第26話 乱獲します
私達とスワローさんは、僅かなGを受けて空に飛び出す。
後ろから、アリスとショーグンもついて来た。
私はスワローさんを操縦しながら、ホテル上空に移動。
「居た」
オーガが、ホテルの壁を昇っている。
「虫型でもないのに、どうやって登って――」
ホテルの壁面に、拳を撃ち込みながら昇ってる・・・・。
私は、思わずポツリと本心を呟いてしまう。
「あんなのとマトモに戦えるか・・・・アホ・・・」
「スウって、前に配信で見た時はおとなしい感じやったのに、結構口悪いんやなぁ・・・」
「あ・・・ごめんなさい・・・・
「あんな大人しい感じなのに、口悪いのが本性なんや?」
なんだか、音子さんが楽しそうに笑った。
❝なるほど、そっちが素なのかwww❞
❝そんな君も愛してる❞
❝頭の中では、物凄い罵倒とかしてそうワロワロwww❞
❝むしろ、直接罵倒されたい❞
「でもドミナント・オーガって、いくらでも再生する相手なんやろ? どないするん?」
「こうします」
私はスワローさんを飛行形態のまま、機体の腕だけ動かして壁に張り付いたオーガを掴んだ。
❝うわ―――この子――飛行形態で腕を動かしたよ・・・・❞
❝まーた、VRとリアル操縦桿を同時操作したのか❞
私はオーガを引き剥がそうと、引っ張る・・・・が。
「あれ? 動かない――」
って、コイツ・・・・スワローさんのロケットエンジンに腕力で抵抗してる。
なんて馬鹿力・・・。
「イルさん、上昇しつつ光崩壊エンジン全開」
『イエス、マイマスター!!』
ロケットエンジンの全力には、流石にオーガも――うわ、壁を引き剥がして持ってきた。
ホテルの壁の方が、オーガの馬鹿力に耐えられなかったみたいである。
オーガが、ホテルの壁でスワローさんをガンガン叩く。
「上昇を続けて」
オーガが暴れないように、ヤツの腕を掴んで、大気圏外へ。
そうして、完全に惑星の引力から逃れた所で、
「二度とくんな!!」
言って、エリアスの近くの恒星に向かって、オーガを投げ捨てた。
多分恒星には到達しないだろうけど、悪さも出来まい。
「イルさん、一応、〈臨界黒体放射〉で焼いてみて」
『イエス、マイマスター〈臨界黒体放射〉発射』
イルさんが腕を振るうと、コックピットが閃光に包まれた。
光が収まると、オーガの姿は確認できなかった。焼き消えたみたい。
しかし、視界に表示されている〝オーガ種ハイパーミュータント、ドミナント・オーガ〟という文字が消えない。
嫌な予感がしていると――何もなかったところに突然、肉塊が湧き上がるみたいに出現。
やがて、元のオーガの形になった。
「駄目だ、これは・・・」
しかし、幾ら再生してももう遅い。
オーガは暴れながら、恒星の光に消えて行く。
「まあ、コレはコレでよし」
「スウ、これって・・・・
❝嘘だろうオイ・・・❞、
❝ガチでハイパーミュータントに対する、人類の初勝利じゃないか・・・・これ❞
❝世間がまた騒ぎ出すぞ・・・・❞
いや――あれでも倒せるとは思えないんだけどね。
とにかく今は、ホテルの人を助けないと。
するとイルさんがメガネを掛けた。そして前方を指差す。
『マイマスター、ドミナント・オーガが印石を落としたみたいです』
「へ、なんで?」
『身体を、二度完全破壊したからだと思われます』
「二度?」
『一度目は、アリスさんとの協力で地面への落下。二度目は、今の臨界黒体放射による破壊です。二度目は、マスターのみによる破壊なので高確率になったようで、印石が出現したようです』
「―――え、じゃあさ、ドミナント・オーガが復活する度〈臨界黒体放射〉を照射し続けてたら・・・。とりあえずもっかい、ドミナント・オーガを消し飛ばして」
『イエス、マイマスター〈臨界黒体放射〉照射』
再びイルさんが腕を振るう。
❝どういう事だ? 何をするつもりなんだ?❞
❝いや――まさか❞
肉塊が ジュ っと消えた。
イルさんが、また眼鏡を掛けた。
『マスター、印石が出現したようです』
❝ちょ、おまっ!! ――乱獲か!?❞
❝人類の到達できた最大の深さ30層の凶悪モンスターで、しかも誰も倒したことないモンスターの印石を乱獲するつもりなのか!?❞
❝Miss Sū! Please, we’re eager to buy a memorites!!(ミス、スウ! どうかその印石を購入させてほしい、どうしても欲しいんだ!!)❞
ジェームズさんがすごい勢いで欲しがってるけど――先にヴィックと約束してるからなあ・・・。
私は正直に返答する。
「先約がありまして」
❝先約? ――USSFか!! ヴィクターの野郎だな!! 狡猾な奴の事だ、やはり抜け駆けしていたか!!❞
あ、バレた。
ヴィックごめん、上手くやって―――。
「と――オーガに構ってる場合じゃない、残ったゴブリンを掃討しないと」
私が惑星に反転しようとすると、アリスの顔が視覚の端に表示されて通信をしてくる。
『配信を見ていました。音子さんの情報でホテル職員さん達がいる場所を見つけたので、地上にいる私とショーグンで助けてきます。位置さえ分かればバーサスフレームで大暴れしても良いでしょう。スウさんは思う存分乱獲してください』
「え、一人で大丈夫?」
『ロボットを使えば、生身のゴブリンなんて物の数じゃないですよ』
「それはそうか。じゃあ、後でアリスもオーガを乱獲する?」
『そうですね。暫くしたら交代してください』
通信していると、音子さんがおずおずと尋ねてきた。
「な、なあスウ、ウチもええ?」
「もちろん、私の機体を貸しましょうか?」
「大丈夫、ウチもバーサスフレームに乗ってきとるよ! 駐車場みたいな所に停めてあるねん!」
「じゃあ、暫くしたら交代しましょう」
こうして
『でも、帰りの推進剤は残しててくださいね』
アリスの忠告に音子さんが、ポンと手を打つ。
「あ、忘れる所やったわ」
私はアリスが心配なので、言っておく。
「アリス、ヤバそうだったら通信入れてね、すぐ戻るから」
『まず心配はないと思いますが、もしもの時はお願いします』
その後、私はある程度したら地上に戻って、アリスと交代。
ホテルが壊れそうという事で生身でも戦うことになったけど、ゴブリンを全滅させてホテルの職員さんたちを脱出させた。
ちなみに私が手に入れたドミナント・オーガの印石は、こんなのだった。
★1 コモン:〈超暗視〉。
★★2 アンコモン:〈第六感〉。勘が強くなる。パッシブで働くこともある。アクティブで使えば、簡単な印象を知ることが出来る。×2
★★★3 レア:〈超怪力〉。とてつもない怪力を身につける。×2
★★★3 レア:〈超能力|(ランダム)〉。ランダムに超能力を得られる。×2
私は〈奇跡〉のお陰か、4種類も手に入れられた。
というか〈第六感〉と〈超怪力〉と〈超能力|(ランダム)〉が追加でもう1個。
〈超能力〉の印石から得られる超能力はランダムらしいので、〈第六感〉と〈超怪力〉をヴィックに売ることにして。
〈超能力〉は2つとも使った。手に入った超能力は〈超能力(ESP/サイコメトリー
〖サイコメトリー〗は、残留思念を読み取ったりできる。μになると干渉まで出来るそうな。
〖念動力〗は、念力で物を動かせるらしい。μなら、かなりの重さまで動かせるんだとか。
ちなみにμはギリシャ文字らしい。
次の順番で強くなるらしい。
なんか、似たような文字が多い。
あと星だからか、ギリシャ要素強い。
アリスは超能力〈超能力|(ペルスキネシス/透視μ)〉。かなりの厚さまで物体が透けて見えるってアリスが言ってた。
〝ペルスキネシス〟は、心理と物理両方に作用する超能力の分類らしい。
音子さんは〈第六感〉を手に入れられたみたい。
『〝明日の平和〟をクリアしました。銀河クレジット10万と勲功ポイント5万を手に入れました』
それから、なんと。
『スウさん、大変です! ゴブリンを倒したら〈大釜〉をゲットしました!』
アリスが噂の〈錬金釜〉をゲットしてらした。
こうして色々ゲットしながらホテル職員さん全員をホテルから助け出し終わると、砂浜で全力でお礼を言われた。
20人くらいいる。
「ほ、本当にありがとうございました!!」
「ケガ人は出たものの、幸い死亡した者はおりません」
「死んでも再生はしてもらえますけど、なんというかそれはやはり自分とは――」「おいっ!」「あっ! なんでもありません」
うーん・・・やっぱり、連合の人たち的にも死んでからの再生は自分のコピーって感覚っぽいな。
やっぱり死んじゃだめだな、これは。
もしコピーされた私が出来たら、その人は本物として生きたら良いけど――どんなにそっくりでも、彼女は他人だ。
今の私は――居なくなる。
とか私が考えている間も、まだホテルの職員さんが沢山のお礼を続けている。
私とアリス、音子さんの推進剤も、無料で補充してもらったし、もう良いのに。
あと、ホテルのご飯をパックしてお弁当にしてもらった――グルメな私的にはすごく楽しみ。
――ちなみに
ホテルの職員さんはヒューマノイドさんが多い。
データノイドさんも2、3人いるけど。アニマノイドさんはいない。
私は、代表らしいパリッとした制服のカッコイイ男性ホテルマンさんに尋ねる。
「後はもう大丈夫ですか?」
「はい。もうゴブリンも居ませんし、ホテルの被害も最小限に抑えて貰えたので再建はすぐに終わると思います」
「じゃあ、エイリアン・クラーケンのクエストを開始できますか?」
「もう行かれるんですか?」
「明日も学校ですし、あの状態のホテルに泊まる訳にも行きませんし」
ホテルマンさんが苦笑いする。
「確かに、今の状態の我がホテルはお客様をもてなせる状態では有りませんね」
「いえ、私は気にしないんですが―――ご迷惑かと」
「あはは、ではいずれお泊まりに来て下さい。もちろん無料で歓迎させて頂きます」
「ほ、本当ですか!?」
ラッキー。
え、遠慮しないのか? 断らないのか?
周りの風景は、アホほどバカンスなんだよ。バカンスっていうかアホンスなんだよ!? 遠慮なんてするわけ無い。
「ウチもええ?」
「もちろん音子様も歓迎させて頂きます。アリス様も」
アリスが嬉しそうに言う。
「じゃあ、みんなで来ましょうね。南国みたいな場所ですし、どうせなら寒い時期になったら来ましょうか」
あれ?
みんなで泊まっていいの?
「ちょ――!」
私は、喜びのあまり奇声を挙げそうになって口元を押さえる。
(――これって、生まれて初めての同い年くらいの人との旅行じゃない?)
しかもお泊まり!! 同年代の人とお泊まりとかしたこと無いんですけど!!
超嬉しいんですけど!?
友達と思ってたグループの人たちが、日曜にみんなで旅行に行ってて私は誘われて無くて、月曜日に話についていけなくて「え、あはは」ってなった事しかないんだけど!
ま、まあ修学旅行はあるけど・・・あれは、ずっとボッチだったしなあ。
私が押さえた口の中で「でゅふでゅふ」と笑って会話不能に陥っていると、アリスがホテルの職員さんと話を進めてくれた。
「じゃあ、パスコードを頂けますか?」
アリスがホテルの職員さんに、なにかを貰おうとしている。
パスコードってなんじゃろ。
アリスは、青い棒の様な物を3本ホテル職員さんから受け取る。
しかし、音子さんが両手を突き出して振った。
「ウ・・・ウチは、今日はもうええわ。体力も無いし、精神的にも結構キてるから休むわ」
「そうですか――」
「けど、また良かったら一緒に冒険してほしいねん。一式 アリスやスウとコラボしたいとかじゃなくてしたいとかじゃなくて、二人と一緒に冒険したいんよ」
「こちらこそお願いします。一緒に冒険しましょう!」
「でゅふでゅふ!」
「まじで!? ―――ほんま嬉しい、赤い閃光のアリスと、〝
❝あ、こら❞
❝音子さん、〝狂陰〟をバラすな!❞
私は自分の笑顔が、スッと消えたのが分かった。
「狂陰のスウ?」
私は左斜上に浮いて撮影しているイルさんに歩き寄って ガシッ と掴んで顔を近づけながら詰問する。
「これ、どう聞いても〝狂った陰キャ〟って言ってますよね? どう考えても悪口ですよね?! 誰が考えたんですか!!」
❝俺が考えた❞
❝俺も俺も❞
❝ワシが育てた❞
❝ガチ恋距離たすかる❞
「怒らないから自首しなさい! 犯人は誰ですか!」
❝オレオレ❞
❝オレオレ❞
❝オレオレ❞
全員が、オレオレ詐欺をしだした。
「自首が多すぎて、犯人を特定できない!?」
私は砂浜に四つん這いに倒れて、涙を流した。
「狂ってないもん・・・・陰キャじゃないもん・・・・」
❝狂ってるかはともかく・・・・「陰キャじゃない」は、流石に無理がありすぎないか・・・?❞
❝言い逃れ不可能だよな・・・❞
「しくしく」
するとアリスがキョトンとした。
「え・・・・陰キャの皆さんだって素敵じゃないですか・・・?」
「陽キャめ・・・その陰陽は
❝スウたん、本性漏れてる、本性漏れてる❞
❝ワロワロwww❞
「ほな、ウチ行くわ! あ、フレンド申請送ったから、そこん所よろしくなー!」
❝あ、バラしたヤツが逃げるぞ!❞
❝誰か捕まえろ!!❞
❝音子さん、またねー❞
「またなー! パイロットスーツは洗って返すでー」
「あ、別にあげますよー」
「マジで!? 大切にするわー!」
❝おい、スウたん! 音子にパイロットスーツを渡したらヤバイぞ!❞
❝アイツ、スウ推しなんだよ!!❞
「え・・・・・・音子さんって、私を推してるんですか!? 私を―――女の子が推している!?」
や、やばい! ニマニマが止まらない!
❝おい、喜んでるぞ❞
❝いかん、コイツ分かってない❞
❝自分を推してる奴にあんなピッチリスーツ渡したら、何が起こるか❞
❝スウたん。自分が推しのスーツを貰ったらどうするか、よーーーく考えるんだ❞
なんかコメントが騒がしい――――。
自分がアリスのスーツを貰ったら?
・・・・私は暫く考えてみる。
「あ―――音子さん、ダメです。やっぱりパイロットスーツを返して下さい!!」
❝考えた結果がそれか!❞
❝スウたん、自爆してるぞ!!❞
❝自ら処刑台に登る
音子さんの走る速度が上がる。
走力を、ものすごく強化してる!!
瞬く間に小さくなった音子さんは、私達とカメラに手を振って「いっぺん貰ったら、もうウチのもんやー!」とか冒涜的な言葉を吐き散らしながら、翼の生えたマシュマロみたいな機体に乗ると、エンジンを噴かして空に消えた。
❝腐っても古参の実力派にして、日本で登録者数トップクラスのプレイヤー配信者、早すぎワロ❞
❝やっちまったなwww❞
この世にまた一つ、新しい悲しみが生まれた・・・。
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