第11話 難易度異常でも頑張ります
確かに危険だ――逃げる?
・・・・でも――。
私はこっそりイルさんに通信する。
〔ねえ、イルさん〕
〔はい、マイマスター〕
〔銀河連合がやってる人間の復活させ方って、スワンプマンだよね?〕
〔―――〕
小さな執事から返ってきたのは沈黙。だけど、私は続ける。
〔確かにフェイレジェは凄く安全で、機体が破壊されただけなら、シートに付いた転送装置がワームホールで移動させてくれるのも知ってる。だけど、プレイヤーが死んだ場合の復活させ方ってさ〕
目をつむっていた執事は、静かに目を開いて返す。
〔身体の欠けた部分を再生して接続などが有ると思います〕
〔そうじゃなくて、脳が駄目になった場合や、身体が完全に塵になったら? 私さ初期の頃、フェイレジェ運営のやってる復活の部分を読んで青ざめたんだ〕
〔―――〕
やはり沈黙が返ってくる。
〔ねえ、イルさん。例えばSFに時々でてくる、こんな転送装置が有るんだ。
1.人間の構成を読み取る、
2.別の場所で再現、
3.元の位置の人間を消滅させる。
の順番に行う転送装置。
もしもね、最後の〝3の前に〟転送装置を停止させたら、同じ人間が2人存在する事になるよね?〕
〔―――〕
〔ねえ、イルさん、この2人って〝どっちが本物?〟――答えて〕
執事が胸に手を当て、目を閉じてお辞儀をする。
〔―――当機は、その質問に答える権限を、与えられておりません〕
〔――やっぱり答えてくれないんだ・・・・じゃあ―――私は、あの人達を救う!!〕
この言葉に、顔を挙げた執事の顔が輝く。
〔お願いします。マイマスター!!〕
3年前、私は銀河連合のやってる〝死んだ人間の復活〟というのは、もしかしてファックスじゃないか? と思ったんだ。
ファックスは、文書の内容を送り先で再現できるけど、それはコピーだ。本物じゃない。
こんな内容を想像してしまって、怖くて宇宙に出られなかった。訓練シミュレーターから踏み出せなかった。
だけど、いま危険にさらされている目の前の人を見捨てたり出来ない。
私の目の前にウィンドウが出現した。
『ワンダリング・イベント。バッドエンドを回避しろ!〝大いなる女王〟を開始しますか?
⇨はい
いいえ』
と表示される。
私は ⇨はい を選ぶ。
――相変らず変なクエスト名だけど。回避してあげるよ!
「バッドエンドなんかで、終わらせない! 〈汎用バルカン〉一斉掃射!!」
私は〈グランド・ハーピィ〉に近づきながら撃墜していく。
時折すれ違ってくる〈グランド・ハーピィ〉だって、逃さない。
正面の窓に、八街さんの影が映る。
カメラから目を離して、私の後頭部を見る姿だった。
「嘘―――」
❝なんて
❝命中率85%とか表示されてるぞ❞
❝反動のクソでかい徹甲弾を、宇宙空間でワロみたいな軽い機体で撃ったらブレブレで殆ど当たらないぞ。40%も当たれば十分なのに❞
え、でも、VRがこちらの弾丸と相手の相対速度から、弾丸が相手に届く際の偏差を表示してくれるから結構当たるもんだと思うけど。
こういう偏差表示は地球の戦闘機にも、世界大戦の頃からあった技術で、熟練の勘を補ってくれる技術。
これが有るから、結構当てれる。
❝そもそも、敵を常に正面に捉え続けてるのがヤバすぎる❞
❝なんか良く分からんけど、凄いことなんか? 現役の戦闘機乗りさん教えて❞
❝何が凄いか説明すると、戦闘機を横倒しにするのを専門用語でバンクって言うんだけど❞
❝あー、映画とかでよく見るやつですか? 飛行機がカーブする時に、横向きになってる❞
❝それ。スウさんの機体は、ロケットエンジンの位置や向けられる方向の関係で左右に機首を振るのが得意なんだけど❞
❝相手の動きを予想して、常に相手の進行方向に対して機体を直角にしてるんだ❞
❝え、そんな事してるんですか!?❞
❝うん。しかもスウさんは、こんな難しい撃ち方であの命中力を誇りながら、敵から放たれる無数の弾幕を躱してるんだよ❞
❝いやいや・・・・❞
八街さんが、コメントに付け加えて質問に答える。
「スワローテイルの速度は、大気中ですら拳銃の弾の飛ぶ速度の2倍とか3倍なんです。リミッターを外したり無茶すれば4倍にもなります」
確かにそのくらいだっけ? ―――詳しいなあ。
「しかも宇宙では、もっと速くなる訳です――ですがスワローテイルは軽いので、宇宙では僅かな操作ミスで
確かに宇宙でスピン状態になったら、ちょっと大変。
「わずかに無理に旋回したり、妙な操縦の組み合わせをしただけで致命傷です。赤い閃光のアリスにも、スウさんみたいな超絶テクニックはできません」
え、それはちょっと・・・赤い閃光さんに悪いかも。
「そんな訳」
私が否定すると。
「できません」
八街さんが断言した。
コメントが❝閃光のアリスをバカにするの?❞、❝カメラマンが❞とかいってる。
不味いって、八街さん!
しかし八街さんは、一切気にしていないのか、平静で回答する。
「そもそも閃光のアリスが得意なのは、人型モードでの足を止めての戦いですから。VRで体の動きをトレースする様な戦いが得意です」
この言葉に、コメント欄も❝なるほど❞と落ち着いた。良かった。
その間に、とりあえず私は〈臨界黒体放射〉の射程に、奥の敵までを捉えた。
「イルさん。〈臨界黒体放射〉後、〈励起翼〉展開」
小さな執事が、腕を振って、アニメの戦艦の艦長がやりそうなポーズになる。
『了解、〈臨界黒体放射〉発射』
眼の前が閃光に包まれる。
「〈励起翼〉」
❝ちょ、前が何も視えないのに〈励起翼〉使うの!? このまま突っ込むん!?❞
私は〈臨界黒体放射〉で敵を薙ぎ払いながら、スロットルレバーを押す。
❝マジで加速した!!❞
❝ほら見ろ、スワローテイルのこの加速力――危ねえって!!❞
❝ヤバイって!!❞
八街さんも、小さな悲鳴を挙げた。
私は、八街さんを安心させるために声をかける。
「大丈夫。ルートは分かってる」
悪いけど、訓練場でやった難易度〈発狂〉の2、3章に比べたらこんなの全然余裕だ。
目を閉じててもこなせる。
「狙うは、母船!」
敵を幾らでも産み出しているあれを倒さないと、いつまで経っても戦いが終わらないと思う。
❝母船に向かって、直角に曲がった!?❞
❝どうやった!? 訳わかんねえ!!❞
❝たぶん、逆噴射 → 人型形態に変形 → 飛行形態に変形ってして曲がったんだ❞
❝飛行形態と人型形態って、操縦方法が違うんだよね?❞
❝そうそう、人型形態はVRで動かせるけど、飛行形態は地球の戦闘機と同じ様な方法で操縦する事になる❞
❝確かに、五体が有る人型ならVRで動かせるのはわかる。――けど、戦闘機は無理か❞
❝一瞬でVRから操縦桿への切り替えとか、脳みそ大変そう。❞
コメントの人がやり方を説明してるけど、ちょっと違う。
あの方法だと、それほど早く曲がれない。
本当は人型形態に中途半端に変形しながら、飛行形態も操縦したんだ。
つまり飛行形態と、人型形態を同時に操作したんだ。
――ただ、このやり方は結構無茶で、こんな事をすれば。
八街さんが歯を食いしばる。
「くっ―――Gがっ!」
「ごめん、カメラマンさん我慢して・・・!」
「だ、大丈夫です。私には〖重力操作〗のスキルがあるので」
「―――よ、良かった。――じゃあ結構無茶なG掛けても大丈夫?」
「大丈夫です!」
それでも八街さんが、少し苦しそうに顔を歪めている。
私もかなりキツイ。
❝とんでもないGが掛かってんぞ❞
❝重力制御装置はどうした!❞
❝そりゃ弾丸の何倍とかいう速度で直角に曲がったりしたら、重力装置の限界も超えるだろうよ・・・❞
「イルさん、〈励起翼〉はいける!?」
『展開済みです、マイマスター』
既に、小さな執事の羽が青く光っている。
私は、敵が折り重なり壁のようになった場所に突っ込む。
「そ、そこに突っ込むんですかぁ!?」
八街さんが、恐怖で目を瞑るのがわかった。
❝隙間がないぞ!?❞
❝衝突する!❞
いいや、私には隙間だらけだ。
私は迷宮のような敵や弾幕の間を、スワローさんで駆け抜ける。
駆け抜けながら、翼だけ敵に当てて破壊していく。
❝だからなんで、摩擦のない宇宙でそんなに正確に曲がれるんだよ!?❞
❝ドリフトの途中でまたドリフトしてんぞ、この娘❞
八街さんがやや望遠に置いているカメラドローンの映像を配信に乗せると、宇宙に光の帯が引かれていた。
❝うっはwww まるでアニメwww❞
❝光の玉がいっぱい出来て、筋がwww こういうの見たこと有るwww❞
八街さんがコメントを見るため薄目を開きながら、悲鳴を上げている。
「ほ、本当に頭おかしい軌道するんですねーーー!」
「え―――カメラマンさん、頭おかしい軌道とか言わないで!?」
❝いいや、これは頭おかしい❞
❝狂人軌道❞
❝ゴスロリみたいな服の少女がこれをやってるのが、さらにワロ❞
❝まって、スワローテイル横滑り移動してない? 左右に動いてレレレ撃ちとかしてるぞ? どうやってるの?❞
❝いや、これはもうマジでわかんねえ。なんだこの現象❞
これは〈発狂〉デスロードでは必須で、2年前に気づいたんだけど。
〈励起翼〉の左右出力を調節して移動してるんだ――あと、大気中では別の方法でレレレできるんだけど。今は説明してたら、私がヤバイので話せない。
「視えた、母船」
「これが狙いだったんですか!? だけど、どんどん敵の数が増えてますよ!」
「イルさん〈臨界黒体放射〉のち、〈励起翼〉を思いっきり伸ばして!」
『〈臨界黒体放射〉発射。〈励起翼〉全力展開、イエスマイマスター』
正面が〈臨界黒体放射〉の閃光に包まれる。
閃光が止むと、今度は正面に暗闇。
「え、なに!? ――さっきまで正面にあった、敵の母船は何処に行ったんですか!?」
八街さんが敵を見失って、驚いている。
「カメラマンさん、右!」
八街さんは、私の言葉に反応してカメラを右に向ける。息を呑む音が聞こえた。
そこには孔だらけの敵母船表面が、路面のようにある。
「もう〈励起翼〉で斬りつけてるんですか!? ――どうやって閃光の中、敵スレスレで急カーブしたんですか!?」
「距離と速度から計算!」
「あの一瞬で!?」
❝やばいやばい、敵が近いから物凄い速度に見える❞
❝敵の母船でけえ! 半径1キロくらいありそう❞
❝でも、横から見ると薄かったよね。
時折、敵母船の
「カストール、ポルックス出てきて!」
スワローさんの腕から射出される、2機のドリルドローン。
『はいマザー』
『行くよママ』
❝ドローンのAI、息子設定?❞
❝ジェミニは結構人気のAIだよ❞
❝まあ、女子らしいっちゃあらしい❞
「よかった、また何か謂われるかと思いました」
❝あたしも、ドローンは子供みたいに扱ってるw❞
❝流石に何も言わないからw❞
「じゃあカストール、ポルックス。穴から飛び出してくるハーピィを前もって潰して」
『了解、いくぞポルックス』
『わかったお兄ちゃん』
やがてスワローさんの後方、切りつけた裂け目から私達を追うように炎が噴き出した。まるでマグマのようだった。
望遠カメラでは、スワローさんに迫る崩壊のマグマが映っている。
❝大丈夫か!?❞
大丈夫。
(コイツは、もうもたない)
なにより、スワローさんに追いつけるものか。
やがて崩壊し始めた母船は、クッキーが割れるみたいにズタズタになって分解していく。
「よし、敵の出現が止まった!」
❝や、やりやがった❞
❝スウたんパネェ!!❞
『僕らも褒めて!』
❝よくやった、ポルックス!❞
❝カストール君、ポルックス君ナイス!❞
『わーい!』
『お褒めいただき、光栄です』
ポルックスは素直に喜んで、カストールは真面目に喜んでいるのが微笑ましい。
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