第5話

不思議な夢を見た。誰かが出てくる不思議な夢。この家に誰かが来ることなんてないのに。



夢の中でも、人の姿を見たのはいつぶりだろう?


いくら寂しいからって、夢に出てくるのが中年の男性なんて、どうかしている。


前世ではアラサーだったから、


記憶が混乱しているのかもしれない。



今の私は何歳なのだろう?たぶん20代にはなってないんじゃないかな。手入れしてないけど、肌にハリもあるし、見るからに若いし。



それにしても、


引き締まった体だったな。


かなり鍛えている人だろう。


夢に見るくらいだから、潜在意識の中で筋肉質な人が好きなのかな。


元々年上の人が好きだし、実際にあんな人と出会えたら、猛アタックしてしまうかもしれない。


何考えてるんだろ私。

こんな年下は、相手にもされないだろうな。中身は年齢近いんだけどなぁ。


欲求不満なのかな、また夢の中で出会えるといいな。


『ふふふっ』


思い出し笑いをしながら、寝返りをうった。


そして、ゆっくりと目を開けると、夢に出てきた男性がベッドの傍の椅子に腰掛けていた。


『え!!』


「いい夢でも見たのか?」


『?えっ、あ、だ』


あまりの驚きで、誰ですか?という言葉もでてこない。


「昨日より顔色がいいが、まだ起き上がらない方がいい。」


男性は微笑みながら、私を気遣ってくれる。


いったいどうして夢で見た人が目の前にいるのか、理解できず、ただただ無言で見つめることしかできない。


その間も、ずっと心臓がドキドキしている。


驚きによるものなのか、緊張によるものなのか、嬉しさによるものなのか、自分でも分からない。


戸惑うリィーンの様子を見て、男性は申し訳なさそうに話し始める。


「あ~。勝手をしてすまない。


私は、その、たまたま通りがかった時に、リィ……


いや、その倒れているあなたを見つけて、失礼とは思ったが、運ばせてもらった。


一人では心配だったので。

わ、私は決して怪しいものではない!


いや、十分怪しいな…私の名はカイン。カインと呼んでくれ。 リィ…あ、あなたの名前は?」


しどろもどろに語るカインの様子を見て、少し訝しむリィーン。


が、すぐにカインの声色から、直感的に大丈夫だと感じる。


私を怖がらせないように、一生懸命状況を伝えようとしているのだと思う。


夢で見たことと一致するし、あれは夢ではなかったのだ。


『カインさま。

夢ではなかったのですね。

ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


私は、リィーンです。』




前世の癖で、つい寝たまま頭を下げる。


「リィーン、良い響きですね。あ、呼び捨てですまない!リィーン嬢」



「そんなっ、呼び捨てで構いません。リィーンとお呼びください」



「では、リィーン、改めてよろしく」


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


カインは満面の笑みを浮かべてリィーンを見つめる。


初対面の人を見ているとは思えないくらいの、優しい眼差しだった。


そんな風に見つめられると、なんだか照れてしまう。


なんだかすごく嬉しそう。きっと、誰に対しても優しい人なんだわ。



「リィーンは、若いのにとても大人びた話し方をするのだな」


「えっ、そうでしょうか? すみません、誰かと話すのは久しぶりで、おかしいでしょうか?」


「いや、とても可愛らしいと思う」


「あ、ありがとうございます。」


可愛らしい?可愛いらしって、恥ずかしい!

カイン様のいうかわいいって、きっと子供に対して言うのと同じ意味。もしくは社交辞令。


それでも、なんだか嬉しい。


いけない! 誰かと話すのが久しぶりって、おかしな娘と思われてしまう。


どうしよう

誤魔化した方がいいのかな。

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