・いいのコレ、憶えちゃって」
確かオルテゼオに魔術学校が有るんだよね。そこに入学しないと、プレイヤーは憶えられないはず。
『もちろんマスターは構いません』
「こんなのチートじゃん」
私は本を手に取り、ペラペラとめくる。
なにこれ・・・。
そこにはまさに、呪文のような物が書かれていた。
例えば数字。
単語もこんな感じ。
「なんでこんなややこしい事になってるの? 日常会話じゃ駄目なの?」
『日常会話で魔術が発動すると不味いからです。指輪のような発動体もありましたので』
「なるほど」
尤も、か?
「でもアルフ位は、日常会話で出てきそうだけど」
『マイマスターの考えているアルフとは、だいぶ発音が違います。カタカナにするとオゥルフに近いですが、これでも少し違います。きちんと発音しなければ魔術は発動しません』
「完全に語学じゃないですか、ヤダー」
『言語体系ではあります』
その位は暗記せーや、って事ですか。
「だけど・・・・むしろだからこそ
『その方は恐らく、チエストとは言いません。ちなみに杖に登録して、詠唱を省略して撃つ方法もあります』
「私の魔法使いゴッコの夢が
私は、ガックリと肩を落とした。
『いえ、暗記していればそれだけ多様に使えますよ。ただしVRを着けていれば、脳内で言うだけで良いですが』
「結局、潰えた」
私は肩を落としたまま プラプラ と揺れた。
『それでも初心者の内は無詠唱より、口に出したほうが良いです』
「なるほど、その辺りはファンタジー小説とかと同じなのかな初心者の詠唱と、達人の無詠唱――銀河連合にはそういえば自動学習装置とかないの?」
『有るにはありますが貴重です。これは星団帝国時代から変わりません――今の方が貴重ですが』
「もしかして銀河連合って、1000年前より科学力落ちてる?」
『はい、一度文明がほぼ破壊されました。その後、中世のような状態から旧時代の物品を発掘し、宇宙船を作り出し、宇宙に飛び出し各惑星で様々な技術を見つけ復活させながら、今の科学力まで復興しました。現代もプレイヤーの方々に発掘をやってもらっています』
あー、だから遺跡調査の依頼が結構な数有るんだね。
「なるほど・・・じゃあ、どっかで自動学習装置を見つけて連合に提出すれば」
『学習装置自体はすでに発見されていますが、再現できないロストテクノロジーが問題となっています。勉強はVRの3倍の世界で頑張ってください』
「ちぇ・・・」
『ちなみに魔術を使うには、魔術用インプラントが必要です。インプラントを行うことで、杖内部の魔術量子に感応できるようになります。インプラントには属性があり、才能で操れるタイプの感応量が変わります。当然、個人差があります。また複数のインプラントを行うことは難しいです』
うーんまさしく「十分に進んだ科学技術は、魔法と見分けがつかない」って奴だなあ。
「つまり要は、魔術を覚えるには才能が必要で、複数の魔術は覚えにくいわけね」
『そうです、マイマスター。才能はそこにある箱で測れます。そこに手を入れると結果が出ます』
イルさんが向いた方向を視ると、ストライダー協会でステータスを測った時に見たような機械があった。
言われて私は箱に手を入れてみる。
すぐにに私のVRに結果が出力された。
生成 光子(光) = 0%
生成 プラズマ(雷) = 33%
生成 気体(風) = 7%
生成 液体(水) = 15%
生成 固体(土) = 86%
合成 酸素(火) = 1%
加熱(熱) = 2%
冷却(冷) = 24%
習得可能属性数 1
作成可能元素、1、2、21~29。
これはひどい。
「光0%」っていじめ?
加熱もなくて笑う。冷却高くて笑う。
火が1%って。
「イルさん・・・・これって性格診断テスト?」
『魔術の才能に性格が反映されるという話は聞いたことがないので、決してその様な事は無いはずですが・・・・性格が出ていますね』
「イルさんが、私を根暗っていったあああ!」
わーん!
『な、泣かないで下さいマイマスター! マスターはちょっと明るくないだけです!』
「いや、それ同じ意味じゃん。――にしても、横の()内の文字が〝これは魔術なんですよ!〟って主張してくるね」
『創始者の趣味です。創始者は西暦2000年付近の日本のサブカルチャーが大好きだったようです』
「なるほど・・・・。火属性だけ浮いてるねえ」
『火が得意な方は、化学反応を促進させるのも得意な事が多いです』
「なんだろう、酸素と炭素の合体を早くしたり出来るの?」
『はい』
なるほど、早く合体するなら、発生する火の威力も上がりそう。
「――習得可能属性数が1ってことは憶えられる属性は1個? あんまり才能ないのかな」
『いえ。確かに憶えられる数は少ないですが、土属性80%超えは素晴らしい才能です。50%あれば、才能ありの世界ですので』
「それは嬉しい!」
土って絶妙にダサいのが、アレだけど。
でも、土魔術はチートだもんね。
「この作成可能元素って、周期表の番号?」
『その通りです』
「1と2は、水兵で、水素とヘリウムなのは分かるけど、21から29ってなんだっけ?」
私はスマホで周期表を調べてみる。
「あー、第一
『はい元素番号の低い、水素から酸素までは扱える方が多いです。あとは鉄までは作りやすいようです。鉄が安定しすぎているので、それ以降を作れる方は希少です』
私、若干希少種なのね。
「これ才能が火で、酸素作れなかったらどうなるの?」
『可哀想な感じになります、』
な、なるほど。
「でも『魔術の才能が火なのに酸素が作れなくて、追放された俺の英雄譚』的に頑張ってる人もいるかも知れないし・・・」
『実際、いるようですね。そのせいでパーティーを追放された方が』
「ヒエッ。が、がんばぇー」
私、希少種で良かった。
「と言うか私、水素作れるなら、擬似的に火魔法も使えるんじゃ?」
『マスターが作れるのは、固体水素です』
「水素って・・・凝固点幾らだっけ?」
なんかヤバそう。
「これ作成した物質は、消えないの?」
『消えません』
私は周期表を観る。
「ちっ、銀は第2遷移金属。白金と金は第3遷移金属か・・・」
『何を考えてるんですか・・・マイマスター、』
悪いこと。
ただ、後にコバルトが銀と同じくらいの値段するのが分かったけど、売るほど作るとこっちが倒れた。お小遣いくらいには良いけど、売るの面倒くさいしあんまり儲からないし――売るなら白金くらい儲からないとキツイかも。
『とはいえ魔術よりも、スキルの効果の方が遥かに強いです。スキル持ちには魔術はあくまで補助にしかならないでしょう』
「魔術で起こす熱より、超能力の
『正しくそのとおりです、マイマスター』
「でも弱いとは云え、スキルと組み合わせたら結構凶悪なことできそう。例えば空中に鉄の槍を生成して、それを〖念動力〗で飛ばすとか」
イルさんのドローンから拍手のSEが流れてくる――そんな機能有ったんだ? 君。
『素晴らしい発想だと思います。通常は物質を生成しても、魔術で物質を飛ばすことが難しいので。そうして銀河連合市民は魔術は使えてもスキルは使えません。プレイヤーには魔術を使える人が少ないので、槍を念動力で飛ばすような行為が可能なのはマスターだけである可能性が高いです』
「ふふふー」
私は鼻を高くした。
『ただし、銃を撃ったほうが強い場合が多いでしょう』
「――ふ・・・・――」
私は遠くを見た。薄っぺらい蛍光灯らしき物の近くで、羽虫がブンブンしていた。
「――じゃあ〖念動力〗がない人は、魔術で行う遠距離攻撃は自由落下の力を使ったり、爆発を使ったり。元々攻撃的なプラズマでの攻撃がメインになるのかな?」
『その通りです』
「インプラントはどうやって受けるの?」
『そこに売っているカプセルを飲めば、ナノマシンがインプラントを行います』
「危険性は? 副作用とか」
『確認されていません』
「作れるのは元素だけ?」
『難しいですが、化合物も可能です。混合物は不可能です。混合物にしなくても色々少量混ざったりしますが。――それから化合する元素の数によって、指数的に難しくなります』
「それは・・・大変そう。じゃあ逆にさ、炭素だけで出来たカーボンナノチューブを作るのはどうなの?」
『それも難しいです。非常に精密なイメージが必要になります』
「ままならないんだねぇ」
私は「土魔術」と書かれたカプセルを、買い物カゴに入れる。
杖はどれにしよう。
いかにも魔法使いっぽい樫の杖みたいなのや、ポッターさんが持ってそうな指揮棒チックなのもあるし。
魔法少女が持ってそうな、星やらハートやら翼っぽいのが付いたデザインなのもある。
他にもペンダントとかキーホルダーになってて、持つと使いやすいサイズになるのもあった。
あとは鍵みたいなデザインのとか、指輪とか、箒とか、剣、フォーク、スプーン、ペンライトみたいなのとか
「あ、これにしよう」
私は万年筆ぽいのを手に取る。別に握っても大きくならないけど、ペンを使う感じで使えそうだし、これなら携帯しやすい。
『マイマスター、そのサイズでは魔術の登録がほとんど出来ません。また大きな物の方が出力も高いです』
「でも携帯性や利便性がなあ――。トレードオフかあ。じゃあ――大きいのと小さいの、どっちも買うかあ」
私は樫の杖ぽいのも、買い物かごに入れた。
で、銃やら杖やら全ての商品の総計53万クレジット也。
これ日本円にすると530万円使ったわけで――レジの店員さんが、目をまん丸にして私と値段の間で、目を何回も往復させていた。
会計を終えて、店の外に出る。
商品はぜんぶ<時空倉庫の鍵>の中です。
私は早速ラジオを取り出し点けて、魔術テキストに目を通す。
なんとこの魔術テキスト紙である。この世界で紙は殆ど見かけないんだよね。
「なるほど――〝
『ルュですマイマスター』
「ルュか」
私は早速、魔術の発動体なペンを取り出して誰も居ない方を向いて、
「
と、球体をイメージしながら杖を丸く振ってみる。
すると本当に鉄の玉が生成されて キン と落下した。
「うわっ、うわっ! なにこれ!! 本当に魔法使いみたいで、すんごい楽しい!!」
役に立つか、立たないとか、もうどうでもいい、楽しい―――!
この呪文っぽい言葉もいい! これが更に、魔法感を引き出してる!
創始者ナイス!!
ただ、ちょっと精神的に疲れた気がする。しっかりMP? を消費するのかな――でも、それがまた良い。
便利とか不便とかもう、どうでもいい。疲れてれてるのが嬉しい。
とりあえず試しに、魔術で生み出した鉄球を〖念動力〗で握って投げてみる。
ビュン っと風を貫いて飛んでいく鉄。
「よし、出来るね完璧。まあ、なにかの役に立つでしょう」
実はペンはもう一本買ってある。
「このペンは第1周期を作るペン」
鉄を作ったのは第4周期を作るペン
「で、私は固体を作る力を持ってるわけで」
もし、私がヘリュウムを作ったら、固体ヘリュウムが出てくる筈。
ヘリュウムは、1気圧だと絶対零度でも凍らないほど凝固点が低い。
作ったらどうなるんだろう。
「
真っ白な粒が、1メートル先に産まれて落下しながらすぐさま蒸発して消えた。
すると私は立ちくらみがした――その場に崩れ落ちた。
『マ、マスター!! 大丈夫ですか!!』
「う、うん――辛うじて意識は失ってない」
凄まじい疲労感。
肉体は元気なのに、感じたこともない強烈な倦怠感が私を襲っている。
これはまずい・・・。駐車場のはしの方に寄って、休憩する。
途中で乳製品ぽいジュースを自販機から買って、座り込んだ。
ジュースを一口呑んで、大きく息を吐いた。
「こんなに疲労感が出るとは思わなかったぁ」
砂粒みたいなサイズのヘリウムを作っただけで倒れかけるんじゃ、ヘリウムを作るのは現実的じゃないかも知れない。
「水素も止めといたほうがいいな、これ。ワンチャン、酸素もまずいかも知れない」
第1周期を作るペンは封印しよう。
MPを上げる方法はあるのかな? ステータス上昇に有ったり?
ウィンドウを開いて調べると、あった。〖MP上昇〗っていうステータスアップが。
勲功ポイントに余裕が出たら、上げようかな。
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