第24話 ホテルに突入します

 ――足がすくみそうになるけど、この中に危険な目にあっているNPPさん人々がいると思って自分を叱咤する。


 もう一度中を確認。今度はしっかり。敵の気配は無い。


 地雷とかワイヤーみたいな罠とかも無さそう。完璧には分からないけど。


 私はアリスに〝ハンドサイン〟を送る――軍隊の人が、無言で仲間に指示する動きのやつ。


 内容は、『私が行く』、『そこで待て』。


 アリスに首を傾げられた。デスヨネ。


 じゃあ・・・と、アリスにアイコンタクトを送った。

 するとアリスが頷いた、突入を開始。


 私は死角になっていた近くの壁際などを見て、安全確認クリアリングする。


 危険が無い事を確認すると、銃を抱いたまま腰をかがめ、低い姿勢で走り出す。


 振り返って、アリスにアイコンタクトをする。

 するとアリスも私と同じ姿勢でついてきた。なんていうか、ハンドサインもない無言の方が通じるってどうなの。


 私は安全そうな場所まで走ると、金属製っぽい机を音を立てないように――だけど素早く倒して。机に背中を向けて、座り込む。

 そうして辺りを見回し、再び安全を確認する。


「よし、安全そう」

「あの・・・・スウさん、一つ質問いいですか?」


 隣に来たアリスが周りを警戒しながら、尋ねてきた。


「なに、作戦情報とか?」

「いえ・・・・うちのクランでもこんな動きする人がいなくて、軍隊で訓練でも受けたんですか?」

「く、訓練になんか参加するわけ無いじゃん! か、海兵隊が観てたら恐いから止めて!! ・・・・見様見真似で、『こうすれば良いのかな?』って・・・・」

「海兵隊の大佐は、絶対見てるとは思いますが」


❝観てるよ❞


「怖い!」

「見様見真似って、どこで見たんですかこんなの」

「アニメと、漫画と――ゲーム・・・」

「なるほど・・・・さっきのはハンドサインってやつですよね・・・一体何処で憶えたんですか」

「SNS・・・・」

「――知識の源泉がおかしいんですよ」


❝Missスウ、君の動きは素晴らしい。流石に素人らしい〝ぎこちなさ〟は有ったが、君なら立派な海兵隊になれる。海兵隊大佐である私が保証する。さあ海兵隊になる気はないか!❞


 この人、もはやクランに誘うんじゃなくて海兵隊に誘ってきましたよ?


「ジェームズ大佐・・・・私を延々と軍隊に誘うとか、貴方はホラー映画に出てくる不死身のモンスターか何かですか・・・」


❝そ、そこまで毛嫌いしなくても良いだろうに・・・I am heartbroken That, I can't breathe(つらい、息もできない)❞


「笑えば良いのですか?」


❝Meanie…(イジワル・・・)❞


❝スウたんの動きに、海兵隊の大佐からお墨付きがでたwww❞

❝サブカルパワー炸裂してるワロワロワロwww❞

❝学校にテロリストが侵入してきた時の対策とか、妄想してそう❞

❝普段から、特殊部隊みたいな動きしてたりして❞

❝FPS症候群な女子www❞

❝まさかFPSな動きを、普段からしてたから今役に立ったんかなwww❞

❝そんな女子おらんやろ❞


 ・・・・ここにいます・・・・。


 アリスがコメントに「流石にないですよ」と笑ってから、私の胸のあたりを見ながら尋ねてくる。


「というか珍しい構え方してますよね。銃を胸に抱っこするみたいな」


❝Missアリス、それは。CARシステムという構え方だよ。銃を使った戦いでの死亡率は近接戦が最も高いんだ、その為に考案された構えさ❞

❝しかし、おっぱいぺーが大きすぎてやり辛そうだなwww❞


「黙れください」


 私はコメントに返すと、前進を開始。〝隠れて安全を確認、安全な場所に移動。隠れて安全を確認――〟を続けながらゆっくりホテル内部を探索していく。


 途中でエレベーターを見つけたけど、今は狭い場所とかエレベーターから出る瞬間とか怖いので、階段で二階へ。


 私は頭上を警戒し、銃口の先を常に遮蔽物に添わせて歩いていく。AIMを視えてくる部分に置いて歩いていると、踊り場で視線が絡んだ。


 ――私の目と、上の階で光る目が合った。

 ゴブリンだ!


 タタタ。


 ゴブリンが肩に掛けたアサルトライフルを持ち上げようと指を動かした瞬間、私のハウスキーパーの弾丸が、ゴブリンのアリみたいな顔の眉間を撃ち抜いた。


❝え❞

❝速っ!❞

❝―――俺がゴブリンに気づいたら、ゴブリンはすでに倒れ始めていた❞

❝もう、反射神経がおかしいんよ❞

❝人間やめすぎ❞

❝どっちが化け物なんだか❞


 流石に乙女心は、あんなプチホラーな見た目の化け物と比べられると悲しい。


 ゴブリンの身体が結晶化して、粉々に砕ける。


「なにこの生き物・・・」


 私が、おかしな現象に首を傾げると蝶の羽が生えたイルさんドローンが答えてくれた。


『正直、MoBの作った物は、生き物かどうか怪しいです』

「そ、そうなの?」

『身体は殆どがケイ素とゲルマニウムで構成されていますし、脳はまるでコンピューターです。目的とそれに対する飢えと、満足しかありません』

「うーん容赦しなくていいのかな?」

『MoBを生命だと判断することも出来ますが、どちらにせよマスターがゴブリンを容赦しても、ゴブリンはマスターに容赦しません。彼らは人間を騙したり苦しめたりすると、ご褒美の変数が脳に注入されて快感を覚える様になっています』

「うわあ・・・・」

『マスター、ゴブリンが印石を落としたようです』

「なんの印石?」


 私はそもそも印石なんて初めて見るけど、何が出たんだろう。


 石を持ち上げると、ほんのり温かい気がした。


『スキル〈繁殖力強化〉です』


 スキル―― 〈繁 殖 力 強 化〉 ?


「・・・・・・・・いらない」

『し、しかし』

「・・・・・・・・いらない」


 断固として拒否だ。


 でも、こういう印石が欲しい人が居るのも知ってる。


 機能を失ってしまった人を、治療できるかもしれない。

 ただ私の乙女が、配信でこれをゲットする事を赦さない。


「アリス、これって他人に譲渡できないの?」

「無理ですね。倒した人間に自動登録されてしまいます。その石を温かく感じませんか?

 自分の使える印石は、温かく感じるんです」


 なるほど・・・譲渡できないのは勿体ないけど流石に〖繁殖力強化〗はなあ・・・。


 私は印石という、ジルコンの中に星空を内包したような、オパールにも見える石を覗いた。銀河みたいだ。


 ちなみにジルコンには様々な色があるけど、〈繁殖強化〉の印石は黄色だった。


「じゃあ、複数人で倒したら誰の物になるの?」

「印石が出る確率が参加したそれぞれに分散されるみたいです。もしかしたら活躍度で変わるのかもしれません。NPCからそんな話が語られたんだとか。あと、多人数で倒すと印石の欠片がよく出ます」

「印石の欠片ってなに?」


 アリスは、私の質問攻めにも嫌な顔一つせず答えてくれる。


「使い道のないゴミとして扱われていますね。すでに身につけているスキルの印石を砕いても出来ますし、本当にゴミって感じです」

「ゴミかあ」


 いちおう〈繁殖力強化〉を、アリスの異空間に繋がった便利袋に入れてもらう。使わないけど、流石にもったいない。


 アリスが便利袋を起動するために手首につけた装置を操作すると、胸の辺りが少しブレた。――空間の穴? ワームホールみたいな物なのかな?


 アリスが緑色の石を胸に持っていくと、石が手品のように消えた。


「やっぱり便利な袋だなあ。私、それ手に入れられるのかな・・・・」

「ホテルがこの状態だと、どうなるんでしょう・・・・」


 私達は安全を確認しながら行軍再開。2階の廊下を歩いていると、部屋のドアが開いている場所があった。


 ドアの近くに行くと、ゴブリン達が部屋のなかで待ち構えていた。


 銃口がこっちに向いている。


 私は咄嗟に、グラップリングワイヤーを廊下の天井に貼り付けて、ドアを通り過ぎながらハウスキーパーを発射。


 私の銃弾が、銃を構えていた3匹のゴブリンの眉間を撃ち抜く。

 さらに剣を持ったゴブリンが2匹、部屋の奥に潜んでいたんで撃ち抜く。


 ゴブリン達が、結晶化して消えた。

 だけど――私も、右肩口を撃たれてしまった。


「いっ―――――――――」


 痛っっったい!

 痛いいいいいい!

 泣きそう!!


❝大丈夫かスウたん!❞

❝ケガしちゃったのか!?❞


 アリスが顔色を変えて、駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!!」


 そうして患部を見て、顔を歪める。

 しかしアリスに貰ったパイロットスーツは物凄い伸縮性があるらしく、肩に銃弾が埋まったけどパイロットスーツを貫通していないようで、スーツが張力で元に戻った。


 パイロットスーツが元に戻ったことで、銃弾が摘出される。

 さらにスーツが、ギュッと締まって止血された。

 あとヌルヌルしだした――自分の血のヌルヌルかと思ったら、なんか薬液が滲み出してきたらしい。


 痛みが引いていく。


「あ、もう痛くない。アリス、このパイロットスーツ凄すぎない―――?」

「銀河クレジットで買える中で、一番大丈夫なヤツを選びましたから」

「ほ、本当にありがとう・・・」


 アリスの優しさが、物理的に身に染みた。


 私が前に使っていたパイロットスーツに、こんな機能ないよ・・・。


 アリスがくれたやつは、水着な見た目がアレだけど――本当に良い物だ。


 私が感動していると、イルさんの声がした。


『マスター、印石が出現したようです』

「・・・・また〈繁殖力強化〉?」


 私は若干ウンザリしながら、イルさんに返した。


『わかりません。印石は敵性種族の特性に応じたものが出ますが、幾つか種類が有るのが通常です。ゴブリンならば得られるスキルは、

★1 コモン:〈繁殖力強化〉。子供を作りやすくなる。

★★2 アンコモン:〈暗視〉。赤外線が見える。

★★★★4 Sレア:〈強靭な胃袋〉。何を食べても毒や感染、寄生虫の影響を受けない。

です』


 重要な情報が、今のイルさんの言葉にあった。


 恐らく〝ゴブリンは暗視ができる〟――暗い場所で戦ったら駄目だ。


「でも〈暗視〉は、サーマルスコープ暗視スコープとかあれば要らないかもなあ」


 私は印石を回収するため、慎重に部屋へ入った。

 アリスも後ろからついて来た。


「敵は、もうこの部屋に居ないみたいですね」

「そう――」


 私が、返しかけると首筋がヒヤリとした。天井を見る――〝居た〟!


 緑のアリみたいなゴブリンが天井に張り付いて、拳銃をこちらに向け――――私は、奴の眉間を撃ち抜く。


 力を失ったゴブリンが どしゃ っと、床に落下して結晶化して消える。


「怖いなあ。――天井に居るでっかい虫の見た目とか、完全にホラーじゃん」

「私は、ホラーな敵を瞬時に察知して眉間を撃ち抜く、スウさんの方が怖いんですが」


❝俺はスウたんに恐懼きょうくしてるんだよなあ❞

❝That's scary.(怖っわ). I screamed at the monitor. (画面に向かって叫んだわ)❞


 私はみんなに怖がられて、ちょっと涙目になる。

 だけど命が掛かってるし、手を抜く訳にはいかない。


 もしも私が死んでコピー機で新しい私が作られても、それは私じゃないし。


 やっぱ、スワンプマンは本人じゃないでしょ。


 あ、天井に張り付いていたゴブリンも印石を落とした。〈暗視〉だ。

 透明な紫色の石の中に、星空のように光が沢山浮かんでいる。


 サーマルスコープで代用できるけど――まあ、これでサーマルスコープを持ち歩かなくて良くなったのは嬉しいかな。


 剣を持っていたゴブリンの居た場所にも、印石がある。

 こっちは〈強靭な胃袋〉だ。透明な黄色い石の中に、こちらも星空のように光が浮いている。


 あとなんか〈ゴブリンの耳〉っていうアイテムもあった。これは印石じゃなくて、ほんとにゴブリンの耳だ。ちょっぴりグロい、なにこれ?

ちなみにゴブリンを倒す度にちまちまと銀河クレジットと、勲功ポイントも手に入っている。


 私はえっちらおっちら、小さな石を持ち上げる。


「〈暗視〉と〈強靭な胃袋〉かあ。〈強靭な胃袋〉って使ったら、胃に毛が生えたりしないよね?」


 私が夜空のような石を陽光に透かして眺めていると、アリスが震える声で言った。


「ま、まってください! スウさん! また印石が出たんですか!? ――2つ、それも片方はSレア!?」

「え―――うん」

「こ、これで3つ目ですよ?! おかしいです! 完全に確率がぶっ壊れてます!! トッププレイヤーって言われてるの私でも、スキルはまだ2つしか持っていないんですよ!? しかもレアとコモンだけ!」


❝印石が出る確率って千分の一とか、万分の一とかだよな?❞

❝Sレアとか、数億分の一から数十億分の一だって聴いたぞ・・・❞


「そ、そうなの!?」

「なんでそんな事に!? ――リアルラックにしても限度がありますよ!?」


 あ、きっとアレのせいだ。


「そ、・・・・それは多分〈発狂〉デスロをクリアしたご褒美で貰った印石のせいかも。印石が出やすくなるらしい、こういう意味だったんだね」

「な・・・・なるほど―――・・・そんなご褒美があるならわたしも〈発狂〉デスロをクリアしたいです・・・・けど――スウさんが3年掛かったとか笑えない冗談です、私では絶対無理ですね・・・」


❝俺も欲しーよ❞

❝条件が〈発狂〉デスロクリアとか、無理に決まってんだろ運営・・・❞


「でも、グランドハーピィとかの時は印石は出なかったのに」

「グランドハーピィからは、印石のドロップ報告はないですね。その代わりアイテムの〈グランド・ハーピィの大翼だいよく〉が沢山手に入りますけど」

「印石が無いMoBもいるんだね。――あ、その〝アイテム〟って言うのはなに?」


 アリスが、私のつまんでいる耳を見ながら答えてくれる。

 え、なんでつまんでるのか・・・? ――だって、耳とかあんまり持ちたくない。


「アイテムは、タリスマンとしての効果があるんです。ちょっとだけ身体能力を上げてくれたりします。――〈グランド・ハーピィの大翼〉は、ちょっとだけ『ジャンプ力が上がる』。〈ゴブリンの耳〉は『ちょっとだけ耳が良くなる』ですね。まあ1.05倍とかそんな程度な上に、複数持っていると一番強い力のアイテムしか作用しないので、劣化版印石なんて呼ばれてます」

「あんまり、意味のない物なのかな」


 アリスは「そうですねぇ」と頬に指を当てて、続けた。


「タリスマンとしては、本当にお守り的な感じですね。――ただ通称〝錬金釜〟と呼ばれているものがあれば、アイテムを組み合わせて新しいアイテムを作成できます。――錬金釜は、2000人が所属している星の騎士団でも、一人しか所有してなかったです」


 どうなってんの、それ。

 アリスが目を瞬かせながら続ける。てか――なにこの人、瞬きするだけで可愛いんですけど。

 神様、この人が転生する前になんかチート能力与えてない?


「今戦っているゴブリンやコボルト、オークやトロールみたいな亜人系のモンスターが落とす事があるみたいなんですが――ちなみに錬金釜も、最近まではただのタリスマンだと思われていましたなにせ正式名称が〈大釜〉だったので」

「なんかもう科学とか関係ないね」

「印石からして、謎の物体ですからねぇ。印石は、MoBの精神の結晶だなんて言う人もいます」

「MoBの精神かあ――あっ、」


 そうだ――あの情報だして、一応注意喚起しとこう。〈発狂〉デスロのクリア頑張っちゃう人がいるかも知れないし。


「そういえばシミュレーターで。〖奇跡〗の印石を手に入れた時『初回特典』とか言われたんだ。私だけの初回なのか、プレイヤー全員の初回なのかは分からないけど」

「なるほどです・・・・――羨ましいです。まあ言ってもどうせクリアできませんね。今は救助再開しましょうか」

「う、うん、わかった」

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