第13話 空母に呼ばれます
私が喜ぶポルックスとカルトールを眺めていると、グランド・ハーピィに襲われている集団から通信が入った。
『こちら、
え、私の所属? ・・・・なんだろう――・・・・ボッチなのに、何かに所属してるの?
私が、ずっとボッチなのに自分は何に所属しているんだろうかという哲学的問題に直面していると。
「みなさん、大丈夫ですか!?」
八街さんが友人の安否を確認した。
『あ、このフィルターの声はアリスさん! みんな、もう大丈夫だ! アリスさんが助けに来てくれたぞ!!』
『うおおおおおお!!』
喜びに湧く空母の人に、八街さんが焦りだした。
「あ、いや――みんな、私が助けたわけじゃ――ちがいますよ・・・・」
❝え? アリス?❞
❝星の騎士団のアリス?❞
❝なら、赤い閃光のアリスじゃね?❞
❝そういえば、あの赤いパイロットスーツって――❞
え、八街さんって、赤い閃光のアリスだったの!?
いや、それよりも。
私は八街さんに、こっそり通信を送る。
『八街さん。赤い閃光のアリスってバレても大丈夫なの? 事務所とか』
『心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です、事務所は私がプレイヤーをやってる事を知りません』
『良かった―――』
『というか、鈴咲さんがみんなを助けてくれたのに、わたしが助けたなんて勘違いさせちゃって、あとで言っときます』
『えっ!? そ、そういうのは、気にしないで・・・?』
❝じゃあさっき『赤い閃光のアリスでも、こんな超絶テクニック出来ない』って言ってたのは❞
❝本人かよ!❞
❝本人が言うなら仕方ない❞
❝本人が言うなら仕方ない❞
❝てか、スウと赤い閃光のアリスがリアル親友とかヤバくね?❞
❝コラボ見てみたい!❞
❝スウたん、アリスたん。合体メカ探して、合体しよう。――
いやいや、私と八街さんが親友とか――友達って言うのも失礼なのに・・・・。
私が「嬉しいけど、困ったなあ」と笑っていると、
「し、しんゆう合体とか止めて下さい!」
八街さんが顔を真っ赤にして、珍しくちょっと怒った。
ほら、怒っちゃったじゃん。
私は、空母ラストアンサーの
「じゃあ、星の騎士団の皆さん。あとは雑魚を掃討するだけです!」
『アリスさんの機体に、もう一人いる?』
『アリスさんの補助パイロットさんか、頼む!』
『母船が消えても、俺たちにはグランド・ハーピィは厳しいんだ』
私は皆さんに返事をする。
「お任せ下さい! じゃあ私達が敵を引き付けるんで、広範囲の最大火力で敵を殲滅して下さい!」
『オーケー! 光崩壊エンジン出力最大へ!!』
『了解、光崩壊エンジン出力最大へ!』
『チャージ開始』『チャージ開始!』
『アリスさん、3分間敵を引き付けて下さい!』
『『『よろしくお願いします!!』』』
八街さんが空母から流れてくる声に反応して、私に頭を下げてくる。
「あ、あとで言っときますね」
「いや、本当に気にしないでいいから・・・」
こうして私は敵を引き付けながら戦う。
でもちょっとエンジンを全開にしたり、黒体放射系も全力で使いすぎて〈臨界黒体放射〉は、しばらく使えないな。
敵が多くて、エンジンを切る暇が無かった。
無理すれば発射できるけど、大した威力が出ないで光崩壊エンジンが止まる。
〈励起翼〉の通常版なら問題ないけど。
そんな事を考えながら、敵を引き付け撃墜していると、遠くで小型の人型機が被弾した。
八街さんのクランの人の機体だと思う。
コックピットが剥き出しになった。
――中には、まだ中学生くらいの少女。
コックピットの中のパイロットの少女の前に、グランド・ハーピィが立ちはだかる。
少女の
あのまま攻撃を受けたら、少女は完全に焼き消える。
私の脳裏に、ファックスという言葉が浮かぶ。
(助けないと!!)
でも黒体放射系武器を使いすぎたんで、〈臨界黒体放射〉はまだ使えない。
というか〈臨界黒体放射〉は小さなガンマ線バーストだ。
あの子のパイロットスーツが安いものだと、ガンマ線による放射線の影響が怖い。
ドリルドローン?? 実弾系!?
――いや弾丸より、コッチのほうが疾い!!
私は、スロットルレバーを最大へ。
閉じた歯から鋭い息を吐いて、気合を入れる、
「―――ッシ」
足をコックピットの床に叩きつけ叫んだ。
―――「ゾーンに入れ」と!
「――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
〈励起翼〉を展開して左サイドの透明なカバーを叩き割り、レバーを引いて、加速リミッターを解除。三択ブーストで加速。
後ろで八街さんが、スキルを準備する気配がした。
❝どうした❞
❝正面の人型機、やばい❞
❝だけど死んでも復活するんだろう?❞
❝なんかスウさんの瞳の光が消えて怖いんだけど❞
❝この子、マジになるとさらに影に沈むのか❞
「称号発動―――〖伝説〗!! いっけぇええええええええええええ―――!!」
❝称号?❞
❝称号ってなんだ?❞
『マザーに追いつけない!!』
『ママ、はやすぎる!!』
悪いけど、〈ドリルドローン〉は置いてく。
急激な加速により、猛烈なGが私達を襲ってきた。
だけど本当に怖いのは、カーブする時のGだ。
私と八街さんのシートが倒れて、寝転ぶ姿勢になる。
スワローさんの色が、黒から白銀に変わったのが分かった。
私は目を剥き出して、特機化したスワローさんの全速力で少女を狙うグランド・ハーピィへ突っ込む。加速は私が気絶しないギリギリのラインで行う。
だけど、別のグランド・ハーピィの一機が、私達の前に立ちはだかろうとした。
私がスワローさんをコントロールして稲妻の様に方向転換をすると、凄まじいGが牙を剥いて、意識を刈り取ろうとしてきた。
きつい、気を失いそうだ。
でも今は、負けるわけにはいかない!
パイロットスーツが脳に酸素を送ろうと、骨が折れるんじゃないかと言うほど収縮する。
「間ぁにぃ合ぁえええぇぇぇええええええぇぇぇぇぇぇ―――ッ!!」
女の子を狙うグランド・ハーピィが、口のようなものを開いた。――内部が発光している。
女の子はいつの間にか宇宙用ヘルメットを付け、座席に固定されている。
彼女は、脱出用転移装置があるシートのサイドレバーを引いているが、転移が行われない。
転移装置が壊れているんだ――このままじゃ、あの子は死ぬ!
女の子が、痛みを耐えようとするような表情になった。
私は〈汎用バルカン〉を連射。
スワローさんの速度が乗って、発射する弾丸の速度は更に速くなる。
違わずグランド・ハーピィに命中した。――だけどハーピィを倒しきれない。
「――
私はグランド・ハーピィを
急いでスロットレバーを落とす。
軽い逆噴射で、速度を緩めて行く。
目をつむる。
頭を振って咳をしながら息を吐くと、後方で爆発する光を感じた。
望遠映像に、消滅するグランド・ハーピィが視えていた。
頭に酸素を送るため、深呼吸して息を整えて通信をする。
『そこの被弾した人型機―――今すぐ空母に戻って!』
『は、はい!!』
少女が空母に向かうのを見て、ホッと一息。
❝疾え❞
❝グランド・ハーピィが真っ二つ❞
❝なんか、一瞬ワロの色変わらなかった?❞
❝称号ってなんだよ❞
❝スキル持ちも少ないけど、称号持ちは更に少ないからな。〖伝説〗の称号なら、もう一人の〈発狂〉デスロのクリア者も貰ってたらしい。バーサスフレームを特機化するんだとか❞
❝〈発狂〉デスロのクリアの報酬か❞
❝だけど、もう一人って使ってるの元々特機なんだろう? ――意味ないじゃん❞
❝にしても、とんでもない速度だったぞ、あんな速度でよく小さな小型機を掠めるなんて神業できるな・・・・❞
ドリルドローン達も、会話をしている。
『うちのマザーは、本当に人間なんだろうか?』
『ぼくは、目覚めてからずっと疑ってる』
私は、八街さんを振り返る。
「大丈夫!? 八街さん! ――ごめん、とんでもない飛び方をして!」
「問題ないです。にしても一瞬だけ〖重力操作〗が解けたんですが、初めて感じた強烈なGでした」
「ご、ごめんなさい。私の機体、無改造だからあんまり良い重力制御装置を備えてなくて」
「いえ! 謝らないで下さい!! わたしのスキルがとけたのは、わたしのミスですから。それよりクランメンバーを救ってくれて有難うございます・・・!!」
「・・・・あの子が助かってくれて、本当に良かった」
私が真剣に答えると、八街さんが急に黙った。
「―――」
「あ、ど、どうしたのや――カメラマンさん」
「――スウさんは、なんでそんなにプレイヤーが死ぬのを心配するんですか? 死んでも生き返るんですよ?」
「そ、それは―――」
放送中なんだ、私の憶測で一般のプレイヤーを不用意に不安にさせていいのか考えていると、八街さんが通信を送ってきた。
『―――スウさんも気づいてるんですね』
『え?』
『銀河連合が言う、〝死なない〟の意味』
『――あ・・・・八街さんも、気づいてる?』
『上位勢では、もう常識です――警告してるサイトとかありますよ』
『そうだったんだ・・・?』
「あ――後ろから、さっき躱したグランド・ハーピィが来ます!」
「――不味いっ!」
私は慌てて囮役を再開した。
数時間後、私達はグランド・ハーピィの脅威を防ぎきった。
『
こうして、女の子を助けられたのだった。
ドリルドローンのポルックスに『ママ』とかスワローテイルにスリスリというか、ゴリゴリされながら、空母ラストアンサーに呼ばれたので着艦。
その後、私と八街さんは、ラストアンサーのブリーフィングルーム兼映画館という場所に呼ばれる。
そうして、なんか謝罪された。
「アリスさんじゃなくて、もう一人の
頭を下げる男性に、八街さんがちょっと怒る。
「だから何度も言ったじゃないですか!」
私は慌てて、八街さんを宥める。
「良いから! 皆さんも気にしないで下さい!」
勘違いしていたというプレイヤーさんたちが、ペコペコしてくる。
特に艦長さんはリアルでは営業マンさんらしく、オーラまで見えるような見事な姿勢でお辞儀をしている。
「スウさん、本当に有難うございました! 勘違いしてすみません!」
とにかく顔を上げてもらわないと。
「学校の先生みたいな年齢の人に頭下げられると辛いです! そ、それより空母の中すごいですね」
私は、話の流れの変更を試みた。
でも実際、空母ラストアンサーの中は凄いんだ。
この映画館もそうだし、沢山の居住空間どころか遊戯スペースまである。
なんなら食堂もあるし。
私がスワローさんの中で映画を視る時は、VRなんだけどな。私もいつか空母を持てるかな?
艦長さんが頭を上げて笑う。
「みんなの意見を取り入れたんですよ」
良かった話の流れが変わった。
でも、もう一個問題がある。
私が急いで助けた中学一年生らしい女の子が涙目で、こちらに抱きついているんだ。
「お姉ちゃん・・・・本当に怖かったの、ありがとう・・・・・・」
いや、ごめん問題ないな。
年下の女の子に抱きつかれるのは、あったかい、キュンと来る。ここに住みたい。
「極楽ってずっとワクワクキュンキュンする場所らしいけど、ここに極楽は有った?」
❝キュンキュンはともかく、女子高生が女子中学生に抱きつかれてワクワクすんな❞
❝何を期待してるんだよワロw❞
八街さんが、中学生をそっと私から離して距離を取らせる。私涙目。
まあそれより、女子中学生さんに尋ねないと。
「借金は返せた?」
「うん! 今回のミザリーイベントをクリアしたことで銀河クレジットが10万と勲功ポイント10万が入って返せたよ!」
「良かった。また何か有ったら言ってね?」
「いいの!? ほ、本当にあがとう――! もうプレイヤーを止めようか迷ってたから。お姉ちゃんがそう言ってくれるなら、まだ続けられそう」
「あ・・・・でも、あんまり危ないことはしないでね」
「うん、安全に気をつける!」
こうして私は、女子中学生のチャットアプリのIDをゲットしたのだった。
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