第39話 女子でお弁当を食べます
「マジに狂陰のスウじゃん」
「動画のままね。アリスさんまでいるし、私はアリスさんと同じクラスだけれど」
「は、初めまして――狂陰のスウです――あいや鈴咲 涼姫です」
「こんにちわ、八街です」
危ない、狂陰のスウなんて自己紹介するところだった。こんな名前を学校で呼ばれまくったら死んじゃう。
一回呼ばれるたびに、HPがゴリゴリ削れてるのに。
お昼、私とアリスは屋上でチグの友達と〝おべんとイベント〟となった。
ちなみに、チグに彼女のお友達は「二人ともギャルだ」と、前もって言われた。
私がチグの言葉を訊いて、大きな物音に驚いたマーモットみたいに固まると「大丈夫、怖くないから」と笑われた。
チグも、十分ギャルっぽいもんなあ。
というわけで今私は怖くて、酷く怯えている。
だってギャルって、陽キャの擬人化みたいなもんじゃん。
前にも言ったけど、陰キャは陽キャに何も出来ない。懐中電灯に照らされた影みたいに消えるしか無いのだ・・・。
それでもチグが慈母神だから、ここにいます。チグの友達が、ワンチャン・・・・オタクに優しいギャルの可能性を神に願いながら。
慈母神さま、どうか我が願いを叶えたまえ・・・。
「あーしは、
まず自己紹介してくれたのは、ブリーチで髪の色を抜いた見事な金髪の人だった。毛先にパーマを当てている、色白な肌な人。
色白だからこそ似合うパステルメイクで、全体的に可愛いお人形さんって感じ。
あと、値の張りそうなアクセをつけてる。
このルックスを保つには相当な管理が必要だと思う。私なんかとは、オシャレへの気迫がちがう人だ。
昔、私も一念発起して、金髪にした事は有る。
だけど髪の根本がすぐにプリンになったり、髪が『ゴムゴムの実』を食べたみたいになったり。
――あんなお人形さんみたいな容姿は保てなかった。
そのうえ私って、アクセサリーとか化粧とか買うなら漫画買ったり、ゲーム買ったりするから・・・。
あまりに綺麗なギャルに恐怖していると、チグのもう一人のお友達も挨拶してくれた。
「
沖小路さんは、紺色のセーターを着たワンレンボブの黒髪さん。
ギャルに挟まれてなければ、ギャル? という感じだけど。
沖小路さんも、美への気迫が凄い。元が良いのを、完璧な管理をしている。
髪は天使の輪が発生していて、シャンプーのCMとか出れそう。
肌は陶器みたいで、ボディーソープのCMとか出れそう。
指は長く
要約すると、美の日本代表みたいな見た目。
怖いよ、美人怖いよ。
『・・・・見ろ、オシャレに金をつぎ込んでるヤツ等だ――面構えが違う』
しかも、チグもカッコイイ系の美人だし。
さらには、全員を頭一つ追い抜く、アリス。
(ん?)
ふと私は、ここで気づく。
(あれ?)
私は円陣的に並んで、お弁当を膝に置くメンバーを見回した。あっ、ここの美人率おかしい!
あ、あかん・・・私がこの美人たちの横で弁当を食おうモノなら嘲笑の
これじゃ私は当て馬だ、色とりどりのお弁当を彩るバランみたいな添え物だ。
しかも今の私は、ダッサイ小豆色のジャージなんだぜ。
由比浜さんと、沖小路さんが尋ねてくる。
「スウって結構、背でかい?」
「スウが小さく見えるのは、配信だと比較対象がアリスさんだから、仕方ないわね」
ちょ、あかん。由浜さんと沖小路さんに、スウって呼ばれてる。このまま定着するとマジで困る。
私が、勇気を出して「スウと呼ばないで」と言おうか迷っていると、チグがインターセプトしてくれた。
「あー、ダメダメ学校でスウなんて呼んだら。スズっちね」
「そっか。わりー、スズ。」
「そうね、スズっちさんごめんなさいね」
うお・・・もしかして皆さん――わざわざ私を気遣ってくださったの・・・?
――オタクに優しいギャル、
もう添え物でもいい、むしろ添え物ごときが一緒にいてすみません。
ずっと夢だったんだ――女子と並んでお弁当を食べるの。
最近はアリスが居てくれたけど、私がこんなに沢山の女の子と・・・!
私は、小中学校とずっとお弁当の時間は一人だったから、お馴染みの非常階段の下のスペースで食べてた。
だからか嬉しさのあまり、心の汗が目から・・・。
「どうしたし、スズっち・・・だから、なんで泣く。また情緒不安定か!?」
「だ、大丈夫・・・? スズっちさん」
「中学まで、ずっと一人でおべんと――いえ、なんでもないでし――」
アカン。私は、ナニ考えてんだ。
私の小中の身の上話をするとか、この場を暗黒空間に堕とすつもりかよ。
私は慌てて言葉を切る。んで言葉と舌を噛んで、舌が切れた。
「あ
(ひゃいぃぃぃ!?)
「そうだったのね。もう大丈夫よ、私達がいるわ」
由浜さんも、私の頭を撫でる。
「よしよし、辛かったな」
え、なにここ慈母神と天使しかいないの?
「私はフーリってよんで」
「あーしはカレンで」
「フーリ・・・カレン・・・」
「これからよろしくね、スズッチさん」
「よろしく」
・・・こんなにいい人たちと知り合えるなんて。
フェイレジェのプレイヤーだって知られなかったら、今日の出来事はなかったかもしれない。
フェイレジェで、頑張ったお陰と思っていい・・・・?。
〈発狂〉デスロを頑張った3年間の私、ありがとう。お前は無駄じゃ無かったよ。
というか慈母神チグ、有難う。優しい2人、ありがとう。
ハースーハースー。あ゛ー2人ともいい匂い。
なんなの2人とも、汗腺から香水でも出てるの?
今度、使ってるシャンプーとボディーソープを教えてください。香水は高いから今持ってるヤツで良いや。
フーリと、カレンが私の配信動画について語りだす。
「――あーし、あのネックレスみたいなの倒すトコ、マジスゲーってなったんだよね。ジェットコースターなんか目じゃない速度で飛んでるのに、怖がりもせず正確に駆け抜けるの。キュンときた」
「私は細いワイヤーで窓の外に飛び出すのを、全然怖がってないので驚いたわ」
「え、そ、そう? 照れるなあ・・・」
カレンが大笑いして、私の背中を叩く。
「タッパでかい癖に、恥ずかしがり屋かよ」
カレンって、色白のお人形さんみたいな見た目なのに口調も行動もワイルドだから、なんだかちょっと脳が混乱する。
私が背中を打楽器にされていると、フーリが私に微笑む。こっちは見た目通りの清楚系ギャルなので、脳が安心。
「こういう時ネットでは、確か『恥ずかしくないの?』の逆で――『誇らしくないの?』って尋ねるのよね?」
「いーじゃんそれ。スズ、『誇らしくないの?』」
「ちょ、ちょっと誇らしいかな・・・?」
私はこの誇りを胸に、『あと10年は戦える』。
――しかしチグとその友達の2人。
この美人フィールドには上級生も物怖じして、いちゃもんを付けられないんだな。
陰キャの私なんて、屋上なんて来るのすら怖い。
食事を、つつが無く進めた私達。
やがてアリスが、難しい話を始めた。
「そうなんです。これからお金のやり取りが一杯発生すると思うんですが、経理や経費などのことも考えると、個人事業主になるか法人になるかしたほうが良いと思うんです。最低でも個人事業主になったほうが良いでしょう」
私は話を理解しようと、小さな脳味噌で考えて返事をする。
「会社を作るってこと?」
「経理とか面倒になると思うんで、チャンネルでどなたかを雇いたいんですけど」
「え、雇うの!? ――私が!?」
ちょっと話が、理解し難い方向に流れている。
「信用できる方がいればその方に会社を設立していただく事もできますが、裏切る可能性の有る人は面倒ですし」
「裏切るって何」
「たまに居るんですよ、配信者を裏切る内部のヤツ。なので涼姫を代表取締役にしたいんですが――ご両親は、寛容な方ですか?」
「たぶん無理、お義母さんもお義姉ちゃんも説得できる気がしない」
「分かりました。では最初は私が、代表取締役で良いですか」
「アリスがやってくれるの!?」
「うちの母は、こういう事に寛容なので。18で成人したら涼姫を代表にしますね」
フーリが箸の先でお米を摘みかけて、その手を止めた。
「そんなに、大きなお金が動く可能性があるの?」
「――そうですね。まず」
アリスが便利袋から、この間集めた〈次元倉庫の鍵〉を取り出す。
「会社立ち上げの資金に1つ売りたいんですが、これをオークションに出したとします」
「どこから取り出したの・・・?」
フーリが目をしばたたかせて、持ち上げかけていた箸を落としかけた。
アリスが説明する。
「取り出した場所は、フェイレジェで手に入れたもので――要は猫型ロボットのポケットみたいなものです」
「・・・・なるほど」
「これが1つ、1千万します」
アリスの値付けに驚いたのは、私だ。
「い、いっせんまん!?」
しかしフーリの方はこれには驚かず、事もなげに、
「入る物のサイズや量にもよるけれど、1千万でも安いわね」
アリスの言葉を肯定した。
そ、そういう物なの?
「ですね。あとはアメリカ軍がドミナント・オーガの印石を欲しがると思うんですが、これが1個で1億以上になるでしょう」
さらに私が驚愕する。
「いちおく!?」
だけど、フーリは全く平静。
「へえ、それも凄いものなのね」
「人類でこれを米軍に売れるのは涼姫だけなので、値段は天井知らずかもしれません」
「いいわね」
フーリの表情がお嬢様然とした物から、だんだんと新しい商品をみつけた商人のような楽しげな物になっていく。
アリスが説明を続ける。
「あとお金が入ってきそうなのは、涼姫の配信者としての儲けです。今の勢いなら年間で少なく見積もっても数千万」
「そうよね」
フーリが私を見た。え、なにその商品を値踏みするような表情。
まって、もしかしてチグの友達の中でフーリが一番怖い?
一番清楚で、一番大人しそうな見た目なのに!?
私が怯えていると、カレンが私を腕で隠した。
「おいおいフーリ、悪い顔になってんぞ」
「あら、ごめんなさいね」
アリスが「へえ」とカレンを見た。
そうして、私に耳打ちしてくる。
〔お二人良いですね、フーリさんはかなり経営者としての才能がありそうです。カレンさんは、信用できそうな人です〕
〔うん、多分二人ともいい人だよ。だっていい匂いで柔らかいのに、私の手の甲が挟まれ――痛タタタ!〕
なんか手の甲を、アリスに
すると私の背後で上級生が、
「ちょ、あれスウじゃね?」「マジじゃん」「配信で儲けてるんでしょ、ジュース奢ってよ」
とか言ってる。いや収益化申請したばっかで、一円も入ってきてませんから。
(怖いなあ)とか思っていると、チグが上級生を思いっきり睨んだ。
チグ、顔こわっ! なにその暗黒神みたいな顔! 「善き人間の頭上にも、悪しき人間の頭上にも等しく闇を与えよう」みたいな顔になってるんだけど!?
慈母神のチグしか知らないから、怖すぎるんだけど
私がチグにぶん殴られそうな事を考えていると、真っ青になった上級生がすごすごと立ち去った。
私は、チグを恐れおののきながらお礼を言う。
「あ、ありがと」
「ん?」
するとチグは、疑問の表情をこちらに向けたあと微笑んだ。慈母神が顕現なされた。
なにこれ・・・さっきはあんなに怖かったのに、私にはこんなに優しい微笑みを見せてくれるなんて胸のトキメキが抑えられない。
異世界チートの主人公に助けられたヒロインってこんな気持なの?
しかし恐るべき暗黒神が降臨していたのに、我関さないフーリは箸の先まで神経が通っていそうな完璧な所作でお弁当を食べ終え、お弁当箱の蓋を閉じながら私達に言った。
「スズっちさん、アリっちさん。私も会社設立の話、かませて貰えないかしら?」
『フーリが なかまに くわわった。』
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