第23話 ゴブリンが現れます

 心配するコメントにお礼を言って隣に目を移せば、アリスがロボットに膝をつかせて、ロープみたいなので降りて来た。

 どうやらロープはグラップリングワイヤーだ。立体◯動みたいにあちこちにくっつけて飛べるアイテムらしい。

 アリスが、赤いピッチリなパイロットスーツで軽快にアクションをこなす姿は、とってもカッコイイ――でも、アリスの顔色がちょっと悪い。高所恐怖症だからかな・・・。


 フェイレジェのロボットは戦闘機から変形することもあって、結構身長が高いんだよね。

 最小と言われるスワローさんですら、ロボット状態で13メートルある。

 アリスの機体も小型な方だけど、16メートルもある。


 まあショーグンがしゃがんでるし、おヘソの辺りから降りてきてるんでコックピットから地面までは6メートル位の高さだけど。


「アリス、顔色悪いけど高いところ怖かった?」

「それもあるんですが・・・・あの機体、腰の位置にコックピットがあって、足の近くなんで、歩くと振動が凄いんですよね。まあ高い位置にコックピットがあると、わたしが怖くて乗れないんですが」

「な、なるほど・・・」


 ちなみにスワローさんのコックピットは飛行機形態の時は、地球の戦闘機と同じ様な位置。

 人型形態の時は背中にくる。

 なんでかと言うと、飛行機の時はドッグファイトになって後方から攻撃されることが多いから前方にコックピットを置いて。

 人型形態の時は、向かい合って戦うので前方から攻撃されることが多いから背後に。

 ――つまり常にパイロットを守る、優しい設計。

 だからスワローさんの人型形態の時のコックピットは、結構高い位置にあったりする。

 あとワンルームは飛行機形態の時は、戦闘機中央辺りに、人型形態の時は胴体辺りに来ます。

 私は顔色の悪いアリスを心配しながら、しばらく並んで歩く。

 するとアリスが急にスマホを取り出して、何かを操作した。


「アリスって配信中によくスマホいじってるけど、なにしてるの?」

「スウさんは、気にする必要のない事ですよ」

「うん―――?」


 視線をホテルに向け直して砂浜に足跡を残して歩きながら、やたらカラフルなカニが砂浜から顔を出したのを見た時だった。


 首筋がヒヤリとした。まるで高い崖から下を眺めたときのような感覚。

 わたしは咄嗟にアリスを引き付け、砂浜に身を伏せる。


 目を丸くして頬を真っ赤にしたアリスの上を、銃弾の様なものが貫く。

 私はアリスを抱えて、砂浜を転がり回る。


 ピス ピス ピス と、砂が巻き上がる。

 銃撃だ!

 撃ってきてる方角は、西の大きな崖の上から?


「走ってアリス!」

「なんですかこれっ、こんなクエストじゃないんですが!!」


 私達は、飛行形態のスワローさんのタイヤの影に隠れた。

 買って良かった拳銃。ニューゲームを取り出して、右肩の前で上に向けて構える。


「イルさん、敵の情報を視界に映して」


 蝶の羽が生えた球体のドローンから、イルさんの声が聞こえた。


『了解しました、マイマスター』

「こっちもお願い、ショーグン」

『あい分かった、姫よ』


 アリスのチョンマゲ球体のドローンからは、渋い声がした。

 私の網膜に表示された、敵の名前、


「ゴブリン・スナイパー? なにあれ」

「ゴブリンはMoBが作った化け物です。そのスナイパーだと思われます。ゴブリン自体は、銀河連合の人間に対して海賊行為を働く種族です。凄まじい繁殖力で、様々な惑星に広がっています。よくMoBの領域外にも出てきて、頻繁に銀河連合から討伐クエストが発行されています」

「えー気持ち悪い」


 虫みたい。なんか嫌な想像をしてしまう。


 私は、殺虫剤でも撒くようにゴブリン・スナイパーに向かってニューゲームを連射する。


「この銃、凄い。炸薬系の銃なのにあんまり反動がない」


 制振器せいしんきって言うのが付いてるらしいけど。

 ただ反動が弱いのは良いんだけど、スナイパーライフルと拳銃じゃ射程に差がありすぎて全然届かない。


 こっちの武器だって、地球の火薬より威力が有るらしく250メートルを超えて飛んでる。――けど、向こうに届かない。

 敵との距離が、500メートル以上あるんだもん。


 ちなみに拳銃としては地球最強のデザートイーグルの射程が100メートルで、肩が抜ける事があるらしい――まあこれは本当かわからないけど。だけどもしこの銃に、制振器ダンパーがなかったら、私の肩はアイスがコーンから抜けるくらい余裕で抜けていたと思う。そのくらいの威力。

 隣のアリスが尋ねてくる。顔が砂だらけだ――私もだろうけど。


「スウさん、どうしますか・・・・ちなみに私は、銃が不得意です」


 どうしよう、スワローさんに乗って戦う?


 でも、流石にタラップを登ってる間に撃たれるかな。


 よーし。

 私は空に向かって、銃を撃つ。

 3Dシューティングと2Dシューティングを両方やってたから、3Dを2Dとして、2Dを3Dとしてイメージするのは得意なんだ。だから距離把握は得意。空間把握のステータスも上げたし。


「これを、こうして――」


 空間把握で認識しながら、もう一発。


「――こうじゃ」


 遠くで、緑色のゴブリンが倒れた。


「―――ふぁ!?」


 アリスが口を、あんぐりとした。


『100銀河クレジットと、50勲功ポイントを手に入れた』


 なんか報酬貰った。MoBを撃破したからかな?

 コメントが大笑いする。


❝ちょwwwwww❞

❝あの距離を、たった2発で曲射直撃させたのかワロワロワロwwwwww❞

❝やっぱアカンこの人、ぶっ壊れチートすぎるwwwwwwwww❞

❝スウたん、陰キャこじらして手遅れになってるwww 誰だよ、こんなになるまでほっといたのwwwwwwwww❞


 アリスが、口の代わりに目をあんぐりしながら「この人が訓練シミュレーターに閉じこもっていたっていう、事実が怖いです」って呟いている。


 とりあえず、私は周りを見回す。


「敵はもう居ないのかな?」

「ゴブリンは集団で行動するので、一匹だけとは思えませんが」

「とりあえずバーサスフレームに乗ってホテルまで行こうか。まず私が、近い場所にあるスワローさんに乗って、アリスをショーグンに連れてくよ」

「よろしくお願いします」


 あ、そうだ――防具の変圧トランサーのスイッチを入れるの忘れてた。

 私は、チョーカー型のスイッチを押す。

 するとパイロットスーツが弾け飛んで(え、変身中に服が破ける系!?)

 悪の女幹部みたいな、トゲトゲがついた黒い格好になっていた。


「―――は? ・・・・なんだ、このデザイン」


 私は、両手を広げて自分の格好を確認する。

 世紀末も真っ青まっさおなトゲが、色んな関節に備えられている。


「―――頭おかしいんか!!」


❝ぶはははははは!❞

❝ワロワロワロワロワロワロwwwwwwwww❞

❝これを待ってたwww❞


 アリスもお腹を抱えて、大笑い。


「あっはっは! 変圧トランサーも、変身タイプなんですよ、くっぶほ―――っ!」

「それはいいけど、変身するの悪側!? みんな知ってたの!?」


「ブラックですから、あはははははは」

❝ブラックですしおすし❞

❝ブラックだもんねwww❞


「貴様ら全員、ブラックコンドル様に謝れ!!」


 私はアリスをクリンチして、膝のトゲでお腹をつんつんする。


「スウさん、いたいいたい―――あっはっは」


 私は、笑いが収まらないらしいアリスを置いて〝ぷんすこ〟しながら彼女の背後に配信用カメラを残して、タラップを登る。

 昇っていると、ゴブリン・スナイパーを蹴り転がしている緑色の生き物が視えた。

 やっぱ一匹じゃないんだ。

 そんな事を思っていると、砂浜が掃射され私の方へ銃弾が向かってきた。

 うわ、アサルトライフル持ちまで居るじゃん。


 私は急いで機内へ。コックピットの座席にすぐに座って、配信を見ながらアリスの様子を確認しつつ飛行機を動かす。

 ショーグンの近くまで来ると、アリスがグラップルワイヤーでコックピットに向かった。

 アリスの安全を確認していると、通信が来る。


『あ、パイロットスーツが吹き飛んだように視えたのは演出で、実際には着たままですよ。首の横のスイッチを長押しすれば、見た目はもとに戻ります。トゲトゲとかはただのエネルギーフィールドなので、色が透明になります。お好きな方で』

「さすがに、こんなでっかいトゲトゲな格好は女の子として嫌だから戻すよ・・・」


 「ヒャッハー」って言いたくなってくるんだもん。

 私はスイッチを長押しする。

 元のパイロットスーツ姿に戻った――こっちも大概なんだけど。

 

 とりあえずマシな格好になった私は、現在飛行形態なスワローさんの後部ロケットを立たせて足にする。

 そのまま飛行機を起き上がらせて、ロボット形態に変形。

 VRで操縦開始。

 ゴブリン、お前たちさえ出てこなければ――。


『よーくーもーやったなあああ!』


 スワローさんの拡声器で言いながら、ゴブリンの方へ走っていく。

 すると、蜘蛛の子を散らしたように10匹程のゴブリンが走り出した。

 二足歩行の蟻みたいな姿をしている。見た目も虫っぽいのかあ。――あ、でもでっかい尖った耳もある。

 蟻の顔の横に、でっかい三角耳がついている感じだ。たしかにゴブリンに見える。

 かなりエイリアンっぽい、プチホラーな姿してるけど――むしろ良かった、人間そっくりだったらかなり戦いづらかったよ。

 知性はどのくらい有るんだろう。

 VRの情報には、〈ゴブリン・ライフルマン〉、〈ゴブリン・メディック〉、〈ゴブリン・エンジニア〉とか表示されている。

 にしてもスワローさんで走ってると、相手まで20秒位は掛かりそう。

 ――ちょっと飛ぼうかな。足と翼(背中)のロケットをかして、少し浮き上がって飛ぶ。


 砂を巻き上げながら高くなった視点でゴブリンをみれば、彼らの背後に潰れたイモムシみたいな形の宇宙船。


 私はスワローさんの翼に埋め込まれている〈汎用バルカン〉の一つを取って、砂浜を撃ちまくる。

 するとゴブリン達は、宇宙船に逃げ込んだ。


 銃を宇宙船に向かって構えると、ゴブリンの宇宙船が四足の動物みたいになった。

 犬? ――いや、ハイエナかな?。


 ハイエナ船が走り出し、シールドを展開。さらに飛び上がってコッチに向かってくる。

 スワローさんの徹甲弾じゃ、シールド破壊が間に合わない。


「接近戦になる!?」


 接近戦は、あんまり得意じゃないんだけど。


 私は、〈汎用バルカン〉を投げ捨てて、スワローさんの背中に備えられる形になった翼を取って、剣にする。〈励起翼〉ならぬ〈励起剣〉。

 6メートルもある巨大な剣と化した翼をスワローさんが握ると、瞬く間に刀身が青くなった。


 ハイエナ船の口の牙を受け止める。

 あ、駄目だスワローさんじゃパワー負けする。


「どうしよう〖伝説〗で、特機化する? そしたら丸一日使えないけど・・・・」

『そいつは私の相手みたいです。お任せ下さい!』


 アリスが後ろからロケット噴射で猛進してくる。

 たしかに、接近戦は剣道やってるアリスの方が得意そう。


「アリス! ありがとう」


 私はハイエナ船を蹴り飛ばす。

 アリスがショーグンに命令する声が聞こえた。


『ショーグン、〈励起刀れいきとう〉!』

委細承知いさいしょうち、〈励起刀〉展開!』


 ショーグンが、背中から刀身の真っ黒なかたなを抜刀し構えると、刀身が青く輝き出す。

 刃を額の上に構え、見事な上段の構えから、


『面ェェェェェェン!!』


 迫りくるハイエナの牙を下に躱しながら、真上に来た敵を真っ二つにした。

 ショーグンの後ろで、ハイエナ船が爆発。


❝おお・・・見事❞

❝アリスたん、剣道やってそう❞


 アリスの「面」に、コメントの何人かが剣道に気づいていた。


『1万銀河クレジットと、5000勲功ポイントを手に入れた』


 また報酬を貰った。

 私はアリスに通信する。


『アリス流石、お見事だよ。ありがとう! あとこののち、多分室内戦になると思うから、ハウスキーパーっていう銃を買って』

『はいっ!』


 私達が商品を注文すると、すぐに届く荷物。

 ただ、私は一緒に、グラップリングワイヤーを買っておいた。アリスが使ってるのを見て凄く便利だと思ったんだ。

 勲功ポイントが残り45万ちょっとになったのが、少し心配だけど。


 にしてもこれ、バーサスフレーム内にしか届けてくれないみたいだけど、それでもクレジットや勲功ポイントがあってスワローさんが側にいれば、どこに居ても物資切れにならないんじゃ・・・?

 私が箱を開けると、すぐさま視聴者の人が気づいた。


❝なるほどP90か❞


「はいこのハウスキーパーという銃はP90っていう連射式フルオートの短い銃にそっくりです。短い銃は室内戦で力を発揮します。この銃は弾倉や機構が後方にあり、前方に弾倉や機構がある銃より銃身が長くできます。銃身が長いと、弾が真っすぐ飛びやすいですし、弾丸に加速が付くんです。さらにフェイレジェのハウスキーパーは、アタッチだけで銃身を延長できて、これを付ければ長距離戦もできる。ただ、こういう銃はストックに機構を詰め込んでしまうため、使う人の体に合わせてストックの長さを調節しづらいという弱点があるんです。――地球でブルパップが流行らない理由のおおよそが、これです。ところがこのハウスキーパーは機構を極小化することで、短めの銃身からストックを伸ばしたり出来るようになってますね。至れ尽――」


 気持ちよくペラペラ喋っていると、コメントのツッコミに気づく。


❝さすがガンマニア、判断が早い❞

❝あと話すのも速い❞

 

 私は「しまった!」となって、口にブレーキを掛ける。


 そうだよ、今はお喋りどころではない。


 私とアリスは機体を歩かせて、ホテルの玄関前までくる。


 私は買ったばかりのグラップリングワイヤーで、人型形態のスワローさんから降りる。

 そうしてハウスキーパーを抱えるように構えながら、アリスとホテルの入口である自動ドアの両サイドへ立った。

 自動ドアのガラスが、粉々に割れている。間違いなく戦闘があったんだろう。


 すると眼の前に、ウィンドウが表示された。


『ハプニング・イベント。取り戻せ〝明日の平和!〟を開始しますか?

⇨はい

 いいえ』


 ⇨はい。


 私は玄関の角でかがみ、僅かに顔を出して内部を確認。


「やっぱり、中にも居そうだね」

「ですね――注意していきましょう」


❝SF物のダンジョン探索っぽくなってきた❞

❝マジで気をつけてね2人とも・・・ロボなしの生身なんだから、転送は確実に死んでからだろうし。二人が血をぶちまけるシーンなんか見たくないぞ❞

❝つか、ゴブリンは〝アレ〟がヤバイだろ❞

❝ああ〝アレ〟・・・・か。女性の2人は特に気をつけてくれよ?❞


 〝アレ〟ってなんだろう?

 にしてもなるほど、生身で戦うリスクはバーサスフレームで戦う危険性の比ではないんだ・・・。

 死ぬのも怖いけど、攻撃とか受けたことないよ。――どんだけ痛いんだろう。

 なんか急に、防御力に極フリする女の子の気持ちが分かった。

 ああ、訓練シミュレーターに引きこもりたい。

 でもこのホテルの窮地を見たからには、もう戻れない。

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