第18話 軍人さんに勧誘されます
サーが、八街さんに向き直りお礼を言う。
「おお、ありがとう――おや? 私と君は、何処かで会った事があっただろうか」
もしかして、フェイレジェで出会った事でもあるのかな?
尋ねられた八街さんの目が、宙を泳ぐ。
「あーーー」
「もしかして、君は・・・・」
すると担任の先生が、説明した。
「彼女は有名なモデルなんですよ。テレビの番組やコマーシャルにも出ています。歌も歌っていますよ」
担任の先生の説明に、ヴィクターさんは納得したような顔になる。
「――ああ、思い出した! あの爽やかな炭酸の! 実にキュートなCMだったよ!」
「光栄です」
八街さんが少しはにかむ。
すると私は、思わず口を出してしまっていた。
「大佐にも分かるんですか!? 八街さんの可愛さが!!」
「もちろんだとも、鈴咲さん!!」
私と大佐は、固い握手を交わす。
「大佐、住所を教えてください。八街汁――じゃなかった、あのジュースを3箱送り届けます」
「それは有り難い! では私の住所はここで、メッセージアプリのアドレスはこれ。使っているのは暗号化されているコレだよ。あと、電話番号はコレ」
「私のはこれと、これと、これです!」
「ありがとう、大事にするよ!」
私達は、再び握手を交わす。ここに推し同盟が完成した。やはり日本とアメリカは強固な同盟で結ばれていた。
「いやはや、もう目的の半分が達成されてしまった」
「目的? そういえばヴィクター大佐は、どうして私を呼び出したんですか?」
「ヴィックと呼んでほしいな、Ms鈴咲」
「あ、じゃあ私はスズって呼んで下さい」
「oh. 光栄だ、スズ!」
ヴィックの顔が輝いた。
「こちらこそです。ヴィック!」
「私の目的は君と連絡手段を持つ事と、もう一つは――」
「もう一つは?」
「君を、我らの合衆国宇宙軍のクラン
私は、脱兎のごとく逃げ出した。
しかし、回り込まれてしまった!
この人、絶対ステータスアップしてる!
「ど、どこへ行くんだい、スズ!」
「
「大丈夫、任務にそんな物は必要ない! そんな物がなくても、私と共に作戦をこなせる! あとヴィックって呼んで欲しい!」
「『タマ
ふと、ヴィックの顔が真剣な物になる。褐色の肌に刻まれた年輪が深くなり、イケメンさを一層増した。
「正直な話をしよう。我々は、フェイテルリンク・レジェンディアを危険視している――いや運営している地球外文明を、だ」
それは理解できる。
びっくりするほど超科学だもん。
「この3年間、我々は様々な方法であちらの持つ科学技術を解き明かそうとした。だが、どれも失敗に終わった。拳銃やパイロットスーツくらいは解析できたが殆ど意味がない。戦闘機などを解析したいのだが、地球で解析すると消えてしまう。ならばと、あちらの宇宙でやってみても消えてしまった――」
ヴィックは両手の平を軽く肩まで挙げて、お手上げのポーズになる。
「――あちらの兵器は銀河のどこで生産されているのか皆目見当も付かず、どこかから転送されてくるのが分かるのみ。我々からスパイを送り込むのも、そもそも彼らと我らは身体の組成が決定的に違い、有効な手段とはならなかった。その他にも様々な角度からアプローチを試みたが、――分かったことは唯一つ。彼らと事を構えれば、我らは瞬く間に滅ぼされるという事だけ」
ヴィックが、私に頭を下げてくる。
(え゛)
大佐のつむじが視えて焦る。
「スズ、どうか君の力を貸して欲しい」
「ヴィック
ヴィックが顔を上げて、悔しそうな顔で私を見てくる。
「フェイレジェの超技術でも、唯一地球で解析を試せる物体がある。それはMoBと呼ばれるものと、メモライツ――日本では印石と呼ばれるものだ。だから我々は、強力なメモライツを手に入れたいのだ――それには、より深い層に潜り込む必要がある。君の力があればきっと可能になる――」
そんな無茶な。
「モ、MoBは
こっちなら、幾らでも取れそう。
「それはね、向こうの文明に忠告されていたんだがね。『絶対にMoBを地球に持ち込むな』と。――この間、突然核実験と称してアメリカの基地が一つ吹き飛ばされただろう?」
「あ、ニュースでみました――あれが?」
ヴィクター大佐が困ったように笑って、顔の皺を増やした。
「空軍が先走ってね、地球にMoBを持ち込んだんだよ。すると恐るべき速度でMoBが増殖しだしてね。大統領が核兵器の使用を命じた」
「―――え」
「あの日は、人類滅亡の危機だったのさ。おっと秘密だよ?」
ヴィックが口元に人差し指を当てて、チャーミングなウィンクをしてきた。
「い、一介の女子高生に、そんな世界を揺るがすシークレットな情報をお茶の席の噂話みたいに漏らすのやめてくれませんか!?」
まあでもヴィックが話した内容は、すでに噂になっている事だ。私がその噂を肯定しても「また肯定派が一人増えた」位にしかならないんだろう。
ただ、私の中では大事件だ。
だってアメリカ軍の凄く偉い人が、悪い噂を肯定しちゃったんだから・・・。
「スズ、わかるよね? 人類は今、まるでカミソリの刃の上で平和のバランスを取っているような物なんだ。君の力が必要なんだよ!」
「へ、平和が危険なのは解りますが――私、軍人さんにスカウトされるような・・・・」
「配信を見たよ。君は人類の希望だ! ヒーローになれる! どうか、スーパーマンのような存在になって欲しい!」
そんな、大それた――・・・。私が軍人になって、宇宙の敵と戦うみたいなこと出来るわけ・・・。
すると、八街さんが私とヴィックの間に割って入った。
「そこまでです。ヴィクター大佐」
「これは、Ms一式・・・」
「軍隊に協力してくれなんて、わたしでも尻込みする内容を鈴咲さんが受けられるはず有りません。はっきり言って、彼女は気弱な女の子なんです。気弱なので押しまくれば首を縦に振るかもしれませんが、それで彼女が大佐の満足するパフォーマンスを出せるとは、とても思えません――なにより鈴咲さんにとって辛いでしょう」
ヴィクター大佐が唸りながら頷く。
「むぅ―――まあ、そうだね――それはさっきから何となく感じているよ」
「大佐なら、他の妥協点も用意しておられるのでは?」
「お見通しか――ああ、スズが私達のクランに入る必要はない。ただ希少なメモライツを手に入れたのなら、我々に知らせて欲しい。買い取らせてもらう」
私ではなく、八街さんがヴィックに返事をする。ありがとう八街さん。
「お譲りするかは分かりませんが、お知らせだけならしましょう」
「君には敵わないな。では、それで構わない」
ヴィックは八街さんと握手を交わすと先生たちに頭を下げて「先生たち、お騒がせしました」と、職員室を後にした。
ヴィックの後ろ姿を見送った後、八街さんが私に向き直る。
「鈴咲さん、急いでクランを作りましょう」
「へ?」
◆◇◆◇◆
史上初〈発狂〉デスロードをクリアした、アカキバという配信者。
彼はこの日行った配信で、コメントにあったスウの情報を見て眉をひそめていた。
「はあ? スウが、25層で出てくるグランド・ハーピィの母船を2分で撃墜した? 俺だって、一人じゃまだ23層までしか行ったこと無いんだぞ。25層の敵なんてアイツに――ああ、なんだ赤い閃光のアリスが一緒にいたのか――なら仕方ない。俺たちも――っと、なんでもない」
実はアカキバは、少し変わった方法で
それは本来単座であるスワローテイルを複座に改造し、二人がかりでクリアするという方法だ。
しかも複座に改造している事がバレないように、生活空間をコックピットのように改造していた。
そうしてアカキバは火器。仲間は操縦やドローンの管制と、役割を分けて操縦していた。
しかし首領死路蝶でのトレーニングは複数乗り前提の空母や戦艦でもできるし、複座式の戦闘機でもプレイできる。
だから複座式でクリアすること自体は、問題ない。
ただ複座にしている事実を隠していることを、公正だと思う人は少ないだろう。
また報酬が、複数人でクリアした場合と単独でクリアした場合では違う。
スウは単独でクリアした事で〖奇跡〗の印石を貰ったが、アカキバは〖幸運〗の印石止まりだ。
しかし、この事でアカキバが複数でクリアしているのを指摘できる者はいない。
誰も〖奇跡〗と〖幸運〗の取得条件を検証出来る人間がいないからだ。
兎にも角にも、アカキバはこう思った。
「自分たちが複座式で首領死路蝶をクリアしたのだから、スウというプレイヤーも同じ事をしたのだな」と。しかも閃光のアリスなどという、強力な助っ人の力を借りて。
だからスウを「自分より遥かに格下のプレイヤーだ」と思った。
ちなみにこれは別の話だが、アカキバは複数のアカウントを使ってスウの動画を見ずに、100件ものアンチコメントを書き込んだ。
またbadボタンを押しまくった。
スウを褒めようとするコメントには、徹底的に反論した。
これであの動画のプレイヤーは消えるだろうと思っていたのに、そいつはスワローテイルで〈錯乱アトラス〉を連続撃破などという事件を起こして、一躍有名になった。
〈錯乱アトラス〉程度なら自分も複座なら撃破できるし、こなせるプレイヤーは上位勢に100人くらいいるだろう。
だが、やり方が問題だ。とんでもないテクニックや命中力で瞬く間に、〈錯乱アトラス〉を34体も撃破したのだ。
たった一時間でこんな数を撃破できる人間はそうはいない。トッププレイヤーのマイルズ・ユーモアがギリギリできるかもしれない、という感じだ。
そのせいでスウの方が、自分よりも操縦テクニックが上手いなどという、ふざけた噂が流れている。
(女性プレイヤーらしいから甘くしてやっていたら、複座野郎が――どうせアリスの力を借りて首領死路蝶をクリアしたり、錯乱アトラスも倒したんだろう! 視聴者を騙しやがって・・・! ―――必ずお前の不正を暴いてやる!!)
自分の事を差し置いて、アカキバはスウへの正義の怒りを燃え
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