第22話 不思議な声がします

 とりあえず話は決着がついたらしく、怖い人達はコメントをしなくなった。

 しばらくして視えてくる、真っ青な惑星。


 アリスが教えてくれる。


『着きましたね、ここがリゾート惑星エリアスです。ほぼ地球と同じサイズですが、その表面の99.99%が海で、点在する陸地を合計してもハワイ諸島程度しかない水の惑星です』


 ちなみにエリアスは副惑星と言うらしい。


 銀河連合には沢山の人が住む5つの主惑星と、人が少しだけ住んでいる副惑星がある。

 銀河連合の人口は主惑星と副惑星に合わせて、500億人程らしい。


 アリスの乗る侍を思わせるロボットが、大気圏突入を開始する。


『じゃあ、ショーグン。後は自動操縦おねがいします』


❝ショーグン?❞


 コメントの質問に、アリスが答える。


『私の機体とAIに付けているIDです』

「なるほど。アリスの機体の正式名称は、確かWI36TYPE-R1アンカーフェイスだっけ?」


 私が尋ねると、アリスの戸惑いの声が返ってきた。


『ば、番号まで憶えてないです。すみません』


アンカーみたいなのが額についているから、アンカーフェイスなのかな❞


 私はコメントの質問に、ぱぱっと答える。


「そうですねアンカーが無い本来のWI36というのはラウンドフェイスと呼ばれます。元は飛行機に変形する機体なんですがアリスのはTYPE-Cなんで変形機能を省略オミットされた機体ですね。変形しない分、稼働が自然で人間らしい動きが可能なんですよ。変形機構が複雑だと、関節が動かしにくかったり脆くなったり――」


❝・・・すごい早口www❞

❝なんだろう。スウたんは、機械全般が好きなの?ワロワロワロwww❞


 指摘されて私は、口元を押さえる。


 ・・・・またやってしまった・・・。


 コックピットに突っ伏して、ゲル状になった。


「ァァァァァァ」


 ゲルになった私がプルプルしていると、瞬く間に一面の海が視えてきた。

 輝きが後方に流れる海に影を落として、青い宝石のような光の上を飛行しだす。


 私は、海面近くでトビウオみたいな魚と並んで飛ぶ。


 アリスのショーグンは、ちょっと高い位置にいる。

 そうしながら、依頼人がいるという人工島に向かう。

 


❝航宙戦闘機なのに、なんで水平尾翼どころか垂直尾翼までがあるのかと思ったら、大気中の戦闘も想定されてあるからなのか。普通の飛行機みたいに、補助翼とかで方向転換するの?❞


「フェイレジェのエンジンは大気中なら、普通にジェットエンジンになります。だからちょっと速い地球戦闘機みたいな物です。――そもそもフェイレジェのエンジンは空気でも、水でも、ロケット推進剤でもとにかく光崩壊炉で温めて吐き出すって感じです」


❝じゃあ、宇宙ではどうやって方向転換してんのよ❞


「それはエンジンの出力調整や、噴射口をグリグリ動かす感じですね。地球の戦闘機の推力偏向ノズルの凄い版みたいな感じです」


❝・・・マジで詳しいな、なんで女子高生が推力偏向ノズルとか知ってんだよ❞


 アリスはGの実験してるし、ショーグンとスワローさんには相当な加速の差があって、余裕があるので、私は様々な飛び方を披露する。


「ロケットなら―――機首を上げる時は、こう後方に付いてるロケット噴射口が上に向くわけですね。シーソーの要領です」


 緩やかに、宙返りするスワローさん。


❝おー、まさに飛行機って感じ❞

❝見事な宙返り❞


「スワローさんにはロケット噴射口が4機有るんですが、人型形態の時の足の裏にあるロケットを回して前に持ってきて、翼の下のロケットと噴射方向を逆向きにして、さらにジャイロでも回転すると」


 ほとんどその場で、鋭く宙返りするスワローさん。


❝ふぁ!?❞

❝飛行機の動きじゃねえ!!❞

❝Missスウ、君は大気中でなんて危険な事を!! 今のは主翼が折れかねない回転だったぞ! いくら〈励起翼〉を使う機体でも、想定されていない方向からの圧力には弱いだろう!❞


 ジェームズさんが心配するのも分かる。


 飛行機の得られる揚力は非常に高くて、同じ面積で人間が水から得られる浮力よりも抵抗が高い。

 そんな抵抗を翼が真正面から受けたら、地球の戦闘機の翼じゃポッキリいく事がある。フェイレジェの戦闘機の翼だって、ただじゃ済まない。


 だけど、


「いえ。スワローさんの翼は変形機構を使って、上にもたためるので主翼に邪魔されたり、主翼にダメージを与えたりしないで、今のような鋭い回転ができます」


❝・・・・まてMissスウ。つまり君は・・・・VRでロボット操作をしながら、リアルでは操縦桿やペダルの操作をおこなったのか・・・?❞


「あ――そうそう、そういうことです。VRしながら、ジュース飲んだりする要領です」


 これを使って、鋭角にドリフトするんだよね。飛行形態のまま腕を動かして宇宙で方向転換したりもする。


❝は!?❞

❝なに言ってるのこの子・・・❞


 へ・・・?


「へ、変なこと言いましたか?」


❝できるわけ無いんだけど❞

❝・・・・脳がおかしくなるぞ、それ❞


「わ、私はVR操作しながら、ポテチ食べたりしますが」


❝はぁぁぁぁぁぁ!?❞

❝なんなんだ、この子!?❞

❝・・・体を2つ同時に操るような所業なんだけど❞


 で、でも。


「だって、いちいちVR切って食べるのめんどくさくないですか・・・?」


❝この子、めんどくさいからってビックリ人間になってやがる❞

❝つか、それ以前に戦闘機のロケットエンジンをグリグリ回す機能、角度調節が難しすぎて普通は使いこなせないんだが? あれって自動でやってもらうもんだよな?❞


 アリスから通信ウィンドウが開いた。人間じゃないものを見る目をしていた――。


『マスター、心拍数上昇、視床下部に異常を検知』


 お医者さんの格好になったイルさんが、私のおでこに聴診器を当てている。


「イ、イルさん、分かってるから・・・」


『スウさん・・・・もし良かったら、今度やり方教えて下さい・・・・』

「う、うん―――でもアリスの機体って変形しないよね」

『―――あ・・・・残念です。――わたしも使う機体を飛行形態が強い機体にしましょうか。スウさんを視ていると飛行機の方がずっと強い気がします』

「いや、人型は飛ぶのが苦手なだけで強いよ。人型ってつまりは砲台が動かし放題な、空飛ぶ戦車みたいなもんじゃん。――なによりVRで直感的に動かせるのが良い」


 しかも大気中でも――正座(というか、女の子座り? ペタン座り?)みたいな姿勢になれば、上半身は人型のまま空飛べちゃう。


これはスワローさんも、アンカーフェイスもなんだけども。

足を女の子座りにすることで、下半身を某ガン◯ムの『ドダイ』みたいな扱いできる。


 まあこんな飛び方しないと人型は、空を飛ぶ時の操作がちょうどフライボード(足裏近くから、水を放出する勢いで宙に浮くヤツ)に乗ってるような感じで、操作難しいんだけどね。


 ――人型での空中戦機動マニューバも沢山生み出されたけど、初期の頃にほぼ全部、フライボードの選手によって生み出された。


 動画界隈では、バーサスフレームの人型で宙に浮いて踊ってみるジャンル。――「バーサスフレームで踊ってみた」とかいうジャンルが結構流行ってる。私には絶対できないけど、リアルで歌って踊れてバーサスフレームの人型モードが得意なアリスはできそう。


「えっとじゃあアリスの機体でもできそうな飛び方を教えるね・・・、アリスの機体は足に翼があるし、肩に噴射口があるんでこれが出来ると思う。――こう足を女の子座りにして足裏のロケットや肩のロケットを円形ぽく配置して―――」


❝独楽みたいな回転してんじゃねえよ!!❞

❝え・・・・バーサスフレームって、完全に飛行形態に変形しなくても、女の子座り方みたいにしたら人型のまま、あんなに安定して飛べるの!?❞

❝あんな飛び方、初めて見たんだけど・・・❞

❝・・・確かにあれなら、人型形態オンリー機を力技で飛ばさなくて済むじゃん。力技だとフライボードみたいで、マジで難しいんだよ❞

❝スウが披露したアレって、大変な新テクじゃない? 大気中の飛び方の常識変えちゃうよ!? 大騒ぎになるテクニックを、こんなにあっさり明かしていいの!?❞


 え・・・・そんなに予期しなかった飛び方なの!? 私はシミュレーターで当たり前に使ってたけど。

・・・・だってこれがないと、〈発狂〉デスロの初期に出てくる惑星みたいな環境。――地球の重力・気圧1.5倍の惑星で人型のまま飛ぶなら、流石にバーサスフレームでも力技で飛ぶのが難しかったし。


❝しかも動翼が動いてるし、まーたVR接続しながら、操縦桿も操作しやがったのか・・・・❞

❝ひ、人型で動翼まで使った動きとか、みたことない・・・❞

❝〈発狂〉デスロードの前半で見せてた回転は、これか❞

❝こりゃスウにしか、スワローさんは乗りこなせねえわ❞


 するとアリスがボソリと呟いた。


『化け物・・・』

『マスター、視床下部(ry』

「ひぃん」


 視床下部に致命的ダメージを受けたらしい私は、ゲルになって目的地に到着。

 目的のホテルが見えてくる。


 ホテルの建物は円筒形で、切る前のバームクーヘンというか、竹輪ちくわというかそんな形。


 辺りは透明な海が広がっている。正にリゾート地。


 着陸して暫くスワローさんを運転して、ホテルの飛行機とかの置き場――駐機場へ。


 アリスは、ショーグンで歩いてついてくる。


(すっごい綺麗な景色――いつか泊まりに来たいなあ)


 見ただけで脳がバカンスになりそうな光景を見ながら駐機して、スワローさんのタラップを降りる。

 靴音を鳴らしていると―――


『――――――やっと会えた』


「え?」


(―――声?)


 突然、誰かに呼ばれた気がした。――アリスじゃない、全然知らない女の子の声。


 私はタラップにぶら下がったまま、暫く南の海を見続けた。

 ミントブルーの水平線。――あっちから聴こえた気がした。


 いや、まって・・・・海の上に誰か立ってる!

 泣いてる銀髪の女の子――流れる涙を一生懸命、手で拭っている。


「会えた? わたしと? ――」


 言って手を伸ばそうとすると、彼女の姿がまるで風に溶けるように消えた。


「――え?」


❝会えた?❞

❝スウたんどうしたの?❞

❝なんも聴こえないけど❞


「消えた? げ、幻覚? ―――気のせい?」


 幻聴と幻覚かなと思って、タラップを飛び降りる。

 まあ、幻聴や幻覚なんて物を経験するのがそもそもレアな体験なんだけど。


❝大丈夫かスウたん❞

❝ホテルで休んだら?❞

❝閃光のアリスとスウのご休憩か・・・❞

❝変な飛び方するから、脳にダメージが・・・❞


 いや、視床下部にはダイスロール入ったみたいだけど・・・他は大丈夫だと思う――タブン。

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