第37話 実験します
誰にも聞かれないように、遊具の中へ逃げ込んで、ひとしきり涙を流して這い出てくる。
「このスキルは、本当に不用意に使うものじゃないなあ・・・・何が有るかわかったものじゃない・・・」
ふと思い浮かんでパイロットスーツの残留思念を見てみると、アリスの(スウさんの照れる顔、きっと可愛い)なんて記憶が掘り起こされた。
ドSかあの人。
あと(どうかスウさんに怪我とかが有りませんように)って願いも見えた。
――何も言えないじゃん、もう。
実際、銃弾からも護ってくれたし。今も護ってくれてるし。
私はアリスに感謝しながら、〖サイコメトリー〗で読める距離をさぐりつつ、鉄棒に向かって、残留思念を読んでみる。
逆上がりに成功して喜んだ記憶、ぶら下がりながらダラダラ会話した記憶、綱渡りのようにして上を歩いて落下して股間を打った記憶。
様々な記憶が流れ込んでくる。
読み取ろうとすれば、痛みとかまで分かる・・・。
私は脂汗をかきながら、お腹と股間を押さえて蹲った。男の人のってこんな感じなんだ・・・。
読める距離は、20メートル先が限界みたい。
あとは、すべり台とか車とか記憶を読めば使い方もわかった。
滑り台とか車の変な使い方も見えたけど。
草木も触れると、彼らの言葉はわからないけど、彼らが見てきたものが見えた。
虫も同じ感じだった。ちなみに触れなくて良いので、虫には触れていない。
散歩してる人に使うと、どんな人か何となく分かった。
昔の記憶は見えたけど、見ないようにした。
現在考えてることまでは、流石に分からなかった。
にしても――さっきから気になってたんだけど、人や物体と記憶を繋ぐ糸のようなものが見える。
この線みたいな糸は、なんだろう?
私は鉄棒にもう一度〖サイコメトリー〗を掛けてみる。
そうして、ぶら下がりながらダラダラ会話した記憶に触れてみた。
「なにこれ」
引っ張ることも出来る。
ちょっと強く引っ張ると、糸が切れた。
「え!?」
千切られた記憶がだんだん薄くなって、消えていく。
これって、記憶が消えるってこと!?
私は糸を戻そうと、くっつける。すると、記憶が薄くなるのが止まった。
「いや、鉄棒に残る記憶とか別に誰も気にしないと思うけども・・・」
待てよ?
私は鉄棒に残る股間を打った記憶の糸を切って、滑り台にくっつけてみた。
糸はしっかりくっついて、記憶が薄れていくこともない。
「――これ・・・記憶が移植できたってこと?」
滑り台に、鉄棒にぶら下がって話した記憶が有るってなんやねん。
私は、鉄棒にぶら下がって話した記憶を自分にくっつけてみる。
すると〖サイコメトリー〗なしでも、ぶら下がって話した記憶が我が事のように思い出せる。
「なんてこった、完全に記憶を移植できてる」
私はふと、自分に〖サイコメトリー〗を掛けてみた。
「うお・・・自分の記憶も見えるじゃん」
というか忘れかけていた、昨日の数学の授業も見えた。
黒板にかかれてあった文字まではっきりと見える。
◣涼姫は 完全記憶を 手に入れた!◥
「これ・・・記憶力なくてもカンニングとか――・・・・いや、眉間が光るからカンニングしてるのバレバレか――」
別に首席とかにはこだわってないけど。
「――よし、本当に記憶が消えるか実験をしてみよう」
私はスマホのメモ帳を開き、適当に「♥7」と打ってみる。
スマホを閉じて、自分に〖サイコメトリー〗を掛けて、出てきた「♥7」と打った記憶の糸を切った。
残留思念が消えた所で、自分がなんと打ったか思い出そうとする。
「お・・・思い出せない!」
しかし、記憶の糸を切るところを思い出すと「♥7」の糸を切るところを思い出せた。
「記憶を消したりも出来るのかあ・・・――私の過去のトラウマコレクションも消そうかな・・・」
暫く考えて、首をふる。
記憶が変になっても困るし。記憶ってのは連鎖してるらしいし、止めとこ・・・。
でもあんまりにもキツイ記憶――・・・・例えば中学の時、怪我もしてないのに左腕に包帯を巻いて学校に行って、授業中に「契約の力の暴走が止められない! 抑えるんだ、私。ここで暴走させたら第三の人格が目覚める! みんな早く逃げて!」とかやった記憶――
「――ぁぁぁぁぁあ! 消えたい! みんなの冷たい視線が、私をメッタ刺しにする!」
顔から火が出そうになって覆い隠すと、その場に座り込んで足をバタバタさせた。
こ、これだけは消しておこう!
「・・・・サ、〖サイコメトリー〗の実験はもう終わりでいいや。〖第六感〗を試そう」
まだ少し熱い顔で周りを見回して、犬の散歩をしているお姉さんを見つけた。
彼女に使うと、感じている事らしいものが見えた。
(愛愛愛、爽、溌溌)
うおー、陽キャ。
感情の強いのが、文字数多くなるのかな?
〖第六感〗も、対象に触れなくて良いみたい。
犬にも使ってみると。
(愛愛愛、嬉嬉嬉、好好好)
ご主人様への愛に満々ちていた。
相思相愛だ。お幸せにー。
第六感が届く距離も、20メートル先までだった。
しかし他に実験することもないな、これ。
というか第六感とかパッシブが重要そうだから、実験できない。
「じゃあ後は、〖超暗視〗? まあ暗い場所が見えるだけだろうけど」
丸い――イグルーっていうんだっけ、あんな見た目の半球のドームみたいな遊具の中。
真っ暗なはずの場所が、陽の光に照らされているみたいに見えた。
一度使ったので少し分かっていたことだけど、やっぱり驚く。
「陰が・・・ない、だと?」
あとは明るい場所を見ても大丈夫だし、太陽を直接見ても大変なことになったりもしなかった。
ただ〖超暗視〗を使用中の私の顔がスマホの黒い画面に映ったんだけど、目が光って瞳孔が猫みたいに縦長になってた。
これ、大丈夫なんか・・・?
最後に、〖念動力〗を試してみる。
これは命理ちゃんも持ってて、使うところを見たから使い方がわかりやすい。
「〖念動力〗」
言うと、私の右手が光る。
小石に(動けー)とか思うと、小石も淡く光りだしフワフワ浮いた。
「凄い! 私、ほんとに超能力者みたい!」
これはパイロット止めても、魔法少女としてもやっていけそう。
『魔法少女すずひ★マギカ』
ずっと引き籠もって、ヤマもオチも無さそう。
私の周囲20メートルを超えると、石は落下した。
どうやらコチラも〖念動力〗の到達距離は、20メートル先までらしい。
にしてもなんか、腕に石ころの重さを感じる。
どういう理屈かわからないけど、手で持ってる感じなのかな?
石ころを握りしめるようにして、破壊しようとしてみる。
パンと弾けた。
結構大きめの石だったのに・・・・。どうやら
さらに大きな石で試してみる。
「んぐぐ、壊れろー!」
息を止めて、顔を真っ赤にしたけど今度はビクともしなかったです。
しかし、気づく。
(――あれ? まてよ。腕で持ち上げてる感じなら・・・)
「〖超怪力〗」
もっかい〖念動力〗を使って、さっき壊せなかった石ころを持ち上げ握りしめてみる。
「よ!」
軽く握っただけで、石ころが空中で破裂するように砕けた。
「うおお・・・」
結構、凶悪な組み合わせじゃない・・・?
「持ってる感あるなら、複数の目標を操作するのは可能なんだろうか?」
可能だった。自分から複数の手が生えた感覚になる。変な感覚だけど、VRとリアルの同時操作に慣れた私には問題なかった。
これ、自分の身体に掛けたらどうなるんだろう。
私は〖超怪力〗と〖念動力〗を同時に使って、まずジャンプ――さらに念動力で加速させた。
「あ、やばい!!」
8階建てのマンションの屋上を超えて、9階くらいの高さまで飛んでしまった。
ちょ、死ぬ死んじゃう――パイロットスーツが有ってもこの高さは駄目だと思う!!
私が、猛スピードで落下を始めた。
真っ青になりながら「そうだ、自分を念動力で浮かせよう!!」と気づいて、自分を浮かせる。
なんとか地面と激突するのは防げた。
「チ、チビッちゃった」
涙目になりながら、なんであんなに飛んでしまったのか考えた。
「なるほど・・・・超怪力+超怪力&念動力の力で、あんなに飛んじゃったのか」
私は、涙目を空に向ける。
白く滲んだ月が見えた。
あれ? なんか体がダルい。
体力をやたら消耗している。いくらひ弱な私でも、今くらいの運動でこんなに疲れた試しはないのに。
「あー、もしかしてスキルって体力を消耗するのかな?」
WIKIを調べると、その通りだと書いてあった。ただ、そうとう無茶しなきゃ倒れるようなことはないらしい。
「『1回スキルを使うと、10メートルを全力で走るくらいの疲労になる』かあ。じゃあ10回使ったら100メートルを全力疾走したくらいになるのかな」
今私は、20回くらいスキルを使った。休み休みでも、200メートル近くを全力で走った位の疲労になるわけで――疲れるわけだ。
なるほど注意しないと。
「さて、印石の実験はこれで終わりだけど。もう1個、実験したい事があるんだよね。あとシャワーを浴びよう――スワローテイル、来て!」
指パッチンの合図をすると、待ち時間長めのカップラーメンができるくらいの時間でスワローさんが降りてくる。
一路、月へ。
亜光速航行が行われている間に、シャワーを浴びる。
「そうだ、あれもやっておこう。でも誰もやってないから、多分出来ないだろうなあ」
私は〈時空倉庫の鍵〉のゲートを展開してゲートの中に、食器棚から取り出したフォークを半分だけ入れて〈時空倉庫の鍵〉を閉じてみる。
生まれていた波紋が〝ゆっくり閉じていく〟けど、やっぱりだ。
途中で止まった。このゲートで切断したりは出来ないらしい。
まあ、出来るなら持ってる人みんなやってるよね、空間ごと切断とか最強の攻撃だし。
「あ、でもあんまり硬く無いものはどうなんだろう?」
今度はキュウリを入れてみる。
するとやっぱりゲートが途中で止まった。
「なるほど・・・・安全性を考えて指とかは切れないのかも?」
パイロットスーツを着ている指の先をゲートに入れて閉じてみる。
あー、この圧力だと指も切れないね。なるほど。
私はゲートを閉じたまま指を引き抜いた。
すると指はゲートの枠をすり抜けて、通常空間に帰還。
「なるほどなあ」
あと、なんか倉庫の奥に光の玉が見える。
「あれはなんだろう・・・? 検索してみようかな」
検索してみると、あれが時空倉庫の本体で、あれが壊れると時空倉庫が使えなくなるらしい。
中身入りの物が壊れた時は、その場に中身がぶち撒かれるんだとか。
〈時空倉庫の鍵・大〉にも同じ様な光球が奥に浮いていた。
ただ〈時空倉庫の鍵・大〉は倉庫のサイズが学校のグラウンドくらいあるので、光球も相当奥にあった。
ちなみに、普通の〈時空倉庫の鍵〉のサイズは、マンションの1部屋位のサイズだった。
あと、あれは出来るのかな?
「イルさん、この倉庫の中って入っても大丈夫?」
〈時空倉庫の鍵〉は開くゲートが入れるサイズじゃないけど、〈時空倉庫の鍵・大〉は人でも入れるサイズのゲートが開くんだよね。
私の目の前に ポン と本を持ったイルさんが現れる。
『中に時間が存在しないので、非常に危険です。入ると自らでは出てこれません。誰かに助け出して貰う必要があります』
「えっ、まじか・・・」
『もしもネックレスを持ったまま中に入って扉が閉じてしまうと、二度と出てこれません』
「そ、そんな場所に手を突っ込んでも大丈夫なの・・・?」
『時空倉庫の空間に時間が存在しないだけなので、こちらから手を入れれば大丈夫です』
なるほど、時間って宇宙誕生と共に生まれたらしいしなあ。
「手の届かない物は、どうやって取るの?」
『そのネックレスには一種のVRシステムが内蔵されており、脳波を検知します。なので、欲しい物を念じれば、手元に移動させてくれます』
なるなる。すんごい超科学の産物だなあ。
こんな風に〈時空倉庫の鍵〉の実験をしている間に、月に到着。スワローさんを人型モードにして、足跡を付けて着地。
「よっと」
スワローさんの人型形態は、ウサギみたいなので月が似合う。
スワローさんのワンルームでウサギを飼おうかな・・・・ネザーランドドワーフとか。
動物動画とか視るの趣味なんだよね。
動物とイチャイチャする配信とかならしたい。
「あ、駄目だ。Gが掛かるのにウサギさんが耐えられない」
マンションでも飼えないから、そのうち地球かフェイレジェに家を買ってウサギを飼おう。そして配信をしよう。
「じゃなくて。今日買うのは〈162mmキャノンと〉、盾」
バーサスフレーム用の〈次元倉庫の鍵〉が手に入ったなら、その中に収納する武器が所持できるって事だよね。
「なぜキャノンと、盾を選んだのか」と訊かれると・・・。
『輝き撃ち』って知ってる? 砲身の長いバカでっかい銃を、地面に刺した盾の上に乗せて撃つヤツ。
反動がドカンと来る感じの。
嵐の中で輝きそうな銃の打ち方。
憧れてたんだ。
『やりたいことリスト一つ、かないました』。
162mmキャノンも一杯あるんで、一番大きくて長いのを選んでみた。
『M134ミニガン』に似てるけど、砲身がずっと長くて、グリップも横向きになってる。
あと連射式じゃなくて、一発ずつ撃つ。
戦車の大砲の付いた、横向きの銃って感じ。
これを、腕でぶら下げて撃つんだ。
盾は、細長いシャベルのさきっぽみたいな形のを選んだ。
みたい、というか柄が伸びてシャベルにもなる。
シャベルは最強武器という話もあるし、多分武器にもできる。
というか、シールドアタックとかしたら痛そう。
私は月の地面にシャベルのさきっぽを刺して、その上に162mmキャノンの砲身を乗っけた。
「これこれ!」
盾がちょっと低いんで、スワローさんを前かがみにさせて、大股開きにする。
いま私、輝いてる!
一発撃ってみる。
反動が凄まじくて、月面の重力だとスワローさんが空中に吹っ飛んだ。
「こ、こうなるのか」
にしても凄い威力。スワローさんの火力の無さを補えるかも。
1門程度だと、たかがしれてるか・・・〈臨界黒体放射〉の方が断然強いし。
その後アンカーを購入、スワローさんを地面に固定して「どかーん、どかーん」と言って撃ってると、イルさんに『楽しそうですね、マスター』と言われてちょっと恥ずかしくなった。
「これ、〈時空倉庫の鍵〉のゲートの中を撃ったらどうなるんだろう」
『〈時空倉庫の鍵〉が壊れます』
「デスヨネ」
小さい方は一杯あるけど、大は一個しか無いし。壊すのはいくない。
さて、162mmキャノンとシャベル・シールドを〈時空倉庫の鍵・大〉に仕舞おうとネックレスに触れた時だった。
なぜかウィンドウが開いた。
「・・・・ん?」
扉1~8なんて表記がある。
「え、これってまさか複数扉を開けるの?」
私は、ウィンドウの全てのボタンを押してみる。
空間の歪みが、スワローさんの周りに一杯出現した。
「・・・これは――〝あれ〟も、できるんじゃ」
私は162mmキャノンをもう1門、あとは機関銃とかロケットランチャーとか色んな銃を7つ買って〈時空倉庫の鍵・大〉に入れて一旦、扉を閉じる。
全部で勲功ポイント225万も使っちゃったテヘ。残り125万。
そうして、もう1回扉を開いて〖念動力〗を使って銃たちを持ち上げ・・・・重い。
〖超怪力〗も重ねがけして、色んなでっかい銃の先っぽを扉から出した。
162mmキャノンが2門。
64mm機関銃が2丁。
ロケットランチャーが2門。
荷電粒子砲が2門、扉から顔を出した。
更にスワローさんを飛行形態にして、〈汎用バルカン〉2丁〈汎用スナイパー〉〈臨界黒体放射〉を同時に発射。
「トビラ・オブ・カナガワ。一斉掃射!」
〖念動力〗で、8つのトリガーを引いた。
凄まじい衝撃がコックピットを揺らした。
そうして粉塵が晴れると、月にクレーターが出来ていた。
「・・・これは、絶対強い」
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