第42話 お願いされます

◆◇Sight:三人称◇◆




 私の名前はライム。アニマノイドです。


 私は現在、ハイレーンの南大陸「ワールドクレイドル」と名付けられた大地で、ストライダー協会の受付嬢をやっております。

 このワールドクレイドルは、平行世界からお呼びしたプレイヤーの方々に開放された、ゲーム用の大陸です。


「受付嬢さん、これ鑑定してー!」


 ちょっと怖い感じの顔の大柄な男性のストライダーと、スレンダーな女性のストライダーさんがなにかの毛皮と機械の部品を持ち込んできました。

 この二人は恋人と間違えられる事もありますが、姉弟です。

 あと怖い感じの顔の人は、すごく優しい人です。


 基本的にプレイヤーの方はいい人が多いです。

 危険人物は審査で弾かれやすいからです。


 大変な兵器をお渡しする事になるのですから、きちんと我々も防衛策は取っています。

 ただ、時折困った方も居ます――マザーコンピューターの合議は謎なときがあります。

 なのでプレイヤーには秘密ですが、NPPなどに優しくしてくれた人などの指標が、私達のVRに数値やランクとして表示されています。


 眼の前の怖い顔の男性はゴールドレベルです。

 相当な人格者だと高い評価を得ています。


 彼ではありませんが、更に特に人格者と認定される様な方には特定の称号が与えられ、私達にははっきりと表示されるようになっています。


 最近も封印されていたデータノイドさんに希望を与え、開放して、称号を手に入れた女性がいました。


 私達NPCやNPPがくだんの女性を視界に入れると、VRに白銀に輝く豪勢な勲章が、彼女の頭の上に表示されているのは、本人の与り知らぬところでしょう。


 さて怖い顔の彼には、ちょっとおまけをしましょうか。


 私は毛皮と機械の部品を受け取り、「かしこまりました」と返事をして早速鑑定に入ります。


 え「獣の耳と尻尾」を持つアニマノイドが、動物の毛皮を見てなんとも思わないのか?


 よっぽど近い種でないと、何も思わないんですよね。そりゃぁ死体を見れば「ウッ」とはなります。

 でもやはり人間そっくりの遺伝子となった私には、〝別モノ〟に感じます。

 とはいえ、目の前の動物の遺伝子を改造すれば人に出来るのです。


 こういった問題は旧人類のヒト種さんも倫理として随分悩んだ結果、こんがらがった話なのですから、今すぐ私に答えを出せと言われても困る話です。


 多分ですが、近い種の死骸を見た時の感想は、ホモ・サピエンスさんが猿の死骸を見た時くらいの衝撃ではないでしょうか?


「こちらの素材〈木漏れ日ベアの皮〉と、〈オートマキナのコア〉ですね。3250クレジットと300ポイントとなりますが、買い取り致しましょうか?」


 250クレジットはおまけです。


「おっ。そこそこいい値段になった」

「お願いします!」


 私はウィンドウを出して、彼らに銀河クレジットと勲功ポイントを入金します。


 怖い顔の男性は入金を確認すると、私に小さな声で質問してきました。


「なあ、特別権限ストライダーまであとどれくらい掛かる?」

「なんの事でしょうか」

「やっぱこの方法じゃないのかなあ」


 私がとぼけると、お姉さんがため息を吐きました。


 ご姉弟が、残念そうな顔になります。

 ごめんなさい。でも流石にお答えできません。


 この惑星でプレイヤーさんに開放されている大陸以外には、プレイヤーの皆さんの侵入は禁止されています。


 他の惑星でも、現・人類が居住している惑星にはゲームの舞台になっている場所以外には侵入できません。


 プレイヤーさんの使う移動手段、バーサスフレームは禁止区域に入ることは絶対にしないようにロックが掛かっていますし、渡航する船への乗船をプレイヤーさんは禁止されています。

 しかし実は、プレイヤーさんに開放されているゲーム舞台以外に侵入する方法が一つあります。

 それが〝特別権限ストライダー〟の権利を手に入れる事。


 非常に高い能力を持つプレイヤー且つ、人格的に問題ない方なら、マザーコンピューターの合議を受けられます。

 さらにこの合議で合格した場合にのみ特別権限ストライダーの権利が認められます。

 この特別権限ストライダーには、「禁止区域への侵入」の他にも様々な権限が与えられます。

 「大きな戦いでの遊撃としての自由裁量」や、「とある惑星に特別な物品を持ち込める」。

 「特別なアイテムを購入できる」など。


 あと、軍からも憶えが良くなります。


 基本的に、銀河連合の准将に近い権限を持つことになります。


 見れば協会建物の奥で別のプレイヤーさんたちが、ご姉弟と同じ様な会話をしています。


 箱を組み合わせたロボットみたいなパイロットスーツを着た男性と、全身金属だけれど女性的なフォルムをしたロボットみたいなパイロットスーツを着た、レトロフューチャーな格好をしたお二人です。

 ちなみに両方男性です。


「駄目だ。特別権限ストライダーになる方法は、大規模クランでも条件を特定できてないらしい」

「特別権限ストライダーになったって言うプレイヤーに接触出来れば、一番早いんだけど。誰なのか分かんないんだよな?」

「全く分からない。凄腕だといわれてるけど」


 最近〝特別権限ストライダー〟の噂が急にプレイヤーの皆さんに広まり、皆さんその資格取得方法を血眼になって探しています。


 私に質問してくる方も多いのですが、お答えできません。その権利は私にはありません。


「凄腕なら、多分トップランカーだよな。マイルズ・ユーモア辺りか?」

「それだと接触なんか出来ないじゃないか」

「だよなあ。しかも本当にマイルズか分かんねぇし」


 しかし〈発狂〉デスロードの量産機でのソロクリア。――なんて条件、誰も気づけ無いと思います。

 だって普通、誰にもクリア出来ないんですもの。


 他にも条件はありますが、レイドボスのソロ討伐など、どの条件も常人ではこなせないものばかりです。


 私が笑顔を振る舞うお人形のようにカウンターで微笑んでいると、お顔の作りが優れたプレイヤーさんが建物に入ってきて、すぐに私に話しかけてきました。


「NPCさん、この間のデートの事は考えてくれた?」


 この方はこの前から私を何度もナンパしてきている人です。


 私はニッコリと笑って、


「ハハハ」


 と返します。


 実はプレイヤーさんに好意を持たれるのは、受付嬢界隈ではちょっとしたステータスになっています。


 ただし、中にはNPCに酷いことをする方がいるのも事実。


 プレイヤー申請の際、人格はある程度考慮されますが、一番考慮されるのは不測の事態で怯えない勇気、次にバーサスフレームをきちんと扱えるかの能力。次に人格という感じです。


 なのでプレイヤーさんには「NPPやNPCに酷いことしてはいけません」、「酷い事を続けているとBANになります」と言ってあるんですが、酷いことを辞めない人は居ます。


 眼の前の方がまさにそれで、友好度ランクが最低のラストです。


 この友好度は、私達NPCやNPPがVRを通したときしか視えません。


 友好度ランクはブロンズから始まって、普通は上がっていくのです。シルバー、ゴールド、プラチナ、アインスタという感じに。


 ところがNPCに無体を働くと下がることも有って、アイアン、アルミ、コバルト、ラストと下がっていきます。

 なのでラストランクの彼は、NPPやNPCに犯罪ではないけれど、狼藉を働き続けた人物です。


 犯罪は即BANなので、ここに犯罪者は来れません。

 だから相当沢山の細かい狼藉を働かないと、ラストまで落ちたりしません。

 もちろん、そんな方のデートのお誘いは御免被ごめんこうむります。


 怖い顔の彼のお誘いなら、断らないんですけどねぇ。


 ちなみにラストのプレイヤーさんが呼んだみたいに、私達はNPCと呼ばれています。


 プレイヤーさんはNPC=Non-playerノンプレイヤー characterキャラクターだと勘違いしています。

 しかし、本当の意味はNPC=Navigaterナビゲーター ofオブ playプレイ clientクライアントプレイヤーを導く役という意味です。


 あとNPPの意味はNonノン-Practicedプラクティスド Personパーソン。訓練を受けていない人という意味です。

 こちらもプレイヤーさんはNon playerノンプレイヤー personパーソンだと思っているようですね。


 ちなみにNPCとNPPの違いは、NPCがプレイヤーさんを導く訓練を受けているのに対して、NPPの人は訓練を受けていないという事です。

 ただし両者に共通するのは、プレイヤーさんをお招きするのに同意をしていると言う事。


 銀河連合には、プレイヤーさんをお招きする事を快く思っていない市民も居ます。

 そういう方は、ゲーム舞台への侵入を禁止しています。

 ただ、それでもゲーム舞台に入って来る市民が前にいました。


 侵入した彼は、プレイヤーさんに「この世界はゲームなんかじゃない!」という事を訴えました。

 ところが、プレイヤーさんはキョトンとして「でしょうね」と返しただけだったと聞きました。


 実は銀河連合の一般市民が知っているような情報は、プレイヤーさんは得る機会があります。

 我々はプレイヤーさんに、嘘の情報も基本言いません。


 プレイヤーさんを穏便にこの世界から追い出したいなら、プレイヤーさんが出て行きたくなる情報を出す位しか無いのですが、そんな情報は一般市民は知りません。


 プレイヤーさんが一番怖がりそうな、復活方法も隠していませんし。

 そしてプレイヤーさんを追い出すのに暴力などの強硬手段に出れば、大変な犯罪となります。


「いいじゃん、NPCなんだからプレイヤーにサービスしてよー」

「その様な役目は、与えられておりませんので」


 私の役目は、プレイヤーさん達を導くことですので。サービスする事ではないです。

 私を誘いたいなら、貴方が魅力的な男性になってください。


 お顔の作りの優れたプレイヤーさんが、まだ声をかけてきます。この人は毎回しつこいのです。


「ねえ、良いじゃん、1回くらい」


 私が(さっさと何処かへ行ってくれないかなあ)そんな風に思っていると、緊急を示すブザーが私のVRギアに聴こえました。

 このブザーが鳴る場合は、相当な緊急事態です。


「申し訳ありません、緊急の通信が入りました」


 頭を下げてから私にしか見えないウィンドウを開いて、連絡事項に目を通します。

 そして、私は内容に血の気が引くのを感じました。


「私の故郷ネバーシティに、MoBが出現!? ――スキルしか通用せず、軍でも対処しきれない!?」


 ゲームの舞台外での大事件です。

 それも、私の故郷です。

 このままでは、私の故郷が―――。


「そんな―――」


 私は協会内を見回しました。


「おい、訊いたこと無い町でMoBって今言わなかったか?」

「もしかして、進入禁止区域に入れるチャンスか?」


 今回の事件を解決してもらうには、プレイヤーさんを禁止区域に連れて行かないといけません。

 しかし、普通のプレイヤーさんは送り込めません。


 禁止区域に入って貰うのですから、市民に絶対に狼藉を働かないような人格に優れた人でないといけません。

 そして当然、実力も無いとだめです。


 今、協会にプレイヤーさんは30人近く居ます。

 協会には酒場や、売店、レプリケイターやステータスアップを行うドックなど様々な機能が有るので、利用者は絶えません。


 私は今協会にいるプレイヤーさんの全員の友好度と、実力を確認していきます。

 だけど友好度が高いけれど実力が不足している人、実力は高いけれど友好度が低い人しか居ません。


 怖い顔の彼が一番条件が良いですが、彼のスキルでは恐らく勝てません。


「―――ど、どうしよう。どうしたら・・・」

「あ、あの・・・クエストを受けたいのですが」


 私が困って俯くと、クエストを取得したいという女性の声が頭上から掛かりました。

 けれど今は緊急事態です、私は受付嬢の主任ですから緊急事態の解決に力を尽くさねばなりません。


 状況を伝えて代わりの受付嬢を呼ぼうと思って顔を挙げると、まだ若い女性がいました。


 怯えた感じで、眼球を震わせる人物。

 彼女の頭上には、燦然さんぜんと輝く白銀の勲章――その意味は、称号〖銀河より親愛を込めて〗。


 最近封印されていたデータノイドの方に希望を与え、外の世界に導いた方。


 眼の前の彼女は、友好度も見事なプラチナです。


 私は知っています。彼女の偉業を。


 本来、彼女に期待されていたのは封印された重要データノイドさんへの接触だけでした。


 まずはガーディアンを倒してもらい、これから何人も友好度の高いプレイヤーや銀河連合のカウンセラーを送り込んで、徐々に外の世界に連れ戻してもらおうと考えていました。

 ところが眼の前の方はその場で封印されていた重要データノイドの方に希望を与え、外に連れ出したのです。


 「マザーMoBを笑顔にする」なんて、とんでもない一言で。


 彼女の宣言でマザーコンピューターも、腹を決めたようです――〝計画に変更なし〟と。

 ――しかも、実はカウンセラーなど送り込んでいる暇など無かったという話です。


 重要データノイドさんを封印していたVRは、経年劣化で故障寸前だったそうなのです。


 彼女が封印空間に行った時、その場で重要データノイドさんを救い出さなければ、重要データノイドさんの意識は永遠に失われていたという調査結果があり、軍部を戦慄させたという話が流れています。

 そうして重要データノイドさんを救えなければ、我々は40層で詰むと言われていて・・・。


 本当にギリギリだったのです――あの時あの瞬間、接触したのが目の前の彼女で、彼女の言葉がなければ重要データノイドさんは救われず――我々に未来はなかった。


 この衝撃的な話は、私達NPCの間で瞬く間に噂になりました。

 そして、その名は一気に知れ渡りました。


 彼女の名は、スウ。


 彼女なら良い。


 いえ、彼女しかいない。


「スウさん、どうか助けて下さい! 貴女の力が必要なんです!」


 私は彼女に頭を下げたのでした。


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