第20話 もっと自分を強化します

❝スウさんに襲いかかったら、返り討ちにあうじゃん❞

❝スウたんつよつよ❞


「戦隊コスプレみたいなボディスーツもありますが、まあこの辺りは趣味ですね。わたしの知り合いにも愛用者はいます。銀河天隊ぎんがてんたいとかいうクランの人は、みんなこれです」

「銀河天体―――?」

「あとシールドは、スイッチのオンオフもできますよ」


 じゃあ私は、このチョーカー型にしようかな。ワンピースの時とかベルトしないし、ワンピースの下にベルトしてるのは見た目に問題ありそうだし。


 私は、自分がワンピースの裾を持ち上げて「変身っ!」とか言いながらスイッチを押す光景をイメージして、間抜けすぎて吹いた。

 あ、でも八街さんがやるのは見てみたいかも「ドゥフ」。


 まあ防具とか、どれも同じだろうしどれでもいいや。


「じゃあ、変圧トランサー(ブラック)っていうので」


 黒が好きだから黒を選んだんだけど、私は後に――この時、適当に選ぶんじゃなかった。コメントを見るんだった。八街さんの忍び笑いを疑問に思うんだったと、後悔する事になる。


 変圧トランサー(ブラック) = 10万勲功ポイント也。


 でもシールド1つがスワローさんと同じ値段とか、値段設定おかしくない?

 スワローさんにもシールドあるんだけど。

 日本円換算とかはしても無駄っぽい? それとも本当に小型シールドがものすごく高価なのかな。


「とりあえず残りの、75万ポイントはステータス上昇かな」


 色んなステータスアップがある。分かりやすいのは筋力上昇とか、器用さ上昇とか。

 にしても種類が多くて、細かい。

 30項目こうもく以上あるのは確認した。


 病気に掛かりにくくなったり、酸素やカロリーの消費を抑えてくれるのもある。

 いやでも、カロリー消費を下げられておデブになるのは困る。


 脳の強化もあって、計算能力や記憶力を上げてくれるのもあるし、音感も上げてくれるのもあった。


 にしてもどれも高い。


 その上ステータスをアップするほど、必要ポイントが加速度的に増えていくみたいだ。


 例えば自分の素の身体能力を基準に、


 10%上昇すると、5~20万ポイント。


 20%になると、その倍の10~40万ポイント。


 30%は、さらに倍という感じ。


「アリス、この(大)(中)(小)っていうのはなに? (中)と(小)は買えないけど」

「ステータスアップは買える回数が決まっていて、アップしていくとやがて(大)は買えなくなります。すると(中)が解禁されて、最後は(小)しか買えなくなる感じですね」

「強化するほど、効果が弱まっていく感じなのかあ」


 八街さんが「ですね」と頷いた。


「しかも値段は上がったままです。(大)を3つ買って40万になって、(中)に移行したら、(中)を1つ買うのに80万が必要になります。」

「ステータスは、簡単に上げられる物じゃないんだね・・・・」


 私は、何が欲しいかぶつぶつと呟く。


「攻略に使う物としては、まず空間把握。筋操作(切り替え)は器用さに関係するみたいだからこれも欲しいかも。あとは、持続的に戦闘ができるように持久力。Gに耐えられるように酸素消費量減少も欲しいかも――。実生活で欲しいのは、記憶力拡大とか思考加速とか――勉強が楽になりそう」


 八街さんが、不思議そうに尋ねてきた。


「反射神経加速は欲しくないんですか? みんな欲しがるんですが」

「これって普通の反射神経を拡大してくれるんだよね? 平均0.25秒くらいのヤツ」

「はい、そうです」

「なんかね、私らないみたい」

「要らない?」


 私は反射神経測定アプリを、スマホで検索してインストールする。


「見てて・・・ね」


 アプリで反射神経を、5回測定してみる。


「原始反射って言うみたいなんだけど、私ってビックリしやすくて・・・」


 測定結果をアリスに向ける――カメラにも映っている。


『0.089』

『0.100』

『0.058』

『0.211』

『0.085』


❝え、殆どが0.09以下!? ――はあ!?❞

❝おい! 0.1でもバケモンなんだぞ! 人間の限界は0.1秒なんだぞ、それ以上は脳信号が間に合わない❞

❝スウたん、能力アップつかわない素でそれ!?❞

❝ガチモンのバケモンやんけ!!❞

❝原始反射って、普通の反射神経と違うの?❞

❝ビックリした時とか、勝手に身体が動くやつ❞

❝この記録って、スポーツのトッププロが絶好調の試合で出す数値なんだけど――陸上のスタートでやったら、フライング判定されるやつ❞


「どどど、どうなってるんですか!?」


 八街さんが、私のスマホを取り上げて凝視している。

 私は、落下しかけたカメラを慌ててキャッチする。


❝カメラ、落下した?❞

❝いや、キャッチするのが早すぎ❞

❝一瞬で画面安定したんだけど、スウたんがキャッチしたの?❞

❝マジで反射神経おかしい!❞


 私は知ってる知識で説明してみる。


「なんか熱いヤカンに触れたり、脅かされたら凄く早く反応すること有るじゃないですか。私って、普段からビクビクしてるせいか、ちょっと練習したらこれがすぐ出るようになっちゃっいまして、」


❝怖がり陰キャつええ❞

❝陰キャの特殊能力かよ❞


「ただ、これって身体には良くないみたいなんですけど」

「ですよね・・・そんなにビクビクしてるのが心身ともに良いとは、とても思えません――やっぱり普通の反射神経を上げたほうが―――」


 ゾーンに入ったらもっと原始反射が早くなるのは、ますます心配されそうだから今は黙っておこう。


「あ、でも待って・・・ステータスアップに原始反射加速って言うのもある」

「そんなの有ったんですか!? ――ああ、でも原始反射が普通に出せる人には有効だとは思いますが・・・普通は使い物になりませんね・・・・」

「買おうかなあ」

「スウさんの身体が心配ですけど・・・・」

「ステータスアップの消去方法ってあるの?」

「有りますが――高いですよ?」

「消去方法があるなら、買ってみようかな」


 ――ちなみにの話なんだけど、後に知り合う剣術家の女の子に、原始反射を使うなら武道に沿って使わないと危ないよ。と、しっかり注意されることになる。


 だけど今の私はよくわかってないので、


 空間把握(大)×2で20%アップ = 15万ポイント也。


 筋操作(切り替え)(大)で10%アップ = 10万ポイント也。


 酸素消費量低下(大)で10%アップ = 5万ポイント也。


 記憶力拡大(大)×2で20%アップ = 30万ポイント也。


 原始反射加速(大)×2で20%アップ = 30万ポイント也。


 を買った。

 ちょっと予算をオーバーしたけど。


 記憶力拡大は、私・・・首席の癖に、ちょっと記憶力弱いから記憶力拡大はどうしても欲しかったんだ。

 ちなみにカメラは八街さんに返している。


「あとは発送をタッチすると、すぐに届きます」


 八街さんに言われたとおりにする。


 にしても配達には最低でも、一日後以上掛かるのかと思ったら。

 イルさんの声が機内に響いた。


 私の顔の前に現れる、宅配員の格好をしたイルさん。小さな段ボールを持っている。


『マスター、銀河連合から荷物が届きました』


「えっ、もう!?」


 見ればタラップの近くに、なんだか厳重な箱があった。


 ジュラルミンケースみたいな形だけど、なんか黒くて硬そう。

 ここで届いた荷物に対して、疑問が頭に浮かんだ。


「ねえ、イルさん。これって銀河連合の人は私の船に簡単に侵入できるって事なの?」

『いえ、私が一時的に〈転移拒絶シールド〉を解除しました』


「なるほど。でも、荷物の代わりに爆発寸前の爆弾とか放り込まれたら怖いなあ」

『私は、マスターの発想が怖いです』


 イルさんの顔が、ちょっと青ざめている。


「モ、モンスターもやってくるかもしれないじゃん!」

『それは確かに怖いですね』


 とりあえず箱の中身を出――重い、めちゃくちゃ重いよこの箱・・・・。


 中身を全部出し切ると、箱が消えた。


「な、なに?」


 アリスが、簡単に説明してくれる。


「転送装置ですよ、箱が役目を果たしたんで戻ったんです」

「相変わらずの超科学――重かったのはその転移装置かな?」

「ですね。ちなみに箱を返さないと『さっさと返しなさい』って連絡が来ますよ。無視してると罰金です、すごく高いです。フェイレジェでの借金の理由が、ほぼ転送装置ですからね」

「それは怖い・・・」


 ガクブルしながら、箱の中身をチェック。あったのは凄そうな緩衝材に包まれた、オシャレな木製の箱に入った銃と、頑丈な箱に入ったチョーカー。

 あと、瓶に入った錠剤――まさかこの錠剤が・・・、


「アリス、もしかしてこの錠剤がステータスアップ用?」

「です」

「まさかの薬漬け」

「大丈夫ですよ、副作用は聞いたこと無いです――原始反射加速は流石に副作用が有りそうですが・・・・そもそも使った人がいなさそうですよね、原始反射加速」

「ステータスアップ薬を、他人に売ったりは?」

「無理ですね、基本的に本人にしか作用しません。まれに適合者がいるらしいですけど、適合者を見つける方法がないので割に合わないですよ」

「なるほど――」


 どんどん高くなるものを無駄遣いできないし、適合者を探す方法はほぼないね。


「あと、ステータス上昇の効果を――24時間限定ですが消したい時は、タンニンとリコピンとDHAを混ぜた物を摂取すると、上昇効果が消えます。スポーツ大会とか出る時は必須ですね。柿半分、トマト半分、サンマ一尾で同じ効果があります」

「物凄い食べ合わせだなあ・・・」

「私は食べ合わせとか気にならないんですけど、普通は銀河クレジットで買えるアビリティ・キャンセラーというドリンクで摂取するのが一般的ですね。はいお水汲んできました」

「あ、ありがと」


 私は錠剤を口へ放り込んでバリバリ噛みながら、点滴の袋みたいにパッキングされた水をストローで吸った。


❝スウたん、薬は噛みながら飲む派なんだ?❞

❝oh wildcat!(わー、野性的な少女!)❞


 もしかして、変だったのだろうか・・・海外ニキさんまでビックリしてる。


「こ、この方が効き目早いかなって!」


❝そんな君も愛してる❞

❝そのままの君が好き❞

❝素材の味を活かしてる❞

❝HAHAHA!❞


 コメントが暖かすぎて、異常気象みたい。

 などと贅沢な悩みを抱いていると、


「あ、効いてきたかも!」


 私は水のパックを斜め後ろに投げて「ここっ!」と振り向かずに掴んでみる。

 水パックは見事に私の手に収まっていた。


「なんか視界内も視界から外に出たものも、距離が分かる気がする」


❝これで敵の位置を把握しやすくなるわけかー❞

❝立体の世界になるんだ?❞

❝ホークアイってやつ?❞


 もしかしたら、これと視野拡大を組み合わせたらすごい事が出来るかもしれない。

 というか視野拡大って上昇させ続けたら、ビャク◯ンみたいんな事になるのかな?


 「カ◯ーユ、後ろにも目をつけるんだ」なんて無茶な要求にも応じられるかも。


「ちょっと反射神経を測ってみませんか?」


 アリスが訊いてきたので頷く。


「あ、うん」


 私はさっきの反射神経測定アプリを取り出して、再度測定。


『0.064』

『0.084』

『0.058』

『0.221』

『0.033』


❝ぎゃああああああ!❞

❝誰か、俺の嫁の化け物化を阻止してくれ!!❞

❝若者の人間離れが止まらない―――❞

❝忙しい人向けの測定結果❞


 また宅配員姿のイルさん。


『マスター、銀河連合から荷物が届きました』

「え、また? ――あ、アリスのホタルマル・ブリンガー?」

「蛍丸が届いたんですね!」


 アリスが、残像でも残しそうな速さで箱に向かう。


 箱、でっか――私の身長より大きい。


「こ、この箱は、流石に重いですね」

「イルさん、重力ちょっと弱くして」

『イエス、マイマスター』


 執事服姿になったイルさんが、ふわりと浮いた。


「あ、軽くなりました。ありがとうございます」


 アリスが上手に跳ねて、飛ぶようにこっちに来る。

 そうして私を押してソファに座らせると、アリスは隣に座って2人の膝の上に箱を置いた。

 「一緒に見よう」という事らしい。アリスって、こういう事を当たり前にするのが陽キャなんだよなあ。


「じゃあ行きますねー」


 アリスが配信用カメラを操作して、箱がよく見えるように俯瞰の角度に移動させる。


「3、2、1――はい!」


 出てきたのは、真っ白な鞘に納められた刀だった。

 柄の下には、なんだか赤いフサフサがついている。


「綺麗」


 私が感嘆の声を挙げると。


「実はこのホタルマル・ブリンガーの元になった蛍丸は、最近復元されたんです。クラウドファウンディングでお金を集めると、蛍丸が出てくるゲームのファンから凄い量の出資があって、目的の5倍も集まったんだとか。この事にわたし感動しちゃって。たとえ失われても、伝説通り―――再生する不思議な刀なんだなって」


 言いながらアリスが、鞘から刀を引き抜こうとする。


「こんな長いの、どうやって抜くの・・・? とりあえず、鞘を支えておくね」

「一人で抜くなら、刃の根本を持つしか無いですね」


 アリスが引き抜いていくと現れたのは、青い夜空の様な刀身。


「ふぁあ・・・」


 伝説の刀を模しているせいか綺麗すぎて思わず、ため息が出てしまった。


 私の支える鞘から コッ と刃先が抜けると、軽くなった鞘が私の手に残された。

 僅かな喪失感を憶えていると、アリスが上段の構えをしようとして、天井が低すぎる事に気づいて中段に構え直した。


 にしても柄が長いのもあるけど、柄と刀身の長さを合わせると私の身長より全然長い。

 これでも私、女性としては身長高いほうなんだけどなあ。


 私じゃ背負っても、ちょっと仰け反っただけで地面擦りそう。


「あ、イルさん、重力もどして」

『イエス、マイマスター』


 浮いていたイルさんが元通り立つ姿勢になった。


 アリスは重力が元に戻ると、ゆっくりと胴を払う動作をする。


 私は、その一振りに立花さんを想起した――こんな狭い場所でも、あんなに大きな刀を振るうなんて手品でも見ているみたい。


 翡翠の輝きのような緑光りょっこうの粒が、宙空を飛翔し躍る。


❝綺麗すぎ❞

❝ふつくしい❞

❝This is artistic――nay, fantastical.(芸術的だ――否、ゆめまぼろしの如く)❞


 アリスが「覚醒めよ、蛍丸」と呟くと、高周波機能が起動したのか刃がわずかに透き通るように見えた。


 かたな全体が青白く輝き出す。

 本当に青い夜空のようだ。

 その周りを緑光りょっこうが舞い、その様はまさしく蛍。


「よい買い物をしました・・・」


 アリスが、高周波のスイッチを切ってこっちに戻ってくる。


 私は、鞘の鯉口をアリスに向けた。


「ありがとうございます」


 アリスはお礼をして、蛍丸を鞘に納めた。


「さて、この子の名前はなににしましょう――蛍くん? ほたきゅん? 蛍ちゃん?」

「蛍丸が良いと思うよ・・・・」


 アリスが鞘についていた白い紐を胸の前で結ぶと、ホタルマル・ブリンガーはアリスの背中に収まった。


「さあ、準備完了です! じゃあ今日はパーティーを組みましょう」

「あ、パーティー組むの初めて!」


 私は、アリスから送られてきたパーティー結成の申請にイエスを返す。


「ではクエストに向かいましょう!」

「うん!」


 あ、そうだ。買った荷物に入ってた緩衝材をクッションにしよう。


 私は思いついて、さっき届いた商品の緩衝材を持ってコックピットに行く。


「じゃあ、わたしは自分の機体――スウさん、緩衝材なんか持ってどうしたんですか?」

「あ、これ? ――んとね、お尻の後ろにねクッションを置くとGに耐えやすくなるって聴いてねやってるんだけど。さっきの緩衝材が丁度いいなって」


❝へー、知らんかった❞


「そ、そうなんですか? わたしもやってみたいですね」

「じゃあ、この緩衝材半分あげるね」

「ほんとですか、有難うございます。あとでちょっとGを掛けてみます」

「うんうん」


 こうして私達はハイレーンに飛んだ。

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