第21話 続・軍人さんに勧誘されます

◆◇◆◇◆




 さて、久々の惑星ハイレーン。

 青い空、白い雲、白い建物。

 昼間なのに、星が白く浮かんでいる。


 ちなみに銀河の中心に近づくほど、星が増えて行くらしい。

 すると、昼間でも見える星まで出てくるんだとか。


 パイロットスーツ姿のアリスが伸びをする。


「あー、やっぱり地上は落ち着きますねえ」

「え?」

「え――?」


 いや、スワローさんのワンルームの方が落ち着く・・・・んだけど。


 私が言うか迷って口をモゴモゴさせていると、アリスが何かを察したような顔になる。


「さすが引きこもりですねえ―――」


 アリスは遠い目で、星を見上げた。


「で、さ――アリス」

「どうしました?」

「私のパイロットスーツ、水着みたいだから恥ずかしいんだけど」

「大丈夫ですよ、常夏の海沿いの街なんですから水着の人くらい沢山いますよ」

「いや・・・・私以外、一人もいないんだけど?」


 さっきからプレイヤーが何回も、こっちを見てるんだけど?


 NPPは気にしてない。プレイヤーには変な格好の人間が多いせいだろうか。

 あと身体にピッチリのスーツなのに、全然暑くない。どうなってるんだろう。


「でも、スカートだと動きづらい場所に行くんですよ?」

「普通のパイロットスーツに着替えたいと


 思わず時代言葉になる、私。


「駄目ですよ?」


 駄目なんだ?


 私の意思は無視されるようなので、泣き寝入りすることにした。


 暫く歩いていると、アリスがなにやら屋台のようなものを指さす。


「見てください、なにか美味しそうな物を売ってますよ!」

「ほんとだ、何か丸い――」


 〝エイリアン・クラーケンのたこ焼き〟


 私とアリスが白目になって、顔に濃い縦線が走ったのを幻視した気がした。


 いや、伝説のクラーケンは本来イカではなくタコらしいけど。クラーケンのたこ焼きって・・・・。


 というかクラーケンでタコとかはどうでもいい。〝エイリアン〟って部分に、大分問題がある。


 看板を見れば、大昔の小説に出てきそうなタコさん宇宙人が「おいしいよ♪」とか言ってる。

 あんさん、食べられてんねんで? ーてはる場合か?


 あと、屋台の背後に見える具材が滅多矢鱈めったやたらにでっかい。


 巨大なタコさん宇宙人で、クラーケン・・・?

 この惑星の人、マジでアレ食べるの?


 白目で顔に縦線を入れたアリスが、私に乾いた声を掛けてくる。

 

「止めておきましょうか」

是非ぜひし」


❝たべてみてよwww❞

❝撮れ高! 撮れ高!❞

❝何事もチャレンジだゾっ❞


 ゾっじゃねーよ。こっちは背筋が「ゾ」っとしてるんだよ。


「撮れ高ですか――」


 表情を戻したアリスが顎に手を当てて、真剣な顔になる。


「アリス、変な所でプロ根性を発揮しないでいいから」 

「食べてみましょう、スウさん」

「・・・おい、やめろ!」


 あまりの事態で、口調に思わず本性がでてしまった。

 なのにアリスはとっとと屋台に駆け寄って、タコみたいなスキンヘッドの親父さんから商品を受け取る。


 あの子もしかして不定の狂気におちいってるんじゃないだろうか。

 そうして白いトレイに乗った、名状し難いたこ焼きの様なものを2パックたずさえて帰ってきた。


「買ってきました」

「ここは一人分をシェアする場面だよ、きちんと二人分買って来なくていいんだよ・・・」


 てか宇宙の巨大なタコとか、それ絶対神話生物しんわせいぶつでしょ。


「でも、合成肉じゃないタンパク質は貴重らしいですよ?」

「今は貴重じゃなくて、自重が欲しい」


 私が白目を剥いているのに、アリスは『自称たこ焼き』を爪楊枝で1つ持ち上げた。

 そうして、眼の前に配置して一呼吸の逡巡しゅんじゅんの後――口に放り込んだ。


 右上を見ながら、左頬でもきゅもきゅと味わっている。


「――」


❝あんまり躊躇なく行くんだワロ❞

❝流石は赤い閃光のアリス、イケメンw❞


「――美味しい」

「え・・・・」

「美味しいですよ、これ。地球のタコより弾力ありますが、味付けは旨味が利いてて、ソースもしっかり熟成してます」


 ほとんど出汁とソースしか褒めてないじゃん。


「さあ、スウさんも食べてみて下さい!」

「だが断る」

「いいですから」


 いくない!


 アリスが私の背中へ腕を回してをガシリと抱いて、爪楊枝に刺した丸いものを私の顔面へ運んでくる。


 私は、選択肢「いいえ」を連呼。


「いいえ、いいえ、いいえ!」


 だがドラ◯エの選択肢に、選ぶ権利が無い時の様にアリスが選択肢「はい」を強制してくる。


 私は涙目で「いあ! いあ!」と首を振り乱すが、口の中に ぽむ と魚人インスマスの仲間を放り込まれた。


(ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛)


 えづきながらも咀嚼すると――


(美味しいんだな、コレが)


「おいひい」


 涙と共に、私は感想を述べた。


❝スウたん、いい反応するなあワロ❞

❝これが見たかった!❞


 お気に召してもらえて、光栄です。




 こうしてストラトス協会で受けたクエストは、〝エイリアン・クラーケンの退治〟でした。


「〝アレ〟を退治するのね」

「ですね」

「生きた〝アレ〟に、今から会いに行くのね?」

「ですね」

「アリス、知ってたね?」

「ですね」

「私、アリスと上手くやっていく自信がないかも」

「なに言ってるんですか。今正に、こんなに上手く行ってるじゃないですか」


 陽キャ怖い。




 私たちはハイレーンを後にして、目的の惑星エリアスを目指し宇宙を飛んでいた。


 今日のスワローさんは、大気中を飛ぶとのことで主翼を増やして複葉機にしてる。

 なので今は、前進翼の複葉機という、珍しい見た目。


 安定感増すし、翼の数が二倍になっているので、〈励起翼〉の威力も二倍。


 〈発狂〉デスロをクリアした時も、〈励起翼〉の威力を挙げるために複葉機状態でクリアした。

 ちなみに翼は、邪魔ならパージできる(翼無しにもできる)。


 アリスがエイリアン・クラーケンの説明をしてくれる。


『エイリアン・クラーケンは、2層に棲む生き物なんです。――水のリゾート惑星エリアスのおじゃま虫ですね。ゴキブリの如く嫌われています』

「をまえは、私にゴキブリを食わせたのか」


 ちなみに層と呼ばれる区切りは、銀河連合が制定したもので、銀河の中心までの10000光年を、一度のワープ航行の最大距離100光年毎に区切ったものらしい。


 あと、今日のアリスは自分のロボットに乗っている。

 ただ――私の知っているアリスの機体じゃない。


 アリスの機体は、本来神合機しんごうきフラグメントの赤い機体、フラグトップの筈なのに。


「ねね、どうして今日はフラグトップじゃないの?」

『フラグトップはクランに返却しました。元々あれはクランの所有物だったので』

「え? どういう意味?」

『スウさんとクランを作るって言ったじゃないですか。星の騎士団ステラーリッターを抜けたんですよ』


「はいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

❝❝❝はいいいいいいいいいいいいいいいい!?❞❞❞


 私の声と、コメントが被った。


『この前、合衆国宇宙軍がスウさんを勧誘しに来たじゃないですか』


 コメントが、アリスの言葉に一気に騒ぐ。


❝え、アメリカ合衆国の宇宙軍がスウたん勧誘に来たの!?❞

❝あそこ累計勲功ポイントがベスト10テンに入るプレイヤーが、2人も居るのに!?❞


 コメントがざわついた時だった、なんだか猛烈な勢いの英語のコメントが現れた。


❝They recruited her!? They――Theyyy! betrayed the States! dem sneaky USSF bastards!!(奴ら、彼女を勧誘したのか!? アイツ等――アイツ等ぁぁぁ! ステイツを裏切りやがった! 抜け駆けUSSF野郎!!)❞


『な、なんか物凄い勢いで怒っている海外ニキがいますよ・・・スウさん』

「う・・・うん、怖い」


 ちなみにアリスはイギリス人なので英語バッチリだし、私もイルさんと訓練シミュレーター内のお勉強のお陰で、程々に読める。

 私達が怖がっていると、さっきの海外ニキが急に流暢な日本語で冷静に書き込み始めた。


❝おっと、あまりの怒りで口汚く抜け駆けをした奴らを罵ってしまった。――すまない、こちらアメリカ海兵隊、ジェームズ・スミス大佐です。❞


『奴らって・・・あまり、怒りが収まってなくないですか・・・?』

海兵隊マリーン・・・・」


 私が震えながら呟くと、コメントに質問が流れてくる。


❝マリーン? スウたん、なんでそんなに怯えてるの?❞


 私はマリーンの恐ろしさを伝えるため、ゆっくりと説明する。


「ア、アメリカ海兵隊――通称マリーンって言うのは、総合軍って考えた方が良いもので、ありとあらゆる戦闘に柔軟に対応する部隊なんです。陸・海・空――今なら恐らく宇宙まで。――だから、アメリカ最強の軍隊として訓練されています。そして彼らの新米兵士のブートキャンプの恐ろしさはトラウマ級です――かの鬼軍曹も海兵隊の教官です―――!!」


 私は某鬼軍曹が、海兵隊だというのを強調しておく。


❝それは怖い❞

❝海兵隊といえば、沈黙の歓待か❞

❝おい、沈黙で歓待されたくないぞ❞

❝『私は人間である事をやめない』❞

❝それは『沈黙の艦隊』違い❞

❝DI◯様涙目❞

❝人類最強の男であるセ◯ールが所属していた軍隊か・・・ヤバイな❞

❝スウたんって女の子とは思えない、妙な知識に詳しいな❞

❝つうか、なんでスウたんの配信をアメリカの軍が見てるんだよ・・・・❞


 私は恐ろしさのあまり、震えながら敬礼して叫ぶ。


「サー・ジェームズ・スミス! 私は自分をウジウジしたウジ虫だと理解していますので、訓練は必要有りません!」


❝ハッハッハ、訓練はウジ虫を卒業するために行うんですよ❞


「サー、ノーです、サー! 私に訓練はいりませんんんん!!」


 ジェームスさんは、私が歯茎を見せる勢いで叫び涙目で目を剥いているのに気にした様子もなく話を続ける。


❝スウさん、どうですか。海兵隊のクランに来ませんか? 我々は、フェイテルリンク・レジェンディアに於いて、最も先進的であるという自負がある。貴女がこの世界の最先端に立ち、なおかつUSSFよりも良い待遇を望むなら、我々の誘いに乗るべきだ❞


 そんなジェームズさんの誘いに「待った」を掛けた人がいた。


❝ちょっと待って貰いましょうかアメリカ海兵隊さん、こちら航空宇宙自衛隊1等空佐柏木かしわぎ 総一郎そういちろうです❞


『――じ、自衛隊まで出てきましたよ・・・・』

「・・・・」


❝スウさんはどう見ても日本国籍の日本人です。彼女の勧誘の第一権利は我々に有る❞

❝なにを言っているのか自衛隊よ、ステイツはすぐさま彼女にアメリカの永住権をさしあげる準備が出来ている。彼女は世界の至宝なのだ❞

❝彼女は世界の至宝であるまえに、日本の至宝だ❞

❝世界の宝を、日本は独り占めする気か?❞

❝当然です❞

❝言うじゃないか、自衛隊。ステイツ最強の軍隊と事を構える気かい?❞


『スウさん、なぜかここで国際問題が起こりそうになってるんですけど』

「・・・・日米同盟が崩壊したらどうしよう」


❝お待ち下さい、こちらポルトガル航空宇宙軍大佐ベネディット・ペレイラです。スウさん、我々も貴女を必要としています!❞

❝こちらドイツ空軍――❞


 怖い怖い怖い、軍隊なんて絶対怖い。

 さっさと話を終わらせないと!


「あのっ」


❝❝❝❝どうなさいましたか❞❞❞❞


「私―――アリスのクランに入ります・・・!」

『という事なので、ご遠慮ください。そもそもスウさんを怖い人達から護るクランなので』

「そもそも、私に軍人なんて務まるわけないと思いませんか!」


❝まあ、この様子ならUSSFも袖にされたようだな❞

❝しょうがないね❞

❝知ってた❞

❝やはり❞


 袖――冷たくした憶えはないけど。

 まあ、それで納得してくれるなら否定するのは止めておこう・・・。

 ちなみに八街汁やちまたじるは、昨日の内にヴィックに発送しました。コンビニって便利。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る