第28話 遺跡に到着します
◆◇Sight:鈴咲 涼姫◇◆
私達は音子さんを取り逃がして、ホテルを後にする。
そうしてスワローさんとショーグンで、南へ飛んでいた。
昔の銀行員みたいな格好になったイルさんが、椅子に座って計算機を叩きながら私に伝える。
『マイマスター、連合クレジットが150万、勲功ポイントが300万振り込まれました。ホテルの職員が、連合に連絡を入れたようです』
❝一回で、勲功ポイント300万!?❞
❝ドミオ倒しただけのこと有るわ❞
ドミオってなんだろう、ドミナント・オーガの事かな?
❝ヤバすぎ、流石ドミオスレイヤーってとこか❞
「へ、変な称号作らないでください」
一応釘を刺しながらも、私は内心喜んでいた。
やった、いっぱい勲功ポイントが貰えた。
タンカー買えるかな?
アリスからも、入金報告が来る。
『こっちにも連合クレジットが100万と、勲功ポイントが200万振り込まれました。一回でこれはびっくりです』
❝ウチ、音子なんやけど。スウはん、ウチにもクレジット50万と勲功ポイント100万入ったんやけど、チビりそうなんやけど!❞
「良かったです!」
❝いや、なんでそんな普通に返事できるんよ。これはとんでもない事なんやで!?❞
「―――フェイレジェをまともに始めたのは最近なので、――あんまり勲功ポイントの価値がわからないんです・・・」
❝アカンこの子――全然、事の異常さを理解してない・・・・一回のクエストで貰える勲功ポイントなんて1万以下やのに・・・・クレジットを勲功ポイントが上回ってるとか、更なる異常事態なんよ・・・・❞
ちょっと理解できた。
「なるほど・・・・結構おかしいんですね」
❝結構じゃない❞
❝とんでもない異常❞
そこで、また〝声〟がした。
『―――ボクは祈り続けた。奇跡を』
奇跡?
「あの、ちょっと待ってください。また声がしたんです。アリス、なにか聴こえない?」
『通信ですか?』
❝なんや、声? 聴こえへんで❞
❝うん、聴こえない❞
音子さんや、他のコメントも困惑してる。
「通信なのかな、でも計器は反応してないから―――肉声?」
『え、ここ海の上空ですよ。怖いこと言わないで下さい――座席の後ろに誰か居たりしないんですか・・・』
私は「え、怖」って言いながら、振り返る。うん――ちゃんと、誰も居ないよね。
「イルさん・・・」
執事姿に戻ったイルさんが、メガネを掛ける。
『いえ、当機にはマスター以外誰も乗っていません』
「そうだ、〖サイコメトリー〗を早速使ってみよう」
私が〖サイコメトリー〗を発動すると、私の眉間が僅かに輝いたのが配信に映った。
光にちょっとビックリしていると、南から声が聞こえるような感覚。
『―――急いで。時間がない』
「――時間がない?」
私は今進んでいる方向、南の水面を視る。
『ぜ、全然聴こえませんよ』
❝聞こえへんで・・・❞
すると、目の前だ――スワローさんの前方に、銀髪の女の子が浮いていた。
彼女は流れる涙を一生懸命、手で拭っている。
「ぶ、ぶつかる!!」
私は咄嗟に、スワローさんの操縦桿を思いっきり引く。
急速上昇するスワローさん。
だけど、少女は私の視界から消えない。
つまり彼女は私の網膜に映っているか、脳が見せている幻!? いや、これが残留思念なの?
女の子が顔をあげて、涙に濡れた顔で私を見て安堵したように微笑んで、少女はまたも風に溶けるみたいに消え去った。
アリスが私に尋ねてくる。
『ど、どうしたんですか、急に回避運動をして!!』
❝まじで何か見えてんのか!?❞
❝超能力の力? それとも、VRにおかしな電波でも入ってる?❞
アリスの通信が、少し真剣な物になった。
『超能力に超科学ですもんね・・・なにが有っても驚いていられません。――本当にスウさんだけに声が聞こえたり、姿が見えたりしているのかも・・・声は進行方向から聴こえてるんですか?』
「う、うん、そう」
『じゃあ――もしかすると、あの深海遺跡から―――?』
「深海遺跡?」
『はい、今向かっているクラーケンの巣になっている場所です。この便利袋――正式名は〈次元倉庫の鍵〉って言うんですけど、それがある場所です』
あ、便利袋ってNPPがくれる訳じゃないんだ。
「でも、ちょっとまって。遺跡にある倉庫の鍵? ――それって勝手に持ち出していいの?」
『〝重要な、旧人類の遺跡〟以外の物は持ち出しても良いらしいです。NPPさんたちは永遠の命も持てるせいか、考古学にほとんど興味がないらしくて』
「その辺りは、メンタリティが違うなあ」
『ただ取得物は全て記録されていまして、たまに銀河連合から〝それ〟は回収しますって連絡が来るんで、その場合は渡さないと駄目です――拒否したらBANです。回収されるのは、大概はヤバイ物品とかですね』
「そんなのも落ちてるのか・・・」
『クランで見つけた〝連結対生成システム〟の設計図とかいうのは、回収されました。――なんか「二つの粒子をぶつけたら三つ目の粒子が生まれる」という、無から有を生み出すシステムだったらしいです』
「宇宙の 法則が 乱れる」
『あ――着きましたね。座標だと、このあたりに遺跡が有るはずです。ここの海の中です』
「じゃあ潜水だね」
私は海上に一旦着水して、エンジンを水中モードに切り替える。
バーサスフレームは、様々な惑星環境での行動を想定された機体だから海水なんか余裕。
なんなら、強酸の海の中でだって行動可能なんだとか。マグマの中も、ある程度ならロケットで進める。
翼も結構畳めるから水の抵抗も大丈夫。
私は、エンジンのモードが切り替わったのを確認して、飛行形態のまま海中に入った。
透明度の高い海の中、地球では見たこと無いほど尾が長い魚とか、巨大すぎるマンボウやエイみたいなのが優雅に泳いでいく。どれもカラフルで、南国という感じ。
『スウさん見て下さい、アンモナイトが泳いでいます! ――アンモナイトではないと思いますが』
確かに黄金比の図解に登場しそうな赤い巻き貝の殻から、タコみたいな脚を出した生き物が、ジェット水流みたいな物を吐いて泳いでいる――速ッ。
他にも、なんか海を泳ぐワニみたいなのとかもいる。
カニとヤドカリも多い。ただし、サイズがワイルドすぎる。
魚が群れで一つの生物のように、カーテンのように左右する向こう――人工物らしき物が、エメラルド色の海に差した幾筋もの光に覆われて、視えてきた。
『あれです。1000年前の旧人類の街ですね』
「1000年前って、随分最近じゃない? ――フェイレジェの文明って宇宙に進出してからですら、数千年以上の歴史が有るんでしょ?」
『1000年前は、丁度旧人類が滅びた時期ですね』
ちょっと〖サイコメトリー〗使ってみようかな。
私は、遺跡全体を見る感じで〖サイコメトリー〗を使った。
すると、この都市が滅びた時の情景や沢山の人の苦しみを感じて――即スキルを切った。
そして吐いた。
「うぇ、ぐえっほ、――うぅぅぅ・・・・」
にしても旧人類の姿は、やっぱり地球人にしか見えなかった。
嘔吐するわたしに、アリスがビックリして尋ねてくる。
『ど、どうしたんですか!?』
「〖サイコメトリー〗を使ったら、色んな人の苦しみが・・・見えて」
アリスがちょっと怒る。
『どうして、そんな危ないことしたんですか!!』
「ふ、深く考えてなかったです・・・ごめんなさい。――アリス・・・旧人類ってどうやって滅びたの・・・?」
『旧人類は、どこからともなくやって来た敵性存在と戦うため、敵の技術を盗んで精神兵器MoBを生み出しました。精神兵器MoBは、敵性存在を撃退したんですが、暴走し旧人類も滅ぼしました』
「―――精神兵器ってなに?」
『その辺りはよくわかんないです』
「えっと、じゃあイルさん教えて」
司書の姿になったイルさんが、宙空から本を取り出して読み上げる。
『イエス、マイマスター。精神兵器とは、有機・無機関係なく、精神を与え、精神を操り、精神を破壊する兵器です。ゴブリンも、無機物にMoBが精神を与えた存在です』
「しかも与えるのが、人間を苦しめたりする精神かあ。目的に対する満足と飢えだけの単純な精神?」
『はい。MoBの精神は、人間の精神とは似てすらいません、異なるものです。ですから精神であり、精神ではありません。人間や動物のような精神を持つかと条件をつけて訊かれると、ノーです。MoBの与える精神、それは単なる行動の目的プログラムのようなものです』
「――うーん・・・なるほど」
でもプログラムなら、人権のあるヒューマノイドさんと、どう違うんだろう?
ヒューマノイドさんの心は、徹底的に人間に似せているんだろうか?
『どちらにせよ、MoBの与える精神を持った者は、人間を徹底的に排除してきます。人間の殲滅が目的です。そのようにプログラムされています。MoBが精神を与えたモノを倒さねば、人間が滅びます』
難しい話だなあ。
ただ、MoBと話し合いはできないのだろうか。
『ちなみにマスターが懸念しているであろう事項「話し合い」は、1000年間で何度も試みられてきました。しかし彼らの精神には目的に対する〝飢え〟か、目的に近づけたり完遂したときの〝満足〟。この2種類しかありません。2種類の変数しかないので、話し合いがほぼ不可能です』
「うーん」
私が首を傾げたときだった、何かが私の機体に後ろから触れた感じがした。
「え――」
振り向けば、巨大なタコ。
「エイリアン・クラーケン!?」
『スウさん気をつけて下さい!』
アリスが通信で叫んだ。スワローさんに、触手が絡まっている。
「この――っ」
あ、不味い。触手がスワローさんを簀巻きにして、こっちの手足が動かない。
力が強すぎる――やっぱ神話生物なんじゃないのこいつら!?
私はスワローさんの、〈励起剣〉を展開。
するとあたりの水が一気に蒸発して、前が見えなくなった。
というか、水蒸気爆発。
爆発の威力で、スワローさんが吹き飛ばされた。
シールドがないと、機体が損傷してただろうなと言うほどの爆発。
「ちょ――」
しかもあれだけの爆発だったのに、触手はびくともしてない。
絶対神話生物だ、コイツ等。
神話生物ってばウ◯トラマン・◯ィガの攻撃も受け付けないし。
アリスが、通信で教えてくれる。
『水中で、エネルギー兵器は止めたほうが良いかもしれません!』
「〈臨界黒体放射〉も、〈黒体放射バルカン〉も・・・・!?」
イルさんの警告が入る。
『マイマスター、この惑星上での黒体放射系武器は推奨されません――というかロックが掛かります。ガンマ線による放射能汚染が、ひどい事になりますので。ガンマ線は水では遮れません。マスター達はパイロットスーツでほとんど防げますが。この惑星の人や生物が危険です――』
「そ、そっか」
焦って、忘れてた。
アリスも、わたしに警告してきた。
『というか、このタコは熱を食べるんですよ』
「熱を食べるの!? じゃあ黒体放射も励起系も、そもそも効かない?」
アリスは、腰からナイフを2本取り出す。
『駄目ですね〈ソニック・小太刀〉』
振動系の刃物らしい。刃の部分がブレて周囲の海水が細かく泡立っている。
アリスが、私を救おうとこっちに向かってくる。
けど――飛んでくるアリスの前に、別のクラーケンが立ちはだかった。
『――じゃ、邪魔するってわけですか!?』
クラーケンが触手を伸ばす、アリスはそれを捌こうとするが変則的な動きをする上に柔らかい相手に若干、苦戦してる。
スワローさんにも実弾系の武器が装備されてるけど、全部当たらない位置にある。
腕を動かせば取れるかもだけど、腕が動かない。
クラーケンの締め付けで、スワローさんの身体が軋んだ。
イルさんが、大工の姿になる。
『マスター、足に損傷。軽微』
「もっとヤバそうな敵と戦ったのに、タコなんかにやられてるとかシャレにならない――イルさん、人型形態!」
『スワローテイル、人型形態』
機体の体の形を変え、翼をマントのように畳んだ事で締め付けが緩んだ。
私はVRで跳躍しながら、エンジンを回した。
猛烈な泡を足から放って、スワローさんは触手を抜ける。
私は水の抵抗を利用して、蹴るように急速反転。
翼の中から取り出した〈汎用バルカン〉を構えて、クラーケンを蜂の巣にした。
「ゆ、油断さえしなければ、相手じゃないね」
『こっちも片付きました』
アリスもクラーケンを倒して、こちらに向かってきた。
私は、暗い海底に沈んでいくクラーケンを眺める。
「こうして生き物を殺してるわけだし、今更か―――」
私とアリスはホテルの人から渡されたパスコードで、透明のドームの中に侵入する。
このドームは銀河連合が作ったもので、MoBや生き物の侵入を阻む物らしい。
「ま、中は魚介類だらけなんですけどね」
ドーム内を スイー と泳いでいく無数のタコたち。
ビルみたいなのから、丸い頭が「こんにちわ」してたり。
他にも、そこら中で海産物がうごめいている。
「ドーム、機能してないじゃん」
『ですねえ』
「どこから入って、どこから出ていってるの・・・」
『銀河連合も、調査してないみたいなんで』
「これを
『彼ら、考古学に興味ないですからねえ』
お役所仕事万歳。
「これ、タコに近づいたら戦闘になったりするの?」
『しますね。エネルギーを食べる彼らの群れに、エネルギー満載の機体で近づく訳ですから捕食対象です』
「じゃあ、スワローさんから降りて、生身で――」
カメラの前をワニみたいな海産物が スイー。
「――やめとこ」
ショーグンが、ハンドガンを取り出す。
『という訳で、遠距離から撃つわけなんですが――私は銃が・・・・』
「私がやるよ」
『ありがとうございます!』
私は、人型形態の背中から〈汎用スナイパー〉を取り出す。
そうして、弾丸を水中用の物に変更。
スワローさんを人型形態のまま寝そべらせて、スナイピング体勢に移行。
スコープを、汎用スナイパーにくっつける。
視界に関してはVRで操縦してるので、スワローさんのサイズに私がなった感じで景色が見える。
スコープにスワローさんの顔をあてて〈汎用スナイパー〉のコッキングレバーを引いて、引き金に指をかける。
照準を、タコに。
「ま、動いてるのも少ないし」
こちらに気づきにくそうな遠くのタコから、順番に撃っていく。
適当にタコの脳辺りをピスピス撃っていくと、浮くタコがいたり、沈むタコがいたりしたけど。
視界が、だんだんタコの壁みたいになってきた。
『水の中でも、見事に全部一発で仕留めるんですね』
「でないと、こっちに気づかれそうだから頑張ったよ」
『でも急所の脳はあの体躯に比べて、小さいんですよね』
浮かぶタコを見たコメントが、にぎやかになる。
❝なんかお腹空いてきた❞
❝俺も❞
❝日本人は、本当にタコを食べるんだな❞
❝めっちゃ美味いんやで?❞
❝特に新鮮なヤツの刺身とかコリコリして、最高。見た目も透き通って綺麗❞
❝そこは、たこ焼きやん!❞
❝イタリアでも食うぞ、カルパッチョに乗せると美味い❞
❝なんや、海外に同志おるやん❞
❝なんか物凄い勢いで登録者数伸びてる、60万とかなってね?❞
❝ハッハッハ。ウチの視聴者が来たんやろ~、ウチの貞操の恩人やし。みんなちゃっちゃと登録するんや~。でもあんたらの一番はウチやで?❞
「音子さん、いいのかな――」
❝その代わり、スウのチャンネルの
「私、やり方が・・・・」
『やっときました』
「アリスありがとう!」
『いえいえ、やること無くて暇ですから。ちなみに倒したクラーケンは持てるだけ持って帰って、売りますよ』
「まじですか」
『結構いい値段で買い取ってくれます』
でもそりゃそうか、エイリアンって名前が付いてるからアレだけど――タコだし。食べ慣れてる人にとってはただの海産物だもんね。
~~~
挿絵(というか図解) 光崩壊エンジンの仕組みです。
https://kakuyomu.jp/users/mine12312/news/16818093088540349483
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