第25話 配信者の救出に向かいます
私達は頭を切り替え、最大の警戒でアリスと一緒に廊下を進んでいく。
にしても、警戒しながらFPS症候群に罹ったみたいに シャキ スパッ とか視聴者に披露して、最初の内は「何やってるんだろ自分」―――とか、思ってたけど。怪我してからは(本当に死ぬんだ)って思って、冗談じゃなくなった。
動きを最適化しながら、アリスと出来るだけ死角を作らないように廊下を見回しながらゆっくり歩く。
階を上がっていくと、何度かゴブリンとの遭遇があった。
30分ほど掛けて16階まで来た時だった。
あるコメントが視えた。
❝緊急情報だ! やばい、そのホテル不味いぞ!❞
❝どうした、どうした❞
❝大手配信者が、同じホテルを探索してるんで同時視聴してたんだけど、そこ――ドミナント・オーガがいる! オーガの
❝ドミナント・オーガって! 人類が到達できた最下層、30層の敵じゃねーか・・・・!❞
❝
❝ワンダリングでも、2層で30層の敵はエグイぞ―――❞
❝逃げろスウたん! 18階で、女性配信者が捕まって〝ゴブリン共に、凌辱されかかってる〟!!❞
私は走り出した。
階段を一気に駆け上る。
❝なんで奥へいくんだ!!❞
「助けます」
私は階段を駆け上がりながらグラップルワイヤーを、視えてきた17階の天井に貼り付けて飛ぶ。
「お供します!!」
アリスもグラップルワイヤーで飛んでくる。
「アリスは戻って!!」
「こんな時に、冗談を言わないで下さい!!」
―――アリスは、一人でも行きそうだ。
「後ろは、任せるよ!?」
「お任せください!!」
❝無茶だ!! いくらスウとアリスでも!! 敵は30層のヤツだぞ! 敵が強力すぎて探索が止まっている30層のドミナント・オーガだ! 軍隊が壊滅した相手だぞ!!❞
❝Misses,Think again! That monster killed many of my men!!(お嬢さん達、考え直せ! その化け物は私の部下を何人も殺したんだ!!)❞
でも大丈夫。私が死んでもコピーの私が、誰も悲しませない。
それより、誰かが凌辱されそうになっている事の方が問題だ。
「コメントの皆さん、お願いします。あちらの配信者に、私がすぐ行きますって伝えて下さい! 諦めないで、時間を稼いでくださいと! ――たとえ死なないと言われるフェイレジェでも、自害とか絶対させないで!!」
❝でも―――!❞
❝俺、伝えてくるわ❞
❝俺も❞
18階の天井にグラップルワイヤーを着けると、音が聞こえたのか、ゴブリンが階段の上に現れた。私は、3匹の眉間をすぐさま撃ち抜く。
だけどまだ、倒れたゴブリンの後ろから6匹も来る――っち、数が多い。
私がハウスキーパーの照準を目の前に持ってくると、後ろで跳躍する音がした。
アリスだ―――、アリスは背中の蛍丸を引き抜きながらグラップルワイヤーで跳躍していた。
「
(――凄い跳躍力)
❝アリスたんの印石スキル、〖重力操作〗だ!❞
さらにアリスは迷いなく、ゴブリンの真ん中へ。
「
長い蛍丸にとんでもない
青く光った高周波ブレードが、光の粒を撒き散らしながら6匹のゴブリンたちを真っ二つにした。
❝さすが――❞
❝正に閃光のアリス・・・・❞
コブリンたちが、結晶化して消える。
「スウさん、急ぎましょう」
「うん!」
あちらの配信にコメントをしに行ってくれた人たちだろうか、報告が入る。
❝スウとアリスが来るって知って、配信者が必死で抵抗してる! こうなったらもう2人とも、頑張ってくれ!!❞
❝向こうの視聴者が、滅茶苦茶お礼いってるよ。頑張って!❞
さらには、向こうの視聴者さん達まで来たみたいだ。
❝スウさん! ありがとう!!❞
❝急いでくれ!!❞
❝
「任せて!!」
「お任せを!!」
2人でグラップルワイヤーを使い、飛ぶように移動を続ける。
そうして―――
(あそこか!!)
大量のゴブリンが群れている部屋を発見。
「やァめェろォォォォォォ―――!!」
私はグラップルワイヤーにぶら下がりながら、音子さんらしき影を確認すると、彼女を避けてハウスキーパーを掃射する。
瞬く間に倒れていく、ゴブリン共。
顔中を涙で濡らした音子さんが、私に助けを求める様な瞳を向けた。
「今助けます!!」
音子さんのパイロットスーツらしき物がズタズタだ。ゴブリンが、音子さんの顔や身体に群がり、紫色の長い舌で舐め回す。
音子さんはソイツ等を、必死で押し返そうとしている。
私は、未だ音子さんに群がるゴブリン共の眉間を全て撃ち抜く。
「イルさん、リアルタイムで音子さんの身体にモザイクかけれる?!」
『イエス、マイマスター。アリス様、カメラの操作権限を譲渡してください』
「スワローテイルに、カメラ権限を譲渡」
❝スウさん、音子さんにモザイク掛かったよ!❞
❝音子さんの身体は視えてないから、自由に戦って大丈夫❞
「教えてくれてありがとうございます!」
自由になった音子さんがコチラに駆け寄ろうとした。――が、彼女の腕が引っ張られ何か巨大な影に持ち上げられた。
あれが、ドミナント・オーガ!?
3メートルは有りそうな巨体が、ホテルの天井が低いのか前かがみになりながら音子さんをぶら下げていた。
網膜に情報が、表示される。オーガ種ハイパーミュータント、ドミナント・オーガ。――間違いない。
にしてもこのドミナント・オーガというヤツ――見た目が、肌色の肉塊が不格好に積み上げられ、ホースみたいな赤い動脈と緑の静脈を適当に巻き付けたようで、本当に不気味。
ドミナント・オーガは、脈動する肌色の人間みたいな顔面で厭らしく嗤う。
コイツは、蟻の顔をしていない。
ドミナント・オーガが、暴れる音子さんをこちらに、釣り上げた獲物を自慢するように見せつけてくる。
私はオーガの眉間を撃ち抜こうと、銃弾を発射した。
――けど、オーガは手のひらで銃弾を防ぐ。しかも銃弾により空いたオーガの手の穴が、すぐさま塞がる。
再生持ちなのか――しかも、とんでもなく速い。
❝Missスウ!! そいつは無限に回復する!! 頭を吹き飛ばそうが、心臓を吹き飛ばそうが無駄だ!❞
ジェームズさんからの情報。
なるほど―――。
私が作戦を考えていると、アリスが後ろで叫んだ。
「突っ駆けます!!」
私はワイヤーを巻き込んで、天井に跳ぶ。
私の眼下を、赤い残像が駆け抜けた。〖重力操作〗を利用したんだろう、とんでもない速度で閃光みたいだ。
「覚醒めよ、蛍丸!」
アリスが蛍丸を構えて弾丸のように回転し、
アリスはオーガの前で一瞬、目をつむって息を吸ったかと思うと、
「胴ォォォォォォ!!」
と、蛍丸を振り抜いた。
オーガが胴体を両断され、ズレる。
オーガの下半身が、結晶化して砕け散る。
だけど、もう上半身から下半身が生え始めている。オーガの身体が、まだ落下中なのに。
「――でも」
私は息を、閉じた歯から鋭く吐く。
そうして、足を床に叩きつけて跳び上がる。
(入れ、ゾーン!!)
オーガは、アリスの一太刀でバランスを失った――ならば
私は部屋の天井にグラップルワイヤーを貼り付け、飛びながら窓へ突進。
ガラスを蹴り破って、ホテルの外へ飛び出した。
❝うわ―――何やってんだ、スウさん!!❞
ドーナツ型の円筒形な建物の、ドーナツの内側に来た。
「幾らでも再生する? ――それなら!」
私はグラップルワイヤーを、オーガの胸にくっつける。
「アリス―――!!」
「―――はいっ!!」
アリスが、音子さんを掴むオーガの腕を「小手ェェェェェェ!」と叩き切った。
さらに返す刀で、オーガの再生してきた足を切り飛ばし、オーガを蹴り飛ばす。
アリスは〖重力操作〗でオーガの体重を下げたのだろう。オーガの上半身だけでもアリスの倍は重そうな巨体なのに、あっさり吹き飛んだ。
私は勢いに乗って、窓の外へオーガを引っ張り出そうとする。
だが、オーガが暴れて抵抗しようとする。窓枠に手首のなくなった腕を絡ませようとした。
その間にもオーガの手が、回復しようとしている。
私は落下しながらオーガの眉間に、ハウスキーパーを連射する。
❝ちょ・・・・まてまてまて❞
❝フルオートなのに、落下しながら銃弾を正確に眉間に撃ち続けてるぞ!?❞
❝馬鹿げたリコイル・・・❞
「幾ら再生できるからって、脳を破壊されたら思考できないでしょう!」
オーガの腕が緩んで空中に向かう。
だけど私も落下して、ワイヤーが窓枠に引っかかって振り子のように壁に叩きつけられた。
「――ぐ」
私は「ならば」と、壁に足をついてワイヤーを思いっきり引っ張る。
だけどこっちは、普通の女子高生の力しか無い。オーガはあんまり動かない。
するとアリスが、もう一度オーガを蹴り上げたのか、巨体は完全に窓の外に投げ出された。
私はワイヤーを一本背負いするようにして、空中のオーガを加速させる。
壁に着けた私の靴底が滑り、身体が落下を始める。
私は勢いの付いたオーガに引っ張られ、空中に身体を浮かされた――そうして僅かな浮遊感の後、落下し始めた。
私は、オーガがもう何も掴めない位置まで来たのを確認して、グラップルワイヤーをオーガから
オーガが、私のグラップルワイヤーを掴んだ。
「この―――っ!! 離せ!!」
私はワイヤーを巻き上げて、オーガに接近する。
そうしながら、オーガの手首をハウスキーパーで掃射した。
この銃を地球で撃てば対物ライフルと間違われそうな威力の弾丸が、オーガの腕を千切り飛ばす。
私は
グラップルワイヤーを再び伸ばして――元の窓枠へくっつけ、そのまま室内に戻る。
オーガは一人で落下。ホテルの下の地面に叩きつけられて、血溜まりになった。
でもアイツは、多分復活する。
私は、部屋に戻って叫ぶ。
「アリス、音子さん逃げるよ!!」
「はい!」
「う、うん!!」
別に倒す必要なんてないんだ。
軍隊の人たちが勝てなかったのに、私が勝てるだろうか。
――なら、戦わない。
❝Missスウ、ベストな判断だ・・・・私の部下も何人かは、そうやって生き残った・・・❞
私は、階段に向かって走ろうとする音子さんを、腕で制しながら抱きしめる。
音子さんの顔が、真っ赤になった。
「え!? なんなん!? スウって〝そっち〟の人!?」
音子さんが、背の高い私を、ちょっとだけ上目遣いに見上げた。
そ、そうじゃない!
ちなみに音子さんは、メッチャ柔らかかった。
にしても、音子さんって関西弁なのか。
私は音子さんを抱いたまま、オーガが落下した窓の反対側の窓に蹴りを食らわして割る。音子さんに、簡単に説明する。
「こっちのほうが早いと思います! スワローテイル、来て!!」
指を鳴らしながら、グラップルワイヤーを窓枠に接続し、勢いをつけて窓の外へ飛び出した。
私の行動に、音子さんが叫ぶ。
「―――ちょ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬く間に到着したスワローさんのタラップに、グラップルワイヤーをくっつけて巻き上げる。
タラップの真下へ来ると、先に音子さんに梯子を登ってもらって私も登る。
音子さんが涙目になって、機内にいた。
おっとりした見た目の顔が、グチャグチャになっている。
「こ、怖すぎや! ――スウって恐怖心ぶっ壊れとるんかぁ!?」
「あ―――怖いとか忘れてました・・・」
「いやいや、恐怖心ってうっかりみたいに忘れる物ちゃうやん!?」
「とにかく、オーガをあのままには出来ません」
「まってまって、せっかく逃げて来たのに、まだ関わるんか!?」
「ホテルの人たちが危ないです」
「あ、せやな。・・・・ホテルの皆さんは、最上階に逃げて籠城してるみたいやで。お客さんは幸い、エイリアン・クラーケンのせいで居なかったみたいなんや」
エイリアン・クラーケンとかも、すっかり忘れてた。
「なるほどです・・・・音子さん、そこの収納に私の予備のパイロットスーツがあるから着て下さい。スワローさんで飛んだらGが掛かるかもしれないですから、安全のためコックピットの上側の席に座って下さい。」
「スウのパイロットスーツを、ウチが着るんか―――?」
「あ・・・洗ってますよ」
「なんや・・・洗ったんか」
私は翼の生えたF1カーかカヌーみたいなコックピットに座ってVR接続する。
執事姿のイルさんが ポン と現れてのガイドが始まる。
『オールグリーン、スワローテイル。スタンバイOK』
音子さんが上に座ってベルトで身体を固定したのを見て、私はイルさんに言う。
「発進」
『型式ST―81 スワローテイル、発進します』
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